novel

ROLLIN'2-30 My Love Your Love (響&楸編)

 あの事件以来、月時響は暫く警戒の続く宝生内で過ごしていた。九十九朱明が関西に出戻ってき、如罪組という組がとうとう火威会を孤立させたという。そういう情報はボディガードの三束が知らせてくれるし、楸も危険を感じれば用心するように言ってくれる。

 だが、響にはそうした心配をする必要はない。こういうことは楸がやることで、響がすることではないからだ。
 神宮領の子ということを否定はしたが、響の存在は宝生組の中では少し特殊なものになってしまっていた。DNA検査は結局されなかったが、一般人である響が関西で九十九のことを言い当てたことで、響を一般人と見てくれなくなったのだ。

 けれど、それに腹を立てて神宮領の子ではないと否定をしても、噂はどんどん広がって、響の否定が間に合わない。
 いい加減にして欲しいと思っていたら、楸が暫くすれば皆飽きてくるだろうと言った。
 響が今までと同じように暮らしていけば、噂しているだけ無駄と分かってくるというのだ。

「なるほど」
 響はその一言で納得した。

 響が否定をやめ、話をしなくなると響の周りから段々と神宮領関係の話は出なくなった。だが、別の話題などを持ちかけてきては話していく組員が増えた。特に幹部の人間らしい人たちがだ。
 それを不思議がっていると楸が笑って言うのだ。

「皆、お前と話をしてみたくて仕方なかったんだろう」
 そう言われて意味が分からずに首を傾げて問う。

「話すって何を?」
 響は組長の情人で、皆が話したいと思うような立場ではないはずだ。

「お前が耀について行って、武術の指導をしているだろう? あれを見た人間は、お前が強いことを知っている。しかもあの九十九と互角にやれる腕前だと知っているから、尚更だ。男は強い者に憧れるんだ」
 そう言われても響はまだ首を傾げていた。

「俺より強い人いるけど?」
 そう言うと楸はそうじゃないと言ってから続けて説明した。

「お前の戦い方は、綺麗なんだよ。無駄がないって言ったらいいのか。うちは一応武闘派の組だからな。綺麗に相手を倒してる者は、無条件で強いと認める。単純なことだ」
 楸がそう言ったので響はなんだか照れた。

「そう言われると嬉しいな」
 認めてもらえるのは素直に嬉しいことだ。
 

 そうして響がマンションに出入りする組員と個人的に親しくなっていくと、とたんに楸の態度が変わっていった。
 話をしているのを邪魔したり、食事の用意をしている響の邪魔をしたりと、とにかく目に付く。

「お前は……今から丸焼きになりたいのか……?」
 響がキッチンで野菜炒めをしていると帰ってきた楸が後ろから抱きついてきて、びっくりした響である。

 耀にもやられることはあるが、火を使っている時は死んでもするなと言ってあるのに、その父親代わりの楸がこんなことをしてくる。
 料理中は油断していることが多いから、今日のは本当にびっくりしてフライパンを振り回しそうになって慌てた。

 響が文句を言っても楸は何も言わずに響に抱きついている。腰に手を回して後ろからギュッとされるとどうにも動けない。

「耀ー、槙さんでも誰でもいいから、これ変わって!」 
 とにかく楸が腰に回した手を離してくれそうにはないので、響は調理の方を諦めた。

「はいはい、やっておきますから」
 現れたのは槙だ。彼も料理は得意なので響は安心して後を任せた。
 楸をくっつけたまま、響はキッチンを出てリビングのソファまで行った。すると楸はすぐに手を離してくれたが、腕を強引に引いてソファに響を座らせる。

「……楸……何がしたい……」
 響がソファに座ると、その膝に楸は頭を乗せて寝始めてしまった。

 返答を求めても、ここ一週間ほど無駄な努力になってしまっている。これは楸が甘えているのだなと分かるのだが、どうして急に始まったのかが分からない。周りはとりあえず組長の甘え癖は目に入らないようにしてくれているので、問題はないと思うが、組長の威厳というのものは崩れないのだろうかと少しだけ心配になってくる。

 長い期間離れていた時でも楸は側には居たが、こういう風に人前でこんなことをすることはなかった。なので響はどうしていいのか分からない。

 とりあえず寝ている楸の頭を撫で、様子を見る。
 警戒心の強い楸が人前で寝ることはないから、今も起きているはずだ。だから触ってもいいだろう。
 普段、こういうスキンシップはしない。寝室にいる時は別としてだが。

