novel

Distance 2round カウントダウン 2


 東稔卓巳(とね たくみ)が、あの北上神威(きたにわ あきら)と出会ったのは、本当に偶然の出来事だった。

 それまで顔や名前も認識してなかったし、友人関係も違い、クラスも生活環境も違っていたから、会わないのが普通 だっただろう。

 幼等部からこの学校へ入っていた北上神とは違い、卓巳は中学からこの学校へ通 うようになった。

 卓巳がこの学校へ来てから、少し妙な感じがあった。
 やたらと、周りから見られていたり、上級生に呼び出されていたり。
 でも、大抵は、無視を決め込んでいた。

 周りの友達が、呼び出しなどは無視しても問題ないと言ったのもあるし、常に一人で行動することはなかったからなのか、別 にいじめらることもなかった。

 ただ、高校一年になった時、一人だけ問題のある人物が現れた。

 転入生だという男、仲川(なかがわ)は、何かと卓巳を誘うようになった。それもしつこく、卓巳がこれは友達として付き合っていくのは無理だと思うくらいの辟易する態度で接してくるからだ。

「なあ、今度の休み、東稔の家にいっていいか?」
 いつもながらに、しつこく聞いてくる仲川は、卓巳が帰り支度しているとそう聞いてくる。

「今度の休みは、熊木(くまき)たちと出かける約束してるから無理だ」

「なんだよ、また熊木とかよ。なんで俺と遊んでくれねえんだよ」

「熊木たちとは遊んでるわけじゃないし」

「図書館で仲良くお勉強かよ。俺も行っても」

「駄目だ。前に騒いで、お前出入り禁止のとこだから。田上、これ数学パズル」
 仲川の言葉を遮って、隣で待っていた田上に話しかけた。

「お、新しいの出たか。これ、どうだった?」

「結構、難しいよ。一応、目を通しておいて、熊木に回していいから」
「じゃ、こっちも。新しいクロスワードな。ロジックもあるし」

「うん、ありがと。毎月悪いね」

「いいって、やっぱ同じ趣味の奴とやると楽しいし、答えあわせも出来るから。熊木の連勝中だけどな」

「やっぱ、芸能関係強いのは、熊木だよな」

「そうそう、さっき熊木が来てて、ちょっと教室寄ってくれって」

「ああ、なんだろう? じゃ、悪いね仲川」
 一気に田上と話して、教室で仲川と別れる。

 自分が入れない話題をされると、機嫌が悪くなり、黙るのが仲川の癖だ。だが、黙った後に、暴れる癖がある為、適当なところで話を打ち切らないといけない。

 その加減が解ってきて、こんな対応になってしまう。

 教室を出て、隣のクラスに入ると、熊木が待っていて、沢山の生徒が出入りしている中を縫って、一気に玄関まで行く。
 靴を履き替えて外へ出ると、ホッとしたように田上が息を吐いた。

「つーかよ。そろそろあいつ、ヤバイんじゃね?」
 ゆっくりとした足取りになって、そう言われ、卓巳は溜息を吐いた。

「なんて言ってたんだ?」
 事情がよく解らない熊木が聞き返してきた。

「家に行きたいって言い出した」
 隣でしっかり聞いていた田上がどうしよういう顔で言った。

「うわっ! それヤバイって」
 熊木はさすがにそれが出てくるとは思わなかったらしい。

「誘い出すだけならまだしも、家まで押しかけるのはどうかと思うんだよな。絶対、あいつ、土日に東稔の両親いないの知ってるって」
 田上が更にため息を吐いて、こうじゃないかと言い出した。

