novel

Distance 2round カウントダウン 12


「敵の探偵を張るのはいい。そうすると、自動的に卓巳の傍になる」
 北上神(きたにわ)はそう言って説明してくれた。

「じゃあ、一石二鳥じゃん」
 田上が言うと北上神は首を振る。

「それがマズイってんだよ。こっちの探偵は仲川に顔を知られてるんだ。何処に隠れてたって、何処から現れるか解らない仲川に注意がいかなくなるかもしれないだろ。そうして偶然に顔を見られたら、こっちの探偵がやってることがバレる。そうすっと、敵の探偵に何か仕組まれるかもしれないってことだ。同時に卓巳の傍を意図的に離れてしまうことにもなる。そうなると仲川の行動は自由だ」
 北上神はそう言った。

「じゃあ、仲川につけば?」

「敵の探偵にこっちの探偵が気づかれるかもしれないってことだ。そうすると仲川に探偵から連絡がいくだろう、つけられているって。となると自然に仲川の行動が大人しくなる」

「じゃ、大人しくして貰えばいいじゃん」
 田上はそれこそいいじゃないかと言い切ったのだが、北上神は首を振った。

「それで済むならマズイとは言わない。こっちの探偵はボランティアなんだぞ、いつまでも仲川に張り付いてるわけじゃないんだ。探偵がいなくなったところで、仲川がまた行動するかもしれない。こっちだって、安心してたところでガツンとやられるかもしれないってことだ」

 仲川がここまでしつこくしてきたのを考えると、一時の平穏を得られたとしても、それだけで仲川が諦めたとは言えないし、寧ろ憎みが増して今まで以上の行動に出るかもしれない危険もあるということだ。

「うーあー最悪かも」
 田上が想像して震えた。
 そこまで状況把握してなかったのは他の三人も一緒だ。

「そこまで考えてたのか……」 
 左部(さとり)もそう言ってしまうくらいだ。

「そこで提案なんです」
 嗄罔(さくら)が言い出した。

「いっそのこと、こっちも本物雇ってみませんか?」
 嗄罔の提案に田上と熊木、左部はポカンとした。

「はあ?」

「北上神さんちも東稔さんちもお金持ちじゃないですか。探偵とは言ってもピンからキリまでいるわけですけど、うち、結構凄いですよ。本腰入れたら、緊急の場合は警察も動かせますし」
 嗄罔は歌うように自分の保護者の探偵の優秀ぶりを紹介する。

「さっきまでヤバイって……」
 田上はそう聞き返す。さっきと言っていることが違うではないかと。

「ええ。今のままじゃヤバイですよ。いつでもこっちは手を引けますし、保障は何もないって、北上神さんも言ったでしょ? やるなら徹底的にが基本です。大人しくさせるなら一生大人しくさせようってことです。というわけで、どっちでもいいですから、決まりましたらこちらにどうぞ」
 嗄罔は綺麗に営業をすると、名刺を北上神と卓巳に差し出した。

「当分は探偵の動きを追っていくと思います。こっちもあの探偵の状態を調べていく予定ですので、どういった仕事をするのかは報告させてもらいますね」
 嗄罔はそう言い終えると、自分のすることはないと思ったのか、さっさと帰ってしまった。
 一同が唖然とする中、卓巳はじっと名刺を見つめた。

 ここに頼めば、どっちかの動きは把握できるということなのだろう。

「北上神、どう思う?」
 卓巳は北上神を見て言った。
 その目はもう決めたという目だ。

「そうだな。見張るなら仲川の方だな。探偵の方は、こっちが振り回してやればいいだけだろうし。仲川にどれだけの支払能力があるのかも知っておきたい。情報が欲しいのは探偵の方じゃなくて仲川の背景の方だしな」
 北上神も、もうここまで来たら、警察より動く探偵を雇った方がいいと思ったのだろう。

「やっぱ、そうなるか」
 卓巳もうんと納得している。

「雇うの?」
 いきなり話しが進んでしまったので、田上が驚いている。

「使えるなら使うしかない」 
 北上神がそう言い切る。

「うん、うちも反対はしないはず」
 卓巳も北上神も頷いていた。

「学校の中のことは、熊木が仕切ってくれてるから、余程のことがない限り大丈夫だろう。だからと言って、こっちが動かないでいて事態が解決するわけでもない」
 北上神はそう言い。

「関係のない者が動き出したなら、こっちも同じ手を使うって手もあるし。証拠さえあれば、なんとかなる」
 卓巳もそうだと返す。

「とにかく、仲川が卓巳の前に堂々と姿を現すことが出来ないくらいの制裁を受けるような証拠が必要なんだ」
 北上神も同じ思いだ。嗄罔(さくら)が言ったのだが、やるなら徹底的にというのは、この場合やるしかない。

 それには証拠が必要だ。
 警察も動くような証拠。

「よし、このことは公にするわけにはいかない。さっそく、行動しないと」

「うん」
 そう言った時、お昼が終わる予鈴が鳴った。





 探偵を雇うと決めた時、まず卓巳の家に、どう探偵が入り込むかというところから始まる。
 幸いだったのは、卓巳の家には裏口があって、そこに車を停めるスペースがあることだろう。
 北上神と卓巳が戻ってくるのに合わせて、探偵はやってきた。

