novel短編

Dolls-兔(てう)-10

「休養のつもりが酷いことになって済まない」
 家に戻ってもさすがに疲れてしまい、さらには事件の経過が気になり、そのままテレビで情報を集めていたが、管理人の悪用によって誘拐されたDollが発見され、保護もされた。
 テレビニュースは一斉にこの事件を報道した。
 さらには前々からこの近辺で少年の行方不明事件が多発しており、警察が警戒をしていたにも関わらず、塀の向こう側への捜査に及ばなかったのが、事件が長期化した理由だ。
 管理人は小児性愛者で一度逮捕された過去があったのだが、警察が高級観光地の管理人を疑わなかったのもあり、調べられていなかった。
 更に管理人が、リゾート中の管理屋敷に監視カメラを付けて盗撮や盗聴をし、様々な人を脅迫していた事実まで浮かび、政府関係者がその事件を情報規制したほどだった。醜態をさらしたのは、管理人だけではなく、その関係者もである。
 建築を請け負った会社もリゾートへの献金をしていた人もすべてがあの地下の施設がなんであるかを知っていたと言われた。
 あの管理人があんな恐ろしいところに兔(てう)を入れようと企んでいたのかと思うと、嘉藤(かとう)は寒気がして兔(てう)をしっかりと抱きしめるほどだ。
『高和(たかかず)、辛いならテレビを消そう?』
 至極もっともなことを兔(てう)が言う。
「そうだな、兔(てう)」
 そう嘉藤(かとう)が言うと兔(てう)はテレビのリモコンで電源を落とした。
それを合図にするように、嘉藤(かとう)は兔(てう)を抱いた。

 キスをして、服を脱がせ体中を愛撫する。
リビングでの行為は慣れたもので、兔(てう)はそのまま抵抗なく抱かれてくれる。
 嘉藤(かとう)がソファに腰をかけたままで、兔(てう)が自分で上に乗り、腰を落としていく。
『んはっんんっああ……』
 はっはっと息を漏らしながら兔(てう)が気持ちよさそうに体を震わせた。
「すっかり兔(てう)も慣れてしまったね」
『うん……きもちいい……高和(たかかず)……あっん』
 小さな腰を揺らしながら嘉藤(かとう)の性器をしっかりと包んでくれる内壁が、心地よくて嘉藤(かとう)はゆっくりと兔(てう)を犯す。
 パチュパチュと音がして、中がうねって絡みついて、嘉藤(かとう)は達しそうになりながらも耐えて何でも兔(てう)を突いた。
『あっ……ん……だめっきもちいいっ……あっあっ……おしり……きもちいっいっ』
 行為になれてくると卑猥な言葉も兔(てう)は口にするようになる。完全に感じるようにできている体だとはいえ、それでも自分で望む行為はそれなりに違うのだという。
 欲しくてほしくて仕方ない。飢えてしまうのだという。
 注いでもらってやっと自分がいる意味をたくさんもらっていると思えるのだという。だから嘉藤(かとう)が望むように犯してほしいと兔(てう)は言う。
『あっんっ……んっんっ……いいっいいっ!』
 兔(てう)の体をしっかりと支えて、腰を振ってやるとそれに合わせて兔(てう)も腰を振ってくる。
 それでも足りなくて、繋がったまま立ち上がり、両手を掴んで後ろ手にし、背後から立ったまま突いてやった。
 パンパンと音がして、孔は完全に濡れた状態になり、卑猥な音が響いてくる。Doll特有、潤滑剤要らずの孔の分泌液は、ローションのそれに似ている。プクプクと泡を立てて濡れて垂れていくほどだ。
 兔(てう)は気持ちがいいほど濡れて、収拾が付かなくなるほど達する。
 突かれるたびに潮を吹き、ビクビクと体を痙攣させるけれど、そのまま突かれているのが好きなのを嘉藤(かとう)は知っている。
『んっんんっ出るっ、あっ、いくっいくっ! ぁんっあっひぁぁあぁあっ!』
 ビューッと潮を何度も吹きながら、一番奥まで突かれた瞬間に兔(てう)は完全に絶頂を迎えた。
