novel

Distance 2round カウントダウン 6


 結局、仲川の立てた計画は潰せたらしい。

 その辺は、北上神(きたにわ)がよく解っている。その証拠に、柔道部は再度北上神に謝ってきたし、仲川は学校を休んでいる。

 よく解らないまま、美術教官室にいた卓巳たちは、北上神が迎えにきて、終わったと言われて、更に意味が解らなかったが、仲川が何かしようとしているのは解っていた。

 それで結果を聞くと、さすがの熊木も、これはもう生徒間の問題ではないのではないかと言い出し、田上も担任に相談した方がいいのではないかと言い出した。

 それだけ仲川のやり方は卑怯であり、使えるものは何でも使うというやり方が執拗過ぎると。

「とりあえず言ってはみる」
 卓巳が言いにくいだろうと、田上や熊木、それに当然とばかりに北上神もついてきた。

 担任に今までのことを話して、それでも襲われたことは、北上神の説明通 りにして進めていくと、担任はうむっと唸った。

「そうだったんだ。今日、柔道部の部長がな、仲川がある人を困らせていて、それがうちのクラスの誰かじゃないかと言ってきてな。誰のことかと考えていたんだが、東稔(とね)のことだったのか」
 それを聞いた北上神はほうっと言った。

「なかなか義理堅いじゃないか。向こうから報告してくれるとは思わなかった」
 柔道部も被害にあったのだから、かなりの問題ではある。

「今日、仲川を呼び出して、理由を聞こうと思ったが。これは酷いな。いじめってものじゃない」
 担任は、卓巳があった被害をまとめたメモを見つめて呟いた。

「東稔は、仲川と話してみたのか?」

「話すと言っても、電話のことはもう言いましたし、他のことは話にならないんです」

「そうだな。電話は、まあ、家の人に言えばなんとかなりそうだが。仲川は何を考えてるんだか……」

 その辺は担任にも解らないらしい。 あきらかに卓巳が標的であるのは解るが、仲川の目的が最終的に何なのかが解らないらしい。
 そこへ、ちょっと遠慮気味にクラスの委員長がやってきた。

「お、どうした?」

「あー、たぶん、東稔たちと同じことなんですが」
 委員長はそう言って、昨日あった東稔へのいじめに発展しそうな出来事を話してくれた。

「これは、問題だと思います。東稔が誰と付き合っていようが、そんなのは俺たちに問題ではないんです。それなのに、仲川はクラス中にあることないこと言いふらしてて。その時、東稔はいなかったんで。それで後でちょっともめたのもあるし、未だに何か雰囲気がおかしいです」

「ちょっと心配だったんで、美術教師の世嘉良(せかりょう)先生に相談したんですよ」
 北上神が上手いこと言って、東稔が自習中何処にいたのかを言った。
 それを聞いた担任は、なるほどと頷いた。

「客観的に見てくれるかと思って、前から世嘉良先生には色々お世話になってたし。それで甘えて意見を聞いてみたんです」

「それで、世嘉良先生は何と?」

「まあ、仲川の歪んだ、卓巳への愛情ってところかと。俺にしたことも卓巳といつも一緒に帰ってるから邪魔だったんじゃないかと」

 何だか、嫌な話になってきた。
 卓巳は頭が痛くなってきた。
 結局、仲川が自分に惚れて色んなことをしてきていることになるのだから。

「……まあ、この学校ならあり得ないことではないな」
 担任はこの学校に勤めて、十年くらいになるので、校風を良く理解している。

「だけど、仲川が東稔を好きだとは思えないんだよな。なんつーか、憎んでるって感じがして。あ、東稔ごめん」
 委員長はそう言って、謝ってきた。でもそれも客観的意見なので、卓巳は頷いただけで了承した。

「憎んでるねえ。東稔が電話に出なくなったことへのか? それで東稔は何で電話に出てやらんのだ?」

「それはさっきも説明しましたが、母がそういうのを全部取り次ぐので。最初は転入してきて不安なのかと思ったので出てましたけど。あまりに頻繁過ぎて、母がそれを嫌って取りづかなくなったんです。別に学校で困ってることなんてなかったみたいですし、内容も今見てるテレビの話だったりで、勉強に支障が出るようになったから」

 卓巳がそう答えると、どうもその電話を取り次がない母親が悪いと担任は思っていたらしい。

 すると、田上が援護してくれた。

「先生。話すことがなければ、俺だって滅多に東稔には電話しませんよ。それを貴重な時間を使って無駄話だけする為に、一日数回もかけてこられたら、さすがに母親も怒ると思うんです」
 田上にそう言われて担任も唸った。

「それに、東稔があんまり電話されると困ると言ったって、聞きゃしないし。それに、東稔んちは、結構厳しいから、母親がいない時間に友達を家に入れて騒ぐなんてことできないところへ、家に行っていいかなんていわれたら、普通断るのが当たり前ですよ」
 田上がそう言うと、北上神が受けて言った。

「卓巳の母親もかなり困ってるらしいです。電話も取り次がなくなってからは、着信拒否にしたらしいですよ。そしたら、公衆電話やら別 の携帯やら、とにかく手に品変えで色んな方法で電話をかけつづけるらしいです。家は、色んなところから電話がかかってくるらしいので、公衆電話を拒否するわけにもいかないらしいし、携帯も同様で。それで、相手の母親に注意をしたそうですが、子供の問題だと言われて取り合ってくれないそうで、どうしようかという話をこの間してきました」