 父親も今日は休みを取り、早めに帰ってきていた。母親は初めてのことで戸惑っていたが、極めて大人しく父親のいうことを聞いていた。

 やってきた探偵は、玖珂大介(くが だいすけ)という。

 探偵としては看板は一切出していない。電話帳にも載ってない。ただ口コミで評判が広がり、顧客がつくのだという。

 更に北上神や父親を安心させたのが、玖珂の兄が弁護士であるということだった。
 その弁護士は企業家の間では有名どころの弁護士で、名前も知られていて、北上神の父親がちゃんと確認をとってくれたのである。

 信用出来る人物であると解ってからは、父親も任せるのに躊躇いはなくなった。

 最初にやったことは、盗聴器の有無だった。これは軽い機械を持って玖珂の部下が調べてくれた。
 さすがの仲川もそこまではやってなかったのにはホッとした。

 探偵の話も出していたので、暫く様子を見ていたが、仲川に変わったところはないし、例の探偵も卓巳に張り付いていて受信する能力はなかったようだ。







 ゴールデンウィークに入っていて学校は休み。
 当然、仲川には余りある時間を費やせる時だ。

 油断しないようにしているが、日中家にいると気が滅入るというので、卓巳は北上神(きたにわ)と一緒に熊木や田上と出掛けてばかりいた。

 動いていた方が、探偵も追いかけないといけない上に、仲川に変な報告も出来ないだろうと言われたのもある。

 仲川が頼んだ探偵は、玖珂の調べでは、それほど繁盛してない探偵らしく、値段が安い上に、仕事は適当という優秀ではない部類だった。

 どうやら、道楽で探偵をやっている節があり、探偵という役に満足しているだけの人間らしい。
 おまけに尾行は下手。振り返った田上が瞬時に撮った写メに写ってたりするのだ。

 これなら、依頼人の素行調査という名目で調べていた玖珂とは、天と地の違いある。こちらは、まったく姿や気配すら感じなかったからだ。

「こんなに出かけてていいのか?」
 普段、図書館くらいしか行かない卓巳が街に出ていることが珍しく、田上がそう言った。

「あんまり家にいると、盗聴器仕掛けるとか、安易なことを考えるようになるから困るって」
 卓巳は玖珂が言ったことをそのまま言った。

 悠長に学生やっている卓巳が家に篭ったままでは、向こうの仕事にならないから、出来るだけ、不自然にならないように出歩いて欲しいと言われたのだ。

 普通なら、家に篭ってればと言うところだが、そこは玖珂の考えが違うところだろう。
 出来るだけ人が多いところ、それに学生が行きそうな場所を選んで欲しいとも言われた。

 これは訳が解らなかったが、一日目にして理解できた。探偵気取りの探偵が、そこに居るだけで不自然な状況にしたかったらしい。そうすれば、嫌でも卓巳たちが姿を確認出来るからだ。

 それでも卓巳が行くのには不自然になると言ったのだが、そこに北上神の存在が重要になってくると言った。

 知り合って二週間。試験期間が一週間あったから、その辺を考慮しても、北上神の存在のお陰で、卓巳の行動範囲が変わるのは、おかしくないというのだ。

 当然、そう報告されても、仲川は不自然に思わないだろうと。
 北上神を調べているわけではないので、十分いけるらしい。

「へー、あれって頭使う職業だったんだ。もっと気楽にやるのかと思ってた」
 熊木が可笑しそうに言う。

「というか、仲川本人の方が使えると思う」
 田上が真面目に言った。

 そう言われればそうかもしれない。仲川の尾行には気づかなかったからだ。

 今日は母親も安心して出かけていて、夕方には帰ってくる。
 とりあえず、泊まりの用事は減らしていく方向になっていた。

 それでも休みになるとお呼びがかかるので、出かけなければならないから、こうやって卓巳が一緒に出掛けてくれる方が安心出来るらしい。
 父親も早めに帰宅するなど、用心はしている。

 なるべくは、卓巳も母親も一人で家に居ないようにしている。

 少し変わった家の中だったが、以前より結束力が上がったかもしれない。母親の過保護は変わらないが、今回のことで、田上や熊木のことは信用してくれるようになった。
 これはいいことだ。

 一方、仲川の方の調査は、結構進んでいた。

 仲川の支払能力は、かなりのものらしい。母親がかなりの浪費癖があり、金銭面に糸目をつけない性格らしく、息子にもかなり金をかけているのだという。

 元々、ある地方の資産家であり、父親の財力ではなく、実家の方からもかなりの資金が出ているのだという。仲川が氷室秀徳館に入ることが出来たのは、この財力がものを言ったらしい。

 よって、教師は仲川のしたことでは、簡単に停学にすら出来なかったのだという。おまけに転入理由の柔道を辞めても十分学校には残れるのだ。

「道理で、無茶苦茶だと思った」
 仲川の家の事情が解ると、あの無謀で自己中の性格が形成されるには、十分な環境にあったのだと、左部(さとり)が言ったものだ。

「北上神んちも東稔んちもいいとこの金持ちだけど、無駄な浪費は恥ってところがあるじゃん。必要なものは必要な理由を言ってから買ってもらうみたいなとこ」
 熊木がそう言ったのだが、卓巳も北上神もキョトンとした。

「だって、それ基本だろ?」
 そう声を揃えて言うと、田上も熊木も爆笑した。

「そういうところは似てるよな」
 田上が言うので、卓巳と北上神は顔を見合わせたが、そうなのかな?と悩んでしまった。

 そうして、休みの間は昼間は出掛けて夜はちゃんと帰るという生活をしていたが、後半になって一つ問題が卓巳の家で上がってしまった。