『あぁああ――――――!!』
 兔(てう)の中に嘉藤(かとう)は精を叩きつけた。長く吹き出す精子は、濡れた奥の奥まで届き、その衝撃で兔(てう)はまた達した。完全に精子が出ない空イキで、体の力が抜けてしまうのを嘉藤(かとう)が慌てて抱えた。
 その瞬間に抜けた嘉藤(かとう)の性器で広がった孔からは、はき出された残滓(ざんし)がボタボタと床にこぼれ落ちた。
「兔(てう)……愛している」
 何度もそう言って嘉藤(かとう)は兔(てう)にキスをした。
 兔(てう)はそれを笑って受け入れる。
『愛してる、高和(たかかず)愛してるの』
 返ってくる言葉はいつもと変わらない愛の言葉だった。



 いつもの日常に戻って、やっと辛い記憶が薄らいできたところで、惟宗吉人(これむね よしと)が蒼(そら)を連れて尋ねてきた。
 政府の人間としてではなく、普通に尋ねてきた感じであるので招き入れた。
「あの時は世話になった。ある意味巻き込んでしまって申し訳なかった」
 そう言うのだが、それには簡単に答えた。
「その後の方が大変だったろう。それで今回は何か問題でもあったのか?」
 嘉藤(かとう)がそう尋ねると、吉人(よしと)は率直に聞いてきた。
「お前と兔(てう)のことだ」
 吉人(よしと)がそう言ったところで、嘉藤(かとう)は少しだけ覚悟をした。
「個人的に調べていて、不審なことが出てきた。今は誤魔化しが効いているが、今後発覚するかもしれないから、そのための対策を立てたい」
 そう言われ、何のことかは薄々分かった。
 兔(てう)の記録でおかしなところがでてきたのだろう。
「俺が知っている限りのDoll情報に、兔(てう)の形はいない。それは一体何なんだ? 書類を作成したのは楪(ゆずりは)博士らしいが、書類改ざんをしたのが博士だとして、兔(てう)は何なんだ?」
「なんだと言われて、素直に答える訳にもいかない」
 嘉藤(かとう)がそう言うと、吉人(よしと)は念を押した。
「何も兔(てう)を研究所に取り上げようというわけじゃない。できれば騒動にしたくなくて、こちらから圧力をかけておきたいだけだ」
 そう言われて吉人(よしと)を信用したくはないのだが、かと言って頑なに話さないのは何かあると言っているのと同じである。
 嘉藤(かとう)は覚悟を決めると話し始めた。
「兔(てう)は、楪(ゆずりは)玲央(れお)博士が新しく作った強化Dollだ」
 そう言われ、吉人(よしと)は予想していたであろうに、盛大に溜め息を吐いた。
「そんなことだろうと思った。うちは蒼(そら)が記憶しているDoll情報を全所持している。だがそれを研究所には渡してない。蒼(そら)が記録が改ざんされている可能性もあると言うのでね」
 つまり最後に作られた蒼(そら)に入れる情報を制限した可能性もあるわけだ。確かに蒼(そら)は楪(ゆずりは)玲央(れお)博士がDollであることは知らないようだった。
「死んでいるDollの記録を改ざんして兔(てう)のデータを入れたと言っていた。元々事故で死んだDollの遺体を手に入れたかららしい。そのDollは普通の墓で眠ってる」
 そう言われて、吉人(よしと)もなるほどと頷く。
「兔(てう)に会った時に、どう考えても蒼(そら)より年下だと思えたのは、経験値がないからか。楪(ゆずりは)玲央(れお)博士のDollなら、まだ十代の精神年齢で外見とほとんど誤差がないってことか」
「そうなる。兔(てう)は精神年齢は十七歳なのだが、事故で数年調整をしたので、実質十五歳程度よりも低いかもしれない」
 そう言って妻のことを思い出した嘉藤(かとう)に兔(てう)がしっかりと手を握る。
『大丈夫だよ、高和(たかかず)』
 そう言う兔(てう)の手を嘉藤(かとう)は撫でた。