 後ろで耀や槙たちが夕食を楽しそうに食べている声が聞こえるが、こっちの様子を伺っているのは分かっている。
 なるべく早く食べて、自室に逃げ込みたいという気配がヒシヒシ伝わってくるからだ。
 こういう時に響に絡むようなことは耀でもしない。
 はっきり言って楸が怖いからだ。

 バタバタと後ろで食事を済ませた人たちから解散していく。耀はおやすみと響に声をかけてから自室に戻っていく。
 そうして人が居なくなると、楸はふっと目を開けて響を見上げていた。

「……困ったな」
 楸がポツリと声を漏らした。

「何が?」
 やっと会話になると響が問いかけると楸は謎の言葉を口にした。

「お前に惚れるやつが溢れてきた」
「………………はあ?」
 意味不明な言葉に響は間抜けな声を出してしまった。

「お前が何かするたびに、お前の話が増えていく。普段聞かない事務所でだ。お前のことを褒めて、お前を認めて、何とかしてお前と会話しようとして本家の道場に通おうとする奴らが増えてる」
 楸がそう言ったので、響はふと思い出す。

 そういえば、休みのたびに通っていた道場に、組員が増えてきたなと。代わる代わる響に手合いをお願いする組員も多くなってきて、響は自分の稽古と一緒に楽しく道場に通ってしまっている。
 それを楸は知っている。だが、家で聞くのと事務所で聞くのでは気分的な問題があるらしい。

「俺、邪魔だったら道場通うのやめるよ」
 楸の邪魔になっているなら、組員が居る場所に出向くのをやめればいいだろう。道場だったら近場にもあるから、そこに入れば組員に会うことはなくなるはずだ。
 響がそう言うと、楸は響の顔に手を当ててからふうっと溜息を吐いて言った。

「そうしたら俺が何言われるか……確実に非難囂々だろうな」
 楸が嫌だから響が道場に通わなくなると、楸が響を隠したと組員が騒ぎ出すに決まっている。
 それも対処に困るので楸は自分で否定している。

 今までの響の扱いはただの情人であったが、ここにきて評価が上がっているのは好ましいところでもある。それは組長の相手として響が認められれば、今後響自身の問題で組員からの苦情が出なくなるし、嫌みも減っていく。

 響が宝生を守ろうと奮闘したのは皆知っている。ただの情人には出来ない関西ヤクザの幹部と渡り合って宝生の株を落とさず、自分の問題を解決し、更には宝生先代のやってきたことは間違いではなかったと証明してきたのだ。
 先代の意志を継いで、意志を理解しての発言は宝生の幹部も感動したようだった。何より見下されていた宝生先代の30年前の落ちた株まで上げてきたなら尚更だ。

 組員たちは気付いてきている。
 響はただの一般人ではないことを。神宮領のことを抜きにしても響が宝生をどれだけ大事に思っているか。そして守ることが出来るかをその身一つで証明した。認めないわけにはいかないだろう。

「お前の評価が上がれば上がるだけ、俺は不安になる」
 楸が正直に思いを漏らすと響はクルリと瞳を見開かせて楸を見下ろしている。
 本人は少しは組員たちと仲良く出来ているだけだと思っているのだろう。響は宝生内での自分の立場が今までと違ってきていることには気付いていない。 

「楸?」
 キョトンとしている響を見ていると出会ったあの日のことを思い出す。無条件で助けてくれた、腕っ節が強くて、それでいて優しくて、楸を見つめて目を反らさない存在のまま。唯一、楸を楸と呼ぶ存在。
 宝生楸という存在をありのまま受け入れてくれるのは、昔から変わっていない。どれだけ楸の立場が変わろうが響は変わらず接してくれる。それがどんなに凄いことなのか響は知らないだろう。

「お前はそのままだというのにな……俺が惚れたままの男だっていうのにな……強くて、今でも俺をあの時のように助けてくれている」
 そう楸が苦笑して漏らすと、響はよく分からないが楸が不安になってきていて甘えているのだと理解出来た。感情をコントロールが出来なくなってタガが外れたというところだろう。

「俺は変わらないよ」
 響は微笑んで楸の額にキスを一つ落とした。

「ずっと楸の側にいる」
 その言葉は楸の不安な心の中に染みこんでくる。響は何があろうと楸の側は離れない。今回の九十九の誘拐からも響は自力で逃げてきた。戻る場所は楸のところだと響は思っている。
 言葉で愛していると伝えきれないほど、響は楸のことを思っていた。

