novel

ROLLIN'1-8

 まだ腰の状態やら体調がよくない響を着物のまま抱きかかえて楸は部屋を出た。
 最初は立ち上がるのも嫌だし、動けない響を宥めた楸が、無理矢理響を抱え上げたのだ。それでも抵抗は出来ない響。大人しくしているしかなかった。
 寧ろ、抵抗する程の体力がなかったというのが正解だろう。

「お疲れさまでした。準備しておきました」
 あの大きな男が立っていてそう言った。
 帰り道を誘導しながら先を歩いて行く。
 響は眠そうな顔をしたままで、楸に抱えられていた。

 大きな廊下を道案内も無しに進む楸は、ここがどういう造りなのかを理解しているようだった。
 だから、何処へ向かっているのかは、響にも解った。

「やっと帰れるのか……?」
 響はそう聞いた。

「ああ」
 楸がそう答えたところで玄関についた。
 玄関とはいえ玄関に見えない玄関である。無駄に広く、響が宝生家に来るまでに住んでいたアパートの部屋がそのままスッポリと入ってしまうかのような広さだ。

 だが、今の響にはそんな事に関心は向かなかった。ただ、眠く、それでも住み慣れた場所へ帰れる事が嬉しかったのだ。だから、帰れると解った今、必要以上にここの情報を入れない方が得策だろうと思ったのだ。


「ご苦労様です」
 男は頭を下げた。
 その男は、布団の側で響を見張っていた男だった。
 楸よりも背が高く、ガタイもしっかりした男が、小さくして楸に従っているのを見ると、どうも可笑しながする響である。
 すると楸が立ち止まって男に聞いた。

「お前が連絡するように言ったそうだな」
 楸は男を見ないで聞いていた。そして、返事を促すようにして初めて男をしっかりと見た。

「はい」
 男は頭を下げて一言答えた。無駄な事は言わない性格なのかもしれないし、それが彼という人間性なのかは解らない。

「それには礼を言う」
 楸はそう言った。

「いえ。中には面白半分で響さんに手を出そうとしている輩もおりました故。急いだ方がいいと判断したまでです」
 男はそう答えたのである。
 それに楸が低い声を出した。

「あいつか」
 思い当たる人物がいたらしい。
 男はそれには答えなかった。

「御想像にお任せします」
 ただそう言うだけである。
 部下である以上、上司の事は告げ口出来ないのである。
 誰という事は突き止めなくても、楸も解っているなら、余計な事を言う必要はないと思ったのだろう。

「お前程の人物なら、近々呼び寄せたいと思う。名前は何と言う?」
 楸は先に響をベンツに乗せてからそう尋ねた。
 正直、気に入ったという所だろう。

「犹塚(いづか)と申します」
 男は、そう名乗って、一歩下がった。

「犹塚か、覚えておく」
 楸はそう言って、ベンツに乗り込んだ。
 犹塚は黙って頭を下げて、ドアを閉めた。

「五代目、大丈夫でしたか?」
 一晩本家で待たされていた槙(まき)がさっそく聞いてきた。
 槙は、屋敷に入ってから通された場所から出る事も出来ずに、只管、楸が戻ってくるのを待っていただけだったのだ。
 他にする事もあるが、何せ、楸よりも偉い幹部が揃っているところへ突撃出来る程の根性は槙にもない。

 やっと、出る事が出来たのは、大男、犹塚がやってきて、車を回す様に言ってきたしか、動けなかったのだ。
 だが、とにかく、楸は何ごともない姿で現れて、その腕には響がちゃんといた事には安堵した。

 しかし、気になる事もある。
 この一晩、一体何をしていたのか?という事だ。

「儀式をやらされただけだ」
 楸は、簡単に答えた。
 一瞬、槙が固まる。

 ……数秒して。

「響さんとですか!?」
 さすがにこれには槙も驚いていた。

 儀式の事は知っている程度ではあるが、まさかそれが響に適用されるとは思っていなかったようだった。

「寧ろ、響とだから儀式が成立したと言ってもいい」
 楸はそう答えて、響の頭を膝に乗せた。そして髪を梳いた。

 車に乗った響は安堵したのか、また眠りに入ってしまっている。眠り足りないのだろうと楸は思った。

 意識ない響でも寝ている間にセックスを何度もされては身体がついてこないからだ。

 そんな風に響を抱くつもりはなかったが、あの匂いのせいだろう。響の感度が良過ぎて、つい夢中になってしまったのである。

「制約があるからですね」
 槙はそう聞いた。
 それは、楸があくまで、耀が組長になる間での代理だから、という事だ。それには、楸は子供も女も持ってはいけなかった。
 子供が出来ると、内部でまたもめ事になってしまう。