 そう問題はそこだ。

 まだ、家のある場所を知られてはいないのだが、(多分、仲川が高校始まって直の途中転入で、教師から生徒名簿を渡されていないらしい)。

 家に誰もいない時に、さすがの卓巳も仲川を入れる気にはならない。

 前に、熊木たちと出かけた図書館でさえ、彼らとクロスワードなどをやっていて、自分が入れないからと言って、大騒ぎをしてしまったくらいだ。

 幸い、そこは昔から卓巳が通っている図書館だったので、事情を察してくれた司書の人が、仲川だけを出入り禁止にしてくれたのだ。

 だから、出来るだけ土日は図書館へ行くようにしている。下手に家にて仲川には捕まりたくないからだ。

 学校では、放課後は、仲川は部活があるので、教室で別れれば、追ってくることはない。部活要員のような形で編入してきている仲川が、そうそう部活を休む訳にはいかないからだ。

 だが、問題は今度の試験期間だ。
 部活が休みになる期間に、きっと仲川は家までくるんじゃないかと思われる。
 それを考えると、気分が塞ぐ。

「どうする? 土日くらい、うちで泊めてやってもいいけど?」
 心配した熊木が言うが、それも毎回はお願い出来ない。

「試験期間くらいならお願いしたいけど、毎回じゃさすがに家にも体裁が悪いから……」
 特に母親がこういうことを気にする質で、毎回土日に泊まり歩いていたらマズイだろう。

「だよな。あの母親こええもん」
 経験がある田上は身震いする。

 土日に息子を放っておくくせに、息子の友達が、自分の家より格上でないと、こういう付き合いは認めてくれないときている。

 幸いだが、仲川の家は、格上とは思っていないらしく、電話も取り次いでくれはしない。

 そういうところは、田上も熊木も解っているから電話はめったにかけてこないから、取り次いではもらえる。頻繁にかけてくる仲川は印象が悪かったのだろう。

「言ってくれるだけでも嬉しいから、うちの母親のことは気にしないで」
 母親のことを悪く言われるのは、母親に原因があることを卓巳が理解している上に、そろそろこの干渉をどうにかしなければと思っているところがあるので、他の人の意見として聞ける立場にあるからだ。

「あーうん。東稔が悪いわけじゃないし。つーか、仲川だよ!」
 田上はエキサイトしてる。

「学校がある日は、一応電話もシャットアウトだし、携帯はないから大丈夫だろうけど。土日だよな……」
 熊木がそう呟く。卓巳は今みんなが当然として持っている携帯電話を持っていないという珍しい人種だ。

