novel

ROLLIN'1-3

「耀(あき)、朝だよ」
 部屋のカーテンを開けて、朝の光を入れる。
 今日はいい天気で日ざしもいい感じだ。
 耀を起こすのは、もはや響の仕事である。響が起きて、それから耀が起きるという事になったのは、最近の事である。

 耀はまだ眠っていたが、響の声を聞いて、すぐに起き出して来て抱きついて来た。ぎゅっと抱き締め返すと耀は喜ぶ。
 これが、朝の日常茶飯事のスキンシップである。

「……うん?」
 抱きついて来た耀が首を傾げて離れた。
 どうも、いつもと違う反応だった。

「どうしたの?」
 響は、何かあったのだろうかと不思議になってしゃがんで耀の顔を覗き込んだ。耀は少し考えていた。

 それから、確認するかように耀は響のパジャマをギュッと握って匂いを嗅いできた。
 その行動に響は首を傾げた。
 何だろう?である。

 しかし、匂いを嗅ぎ直した耀は。
  間違い無い。
 そして確信を持って言ったのである。

「響、パパの匂いがする」
 耀の言葉に、響は一瞬硬直する。

 なんで、匂いで解るんだろうか?

 昨日の出来事は、耀が寝た後なのだから、耀は事情すら知らないのである。知らないはずなのに、匂いで言い当てられたのだ。

「パパの付けてる匂いがする」
 耀にそう言われて、響は溜息を吐いた。

 なるほど……。
 なんか犬並みなんですが……。
 まあ、そりゃそうだと響は納得した。

「ああ、一緒に寝てたから匂い移ったのかな?」
 とりあえず、響は自分のパジャマの匂いを嗅いでみたが、全然解らなかった。それもそのはず、自分はあの臭いの中で眠っていたのだから、鼻がおかしくなっているのだろう。

 自分では解らないが、耀には解る事だったのだろう。パパ好きな耀なら匂いを嗅ぎ分ける事も出来るかもしれない。
 それでも匂いで解るとは……。

「パパと一緒に寝てたの?」
 耀は驚いた顔をしていた。
 どう説明して言い訳していいか解らなかったが、一緒に寝たのは事実だし、別 に疾しい事はなかったので響は正直に答えていた。

「うん、おかしいかな?」
 耀が驚いた顔をしていたのが意外だったので、響はそう聞いてしまった。

「うん……。あ、でも響だからかな?」
 耀はそう納得する事にした。
 それ意外考えられなかった。

 楸は、自分をパパと呼ぶ耀とさえ一緒に寝たことはなかったからだ。一緒に寝たとしても、一睡もしないで起きている楸である。

 何処にも安住の地はないという風に見えていた。
 それ位に誰にも心を許して無いのは解り切っていた事だ。
 幼いながらも、楸がどれだけ慎重なのかも解っている。
 ヤクザの組長となれば、いつ命が狙われるのか解った物では無い。信用している人物さえ簡単に裏切る事だってあるのだ。
 ただでさえ組長代理になった時でも、命を狙われていたのだから。

 いくら大事にしている耀に対しても楸は気を抜くという事をしない。それは多分、楸が身をもって教えてくれる事である。

 それでも例外はあるのだ。

 それが響であり、隣に寝ていたとしても気にならないどころか、安堵してしまう事が起こってもおかしくないと耀は思っていた。

 それで耀は納得出来ても、他の者が納得出来るはずはなかった。
 耀は、楸は響に純情な思いを寄せているのは知っている。それだからこそ、自分の地位が確立出来てから、響を探そうとしていたのだから。

 そうでなければ、楸が響を守れないから。

 でも、朝、いつも起こしに来る槙(まき)には、異常な事だった。
 ここでは非常事態というべき出来事だったのであろう。槙が部屋に近付いただけで、楸は起きてしまうのだ。でも、今日は違った。響が起こすまで起きなかったのだから。

