novel

ROLLIN'2-28 アドバイス (杉浦&阿部編)

 杉浦蓮(れん)は、警視庁組織犯罪対策部、通称マル暴に配属されて約5年が過ぎた。最初は交番勤務を3年、そこで未解決事件の逃亡犯を20人ほど捕まえたことで、警視庁の刑事になり、未解決事件を扱う課に3年居たが、あまりの顔の怖さと、杉浦の得意の妄想に誰のついていけず、とうとう、マル暴に配属された。

 杉浦はとにかく事件を扱えればそれでよかったので、配属はどこでもよかった。マル暴は刑事たちも荒々しい人たちが多いが、杉浦も負けてなかった。マル暴では、テレビでトップニュースになり、速報まで流れるような事件を幾つか解決まで持って行ったこともあり、周りは杉浦の実力を認めるしかなかった。

 その甲斐あってか、マル暴に入って3年で、交番勤務から数えてたった9年で異例の早さで警部に昇進した。

 エリートでもない杉浦だったから、30歳での警部昇進は異常な早さである。それだけ警視庁は杉浦の存在を認めていることになる。

 一番の功績は、関東の第二の宝生か?と言われて台頭してきた、鷲頭会の消滅に繋がった鷲頭会の会長以下幹部の総逮捕になった麻薬事件の解決であろう。

 杉浦が得意とする妄想と超展開の発想通りに調べ上げたら、幹部の麻薬取引現場にて幹部数名を逮捕を皮切りに、海外へ逃亡しようとした数名の幹部と会長を空港で逮捕、そのまま麻薬検査をしたところ、荷物にどっさりの麻薬と、会長と幹部の麻薬使用の証拠が尿から出て、家宅捜索をしたら、麻薬の取引相手であった香港マフィアにまでたどり着いて、そのルートも壊滅させた。香港マフィアも麻薬取引という証拠を中国政府に出され、香港マフィアも壊滅したという。

 普通はルート先まで潰すことは出来ないものだが、杉浦の言う通りに行動したら、杉浦が最初に出した結果通りに、全ての根絶までたどり着いてしまった。
 捜査していた麻薬取締官も杉浦に唖然とした事件だ。

 さすがに警視庁も杉浦の言葉はただの妄想だとは言えなくなってしまった。
 彼が言うことを真に受けてなるべくそれを聞くようにしていた、マル暴の課長は、杉浦を現場に出し、妄想をしたら報告するように杉浦の相棒に言いつけていた。その結果、杉浦の一言で幾つも事件が解決し、数々の暴力団関係を調べることが出来ていたことで、警部昇進を勧めたのだ。

 杉浦は絶対にマル暴に必要だ、だから結果を出し続ける彼に、相応の対価を与えるべきであると訴えていたら、それが認められたのだ。

 杉浦は警部に昇進しても、いつもと変わらなかった。
 杉浦がマル暴に入ってから、杉浦の相棒は何度も変わっている。
 どうしてもその妄想についていけなくて、相性が悪かったのもあった。

 だが、一人で行動されるのは困るので、課長は杉浦に誰と組みたいかと尋ねたところ、杉浦は当時まだ交番勤務をしていた、阿部平という巡査の名を上げた。

 暴力団事務所が多いところの交番勤務をしている阿部は、よく暴力団関係のことに熟知していたので、あの杉浦が警部に昇進出来た事件でよく連れ回していたのだという。

 杉浦と阿倍の相性は悪くなかったので、阿部はその後警視庁のマル暴への移動が命じられた。
 杉浦が言うには、阿部が話してくれた些細な組関係の情勢と、彼の情報量がモノを言ったと誉めていたからだ。

 阿部は強面ではないので、マル暴に居て異質だった。
 可愛い童顔の顔は、マル暴内でも向いてないと思われていたが、阿倍はそんな人たちに怯えることなく、杉浦の相棒に収まった。周りはやっと杉浦の相棒が決まったことで安堵したし、その阿部を選んだのが杉浦だったから、問題なく配属された。

 だが、マル暴の課の人たちは阿部の外面に騙されていたことに数ヶ月で気付いた。阿部は些細な事件でも覚えていて、例えば「似たような事件があったなあ」と誰が呟くと、「あ、それ、この間の、○○事件とそっくりです」という風にさっと似た事件を空で羅列することが出来たのだ。

