novel

Distance 6round everywhere1-2

「……わかんないってなんの冗談?」
 久己(ひさき)がそう問い返すと、浜多はどうやら手術用の薄い手袋みたいなのをしていたのか、それを器用に外して丸めてゴミ箱に捨てているではないか。

「や、わかんないからわかんない」
「なんで?」

「説明受けてないからさ。いやほんとごめん。そんな悪いものじゃないと思うけど、どうかなあ」
 浜多は最初は威勢よかったのだが、最後はもう首を傾げていた。

「冗談じゃない!」
 そんな怪しいものを塗りたくたれたなんて冗談ではないだろう。

 久己は仕方ないとばかりにハンカチでその液体をぬぐい取った。でもまだ不安だったので水で濡らした後でもまた拭いてと繰り返した。

 その間に浜多は逃げてしまったから、これがなんだったのか分からない。けれど拭き終わったところでズボンを戻してハンカチを洗い直している途中で、その塗られた液体の効果が出始めたようだった。
 急に久己自身が熱くなってき、布で擦れるとだんだんと気持ちよくなってくるのだ。

「……や、だ……」
 もそもそとしながら逃げようと思うが、こんな状態になって外へ出る勇気はなかった。
 それどころか外から誰かが入ってくる方が怖くて急いで個室に入り込んで鍵をかけた。
 布でこすれるからいけないのだと、ズボンを脱いでみると、そこは立ち上がっていて先端から白い液体が少しずつ出ているではないか。

「あ……うそ……なに……」
 これではまるで自慰をしている時のようなものではないか。
 ドクドクと鼓動を打つ振動までに反応しだしてしまい、久己は座ったまま動けなくなった。

「ど、したら……」
 とにかく出すモノを出してしまったらいいのかと思った時、トイレに人が入ってきた。

「久己、いるんだろう?」
 この声は保健医の……名前はなんだっけ?と久己が考えていると、ドアのすぐ傍に来た保健医がドアをトントンと叩いた。

「久己、開けてくれたら、それどうにかしてやれると思う」
 保健医はそういきなり告げた。
 なんで知ってるのかと思ったが、浜多が怖くなって保健医を呼んだのかもしれないとふと思ってしまった。

「これ……なんなんですか……」
 久己は前のめりになりながらも必死になって問う。

「いや、ただのクスリ。ちょっと気持ちよくなっちゃうものかな。素人には刺激が強すぎるけど」
「どうすれば……」

「出てくればいいんだ。おいで、久己」
 どうすればこれが収まるのかと問うとした声に被せて保健医が言った。
 その言い方が久己の記憶からある人の言葉と重なるところを見つける。

『久己、おいで』
 そう……優しかった兄のような存在の人。その人と保健医が一瞬だけ重なった。
 手を取ってしまえば楽だったけれど、兄と呼べる存在は父と呼べる存在になろうとしたときすべて壊れた。

「……う……た、すけて……せん……」

「その人じゃなくても助けられる、久己、鍵あけて」
 一瞬重なった面影は保健医の言葉で打ち砕かれる。助けを求めるのは絶対に駄目な人を今呼んだ。そのことが久己の心に衝撃を与えた。
 そして弱っていた久己の心にまた声がかかる。

「久己、鍵をあけて。俺が久己を助ける」
 その言葉に久己はドアの鍵をあけていた。迷いは一瞬もなかった。ただ縋りたかった。
 ドアが開いた時目の前ににやりと笑う保健医がいたのだが、久己はそれどころじゃなかったので見ていなかった。

 保健室へまた逆戻りした久己は、ベッドに押し倒された。
 途中はずっとお姫様だっこで気分が悪い振りをしてればすんだ移動だったが、保健室に入ったとたん保健医の表情が変わる。さっきまでの人の良さに加え、何か油断ならない笑みを浮かべているのだ。

「せ、先生……?」
 ズボンに手をかけている保健医を見ていた久己はあっという間に下半身をつるっと剥かれた。

「え……や……」
 すっかり立ち上がっているものに保健医が顔を近づけて息を吹きかけるようにした。

「んんん……っ」
 息を吹きかけられただけでも白い液体がぴゅっと出てしまう。

「ふふーん、なかなか効くもんだ。じゃ、こっちも」
 そういうと、保健医は久己の足を左右に開いて抱えてきたのだ。

「なっ!!」
「……初めてってわけでもないだろ。すぐによくなる」
 後ろの穴に息を吹きかけられてそう言い放たれたとたん、久己の心が凍った。

 頭ががんがんとする。なんでこの人知ってる。なんでなんで。
 言葉がぐるぐるしているうちに穴の中に何かを塗りたくられた。

「なあ、どうせならお互い気持ちよくなろうじゃないか」
 塗りたくって出て行った感触にほっと息を吐いたのもつかの間。前を握られて二三回擦られたらあっという間に身体が熱くなってしまう。
 この熱くなる感触は心地よかった。