 でも、槙の驚きなど知らない耀は無邪気に言い放ったのである。

「ううん。もっとパパと仲良くしてね」
 耀は御機嫌になって着替えを始めた。
 そんな無邪気な耀を見つめて、呆然とした響は返す言葉を無くしてしまったのだった。

 仲良くねえ……。
 どの程度が仲良くなんだろうか?
 これ以上仲良くしてどうするというところだろう。
 響は沢山文句を言った。

 家を勝手に解約されて、ここに住む事になった事とか、様々な事情の事も全部怒鳴り返したりしたのだが、そこに割って入ったのが、耀だった。

 響は何度も、通いでいいじゃないかと言っていた。
 でも、ここでも神様は響に味方をしてくれなかったのである。

 耀は響に懐いていて、一時も離れるのが嫌だと泣いたのである。
 その涙に弱い響は、楸から出された条件に乗ってしまったのである。

 耀が悪いわけではないが、響は自分にも問題があるんだと思っていた。断ることが出来ない自分の腑甲斐無さである。

 なるべく楸を避けるようにして、耀と接して来たが、昨日のあれ、「抱き枕」は何だったんだろうと思ってしまう。
 本当に、響は楸の「抱き枕」だったのだから。



 ここに響がきてから二週間経っている。

 その間、楸が我侭をいったのは、昨日の「抱き枕」件だけである。
 もっと酷い事をされると思っていて警戒していたが、その警戒も薄れていた。やっぱり最初のは脅しだっただけなのか、冗談と言っていたからホントに冗談だったのではないかと……。

 楸は仕事熱心だし、(資金源の会社は上手くいっているようだし)耀の事はことのほか気にして接しているからだ。
 いくら次期組長という将来が待っている耀であるが、その接し方は子供をあやすような感じなのだ。
 だから響から見て、楸はいいパパなのである。

 そんな姿を見せられたら、ここで逃げ出す訳にはいかないと思ってしまう。毎日、疲れきっているような楸を見ていると、思わず世話を焼きたくなるのだ。それに、逃げ出すのは簡単だから、まず逃げないでどうにかしていこうと思っていたのである。




 幼稚園に耀を送って響が会社に出勤すると、いつも通り、周りからの質問攻めにあってしまう。
 最近の響の周りの変化は社内中の噂の的なのだ。
 突然、ある日からベンツ通勤となり、黒服の男達に送ってもらってやってくるのだ。噂にならない方がおかしい。

 最初は、物凄い質問攻めにあったのだが、響は苦しい言い訳を思い付いて、それで納得してくれーと何度も同じ答えを返していた。

「今日もベンツでしたねー」
 大体、出勤時間が一緒になってしまう同僚には、社から離れたところでベンツから降りるのを見つかってしまうのだった。

「あの人達なんなんですか?」
 ドキリとする質問である。
 さすがにヤクザに世話になっているとは言えない響。
 いや、世話になってるどころか、内部にしっかり入り込んでしまっているとも言えない。口がさけても言えない事だ。

 社内での噂は、徐々に無くなっていくだろうが、同じ部署では、この話題が尽きないのである。

「いつもの叔父さんの車だよ。まったく心配性なんだから」
 響は会社ではそう答えていた。

 まさか、ヤクザの組長が自分を見初めて、そこへ半ば軟禁しているなどとは言えない。人質つきとも言えない。

 人質とは、響と楸が交わした約束の中に、姉、雅の病気の事も含まれていたからだ。
 姉は過労から精密検査をしたところガンにかかっていて、早く手術をしたお陰で助かりそうだが、その費用を楸が肩代わりしてしまったのである。

 たかが一社員の響に高額費用など出せるわけはないから。
 耀の面倒を見るということで手を打っていた。

 それは契約であり、ただの約束ではない。ただ借金だけでは、毎月返していれば、一緒に住む必要もないが、楸が治療費を払う条件が、一緒に住む事だったのである。
 これは、事体が思わぬ方向に進んだ時に、楸から言って来た事だった。当然、響は断れなかった。
 それから、ベンツでの朝の送りが始まったのである。