 情報というものをどう使うのかはまだ本人もよく分かっていないようだったが、杉浦はその阿部の頭脳を効率よく使い、情報を引き出すキーワードを呟いたりしている。

 阿部は杉浦の妄想や超展開には毎回つっこんだりするが、その意見を言い合う様子を見ていると、別に阿部は杉浦を鬱陶しいとは思ってもいないらしい。
 それは、重要で些細な情報を出してくれる阿部を杉浦が毎回誉めるからだ。

 その杉浦と阿倍のコンビが出来たのが、3年前。
 その後彼らは小さな売春クラブから臓器密輸までに大きくなった事件を解決してしまった。
 この頃には阿部も杉浦も妄想や超展開にも慣れてきていて、二人が盛上がった結果、こんな事件になったのだ。

 マル暴では、その頃には阿部すらも軽視出来ない存在になっていた。
 この二人が居ると、現場は頭が痛いが、その変わりに事件は大きくなり、どうにも逮捕になりそうにないのに、証拠や逮捕までこぎ着けられるからだ。

 その杉浦を持ってしても、どうにもならないと言わせるのが、関東を統制している宝生組だった。
 だが、宝生組をどうにか出来ないことを杉浦は認めた上で、こうも言っている。

「あれが捕まったら、関東はヤクザの抗争だらけになって、俺ら死ぬかもな。大阪の火威会の事件で刑事が数人死んでるだろ、あれと同じだ」
 というのである。

 マル暴の課長は「毒を以て毒を制す」だから宝生には暫くいてもらわないと困ると言い切るほどだ。

 だが、その宝生が狙われた。
 その後に名付けられた事件名が、暴力団各事務所爆破事件。

 その事件は二ヶ月ほどで世間も興味がなくなって、他の大きな事件に世間の関心が移ってしまっていた。大阪の連続金庫が降る事件も収まり、爆破事件そのものの犯人も不明のままだったから、関心もなくなるだろう。

 世間ではもう「この事件の犯人捕まらないまま迷宮入りだろうな」という感想を持っているようだ。

 だが、マル暴では、犯人は九十九であるという気持ちでいた。
 しかし証拠はない。故に九十九は捕まらない。

 その九十九が関西ヤクザ界に出戻ってきたという情報が得られたのは、一ヶ月前、また杉浦の妄想と超展開からの一言だったが、実際に九十九は如罪組の最高幹部として戻ってきたのである。

 それが昨日入った情報だった。
 大阪の刑事は、阿鼻叫喚だ。

 そんな過去の遺物でありながらも、現役復帰されては困る人間だったし、何より死んだと思っていた九十九が生きていたことが、警察として30年近くも九十九に騙されていたという事実を受け入れるのは、なかなか難しいことだった。

 だが、仕入れた九十九の顔を見ると、杉浦は昔の九十九の写真を見て納得していた。

「あーなるほど、こういう顔になるわな」
 偽物の九十九は、実に本物の九十九に似ていた。
 だが、仕入れた写真と偽物の最後に撮られた写真の違いは明らかだった。
 凶悪さが格段に違うと言うことだ。

「すっげー悪者の顔だな。しつこそうだし、ねちっこくて、悪質で、冗談言いながら人十人くらい殺してそうだ」
 杉浦がニヤニヤしてそう言うと、阿部が呆れた顔をしていた。

「杉浦さん、なんか楽しそうで不謹慎です」
「いや、実際楽しいわけよ。やっと追いかけてた九十九の顔が写真とはいえ拝めたわけだし」

「前みたいに隠れたままでないだけマシですかね」
 阿部もそれは認めた。

 九十九は神宮領事件から実に30年も雲隠れをしていた人間だ。その彼の顔を知っている者は少なく、真田でいる時も、少し変装メイクをしていたようで、実際に手に入った写真とは頬当たりが違う。

 今度の九十九は堂々と表に出て行動することにしたらしく、変装メイクをしているようではなかったし、何より偽物に似ている様を見ていると、変装メイクはしていないと言い切れた。

 やっと30年目にして、九十九は世間に顔を晒したわけだ。
 マル暴ではこの写真が手に入った時から、アイドルのプロマイドかよというような勢いで現像されていた。そしてマル暴の人間全員に配られていた。

 だが、マル暴だけではなく、九十九を爆破犯と決めつけているが証拠がなくて捕まえられない対策本部にも配られているから、警視庁内は九十九の写真で溢れているはずだ。
 ある意味、九十九の殴り込みのような感じだった。