「東稔は携帯は持ってないのか」

「あ、はい。まだ早いとかで」

「そうしたら仲川からの着信しかない携帯履歴が見られたでしょうね」
 北上神がそう言ったので、どれだけ仲川からの電話の頻度が酷いのかを思い知ったようだった。

「それについては、仲川の家にも言ってみよう。もう子供の問題でもないだろう。それから仲川からの事情も聞く。それでいいか? 今はクラスで孤立なんてことにはなってないんだろ?」
 担任がそう言ったので卓巳は頷いた。

 とにかく、仲川がどう出るかが問題であって、こっちですることは、用心することしかない。
 話しが終わって職員室を出ると、全員がはあっと溜息を吐いた。

「なんか、仲川、お前、どうしたいんだって感じだな」
 委員長は、卓巳たちの話をほとんど聞いていたらしく、途中で入っていったのは、事情を知りたかったのだと言った。

「で、どう思う?」
 北上神が聞き返すと、委員長は卓巳に少し目を向けてそれから答えた。

「……惚れてるけど自覚してなくて、思い通りにならないから、いじめてみたってところかな。可愛さ余って憎さ百倍」

「大体当たってるな。で、そこで俺が出てきたから躍起になってる。俺が邪魔なのは確からしいしな。一気に邪魔なのを片付けてしまえと、日頃自分を虐げる存在の柔道部も潰してしまえと計画した」
 北上神がニヤリとして答えたので、一同納得したらしい。

「北上神は異様に仲川のコンプレックスを刺激するんだろうな」
 委員長が納得して言う。
 それに卓巳も田上も熊木もキョトンとする。

「解らない? 勉強は出来る。運動も出来る。しかも柔道ばかりやってきた仲川より圧倒的に強い。人当たりもいいから、人に嫌われることも滅多にない。出来過ぎる相手には、どうやっても敵わないと悔しがるのはいいけど、そういう人間もいるんだって仲川は割り切れないときてる」

 委員長は簡単に分析して言ってくれた。
 なるほどと三人は納得。

 確かに北上神は出来る人間である。それはここ数日一緒にいたから解るが、これは一種の特殊なものであると思っていたから、卓巳には不思議だった。

「ほら、そこの三人には、それがどうしたってしか思えないだろ? でも納得できない人間もいるってことを言いたかったわけ」

「それが仲川だと?」

「そうそう、そういうこと。それに」

「それに?」

「東稔も割合、コンプレックス刺激するタイプかもね」

「え?」
 いきなりそんなことを言われて、卓巳は戸惑った。自分が優れてるとも思えないし、北上神みたいに凄いところなんてないに等しいからだ。

「東稔って、割とそつなく何でも出来るじゃん。出来ないことはあまりやらないタイプだし、自分の力量をよく知ってる。容姿だっていいのに、鼻にかけるどころか、は?ってなタイプだし、寧ろ相手を誉める方だよね。だけど、自分がやってることを相手には求めない、そういう優しさがあるから、相手は安心するけど、仲川にとっては自分を馬鹿にしたとなることもあるみたいだね」

 なんだか、凄いことを言われた気がする。
 それにしても委員長は人をよく見ていると思う。人間観察が出来てないとこういうことは言えない。

「田上も熊木もそういうタイプだから、東稔とは気が合うんだろう?」
 そう言われた二人は、ふむっと考えてから頷いた。

「つーかさ、そういうことを省いても東稔はいい奴だし、そういうのは考えたことない」
 熊木がそう言ったら、田上も。

「あ、俺もそうかも」
 と、頷いている。

 自分たちが似たタイプだとは思わなかったから、卓巳たちはその話で盛り上がった。
 それを聞きながら、北上神はニヤリとする。

「で、本当はどう思ってるんだ」
 委員長はそう聞かれて、素直に答える。

「ここにいる人は結構、お人好しなのかな。北上神の本性に気づいてないだけ、幸せ」

「名前は?」

「左部(さとり)。よろしく」
 左部はニッコリして言う。だが、その得体のしれない笑顔に北上神ははあっと息を吐いた。

「お前も見た目通りじゃないってことか」
 意外に用心深い北上神だったが、まさか自分の本性を見破られているとは思ってなかったらしい。
 それに敬意を表して、名前を聞いたのだ。

「ま、教室内のことは頼むわ」

「任せなさい。ここまで来たら、引き返せないでしょ」

「まあな。でも、こうなったらあいつも手段はもう選ばないだろうな」

「その辺が怖いんだけどね」
 北上神と左部(さとり)委員長には、今の仲川がかなり追い詰められている状況であるのは解っていた。

 それによって何をしてくるのかも解らない。
 学校ではもう行動を起こせないだろうから、直接何か仕掛けてくるだろう。

 諦めの悪い男に魅入られた卓巳は、どんな被害を受けるか、それが解っているのは、ここでは、この二人だけだった。

「それでも守るんだろ?」
 左部委員長が言う。

「あったりまえ。誰があんな外道に卓巳を渡すかってんだ」
 北上神が真剣にそう答えると、左部はポツリと言った。

「百戦錬磨の北上神でも、東稔を落とすのは先のことなのか」

 それを言われると、北上神はニヤリとした。
 その顔を見た左部はふうっと息を吐いた。

「今も続行、口説き中なわけか。まあ、周りには十分伝わってますけどね。愛の告白」
 そう言ったのは、あの教室でのことだ。

 北上神が卓巳を助けたとなっているが、実は俺のものだから触るなと言っているのと変わらないことだったのだ。