novel

Howling-19

 どうしてこういう流れになったのか、未だによく解らないことだったりする。

 最初はただ懐かしさから、顔を見ていたかっただけだった。確かにそうだったはずなのに、寧野が耀を見ていることに耀はずっと気付いていたはずだ。
 見つめる視線が合ったのは何度もあった。耀は極力見ないようにしていてくれたらしいが、時々ふっと目が合う。
耀がじっと見つめ返してきたら、寧野が目を逸らすことになる。そしてその耀の視線は次の動作をするまで見つめ返してきていた。

「あ、あのさ」
 心臓が喉から出ていきそうなほど緊張している。今まで誰かの前で緊張したことはそれほどなかった。近くにいるだけで、自分でも驚くほど緊張する相手なんて、出会ったことはない。前に宝生耀と会った時だって、ここまで動揺はしなかったはずなのだ。

 なのに、どうして心臓がこんなにドキドキするのだろうか。

 誰か、懐かしだけの人に会って、ここまで緊張したりしてるのだろうか。
 そんな寧野を横で見ている耀もまた緊張していた。
 寧野が顔を真っ赤にして完全に自分を意識しているのは解る。だが、だからと言って手を出していいのか解らない。
 これから先のことを考えれば、今は手を出すべきではないと判断出来るのに、手を出したくて仕方なくて、寧野を見ている。

「あ、あの」
 寧野が何か言いかけては辞めるということを繰り返していた。何が聞きたいのだろうかと思うが、たぶん全然関係ないことを言って場を誤魔化そうとしているのだけは解ったので、敢えて話題には載らなかった。
 ここで手を出しては駄目だという気持ちの他に、手を出しておけばのちのち特をしそうだと思ったりもしている。

「寧野」
 名前を呼んでやると、飛び上がりそうなほどびっくりしていた。
 肩が震えていて、真っ赤な顔が熱いのか、手団扇で扇いでいたがそれでも追いつかないのだろう。 

 ここは二択だろう。
 手を出すなら、どこまでやるか。これに尽きる。
 手を出す出さないの段階はもうとっくにクリアした。
 我慢出来るわけないので、キスを貰った時以上に何か欲しいのだ。

「寧野」
 何度も夢の中で呼んだ。呼びすぎて、起きた後は最悪だった。だって抱けもしない相手を思っている方が辛かったからだ。でも今は目の前にいる。
 ゆっくりと手を伸ばして、寧野の頬に手で触れた。

 さっきお風呂に入って貰ったので、肌がさらさらとしている。頬を撫でた後、わざと耳もいじっていた。寧野はギュッと握った拳を膝の上に置いていたから、少しは警戒した。今の寧野に殴られたら半端無くヤバイのは知っている。
 ヤクザの男を平気で沈めるような力の持ち主なのだ。耀だって一応は警戒する。
 寧野が着ているのが、ここでは定番の浴衣ときているから、これはもう九猪が用意したに決まっている。絶対喜んで用意したに決まっている。

「これを見て、手を出すなはないよな」
 寧野の頬に触れていた親指を唇に反って撫でてやると、ひくりと寧野が震えたが、抵抗は一切なかった。
 少しは覚悟はしてくれているのだろうか。
 そんな気がして、耀は引き寄せられるままに座っている寧野をすぐ後ろに引いてあった布団に押し倒していた。

「……わっ」
 急に視界が変わった寧野は驚いたまま耀を見上げることになってしまった。そこにさっきまでふざけていた様子の耀はいなかった。真剣に寧野を眺め、寧野の唇を指で撫でている。

「寧野、いい?」
 返事をする間もなかったと思う。
 頷いたか頷いてないか寧野は自分でも覚えてなかった。
 耀の顔が目の前にきた時に目をつむった。それと同時に唇が重なった。

 キスをしているのだと思った時は、きつく閉じていた上唇を軽く噛まれ、驚いて口を開くと暖かくて滑ったものが口の中に入り込んで息なんて出来なくなった。
 重なった唇の中で、耀の舌が自由自在に暴れ回っていて、寧野はどうしていいのか解らない。だってファーストキスは耀であり、二度目もまた耀だったからだ。

 他にそうしたいと思った人はいなかった。香椎にだって本当のことを言った。ずっと気になっていたのは耀の姿だったけれど、目の前にして止まらない自分がいることに寧野は少なからず驚いていた。
 流されているわけではない。思い出が美化しただけではない。
 その他に惹かれる何かが耀の中にはるのだろう。