「んで、如罪組はどうなってんだ?」
 杉浦が阿部に尋ねると、阿部は答えた。

「如罪組は、一ヶ月前まで居た組長が変死して、その息子である跡取りの渡里が跡目を継いでます。まだ20歳の若い組長です。その最高幹部に九十九朱明、舎弟に元から居た幹部が鎮座してます。構成員は約百名。ですがその傘下にいつの間にやら、前田組と柳沢組が入ってます。火威会から抜けたんですね。で、総構成員が三百に膨れあがって、火威会から逃げ出した組員が如罪組の門を叩いているので、このままいけば総構成員は一万は軽く越えるかと思われます」

「火威会はどうなってる?」

「火威会は、傘下の前田組と柳沢組が抜けてしまって、南と東の要を如罪組に乗っ取られて、現在北にある火威会の幹部の屋敷を事務所としてます。現在の火威会会長の冬賀はそこで監視されていて、外へは一歩も出ていないとのこと」

「まあ、内部からどんどん食われてて、仲間がさっさと離反しているんだから、監視されている云々以前に、冬賀はそこから自分で出ようとは思わないだろうな。死にたくないもんな」
 杉浦はそう言って笑っている。

「ヤクザのくせに、死ぬのが怖いってのも情けないですね。昔のヤクザは潔かったって言ってた先輩刑事の言葉を思い出しました。何かあったら自分で指詰めてたって」
 阿部がそう言うと、杉浦は更に笑った。

「指詰めるくらいの根性もないヤツが、死ぬの怖くないって方がおかしいわな。ヤクザも今や己の配下すらまともに信用も出来ない時代だからな。火威会はデカくなりすぎたんだ。己の足下すら見えないくらいにな。すぐに傘下の美濃組も津村組も右にならえで離反するだろう。そうすりゃ火威会はただの幹部の会だ。指導する人間があれじゃな」
 杉浦がそう感想を漏らすと、阿部が呟く。

「確かに火威会の傘下の組は幹部に資金源の大半を差し出すように言われてますしね。二組が抜けたとなると、美濃組や津村組の負担も大きくなるから、やってられませんよね」

「同じように大きな組織の宝生はそういう傘下の組に無謀な取り立てはしてないから、大きくても持ってるんだろうが、格の違いがここにきて大きな差になった。まだ火威会会長が生きていればもうちょっとマシだったかもな」

「でも宝生は関東だけで満足してますよね。今なら関西にも乗り込めるはずなのにそれをしないのは己の足下が見える範囲にしておきたいから?」

「まあ、宝生なら北海道や東北なんか系列の組があるから、関西に欲目だしてもいかんと思ってるんだろう。それに九十九とやり合うのも面倒なのもあるかもな。だが俺が思うに、宝生は九州に繋ぎを出してるんじゃないかと思ってる」

「あー、今や組関係がごちゃごちゃのねえ。でもそれを九十九が見逃すはずはないかと」
 阿部がそう言うと、杉浦は言う。

「だから、月時家関係のところだけに繋ぎとってるんじゃないかってこと。そこなら月時家関係として心配してるからって理由が成り立つし、長沢原鏡の血縁は宝生を信じるだろ? 幸いなことに長沢原鏡は生きていたことだし、事件の真相は九十九によるものだってのはヤクザ界の常識になってるから、組むなら宝生の方だろう。何も宝生はそこから九州に進行しようってんじゃない。九十九に付け入られる危険性が少なくなるように、長沢原鏡を援護するんだろう」
 杉浦がそう言うと阿部は納得したように頷いた。

「ああ、そうか。九十九に九州まで乗っ取られたさすがに宝生もうっとうしくなる。だから、元々そこを治めていたモノに九十九と戦ってくれと激励し、その資金を少し融通してやるわけですか」

「九州のヤクザ界のルートはまだ分かってないし、宝生が屋敷建てたりする金を用立ててやったとしたら、そのルートから金は集まってくるし、その用立てて貰った金も即返金できるわけだ。宝生はその金を使って九州を乗っ取ろうなんて微塵も思ってない。ただ九十九対策に協力してくれと言われたら、九州は乗るだろうな」

 杉浦と阿部がそう言っているので、周りは慌てて九州にいるマル暴に連絡を取った。そうしたところ、長沢原鏡はすでに事務所を建設に着手していて、自宅や、他の爆破された事務所も再建設に着手している。その三週間前に、宝生の組長と鏡が会合している情報があった。
 つまり、杉浦と阿倍の話は辻褄が合っていることにある。