 二の舞いを繰り返す訳にはいかなかった。

「これで響が女だったら、もっと大問題になっていただろうな」
 楸はふっと笑いを洩らしてそう言っていた。

「いちゃもんつけるには好都合だ、ですか?」
 槙はそう言い返していた。

 老幹部が組の事で口出し出来るのは、ほんの些細なことしかない。この儀式の時や、組長の遡行の問題などしか仕事はない。 
 組長になった楸が幾つかの制約に結ばれているからこそ、響は格好の餌食になったと言える。

 普通に呼び出すより、少し組長を困らせてみようという考えを持つモノも多いからだ。
 だが、まさか本気で楸が響の事を思っているとは、誰も思っていなかったようだった。

 楸が本気で儀式に応じたのに驚いたのは数人だった。
 その数人は、耀を組長にと押していた人物なのである。

 だから響を餌に使ったのだろう。
 狙いは良かったが、それ以上に組長が制約に違反していない証拠を持ってきたまでとなっていた。

「イイ気味だ」
 楸はそう呟いた。

 今頃悔しい思いをしている老幹部の顔が浮かぶ。

 楸から耀を引き取って、自分が摂政になり耀を思い通りに動かそうとする輩達である。
 楸になにかしら問題を持ってきては、耀を引き取る言い訳を考えている暇人である。

 それが思い通りにいかなかったのだから、今回は楸の勝ちだった。

 だが、それに響を巻き込んだのは許せなかった。
 響は何も知らない。
 ただ借金の為に耀の面倒をみてくれているだけなのだ。

 その響を楸が好きなのも仕方ない。
 ずっと思い続けてきた相手である。

 組長になる前から響だけだと決めていた。だから女は必要無いと思っていた。それであんな制約に乗ったのだ。

 それで満足していればいいものを。
 この貸しどうしてくれよう。

 楸がどれだけ響を大事に思っているかなど、相手には解らないだろう。どれだけ、この存在に癒されていた。それさえ戯言としてしか片付けない奴には、楸の気持ちなど解らないだろう。

 大切にした。そう思った相手はただ一人。
 それを、自分の手の中から、勝手に攫って行ったのだ。報復せずに何をする?

 楸はそんな事を考えていた。
 このまま許すつもりはなかったのである。




「パパ、響は?」
 昨日嘘をつかれたのだと悟った耀が怒ったまま玄関で待っていた。
 昨日はそれで納得出来ても、楸までもが隠密行動に出るとなると、幼いとはいえ、耀にも何かあったのだと解る事だった。

 おまけに、丸一日、帰って来なかったのだから、余計に耀は怒っていた。

「連れて帰ってきた」
 そう言って響を抱きかかえているのを見せた。

「寝てるの?」
 楸の後を追って、耀がついてくる。どうしても事情を知りたいらしい。止める者はいなかった。
 楸も耀には説明しておかなければならない事であるのを承知していた。

 楸の部屋に入ると、自分のベッドに響を寝かせた。
 これだけ動かされているのに、響はピクリとも動かなかった。

「響、疲れてる」
 響の顔を覗き込んだ耀がそう言った。
 顔色が良くないのは、普段の響を知っている人が見れば、一目で解ってしまう事だった。

「何があったの?」
 耀の声は怒っている声だった。
 滅多に怒りを見せない耀が本気で怒っている。

「響に何したの」
 はっきりとした口調で耀は楸に問うた。
 普段の子供の姿ではない、ヤクザとしての威厳に溢れる姿だった。普段がいい子なだけに、その変貌は周りの驚く所だろう。だが、今はここには、楸と耀しかいない。

「俺がやったんじゃない。老院達が響を拉致ったんだ」
 楸はそう言って、耀に全て説明をした。

 こんな子供にとは普通なら思うところだが、耀は普通の子供ではない。
 響や、幼稚園では子供らしさをみせるが、所詮ヤクザの子供である。
 そうした鋭さを時々見せるようになっていた。