「というかさ。俺としては、お前も十分組員にモテ過ぎだぞ。俺が組員と何を話していると思っている?」
 響はあーあもうと言う風に溜息を吐きながら言い出すと楸はキョトンとした。
 そういえば、響が組員と話している内容までは把握していなかった。ただ武術についてのことだと思っていたがそうではなかったらしい。

「もうね、あの人たち組長愛しちゃってるんだよ。俺に語ることは組長が如何に素晴らしいかということばっか。組の頂点に立つ楸を誇りに思って自慢してくる。それに一応あの島であったことは楸が九十九に勝ったことになるだろ? その賛美ばっかなんだ」

 響がその内情を説明すると楸は驚いたまま固まっている。
 予想もしてなかったことだったらしい。

 その様子が可笑しくて響は暫くニヤニヤしていた。これほど思われている組長は他にいないだろう。
 楸が努力してきたことはちゃんと組員に伝わっている。宝生が今あって安泰なのは楸が組長でいてくれるからだと組員は分かっている。

「というわけで、俺は話を聞きながら嬉しいわけ。楸が褒められて、カッコイイと言われたら笑顔も止まらないんだ」
 響は正直に感想を漏らした。

 宝生という重いものを背負っている楸が褒められ、賛美されていることが素直に嬉しいからだ。それは楸が前に言っていた、神扱いでもいい、宝生にあって絶対的な存在でありたいと、そう見えているならそう見せておきたいと願っていた通りだ。
 楸の願いがちゃんと叶っているのだと実感するだけで響は嬉しかった。

「楸、ちゃんと願いは叶ってるよ。俺はそれを知ってる」
 響がそう言うと楸の顔が笑顔に変わった。
 つまり響は組員に自分を褒められていたわけではなく、恋人を褒められていて嬉しくて仕方なかっただけなのだ。
 そりゃ愛想もよくなるだろう。
 楸は響の膝から起き上がって、正面を見つめて響の頬を優しく包んでキスをした。それも顔中にキスの嵐だ。

「ちょっと……くすぐったいから……」
 首を竦めてキスの嵐から逃れようとするけれど、嫌なわけではない。笑って避けるように逃げると楸がちゃんと追ってきてキスを降らす。
 そうして唇に楸の唇が重なると、自然と深いキスになった。

「あ……あっ……んぁ」
 しっかりと解された孔の中に楸の大きなモノを受け入れるのは、慣れた今でもかなりキツイ。だが、息を吐いて楸が苦しくないように体を開いていると、楸も気を遣って慎重に挿入してくる。
 全部が入ってしまうと、圧迫感が酷くて苦しいが、これから来る快楽を知っている今は黙って耐えるしかない。

「ひさ……ぎ……」
 手を開いて伸ばすと、楸はその手を肩に回してくれる。楸の耳元でなども呼吸を繰り返していると、楸のモノがまた大きくなった。

「あっ……う……また……」
「お前が締め付けてくるからだ」

「そんなこと……んぁあぁっ!」
 中に深く突き入れたまま更に奥を突くようにされ、響は甘い声を上げた。

「響、いいか?」
「……うん……いいよ……あっ」
 中を圧迫していた楸自身が入り口まで出てまた奥まで入ってくる。

「あっあっ……んぁっ……あぁっ」
 激しく押し入って出ていくモノが響のいいところばかりを突いてくる。こんな行為で快楽を与えられるようになって二年経ったが、楸が求めてくる回数や激しさは変わらない。
 いつでも熱心に強く求められて、響は抵抗なく体を開くようになった。

 時々口喧嘩しながらだったり、笑い合ってだったり、色々と雪崩れ込むことはあるが、基本的に楸は意地悪だが最後は優しいのを知っている。
 快感に身を預ける楸の表情を見ていると、響はこれでいいのだと思える。
 この人は自分の体で欲情して、求めてくれる。さしのべられた手を取っても間違いない。楸は確かなものを響に沢山くれた。
 その少しでも楸に返していけたらいいと何度も思う。

「……は……んぁ……あっあっあっ」
 気持ちよくてどうにかなりそうで、必死に楸を抱きしめると、楸も抱きしめ返してくれる。もっと楸が欲しくて響は自分から楸にキスをした。
 舌を入れて楸を誘うとそれに応えて楸も舌を絡めてくれる。苦しいほど、でも胸が熱くなって痛いほどの感情が溢れる。