「基本的に兔(てう)が特別仕様ということではないんだ。ただ新しく作っただけのことで。外見がこうなのは使った卵子の問題だそうで」
 その言葉に吉人(よしと)は頷いている。それは十分あり得ることだ。
「その博士は、何処へ?」
「さあ、私には癌で長くないと言って入院をするからと言っていたが、本当かどうかは分からない」
そう嘉藤(かとう)が言うと、吉人(よしと)は舌打ちをした。
どうやら吉人(よしと)の目的は兔(てう)のことではなく、楪(ゆずりは)博士のことだったようだ。
「博士を探しているのか?」
「あの博士は、記録改ざんは可愛いもので、様々な預かったDollに新しく改造を繰り返していたことが分かっているんだ。そこで得た知識で兔(てう)を作ったんだろうが……」
 くせ者の楪(ゆずりは)博士は、癌で死ぬと言っていたが、それも嘘なのだろうか。確かに年の割には老いていたと思う。それでもDollのLLサイズだとすれば、最後に作られてから年齢通りに四十年ほどだ。老衰ということもないだろうが。
『博士、もしかして生まれ変わるつもりなのかもしれない……』
 兔(てう)は話を聞いていて思い当たることがあったようだ。
 だがそれを話すと博士がDollであったことを話さなければならない上に、そのDollが作った記録が無効化されるかもしれない。
 だから嘉藤(かとう)は兔(てう)の言葉には握り返すだけの返答しかしなかった。
「それと、嘉藤(かとう)。お前もしかして、能力者か何かか?」
 さすがにギョッとして、嘉藤(かとう)は反応が遅れた。
「……どういう?」
 急に変な言葉を振られた人が急には反応できずに聞き返したようにはできたが、それでも吉人(よしと)は確証があって尋ねてきていた。
「お前のことを調べていたんだが、妻イリヤが転落事故で死んでから、急に人嫌いになっていたよな? 最近も家政婦とその弟と揉めてた。そいつらが言ってたんだ。あいつ心を読む悪魔だって……どうだ? 本当に読めるのか?」
吉人(よしと)の言葉に嘉藤(かとう)は言った。
「読めることは読めるが、その時に思っていることしか読めない。心の中をすべて見るほどの力はない。非常に不便だったよ。でも兔(てう)との会話に支障がないことだけが私には救いだ」
 嘉藤(かとう)はそう言って兔(てう)の手を握って、更に上から擦った。本当にそれだけがこの力を持っていて良かったと思えることだった。
 嘉藤(かとう)が微笑んで兔(てう)を見る。
『高和(たかかず)……』
 兔(てう)も嬉しそうに微笑むのだが、それを見た吉人(よしと)は呆れている。
「お前ら本当にべったりだよな。話をするとかしないとか以前にだけど」
「僕たちとは違うのでしょう」
 蒼(そら)がそう答えている。
 吉人(よしと)は蒼(そら)が育てたようなものだ。だから、関係性は家族のそれでありながらも少し違う。
「まあ、こういうのもありなんだよな。元々Dollなんてこういう風に愛でるためにあったんだしな」
「そうですね」
 蒼(そら)はそれには頷く。蒼(そら)は兔(てう)とは違う形を選んで、兔(てう)は愛という形を選んだ。だからそれぞれ生き方が違う。
「もし博士から何か連絡があったら教えて欲しい」
「連絡はないとは思うが、分かった」
 嘉藤(かとう)がそう答えると吉人(よしと)はそれで満足して帰って行った。
 本当に嘉藤(かとう)の心が読めるかどうかは割とどうでもよかったのだろうが、知っていれば、知られたくないからと触れる必要が減る。その辺の確認だろうし、博士に用事があるようだから、その要件も知られたくないはずだ。
 だから嘉藤(かとう)は握手はしなかった。吉人(よしと)も求めなかった。
 けれど蒼(そら)は違った。知ってもなお、嘉藤(かとう)と握手をした。
『本当に読めてる? なら吉人(よしと)がどうして博士を探しているのか疑問に思っているよね?』