「へえ……そんな事したんだ」
 響の顔色を伺っていた耀がそう呟いた。
 はっきり言って今の耀を敵に回したくないと楸は思った。

 楸が響に執着しているように、耀もまた響に執着している。その方面が違うだけで、二人が思っている感情は似ているのだ。

 響を大事にしたいという気持ちは同じである。

 その響を誘拐して、無理矢理儀式まで持ち込んだ事が許せなかったのである。
 パパである楸の行動は責めてはいない。

 それは響を助ける為には必要な事だったからだ。そうでなければ耀は楸にさえ不信感を持っただろう。

「僕が怒らないとでも思ってるのかな?」
 耀はニヤリとして楸を見た。
 明らかなに何か考えている顔である。

 それは、楸にもよく解る。この感情は、思う方向が違っても、報復をと考える気持ちに代わりがないのだ。

「今のお前が考えている事が手に取るように解る」
 楸はそう言って、ニヤリとした。

「じゃ、僕が何をしても文句言わない?」
 少し考えた耀が、楸に聞いた。
 報復は自らの手でと思いっているのだろう。楸も同じ気持ちだが、この怒りが強いのは、一人蚊帳の外だった耀の方だろう。

「好きなようにするといい」
 楸は詳しい事は何も言わずに、耀にそう言っていた。
 自分が報復するよりは、耀がした方が、何かに効果がありそうだと思ったからだ。

「じゃ、好きなようにしていいんだね」
 耀は再度確認した。

「ああ」
 二人はニヤリと笑いあった。
 それから二人して響の顔を撫でたりしていた。

 絶対に響だけは守るという約束をしているかのようだった。




 響が次に目を覚ますと、今度は見慣れた天井だった。

 いつの間に帰ってきたんだっけ?
 それともあれは夢?

 そんな感覚に陥る。

 隣には楸が眠っている。
 部屋は暗く、まだ日も明けてない時間だった。

 もぞっとゆっくり動くと、すぐに楸が目を覚ましたのである。

「……起きたか」
 寝ていたにしては、いやにはっきりとした声だった。

「俺、いつ帰ってきたんだ?」
 もぞもぞ動いて、起き上がりサイドテーブルの電気を付けた。ついでに時計を見ると午前4時を回った所だった。

「お前が二度目寝ようとしてた時に連れて帰ってきた」
 もうあそこには居たくないという声が混ざっているように聴こえた。

「そっか……悪かった」
「悪いと思うなら、知らない車には乗るんじゃない」
 そう言われてしまって響は頭を掻いてしまった。
 そう発端はそこから始まっている。

「ごめん……まさか、あんなところに連れて行かれるとは思わなかったんだ」
 そう謝ってみるが、楸は目を瞑ったままで言う。

「約束した事は守ってやるつもりだったが、今度残業したら、出迎えさせるからな」

「……あ、うん」
 元はといえば自分の責任だ。

 楸はちゃんと約束を守ってくれていたのに、自分の不注意からこんな騒動が起きたとやっと自覚したのである。
 悪いとは思っていた。楸に手間をかけさせたのも、自分が楸を信じてなかったからだ。信じていれば、あの車には乗らなかっただろう。楸ならやりかねないと思っていた自分を恥じた。

「結局、儀式で何が変わるんだ?」
 響にはそこが解らなかった。
 楸と公開セックスしたのをみてどうなるというのだろうかという感じだ。

「お前が俺のモノだという事くらいだろう」
 楸は平然と言い放った。
 それにムッとする響。

「お前のモノになったつもりはないぞ」
 なんつー事言うんだ……!
 モノってなんだ、モノって!

 そう怒ってみせるが、まだ身体に力が入らないので、楸を殴ってみせてもまったく効果 がなかった。

「儀式ではそうなったというだけだろうが」
 楸は響の腕を取って、引っ張った。

 響は自分の身体を支えられなくてそのまま楸の上に転がってしまう。
 すると楸が身体を起こして、響の上になる。

「うわっ!」
 寝ていたはずの楸の驚くべき早業で、下敷きになってしまった響は、もぞもぞと動いて逃げようとした。だが、それより早く、楸が動いた。

「眠れないなら寝かせてやろうか?」
 楸はそう言うや否や、響にキスをしてきた。

「ん……!!」
 いきなりのキスだったので響は逃げる事が出来なかった。
 まだ身体の中にある熱いものが急激に沸き上がってくる。

「ま……待てっ!」
 なんとか楸を押し退けて待ってくれと響は言った。
 すると楸は唇を離して耳元に口を持って行く。

「待つって何を待つんだ?」
 耳元で低い声を出されると腰にずんと来てしまう。

「やっ! 変、身体が変だから……その……」
 響が覚えているのではなく、身体が楸を覚えているという感覚だろうか。そうしたずっしりとした熱さが蘇ってくる感覚がしたのである。

「変なのは当たり前だ。身体に覚え込ませたからな」
 楸はそう言って響の耳を舐めた。

「あっ!ちょっと……あ!」
 楸は悪戯をするように。そして響が思い出すようにわざとやっている。

 こうやった時、お前は喜んだだろ?