 耀を幼稚園に送ってからでは、電車がなく、会社に間に合わないので、わざわざ送ってきてくれているのである。響は会社では、皆勤賞と言っていい程遅刻早退がない。
 せっかく、仕事も面白くなってきて、順調にいっているのだから、それだけはちゃんとしたいと思っていた。
 けれど、そうなると、どうしても電車の時間が間に合わない。
 そして、結局響が妥協する事になってしまったのである。

 帰りは退社時間に合わせれば、耀を迎えにはいけるので、帰りは電車でそこまで迎えにいっているのである。

 こうした生活の変化があって、響は疲れを見せていた。
 頭が痛い事ばかりが起こっているからだ。

 それでも借金返済には自分が働かないといけないと思い、仕事だけはさせてくれと楸に泣きついた形になってしまった。
 楸も渋々ではあるが、それは認めてくれた。
 もし、そこで楸が反対していたら、響の性格からして出て行ってしまいそうだったからだ。

 それに耀の面倒を見るだけなら、一日中、あの家にいる必要はないからである。そういうと、楸も納得してくれたのだ。

「ベンツで出迎えって豪華よね」
「叔父さんってお金持ちなんだ?」

「あははは、まあ。暇してるんだろうな」
 そう言って何度も誤魔化している響であった。

 社の中では、身の回りは秘密主義でありながらもかなり人気がある響に関する噂はあっという間に広まっていた。
 まだヤクザ関係とばれてないだけ救われる。
 ただ、響は必要以上に自分のプライベートな事は口にしなかったので、このベンツ通勤の話題は、唯一響のプライベートを知るには恰好の話題なのだ。
 しかも、謎の叔父様まで登場してしまったのだから。
「その話はもういい。さ、仕事、仕事!」
 仕事も出来る男である響は、さっさと噂話しから抜け出して、今日のノルマである仕事に向かった。
 耀の為に完全に内勤になる仕事を受けようと思っていた。
 それは上司にもちゃんと話してある。

 もちろん、ヤクザの子供をみているからとは言えないので、親戚の子供を預かっていて、その面倒をみなきゃいけないから定時で上がらせて欲しいと言ったのである。

 それを聞いた社長や他の部下は、こんなに忙しい仕事をして、家に帰ったら家政夫になっている響に同情的だった。
 それは助かったの一言に尽きる。

 それに響は今までよりももっと仕事を進める事が出来るようになっていたので、仕事上では支障は出ていなかったのもある。元々仕事の手が早すぎて内勤からすぐに営業に回されてしまった上に、その営業のノルマも二年目を回った今は社内一と言われている。

 打ち合わせなどの営業は、他の人物に任せて、自分は設計などの企画提案の方に回してもらった。
 それで仕事の効率が上がっているから、会社も大喜びなのである。つまり文句は無いな、と響が仕事の功績を上げる事で納得させたのだ。

 響はちゃんと社員としての仕事をきっちりとこなして定時で仕事を全部終わらせる。

「月時さんって仕事出来るんですねえ」
 新人の徳永は、響と同じ仕事をしている。

 だから、その仕事の量では底定時に終わる事が出来ないのは解っていた。でもそれを全て終わらせる響の仕事に感心していたのである。

「やろうと思えば出来るぞ。要は要領良くやることだ」
 そんな事を言いながらも、響は一つの仕事を終わらせている。
 その仕事の早さに徳永はついていけないでいた。

「そのうち倒れますよ……」
 心配になった徳永がそう洩していた。

「倒れたら倒れた時。徳永、この企画通ったぞ」
 そう言ってみせられたのは、徳永が考えていた企画書である。

「え? 本当ですか!?」
 徳永は自分の企画が通るとは思って無かったらしく、意外な驚きの顔をしていた。

 響はにやりと笑った。

「ああ、いい話だ。どっかのアイドルのイベントに使える」

「やった!!」

「良かったな」
 響は素直に喜んでいる徳永に笑って企画書を渡した。

「イベント企画の要請もあったから、これ持って訪ねてみればいい。上手くいくといいな」

「はい!」
 徳永はその企画書を手にして、さっそく打ち合わせに出かけていった。

 それを見送ってから響は自分の仕事に戻る。
 山済みになっている企画書を整理するのも響の仕事だった。

 ここでは、響は部下を数人持つ部署の部長である。響の出世は若いなりに早かった。それでもこの部署で不満を漏らす人はいない。それだけ、月時響の仕事ぶりは、尋常ない程完璧だったからだ。