 舌が口腔をくすぐっては何度も味わうように寧野の口の中を犯している。
 上手く息が出来ないでいると、耀が少しだけ唇をずらしてくれた。体の力なんてとっくに抜けていて、情けないほどの腕力で耀の手を握り返していた。

「ん、ふ……あ」
 鼻から息が抜けるかのように息が漏れて、寧野ははっと我に返った。
 その時にはすでに浴衣は開けられていて、ちゃんと締めて貰った帯だってない。

「え……ちょ……耀?」
 まさかなと思って耀を見上げると、耀は寧野の頬にキスをして、さらに額にもキスを降らせた後に言った。

「我慢出来ない……けど。寧野が嫌ならやめる」
一応は断ってくれるらしいが、間があったのは欲望と格闘していたからだ。
 耀の作戦会議をしている間よりも真剣な顔に寧野は、ふっと笑ってしまった。

「なんだ、おかしいのか?」
「だって、耀って、俺の許可無くてもやりそうなきがしていたから、聞いてくれるとは思わなくてさ」
 寧野が緊張したままでそう言い返すと、耀はそうかと首を傾げている。肝心なところで大事にしてくれているのに耀は気を遣っているつもりはさらさらなかったらしい。

「まあ、一応な。じゃ遠慮無く」
「え……あの、まだ何かやるつもりなのか?」

 キスだけで終わりってことはないだろうと思ってはいるが、一応寧野が怖がっているのだと感じてくれていたから、今日はここで終わりそうだなと予想していただけに、寧野は呆気にとられた。どうやら墓穴を掘ったらしい。

「ひゃ……っ」
 耀の唇が首筋をすーっと滑っていって、舌で舐められた。びっくりするほど体が跳ねたけれど、耀が伸し掛かっていたので飛んでいくことはなかった。

「ん……あ……ぁっ」
 首筋から肩、脇に至るまで耀が口付けていくので、くすぐったいと最初は思ったが、妙な感覚が生まれ始めていた。何かがじんじんと体の中で暴れ出している。それが心だなんて寧野は知らない。

 耀の指が乳首をこねる様に転がしている。すぐに乳首は反応して固くなり、余計に転がしやすくなってしまった。その乳首に耀の唇が近寄ってきて、舌で乳首を転がし始めると寧野は体を浮かせるようにして、どこからともなくわき上がってくる快楽に動揺するようになった。

「んは……あぁっ……や、なに、これ……んん」
 乳首をいじられるだけで、体が飛び跳ねるように反応する。こんなことは自分で体を洗っていてもなんとも無かった場所なのに、どうして今はこんなに。

「気持ちいい?」
 そう気持ちいいのだ。耀に聞かれて寧野は頷いていた。これが気持ちいいことだと認めると、あとは翻弄されるだけだった。

「あ、あっ……や……あ」
 耀は寧野が戸惑いそうになったとき、わざと気持ちいいのか聞いたが、寧野の反応はそれから素直になったことを喜んだ。ずっと抱きたいと思っていた体に今触っている。 抱きしめた時誰にも渡さないと決めた。抱いている途中で、他の誰かがこの体を抱いていたらと思うと、発狂しそうになった。独占欲は思った以上に強く、酷く、際限を知らないらしい。

 困ったことになった。寧野の体が予想以上によく自分にあっていた。抱きしめると自分用に作られたのではと思ったし、触って手に馴染むそれが本当にそうではないかと錯覚に陥らせる。

 まるで寧野は麻薬だ。
 こんなに人を落としていくのだから、きっと酷くいいのだろう。
 そう思うと手は止められなかった。さすがに最後までとは言わないが、さらせて貰える範囲まではむさぼらせて貰おうと思った。
寧野は今少しだけ弱っている。自分のせいで室脇の人生が狂ったのではないかと疑っていた。それは違うのだと言うと、少しだけホッとしていた。
 下着に手を伸ばして下着の中で反応している性器を取り出して、手でしごいてやった。

「んー……あぁっだ、め……あぁぁ」
 そこまで触られるとは思ってなかったのか、それともただ単に恥ずかしだけなのか、寧野は顔を真っ赤にして手で止めようとしたが、耀が性器を急激にしごいたので、寧野は体を丸くして震えた。
 オナニーはしないと報告書で読んだ時は、大丈夫なのかこの人はと一瞬心配をした。

