novel

Distance 4round Start in my life10



 結局、唯は学校を二日休んだ。
 次の日起きた時は夕方で、謝る左部(さとり)にご飯を食べさせてもらうとまた眠くなりそのまま眠って、起きたら翌日で学校なんて行ける状態ではなかった。

 三日目に学校へ行くと、周りの様子が違っていた。
 微笑みながら見ている人や、中には悔しがって泣いている人もいる。

 これは一体なんなのか? そう唯が思っていると北上神(きたにわ)が真っ先に声をかけてきた。

「よ、なかなかいい顔になったじゃないか」
 そう言って笑っている。

「何があったかなんてのは、左部に自慢されて知ってるぜ」
 そういう意地悪を言うのだ。
 それを聞いていた東稔(とね)が北上神を殴る。

「ご、ごめんね、余計なこと言って、この馬鹿」

 知ってるということは、左部とああなったことをみんなが知っているということだろう。唯は頭を抱えたくなった。これはもう左部が自慢しまくったか、自分の休んだ状況からみんなが察してしまったことなのだろう。
 まさか自分の性生活までだだ漏れとは思わなかったのだ。

「仕方ないぞ、唯は隠れファンが多かったからな。一昨日は葬式みたいな連中いたし」
 例の愛でる会がその葬式だった一味らしい。
 食われただのなんだのさんざん左部に文句を言ったらしいが、登校していた唯の顔を見ると、大人しく引き下がったらしい。

 結局愛する人を手に入れて更に可愛くなった唯を愛でる会なるものが出来たそうで……。呆れるやらなんやらである。

「……随分暇なんだね……」
 人を愛でるのがそんなに楽しいのか……。

「唯は冷静で頼もしい」
「でも、左部は言ってないんでしょ?」

「言ってないぞ、北上神以外には」
「なんで、北上神には言うの?」

「そりゃ、男のなんつーか自慢はしたいわけよ」
「……つまんないことやってるんだね」
 唯は冷静に突っ込んで話を終わらせた。

 授業が始まるといつものように静かになり、唯はいなかった間の予習もしながら、今の授業についていく。左部にノートは貸してもらったが、まだ写してなかったからだ。

 そうして休み時間になると東稔や北上神が混ざってきて、更に東稔の友人たちも入れ替わり立ち替わりでやってきて、唯の周りはすごく賑やかになっていた。

 今まではそれほどでもなかったが、今はそれが楽しくなってくるから不思議だ。
 自分は今まで人を遮断していたのだなと実感する時だ。
 周りはみんな唯と話をしたかったのか、いろいろ話してくるし、それに嫉妬する左部が唯を抱きしめて邪魔だーと叫んだりして面白かった。

「なんだか、いつもと全然違っててびっくりする」
 唯がお昼にそう呟くと、東稔と北上神が笑っている。

「え? 何?」  
 唯がそう聞くと、北上神が指を指して言うのだ。

「それはいつもとは違うことはないんだ?」
 そういわれて自分の膝を見ると、左部がご飯を早速食べ終えて唯の膝で昼寝をしている。朝ご飯からお弁当まで作っているから朝が早いので、眠くなるのだそうだ。

「あ……これは、もう慣れというか……」
 ずっとこんな調子でされると慣れても来るだろう。

「なんつーか、春が来た左部はもうね、だらしないよな」
 田上と熊木が同時にそういう。
 びっくりして見ると、にやにやとしている。

「鼻の下びろーーーーんって」
「そう伸びちゃって伸びちゃって」
「しかも憎たらしいことに、男の色気とか出しちゃって」
「そうそう出しちゃって」
 なんという言われ方だ。

 合唱じゃないんだから、そういう言い方で攻めなくてもと思うが、それがこの二人のやり方らしいから笑える。

「いいんじゃねーの、そういう春がきてもよ」
 北上神はそう言って左部をかばう。どうやら連帯感があるらしい。
 それに左部に唯という好きな人が出来て、それが上手く結ばれたことを心から喜んでいるようだ。

「……これで変な絡まれ方はしなくなるしな」
 ……そっちかい。心配していたのは。

「まあまあ、二人とも落ち着いて」
 左部に文句を言いたい田上と熊木が暴走しだしたので、東稔が一生懸命宥めている。そこに左部が目を覚まして、懐から紙を出して投げつける。