「久己、これに耐えられなかったら久己は俺のものな」
 いきなり保健医がいきなりそう言い出した。いきなり何を言うのかと久己はぎょっとする。

「……ん、は?」

「そうだなあ、他にも条件出していいけど、とりあえずやらせてもらうわ」
 保健医は強姦しますと宣言してから久己の制服をどんどん脱がしていく。

「ちょ……ああぁぁ!!」
 大きな声を出そうとするといきなり前を扱きだした。
 輪にした指で上下に扱かれ、先を指で撫でられただけですぐに久己は射精した。

「うあぁぁぁ……っ」
「これくらいじゃ終わらないぞ」
 射精してもまだそこは立ったままで、じんじんとして熱いしキツイ。

「前と後ろ両方だったらさすがに落ちてくれるかな?」
 そう言って保健医は散々久己自身をいじって何度も射精させた後に、後ろの穴までもいじりだしたのだ。前も後ろも同時にされるともう考えていることは何も残らなかった。
 前を口に含まれて扱かれて、後ろの穴にはバイブまで入れられて、どんどん大きくなる快楽を求めて久己は声をあげていた。
 そのとき目の前に保健医自身が晒される。大きくて立派な雄。

「あ……」
「どうだ? 欲しいだろう?」
 そう言われて久己は喉を鳴らしていた。

「久己はすぐに顔に出るからなぁ、ほら跨って、俺を達かせられたら、終わりにしようか。で、久己が先に達ったり降参したら、久己は俺のものな」
 それに久己はこくこくと頷いていた。もうどんな理由でもいいからそれが欲しかったのだ。

 昔散々溺れた行為は、久己の身体を淫乱にするだけして放置した。
 ちょっとした行為でも久己は淫乱になれる身体をしていた。
 保健医はそれを見抜いていたらしい。

「今すぐ欲しいなら、自分で入れられるよな?」
 保健医がそう言って、久己は頷く。
 そうして、初対面だというのに、いくら策略に陥れられたとはいえ、久己は保健医と関係を持つことになってしまったのだった。
 ぐったりした久己は、いつの間にか外が暗くなっていることを知る。

 あー日が暮れている。入学式は昼からだったから、もう何時間ここで保健医を相手に淫らなことをしていたのだろうか。

 そんなことを考えていたが、保健医はお湯で温めたタオルを何枚も持ってきてはぐったりとしている久己の身体を丁寧に拭いていく。それが終わるとどこから調達したのか、新しいワイシャツを渡してくれて、無事だったズボンや下着も返してくれた。

 久己は何も言わずにそれに着替えると、保健医は久己の手を引いて外へ出て行く。
 行為が終わったら即帰れではないようだ。抵抗する気力もなかったのでそのままついていくと、保健医の車に乗せられた。

 保健医はすぐに車のカーナビを付けて、いつの間に聞いたのか久己のアパートの住所を打ち込んでいく。二駅離れたところであるのを確認すると保健医は「へー近いな」と呟いた。何と何が近いのか知らないが、久己は何も言わなかった。

 とにかく保健医の目的が分からない。うかつに口出すのも怖い。相手が自分のことをどこまで知っているかも知りたい。
 そういう思いがグルグル巡ってきて、結局返答も話しかけることも出来なかった。

 アパートに着くと、保健医は久己の手を引いて部屋まであがり、久己が出した鍵を受け取って鍵まであけて中に入る。このまま帰るのかと思ったが、保健医は部屋に入り込んできて、久己にベッドで寝るように言うのである。

「さあ、寝てて。身体は拭いたし、風呂は朝でもいいから身体休めて。ご飯はさっきのコンビニで買ってきた弁当あるけど、食べたかったら食べて」
 保健医はてきぱきと準備をすると、用は済んだとばかりに玄関に向かった。

「じゃ、鍵は新聞受けの中に入れるから、そのまま寝ちゃっていいよ」
 外から鍵をして新聞受けに鍵を入れて戸締まりまでしてくれるようだ。

 そんな保健医をじーっと眺めて何も言わない久己を保健医は特に気にしていないようだった。
 そうして鍵が新聞受けに入る音を聞いた久己は、そのまま目を瞑った。緊張から解き放たれて安堵したのだろう、身体が自然に睡眠を欲していた。

 なんでこんなことになったのだろう……などという問題は次の日に悩む問題だった。