「……楸……愛してるから……」
 自然と漏れる愛してるという言葉に楸は余裕の笑みで答える。

「俺もだ。響、愛してる。お前だけだ、お前しかいらない」
「俺も楸だけ……あっんぁっ」
 高ぶったモノを激しく奥まで突き入れられ、再開された動きに響はただしっかりと掴まって合わせるだけだ。
 翻弄されると自分ではもうどうしようもない。
 しかしどんな痴態を見せようとも、楸だったら構わない。楸は響が乱れている姿を見るのが好きだと知っているからだ。
 安心して身を任せて、響は絶頂へと導かれた。

「あ――――――あぁぁっ――――――!」
 響が達ってしまうと中にいる楸を強く締め付ける。そして暖かいものが吐き出される。それを受けるのが響は好きだった。

「んん……ぁあ……」
 全身を硬直させた体が弛緩し、ベッドにぐったりと沈み込む。その響の覆い被さるように楸が響を抱いた。

「大丈夫か?」
 優しい声が聞こえて、響は飛んでいた意識を浮上させた。目の前にうっすらと汗を掻いた楸の顔があった。響はその汗を掌で触ってから言った。

「……大丈夫だけど……飛ばしすぎ……」
 響が文句を言うと楸が一瞬だけ目を見開いたが、すぐにニヤッと笑って言った。

「煽ったのはお前だろう」
「なんで俺になるんだ……あぁっ」
 響のせいだと言われて響が怒鳴り返そうとすると、楸が動いてゆっくりと楸自身が出て行く。達ったばかりの体ではその動作だけでも敏感に感じてしまい、声が漏れて響は眉をハの字にして耐えた。
 楸はそうして耐えている響の体中を手で撫で、弱いところを押してくる。

「んっ……やめっ」
 びくびくを体を震わせて抵抗していると、楸は乳首に吸い付いて吸った後に言った。

「このまま寝て耐えるのと、俺が手伝って熱を下げるのは……どっちがいい?」
 問いかけながらも体中を触っている手に響は反応をしながら、暫く食いしばって耐えていたが、自分自身が勃ちあがっているのに気付いて、息をふうっと吐くと甘い声で誘った。

「……して」
 こうなると放って置かれる方が辛いのは知っている。だから楸を一生懸命誘う。

「そうこなければ」
 楸は響の誘いに満足して、指を解していた孔に入れて掻き回し、再度中へ進入した。

 せっぱ詰まって体を開いた時の響は一層快楽を追うようになって、楸の冷静な部分を吹き飛ばしてくれる。そうして縺れ合っている時間が楸に安堵を与える。
 唯一愛する人が身を任せてくれることが、殊の外嬉しい。嬉しすぎて暴走するところを押さえるのも苦労するがそれもまた醍醐味になる。

 この体を知ってからずっとこの体しか抱いてこなかった。他に変わりなどいないと何度も思った。
 これほど愛しい存在と時間。溢れんばかりの愛をくれる相手がいる。

 それが手元にある。
 絶対にこぼれ落ちないように守る。
 その為には今以上に強く絶対に崩れない自分と場所を作っていこうと楸は再度心に誓った。
 そこでは、いつでも響が笑っているはずだから。


 次の日、超ご機嫌の組長と朝から疲れ切ってぐったりしている響がいたが、周りは突っ込むのをやめた。
 やっと楸が本調子に戻ったのだから蒸し返すのは莫迦のすることだったし、何より今は無言の響の方が怖かったからだった。

「行ってくる」
 楸が響の機嫌を取るように頬にキスをして言うと、響は渋々返事をした。

「行ってらっしゃい」
 内心、さっさと出かけやがれというところなのだろうが、耀の教育をしている上で挨拶を欠かすことはしなかった。それが分かっていて楸は声をかけてから出かけたのだ。
 しかし、楸のしつこさの原因が分かったのはその一時間後だった。

「響辛そうだし、今日は一人で道場行くね」
 耀がそう言って出かけたので響はピンっときた。

「あの莫迦は……」
 どうやら昨日の嫉妬とやらのせいで、道場へ行かせないようにされたらしい。

「ちゃんと説明したっていうのに……まったく、あいつは」
 昨日は結構恥ずかしいことを言って楸の不安を取り除いたと思っていたのに、独占欲は止まるところを知らないらしい。
 だがそうして愛されている自覚があるだけに、「莫迦」としか言い返せない響の愛も相当なものだった。