 そうして社内の出世スピード記録を塗り替えている部長の響の仕事は、全ての企画書に目を通 していくものだ。
 クライアントの希望する企画を幾つも突き合わせて、そしてその中から最良の企画を打ち出すのである。

 明日は土曜日で仕事は休みだ。
 土日が休みであるイベント企画部は、今日の仕事収めに皆必死で仕事を終わらせようとしていた。これが終われば二連休という報酬が待っているからだ。

 定時になると、響の机の上にあった企画書達は綺麗に片付いてしまっていた。このスピードも尋常じゃないと言われるのである。

「じゃ、お先に」
 そう挨拶をして、響は会社を後にした。
 そそくさと帰って行く響を慌てて見送った社員は。

「うわー、さすが月時さんだ」
 企画書書類をきちんと積み上げて、全部に目を通し、更に綺麗に机を整頓していくのは、本当に仕事が終わったという事なのだ。

「全部終わってるよー」
 書類の一番上を見て、響の印が押されているのを確認している。

「信じられないよー」
 と残業決定の部下達は響の仕事能力の凄さを改めて感じる瞬間がこの定時の時間なのであった。

「月時さんの伝説って本当だったんだ」
 そういうのは前から居た同僚で別部署だった人間だ。
 月時響はあまりに仕事が出来すぎて、内勤からすぐに営業に回されたがその営業もすぐに社内一になってしまった。だからその営業先を他の営業マンに分けるためにまた響を内勤に戻すために、響を課長に出世させたという伝説である。
 噂は本当だった。


 響はさっそく耀を迎えに電車で幼稚園に向かう。
 それでも時間は六時を回っている。
 その中、まだラッシュではない電車の椅子に座って、持って帰ってやる仕事に目を通 していた。
 これもいつもの事だった。家で出来そうな仕事は、別に仕事場じゃなくても出来る。それも企画書を見るだけの仕事なら、耀がいても出来る仕事なのだ。

 最寄り駅に到着すると、仕事の事は全部忘れて、耀を迎えに行く。
 幼稚園前には、いつものベンツが止まっていて、耀を守っている。 その車に挨拶をして荷物を預かって貰って耀を迎えに幼稚園内に入る。

「耀くーん、お迎えよー」
 いち早く響を見つけた保育士が耀を呼びに部屋に入った。

「響!」
 耀は他の友達と遊んではいず、1人机に座って何かやっていたようだった。もともと耀は友達と外で遊ぶよりも、中で何かやっている事の方が多かった。

「今日は何をしてたのかな?」
 響は耀を抱き上げて、そう聞いた。

「今日はね、響の絵を描いてたの」
 そういって、テーブルに戻ると、荷物を片付けてやってくる。

「ほら!」
 耀が自信満々に見せた響の絵。
 それは響が料理を作っている姿だった。
 どうもそれが一番印象に残っていたのであろう。

「すごいなー耀」
 その絵を耀は誇らし気にして、保育士にも見せている。保育士達はにこりとして響に向き直った。

「本当に響さんの事好きなんですねぇ」
 絵を耀に返して、そう言った。

「え?」
 響は驚いて、保育士を見つめてしまう。
 どういう事なんだろう?という顔だ。
 保育士はクスクス笑って、それを説明してくれたのである。

「耀君が最近よく話すようになったんですが、いつでも響が響がっていってるんですよ」

「そうなんですか」
 なんだか複雑な心境である。

 耀がそこまで自分の事を好きだと言ってくれる事は嬉しい。
 でもそれが契約でなされている関係だと、何か違う気がする。響は純粋に耀の面 倒をみたいと思い始めていた。
 こうして、響は楸の側から逃げだせない状態に追い込まれていっていたのである。
 