 そう言われている気がして、響はギュッと目を瞑った。
 響にも身体が楸を覚えているという感覚があったからだ。

 まさか、そんな!そう思っても身体が熱を持ってくる。

「やっ!そんなぁ!」
 ゆっくりと着物の中に侵入した手が胸の突起に触れた。
 それだけで身体が跳ね上がってしまう。
 そして己自身までもが反応しているのである。

「身体は素直だな」
 楸はそう言って、響の着物の帯を取った。
 露になった身体はもう熱を持っていて、響自身も立っている状態だ。

「仕方ない、楽にしてやろう」
 楸はゆっくりと響自身を手で扱いてやる。

「あっ!ん!」
 ゆっくりと扱きながら先端を親指でグリッとすると響の身体が跳ね上がった。

「そう、イイ子だ。もっと声を」
 耳元でそう囁かれて響は顔を真っ赤にした。

 抵抗しようにも身体が楸を求めている。それが解って響は混乱した。こんな事されたくないのに、身体が楸を求めているのは確かなのだ。

 それに溺れる事が出来ないのも事実。
 でもこうやって触られる事は嫌ではなかった。
 気持ちいいものは気持ちいいのだ。

「やっ!変になる……」

「変になるようにしてるんだ。イク顔を見せてくれ」
 楸はそう言って、一層強く響自身を強く扱いた。

「はっ!あっ! あぁ!」

 何で!

 そう思いながらも与えられた快楽に弱くなっている。
 後は夢中になるだけだった。

「も……ダメ……あっ!」
 響は楸の手だけで達してしまったのであった。

「はぁ……」
 深く息を吐いたが、まだ何かが足りない気がした。

「後ろは解れたままだろうな」
 あんなに何時間もしたのだから、後ろは解す程にはよばなかった。
 指は簡単に3本も孔に入っていたからだ。

「ん……そこだめ……!」

 改築しきった響の身体のことなら、響自身よりも楸の方がよく解っている。どこをどうすれば響がいいのか、それは昨日の改築で探り当てていたから簡単だ。

「変……変だよっ……」
 響は自分の身体の変化に戸惑っていた。
 前までは痛くて怖かった事が、今度は違う。快楽を求めているのである。

「変じゃないよ」
 楸は優しく言って、指を引き抜いた。
 そしてそそり立った己を響の孔に一気に押し込んだ。

「や、ああ!!」
 響の孔は楸のそれを待っていたかのように受け入れた。
 信じられない事に傷みはまったくなかった。それどころか嬉しくて仕方がないとばかりに内部はそれを待ちわびていたのである。

「んっ! 変だよ、こんなの変だよ」
 響は自分の身体の変化が怖かった。
 流されているわけでもない。ちゃんと自覚して楸を待っていたという自分が信じられなかったのである。

「変じゃないよ響。俺を感じてみろ」

「あっ!んん……」

「素直に感じてみろ」

「やっ!」
 響は首を左右に振った。

 訳の解らない快感が自分を襲う。
 それを嬉しいと思っている自分は、まさか楸の事が好きだからそうなっているのだろうか? それともそうした快楽をくれるのが誰であっても構わないのかとそうした意味で苦悩していた。

「響が感じるのは俺がしてるからだ。他の誰でもない、俺だ。宝生楸を感じてるんだ」
 楸は響に暗示をかけるように何度もそう言った。

 これが楸を感じてなっている現象?

 響はそう思うことにした。
 その方が楽だったからだ。

 後はもう出ては入ってくる感覚を快楽として味わうだけになってしまった。
 最後には自分も腰を振っていたと思う。
 それに満足したのは楸だった。

 響が素直に応じてくれる。
 人形のような響の感触ではなく、ちゃんとした自覚を持っている響を抱ける事の嬉しさは何倍も大きかった。

「あっ!楸っ!」
 やっている最中の名前を呼ぶ行為はあの時教えた通りだった。絶頂を迎える瞬間の言葉として楸が教えたものだった。

「ひびき……」

「もう……だめ……」
 響はそう言って先に達してしまった。
 その締め付けで楸も達してしまう。

 双方が気持ち良くセックス出来たのは、初めての事だった。

 脱力した響はそのまま気を失った。
 自分で感じた快楽で失神してしまったのだ。

 楸はそれに満足して、響の顔中にキスをした。
 その晩、二人はお互いに満足出来たセックスをした日となってしまったのだった。