 しかし、ちゃんと気持ちよければ反応もしていて、先走りだって出ている。何も異常はなさそうだが、本人の気持ち次第なのだろう。

「あっ……だめ、あ、いく……」
いきそうだという寧野の声に耀は手の動きを少し緩めた。
ゆっくりと形を確かめるようにして撫でて、亀頭を指でいじってやる。

「……ん……んん、ひどい……」
 ずっと達かせずにそうしてやわやわといじってやっていると、寧野が耀の手を掴んで噛みついてきたのだ。強く噛んだわけではないが、むず痒い感じで噛まれて耀は少しだけ笑った。
 どうやら見た目ほどストイックでも大人しいわけではないようだ。

「どうしたい? このまま、それとも」
「…………い、きたい……」

「達くのか」
「いかせて……耀」
さっき噛んでいた腕に頬を擦りつけて今度は甘えてきた。

 悩殺モノだ。上目遣いも本人がそのつもりはなかったのだろうが、酷い。これで最後までやらせてもらえないなんて酷い。
 耀は寧野に深くキスをしてから、希望通りに達するように扱いてやった。ぬるぬるとした滑りがよくなったそこは、衝撃には耐えられずに耀の手の中で達してくれた。

「……あぁっ!」
 パタパタと飛んだ精液は寧野の腹を汚し、耀の手も汚した。
 耀は手についた精液を舐め取ってから、何事もなかったかのように横にあった濡れたタオルで手を拭いて、寧野の方も後始末をした。腹に散った精液とだらりと弛緩した体を布団に投げ出して無防備な寧野の姿を耀は自分の目に何度も焼き付けた。

 もうこれだけで暫くどうにかなりそうだと思えたほど、悩殺ものだったのだ。
 自分は男だから女性に反応すると思っていたが、やはり心がないとついてこない感情がある。
 例えば、相手を可愛いだとか綺麗だとか思っても、心の底からああなんて愛おしいとは思わないのだ。今は最後までやれなくても、この姿だけで満足しそうなのだ。
 心が決して広くないのに、ここだけは寛容になれる。

「なんで……?」
 ちょっとだけ向う側へ行っていた寧野の意識が戻ってきたらしい。

「なんでって何が?」
「なんでこうなったんだっけ?」
 寧野はそのまま寝転がったままでそう聞いてくる。
 そういえばどうしてそうなったのかさっぱりだ。

「アレだ」
 耀は少しだけ考えてから思い付いたように言った。

「アレってなんだ?」
「ほら、恋人同士が二人っきりですることと言えば、これだろ?」
 耀がにこりとして言うのだが、寧野は胡散臭そうに耀を見た後に思いっきりため息を吐いてしまった。

「ない、ない。そんな事実ない」
寧野が全否定をするので、耀は首を傾げてから言った。

「寧野って誰とでもこういうことするのか?」
「するかーーー!」
全力で寧野が否定をすると、耀はにやっとして言った。

「じゃ、どうだったらこういうことをするんだ?」
 そう言われてふっと考え込んだが、セックスフレンドでもないし、そもそもこれは一方的にやってもらった形になるので、どう表現していいのかわからないが、とにかく櫂谷や香椎とは死んでもこんなことはしないと断言できる行為だ。
 しかし、ならどうして耀にそれを許せたのかとなると、耀が言っていた説が一番普通に思えるのが、自分たちはそんな関係ではないはずである。

「気の迷いってことにしておいて」
 寧野が絶対にこれではごまかせないだろうけれど、それでもまったく発展すらしてない関係がこのまま続くとは思わなかったので、気の迷いにしようとした。

「はいはい、寧野はそう思ってればいいよ」
 気の迷いなら、いくらでも起こせる。寧野は耀を意識しすぎるのだ。たぶん、味方だからまだ大丈夫だが敵だったらきっともっと警戒されていただろうし、キスだってファーストキスを貰っているので、その延長でされたと思われているのは残念だが、それでもやったもん勝ちである。

 つまり既成実態は作れなくても、そういう行為をしたということが基準になって恋が始まることだってあるのだ。それが楸と響の関係でもある。
 そういうことにしておけば、後で耀が有利だった。
そこに寧野が気付いてないので、この勝負はまた後だなと耀は自分の気持ちを伝えなくても今はいいと思っていた。
 だって温もりは隣にある。そして寧野は確実に耀を意識するようになるからだ。

 そうやって3年前に終わったはずの関係を少し作り直していくのも楽しいかもしれない。
 そこまで考えて耀は、鼻で笑ってしまった。
 これでは楸が通った道をそのまま来てしまったと思ったからだ。

 つくづく似なくていいところまで似たらしい。
それが10年ぶりに解っておかしかったのだ。