「なんだよ、左部!」
「それ、やるわ。お前らの大好きなクロスワード」
 クロスワード系は、東稔たちが大好きなゲームだ。

「え!?」
 二人は案の定食いついて、それを広げて見る。
 しかし、すぐに鬼の形相になって振り返った。

「右1、唯の好きなキスの仕方は? なんだよこれ!」

「お前、そこまでして自慢したいかよ! これ完成させたら、右左(うさ)のエロイところが丸わかりじゃねーか!」
 田上と熊木がキレた。

 それを聞いた唯は目眩がした。
 昨日一生懸命作っていたのはこれだったのかと。

「……さとりくん」
「はい、冗談です。全部埋まりません」
 左部が苦笑してそういうのだが、それにはクロスワードの専門家たちが異議を唱えた。

「うまりますぅぅぅう」
「お、これ、きっと完成したら、好きな体位がでるんじゃねーの?」
 最初のところを解いてしまったらしい北上神が簡単に言うと、さすがの唯もキレた。

「ふざけるな、左部!」
 持っていた弁当箱を振り上げて左部の頭に直撃させた。

「いたああ!」
 なんとか防ごうとしたが、それは無理だったようで、寝転がったまま頭を押さえて転がっていく。

「……なかなかスパルタになりそうだな」
「うん、大人しい分怒ると怖いんだよ。きっと」 

 唯の攻撃に驚いた北上神と東稔がそうぼそぼそと言い合うが、唯は立ち上がって左部を追いかけていく。もちろん弁当箱を持って殴るつもりで。

 屋上の端まで追いかけるとちょうど向こうから見えない位置にきたらしく、左部が反転してきて、唯を捕まえる。

「ちょっと!」
「捕獲」
 そう言って左部は唯を抱きしめる。
 そんなことを言って抱きしめた唯の唇を奪っていく。

「さ、左部……!」
 こんなところでキスされたら、またあの熱を思い出してどうにかなりそうだ。

「うん、やっぱり唯の唇は最高だな」
 にっこりとして言うからなんだか怒りづらくなる。

「あのね……学校じゃ……」
「分かった、なんか唯が色っぽくなって保健室に駆け込みそうだ」
 保健室と言えば、常連宿みたいなものだったりするからヤバイ。
 保健医自らがそういうことをしているから問題だ。

「唯」
「うん?」
 抱きしめられたままで左部を見つめると、またキスをされた。
 今度はさらっと。

「なんか唯の顔を見ると、キスしたくなって仕方ないや」
「昨日もさんざんしたのに……」

「キスはたくさんしても減らないだろ?」
「そりゃそうだけど」
 そういう問題ではなく、学校や外では自分の精神力の問題になってきそうだ。

「また帰ったらしような。明日は土曜だしな。徹夜出来るだろ?」
 そう聞いた唯は一昨日のことを思い出してフルフルと首を横に振る。

「やだあ、左部、しつこいもん!」
 唯がそう言って逃げようとしても左部ががっちりと腰を掴んでいて逃げられない。

「そういわずにさ」
「やだあ」
 唯がそう言って手を逃れると、予鈴が鳴った。

「あ、もういかなきゃ」
 唯が我に返ってそう言うと、左部は仕方ないと諦めたように肩をすくめる。

 しかし心の中では、まあ帰って雰囲気作ればこっちのものだしと思っていたのには、唯ごときでは気づけるはずはなかった。

 みんなのところに戻ると、みんなが真っ赤な顔をして(北上神は平気な顔で紙に何かを書いている)こっちを見ていた。

「何?」
 唯がそう聞くと。

「右左って淡泊そうに見えて、「もっと」とか言うんだ……」
「鎖骨弱いのな……」
 と田上と熊木が真っ赤な顔で言うものだから、ぽかんとした。そして、それの答えをすらすら解いている北上神がにやりとしている。

「うあああ!!」
 慌てて紙を取り上げたのだが、すでに答えが出ていたらしく、全問答えられてしまっていた。

「答え、正常位かあ」
 北上神の答えに唯は真っ赤になって泣きそうになった。

「まあ、普通だな」
 北上神はそう言うと、颯爽と帰って行くし、東稔はごめんと謝っていくし、田上と熊木も慌てて逃げるように去っていくしで、もうどうしていいやらだった。

「大丈夫だって、あいつらなら慣れてるから」

「……俺が慣れてません……」
 ちょっと泣きそうだったけれど、恥ずかしい方が強かったから、怒りは左部に向けるべきであろうと、唯は思い。

「当分エッチしない。実家に帰らせていただきます!」
 そう言って「ちょっと待てって冗談だって!」という左部を置き去りにして屋上を後にした。

 そうして唯は一ヶ月ぶりくらいに本当に実家である、叔父の家に帰って左部への不満と一緒に叔父のことを怒って怒鳴って、「ゆい」という存在のアーティストを引退に追い込んだのであった。
 
 これを実は左部の計画の一つであったのを唯が知るのはほんの数日後のことだった。