「昼間はいいとして、夜がなあ」
 田上も熊木も心配しているが、まさかこの年になって、同級生から貞操の危機を心配されるとは情けない。卓巳ははあっと溜息を吐いた。

 家に帰ると、母親が玄関まで迎えにくる。過保護過ぎる母親は、こうやって子供に構いたがる。

「おかえりなさい、卓巳」

「ただいま」

「6時に夕飯にしますから」

「はい」

「それから、あの仲川という友人は、関心しません」

「何かしました?」
 まったく何してくれたんだと、うんざりしながらも、淡々として尋ねる。

「電話ですよ。もう、さっきから4回もかかってきてます」

「また、ですか……」
 どう考えても帰ってない時間に電話をしてくるなど、常識もないのかと卓巳は溜息を吐きたくなった。

「電話しないように言ったのですが、聞いてくれないもので、大変困ってます」
 とりあえず、母親がこう言えと言ったので、それは仲川にも言ったのだと報告する。

「まあ。なんて家でしょう。あの母親もどうかしてますよ。子供のことに口出すななどと、まったく自分が管理できてないくせによく言うものです」

 また、母親の愚痴が始まった。こと最近は、仲川のせいで酷くなっている。自分が何の為にまじめにやっているのか、それを全部台無しにしてくれる仲川は、頭の痛い存在だ。


 こうして仲川の印象が悪くなっていく中、試験期間を前にして、ある事件が起こった。



 それは、放課後のことだった。



「あ、これ、渡してくれって言われたから」
 仲川がそう言って帰り支度をしている卓巳に紙を渡してきた。
 なんだろ?と思い開くと、そこには、熊木からの伝言だった。

 熊木は、昼から具合が悪くて、保健室に行っていた。それを送っていった時は何も言ってなかったが、手紙の内容は、東稔に話があると書いてある。

「これ?」
 と、仲川に問いかけようとすると、仲川はさっさと教室を出て行った。

「どした?」
 田上が近寄ってきて、手紙を覗き込む。

「熊木、何の話だろ?」

「さあ、俺を呼ばなかったんだから秘密の話なんじゃない?」
 田上がそう言って苦笑する。

「保健室かな?」

「隣で聞いてみれば?」

「そうするか……」

 一応、隣のクラスの一人に聞いてみると、熊木の荷物は保健室に運ばれたと言っていた。
 どうやら保健室から帰るらしいので、伝言を頼んだようだ。

「じゃ、俺、玄関で待ってるよ」

「え、いいよ。遅くなったらマズイし」

「いいって。熊木の秘密の話も聞きたいもん」

「じゃあ、ちょっと待ってて」
 そう言って田上とは教室で別れた。保健室に向かう途中で、色んな生徒に会ったが、この時間は皆移動で忙しいらしい。

 保健室に辿り着くと、ゆっくりとドアを開けた。

「失礼します」
 声をかけたが、どうやら保険医はいないらしい。

「熊木?」
 ベッドの方へ近づくと、二つあるベッドのうち、一つに寝ている姿を見つけた。

「寝てるの?」
 少し肩に触れて揺すってみると、いきなり布団が大きく捲れ上がった。 びっくりしていると腕を掴まれてベッドへ引き摺りこまれた。

「な、何!」
 叩きつけられるようにして、ベッドに押し付けられ、一瞬目を瞑ったが次に目を開けた時に、卓巳は驚きでいっぱいになった。

「な、仲川!?」
 自分を押さえ込んでいたのは、熊木ではなく、仲川だった。

 なんで仲川がここに?
 一気に起こった出来事に、卓巳は呆然とした。
 卓巳を上手く押さえ込んだ仲川は、ニヤリとして言った。

「こうやったら来ると思ったよ」

「く、熊木は……?」

「とっくに帰っていないさ。あんなもので呼び出せるとは」
 では、あの呼び出しの手紙は、偽者で、呼び出したのは仲川だったのか。

 仲川はしゅるっとネクタイを抜き取ると器用に卓巳の手首に巻きつけ、ベッドのパイプに繋いでしまった。

「は、離せ! だ、う!」
 必死に誰かを呼ぼうとして叫んだが、いきなり腹を殴られた。

 その衝撃に、腸がひっくり返りそうになる。冷や汗が一気に出る。
 その隙に、仲川は卓巳のブレザーのボタンを開き、一気にワイシャツを引き裂いた。

 一体何を……?

 そう思った瞬間。ペタリと仲川の手が卓巳の肌に触れてきた。
 ゾッとした。瞬時に仲川が何をしようとしているか解ってしまった。

「やっ……やめ!」

「へえ、男にしては結構綺麗な肌してんじゃん」

「いやだ!」
 どうしても嫌で叫ぶと、頬を殴られた。

 体育会系の男に、しかも柔道をやっている相手に殴られれば、一瞬で目から火が出るような目に合う。
 意識が揺らいだ時、口をこじ開けられ、タオルか何かを詰め込まれた。

「痛い思いをしたくなかったら、動くなよ」
 仲川はそう宣告すると、卓巳の首筋に吸い付いた。
 首筋を舐められ、気持ち悪さだけが意識を支配する。だが、殴られたことで怖さがたっているのもある。

 嫌だ、嫌だ。
 だんだんと涙が浮かんでくる。自分がどうしてこんな目にあっているのか。考えても解らない。

 ポロリと涙が流れた。
 その時だった。

 ガラリと、何処のドアが開く音がした。
 驚いたのは、双方だったろう。

 保健室の外側の窓から入ってきた男は、ベッドにいる二人を見て、一瞬止まったが、ニヤリとして部屋に入ってきた。

「わりぃ、邪魔した?」
 割と暢気な声でそう聞いてきた。