「鏡は頭のいい姐さんだ。宝生が何を考えているのかは読めるだろうし、月時家の関係者を宝生が守ってきたことも知っているだろうから、ちょっとくらい仲良くしておいても問題はないと考える。それに宝生と繋ぎをつけておけば、九十九の情報も貰える。つまりだ、関東と九州で挟んで関西にいる九十九を監視しようっていう手はずになるはずだ。それなら他の組員からも文句は出ないし、一石二鳥と思うだろう」
 杉浦がそう言うと、阿部は頷きながら言った。

「確かにそうすると両方が楽になりますね。お互いに侵略を阻止し、情報交換しながら、お互いの組が乗っ取られないようにしていれば、自分のテリトリーは守れますし」

「だが、ここで落とし穴。九州の長沢原は関東に進出する機会を無くしたことにもなる。宝生側は九州なんて歯牙にもかけてないだろうから、どうでもいいんだろうけど、恩を売ったのは宝生側だ。義理を感じていたら長沢原はそこから出ることが出来ない。関西までは宝生も見逃してくれるだろうが、関東は無理になった。宝生側の目的は、九州のヤクザが関東に来ないことのみに置かれているんだろう。関西ヤクザで懲りてるから、その予防をしたわけだ。鏡が組を再構築すれば、九州のヤクザはそこに止まってくれるってわけだ」
 杉浦がそう言うと、阿部が唖然としていた。

「そんな心配の為に、宝生側は手を打ったってわけですか? 九州のヤクザが自分のテリトリーを荒らさないようにする為だけに?」

「宝生は自分のテリトリー内に他の地方の組が来て、余計な騒ぎを起こされることを嫌う。だから、その可能性はあるわけだ。前に地方から来た鷲頭会のことだって、宝生側は邪魔だなあと思ってたはずだ。俺が思うに、あの取引の密告は宝生側がやったんじゃないかと思ってる」

「え! 鷲頭会って杉浦さんが壊滅させたっていうあの?」
 そう言われて杉浦は嫌な顔をした。まるで一人でやったかのように言われるのは好きではない。あれはマル暴総出で捕まえられたものだ。杉浦一人の功績ではないはずなのだ。

「俺一人が壊滅させたんじゃない。大体、アレはお前も絡んでたじゃねーか」
 杉浦がそう文句を言うと、阿部は首を傾げる。

「俺は、ただ杉浦さんの言う通りにしただけですよ」

「そのお前の機転で、会長の海外逃亡が分かったんじゃないか。お前も鷲頭会を壊滅させた一人だ」

「えー、杉浦さんが会長を捜せと言ったから探して、それで杉浦さんに報告したら杉浦さんが後を付けろっていって、それで空港に向ってるのが分かっただけじゃないですか。結局空港で会長たちを捕まえたのは杉浦さんだったし」

「何言っている。お前が会長の荷物が異常に多いから、もしかしたらブツ持ってるかもしれないって言ったんじゃないか。だから踏み込んだのに」
 なんでこうなる杉浦と阿部。

 両方の機転と行動力で捕まえられたというのに、お前らは何故自分の功績を人のせいにしてんだ? と周りの刑事はみな思っていた。
 この二人の変わっているところは、いくら自分が最初に証拠や状況に気付いたからと言って自分の手柄にしないということだ。

「あの二人は相変わらずか」
 部屋に入ってきて真っ先に杉浦と阿倍の言い争いを目にした課長は呆れたようにそう言った。

「さっきまでは普通に妄想と発想の連続だったんですが、鷲頭会の話になったんで、言い争いです」

「ああ、杉浦はあれを自分の功績とは思ってないからな。それで、杉浦たちは何を話していたんだ?」

「それが九十九の写真の感想から如罪組の話から火威会のこと、そして宝生が九州のヤクザと接触したのは、自分のテリトリーに九州のヤクザを入れたくなかったから、長沢原組の鏡に援助をしたんじゃないかとか。その通り、宝生は鏡と接触してましたし、その後長沢原鏡が事務所や自宅を再建築に着手してるのが分かりました」
 そう報告すると課長はなるほどと頷く。

「宝生もやるな。だが、そうしてくれるとこっちもやっかいごとはなくて済む」
「課長そんなのでいいんですか?」

「お前達も関西ヤクザの関東への侵入でかなり困っただろう。あれの二の舞をしたいのか?」
「いやー確かにそうですが。ヤクザもやり口を誉めるのはどうかと」
 その言葉に課長はまあまあと部下を宥めた。
 そうしているうちに大阪から一報が入った。