 家に帰ると、久しぶりに早く楸が帰ってきていた。
「おかえり」
 ソファに座ってのんびりとしている楸は、かなり珍しいのだ。

「ただいま。今日は仕事早かったんだ」
 響は驚きながらそう答えた。

「まあな」
 楸は何でもないと答えた。
 でも、まだスーツを着ている所をみると、もしかしたら出かける事もあるかもしれないと思った。
 これまでにも、響達が帰ってくる時に楸は家にいた事はあったが、その後、すぐに呼び出されて出かけてしまった事もあったのだ。

 今日もそんな事かな?
 響はそんな事を思った。
 楸が実際、どんな仕事をしているのかは、響は知らない。楸は語ろうという気もないし、響も敢えて聞く必要も無いだろうと思っていた。それを知ったところで自分がどうにか出来るわけでもないからだ。

 耀は素直に楸がいる事が嬉しいらしく喜んで楸に駆け寄った。

 響はそんな様子を見ながら、部屋に戻って普段着に着替えて食事を作る準備をした。

 よーく考えたら、今日は初めて三人揃っての食事である。
 他にもボディーガードの人の分の食事も必要である。

 響は大慌てで、揚げ物を仕上げていく。下味は昨日の夜に仕込んでいたので、簡単だ。
 手慣れたもので、それはあっという間に出来上がる。

「ここにいる人にも食べてもらうことにして作ったけど、良かったかな?」
 響は耀と遊んでいる楸に聞いた。
 このマンションには、部下達の部屋の方にもキッチンがある。そっちで食事をしているのだろうが、どうもそれが悲惨なのは、響も一度出入りして悟った事である。

「いいだろう。お前の料理は余り物でも旨いって評判だ、喜ぶだろうな」
 すると楸に呼び出された槙が驚いた顔をした。
 テーブルには、ここに住んで居る部下達の分の食事も用意されていたからだ。

「響さんって料理上手いんですね。感心しました」
 まだ響が料理を作っているところを見た事なかった槙(まき)と二連木(にれぎ)は驚いた様子だった。

 男が作る料理だから雑だと思っていたのか、きちんとした料理が出来上がっているのに驚いているのである。

「これくらいしか出来なかったけど、食べてくれますか?」

「もちろんです」
 二人はそう言った。

 耀は楸と久しぶりに食事が出来るのが嬉しいのと、沢山の人と一緒に食べられるのが珍しい事だったようで、余計に喜んでいた。

 家政夫となった響は、狭いテーブルだけでは全員座れないと、リビングにも食事を用意した。
 そこで酒などを出して、総勢十名程で食事となった。

 響の料理は評判がよく、おかわりが何度も出た。
 その度に響は揚げ物を再度出したりして忙しかった。
 付き合いとはいえ、酒まで飲まされる始末。

「おい、響、酒は……」
 飲み干そうとしている響のグラスを取り上げる楸。

 だがもう遅かった。
 響はかなり酔っていたのである。

「お前、酒弱いんだから、そのくらいにしておけ」
 そうしないと、後が困ると楸は思った。

 響は取り上げられたコップを取り戻そうとはしなかった。
 自分でも限界が解っていたのだろう。

「解ってる。それで終わらせようと思ったんだ。ああっと後片付けしなきゃ」
 そう言って立ち上がって台所に消えた。

 何人かそれを手伝う為に付き添った。
 そのお陰で後片付けは綺麗に終わった。

「助かった〜」
「いえいえ、私も大変美味しい食事をさせて貰ったのですから、これくらいは当然です」
 そう言ったのは槙だった。
 槙の手際は、それは良かった。
 手早く簡単にそれをこなすのである。

「もしかして、槙さんって独身ですか?」
「ははあ、解りましたか?」

「手際がいいから、なんとなくですけど」
「大当たりです。1人だと料理くらい出来ないとダメですからね。でも響さん程ではないですが」

 あれだけ見事にパーティー用な食事を出されて驚いたのは槙の方だったのである。

 ここまで完璧に出来る方ではなかったので、何故響が耀の面倒を見ることになったのかを納得させられてしまう一コマだったようだ。
 これで、響の株が上がった事は言うまでもない。