「そりゃあそうだけど」
『僕は多分、病気で死ぬんだと思う。遺伝子操作の弊害か、副作用か何かで年々記憶がおかしくなってるらしい。だから吉人(よしと)様は、兔(てう)を見た目とは違った強化をした博士の知識が欲しいんだと思う』
「当たり前のことだろう。それが人間だ」
 嘉藤(かとう)は吉人(よしと)が何を考えているのかは分かると思った。
「そう言ってもらえるとありがたい。僕は君たちに会えて、生きたいと思う心ができたような気がしている。これも忘れてしまうかもしれないけど……会えてよかった」
 蒼(そら)はそう言うと吉人(よしと)の待っている車に乗って去って行った。
 蒼(そら)は死ぬことに関して悲観はしてなかったようだ。
 生きるモノが死ぬのは当たり前で、その寿命を病気などで縮めるのはよくあることであると。それでも生きたいと思うのは、惨めなことではない。
 ただ吉人(よしと)は諦めきれないだろう。
 蒼(そら)を失うことは、家族以上の存在を失うことになる。必死になって博士を追うだろうし、博士は逃げるだろう。Dollである自分を捨てるために。
『博士がDollであることを言わないでよかったの?』
「そうなるとね。博士が関わった、すべてのDollのデータ改ざんが研究所に知られてしまうかもしれない。あくまでも博士が人であることが前提のデータなんだ」
『……そうか』
 確かにと兔(てう)は頷く。
 嘉藤(かとう)が言わない理由なんて兔(てう)のことに関係しているのは当たり前だが、それ以前にすべてのDollのためでもある。吉人(よしと)は確かにいい人であるが、博士がDollという事実を黙っていてくれるかと言えば、無理だろうと思った。
「それにDollが人間として生きていた事実を今の政府が受け入れられるとは思えない。人ではないというだけで偏見は起こるだろうし、Dollに対しても慣用だった人と心が強行派になるかもしれない。そういう危険はおかせないし、それにね」
『ん?』
「兔(てう)をくれた人を、陥れることはしたくはなかった。博士は博士でいいんだと思う。生まれ変わって何になるか分からないけど」
『…………倭(やまと)も生まれ変わったんだけど……』
 そう兔(てう)が話し始めた。
「その子は最後までいた子だね?」
『そう、倭(やまと)は、火事で体が焼けて死にかけで研究所に来た。そこで博士は体をクローンで再生させた。でも蒼(そら)はそうなりたくないと思っていそう』
 兔(てう)はそう思った。
 たとえ見た目が同じように生まれても、きっと記憶はそのままではない。そこまで築き上げてきた思い出は消えることに変わりはない。
 蒼(そら)はそうした今までの記憶が消えていくけれど、生まれ変わることでその記憶が本当の意味でなかったことになることを望んではないだろう。
「兔(てう)は?」
『……僕は生まれ変わっても、高和(たかかず)が変わらず愛してくれるなら、また生まれたいと思う。だってきっとまた好きになる』
 兔(てう)は笑ってそう答える、その言葉に嘉藤(かとう)は頷く。きっと何年経っても生まれ変わっても兔(てう)を愛するだろう。記憶がないなら作ればいい、最初同じように愛して慈しんで、育てればいいと思える。
 兔(てう)は言って嘉藤(かとう)の手を握る。
『僕はこうやっているだけでも幸せだ』
 本当にそう感じているので、兔(てう)の表情も柔らかい。
 そんな兔(てう)にキス一つをして、愛情を示す嘉藤(かとう)。
くすぐったそうに受ける兔(てう)の肩を抱いて、嘉藤(かとう)は部屋に戻った。

 
 次の日からはいつものように日常が始まった。
 少しずつ外界と繋がりを作りながらも、二人っきりの世界は変わらない。
 毎日同じことの繰り返しと、少しの変化を嘉藤(かとう)と兔(てう)は楽しんで生きていく。