「やはり止められなかったか」
 課長が悔しそうに言うので、部署の中はしーんとして次の言葉を待った。

「如罪組が火威会をとうとう完全孤立させた。美濃組と津村組が如罪組の傘下に入った」
 課長がそう言うと、杉浦はやはりなと言った。

「火威会は幹部連中が己の利益のみしか求めず、傘下の組に酷い指示を出していたから、美濃組も津村組も離反するだろうとは思ってたが、意外に早かったな」

「やっぱり杉浦さんの言ってたとおり年貢の納めがきつくなりすぎたんですかね?」

「たぶん、お前の組なんか知らないから金寄越せとやったんじゃないか? 火威会に残ってる幹部っていや、強突張りの鮎川と不破くらいしかいないし、あいつら穀潰しって有名だったからな。そのうち、逃亡資金を火威会から盗んで海外にでも逃げるんじゃね?」

「その穀潰しと有名な二人を殺さなかったのは、内部から崩壊するのが読めていたからですか……九十九の計算高さから考えて、わざとそうした」

「その為にわざわざ冬賀支持の幹部を殺してるし、役に立ってた幹部もやってるし、そういうことなんじゃねーの」

「つまり、火威会そのものは使えないけど、傘下の組は使えると判断されてたから残しておいて、自分の傘下にならないかと甘い言葉を投げかけていた。だから、前田組と柳沢組はさっさと見切り付けて逃げ、残った美濃組や津村組には、前田組や柳沢組からも火威会はもう駄目だから、お前らもこっちこいよと誘いをかけていたと」

「んで、鮎川や不破の理不尽な要求にとうとう残りの組もいい加減キレたってわけだ。それに元々火威会をあそこまでのし上げたのは、九十九の功績があったからってのもあるんじゃね?」

「確かに火威会は神宮領組を九十九が潰してくれなかったら、今の地位にはいなかったわけですから、当然見込まれた如罪組はそこまでになる可能性が高い。しかも今度は完全に九十九指導による組構成だから」

「そっちの方が甘いってわけだ。九十九は自分で資金を調達するのが上手いからな。30年で軽く10兆円ため込んだ男だ。まだ隠し持ってるのも入れたら国家予算くらいあるんじゃないか」
 杉浦と阿部がどんどん話を進めていくので、周りは頭を抱えた。
 国家予算を軽く持ってるヤクザのドンなんて冗談じゃない。

「杉浦、阿部、お前らは火威会がこうなるのは分かっていたのか?」
 課長がそう尋ねると、杉浦と阿部が普通に頷いてる。

「予想より早かったって程度で、いずれは火威会が無くなるのは予想してましたよ。残ってる幹部見てれば、大体の予想は出来るかと」

「その中に、鮎川や不破が残ってたからか」

「ええ。その鮎川と不破の強突張りなところとかは、火威会会長も問題にしていたようですし、爆破がなくて、火威会会長が生きていたとしたら、鮎川と不破は密かに消されてたんじゃないかなと」
 その言葉を受けて阿部が続けた。

「今なら説明がついてしまうんです。鮎川と不破に死んで貰いたくなかったのは、火威会を爆破した九十九自身だったんじゃないかって」

「残しておけば、いずれ内部から壊れる。火威会全部を爆破するだけでは飽きたらず、惨めに腐って勝手に滅んでいく火威会を見たかったのか、九十九は」
 課長がそう言うと杉浦が笑って言った。

「だって、こんなに凶悪で、しつこくて、ねちっこくて、悪質な顔してるのみれば、やり方だって絶対、そういうやり方になるんじゃないですか?」
 そう言って杉浦は持ってた九十九の顔写真を課長に見せた。
 確かにやりそうな顔をしている。
 全員がその写真を見て納得した。

「お前の仮説のなかで、今日のが一番納得が出来るものだったよ……」
 課長がそう言い切ったので、杉浦と阿部は二人で顔を見合わせた。

「今日の課長、確証とか証拠とか、そういうの求めずに納得したぞ」
「おかしいですね。写真一枚で納得なんて……」

 二人はいつもその確証や証拠を要求されていたので、そんなに素直に納得されるといつもと勝手が違ってむず痒くなるのだ。

 不審がる二人を残して、他の捜査員は如罪組の情報を求めて動き出していた。

 杉浦と阿部がそう言ったのなら、近々30年も続いた火威会の崩壊が訪れる。そしてやっかいな九十九が率いる如罪組が関西一のヤクザとして台頭してくる。そうなると何かの拍子に全面戦争などという事態になることだってありえるのだ。

 関西にはまだまだ抗争の余韻が蠢いている。
 その情報を集める作業は大変そうだった。