novel短編

Blue on pink-7

 緒方(おがた)のマンションに着いてからすぐに千雅(ちか)は風呂に入るように言われた。
 緒方(おがた)は千雅(ちか)の傷ついた心を心配して、千雅(ちか)の体を気遣った。千雅(ちか)はなるべく暗くならないようにしていたが、緒方(おがた)の方がダメージが大きそうだった。
「緒方(おがた)さん、そこまでしないでいいよ」
 千雅(ちか)はそう言う。緒方(おがた)はそういう千雅(ちか)の服を脱がし、入るのも一緒にした。
 一人暮らしにしては大きな風呂は、普段はあまり使わないと緒方(おがた)は言った。「一人で入ってもつまらないから、いつもはシャワーだけなんだよね」
 緒方(おがた)がそういいながら、風呂のお湯を溜めていく。その間にシャワーを使って千雅(ちか)の体を隅から隅まで洗っていく。
「入っちゃったものは仕方ないけど、まだ付着してるものもあるからね」
 クスリの効果は六時間ほどあると緒方(おがた)が言った。
「そんなに効くんですか?」
「もやもやしたものが最後まで残るからね。しかもスプレーだったでしょ。だからね、洗った方が早く消えるんだ」
 緒方(おがた)はクスリのことはよく知っているようで、さっと洗っては流し、更に洗って流した。
「本当は体中なめ回したいけど、明日警察にいかないといけないし、今日は触るだけね」
 緒方(おがた)はそう言うと、千雅(ちか)の性器にも洗った。
 ソープを付けて洗ってくれるのだが、クスリの効果で体が熱くなる。
 緒方(おがた)にもたれる形で、床に座っていたのだが、後ろから触ってくる手に千雅(ちか)は段々と感じていく。
「んぁ……あっ……だめ……」
 緒方(おがた)にすがりつくようにして、感じてしまうのだと知らせても緒方(おがた)はやめない。
「あの男、ここを触ってたよね、というか舐めたよね。だめだよ千雅(ちか)、ばい菌がついてるんだから」
 そう言って緒方(おがた)は余計に感じるように手つきを変えてくる。
「あ……んぁ……あっあっん、きもち……いいっ」
 千雅(ちか)は緒方(おがた)の手で翻弄され、一回出てしまうのだが、それでも緒方(おがた)がやめないので、オーガズムを迎えてまでビューッと何度も潮を吹いて達していた。
「搾り取って、ばい菌を出さないとね」
「も、……だめっあぁあああぁああっ!」
 千雅(ちか)が狂いそうなほど、何度も緒方(おがた)は射精をさせてから、縋(すが)って気持ちいいと泣く千雅(ちか)に口づけをした。
「千雅(ちか)、愛してる……千雅(ちか)」
 唇が触れ、離れては愛してると繰り返す緒方(おがた)に、千雅(ちか)は微笑んで同じ答えを返した。
「緒方(おがた)さん、俺も愛してる」
 何度も何度も熱いキスをして、完全に千雅(ちか)が上せてしまった。
 部屋に戻って冷房を受けながら、千雅(ちか)はベッドで横になり、その隣で緒方(おがた)が申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめん、本当に」
 やり過ぎたと謝るのだが、千雅(ちか)はそれでも笑って許した。
「大丈夫だよ、緒方さんがするなら、大好きだから」
 千雅(ちか)はそう言って緒方(おがた)の頬を撫でる。
「千雅(ちか)、煽ってる?」
「うん、でも今日はもうできないかな」
 千雅(ちか)は緒方(おがた)を誘っておきながらもこれ以上射精を含む行為は、体力が続かないと訴えた。
「ですよね、前日にもやってたしね……」
「でも、またしてください」
 千雅(ちか)がそう言うと緒方(おがた)は完全にフリーズしてから、泣き言を言った。
「千雅(ちか)ちゃん、ひどい……俺が今無理できないの知ってて言ってる」
 その言葉に千雅(ちか)は笑う。
 するとそこに緒方(おがた)の電話が鳴って、緒方(おがた)が出て何度か「そうですか」と答え、「明日また」と言って電話を切った。
 千雅(ちか)はふと真顔になって緒方(おがた)に尋ねた。
「叔父さんは、見つかったんですか?」
そんな予感がして千雅(ちか)は言っていた。
「……うん、折原(おりはら)とは連絡を取っていたらしくて、その履歴から女の家を見つけたって」
「まさか、死んだんですか?」
 千雅(ちか)は冷静にそう尋ねていた。
「……うん、住んでいた女と一緒に、その家の庭に殺されて埋められてた。千雅(ちか)のことで揉めていて、それでお金だまし取ったようなものだから、その報復じゃないかって……」
 そう言われて千雅(ちか)はハッと息を吐いた。
 まさか叔父が先に死んでいたなんて、思いもしなかったことだ。道理で千雅(ちか)の周りをうろついているはずもない。折原(おりはら)と揉めた後、程なくして殺されていたらしい。死後二週間は過ぎていたという。
「……あの人はいつまでも迷惑を掛けてくる人かと思ってました。それももうないんですね」
 ホッとするのと同時に悲しい気がしたのは何故なのか分からないが、千雅(ちか)は両手で顔を覆って泣いた。
「悲しいの?」
 緒方(おがた)が聞いた。
「迷惑だったのはずっとそうだったっけど……殺されてよかったなんて思うのはあんまりで……」
 そんな心を緒方(おがた)には知られたくないけれど、ホッとして泣いているのもある。それに罪悪感があるのはきっと身内だからという理由だけだ。
「そう? これで千雅(ちか)のことをどうにかする人間がいなくなって、俺は良かったって思ってるけど、酷い?」
 緒方(おがた)がそう言った。酷く冷たい言い方だったが、緒方(おがた)からすれば、そういう感想は当然だろう。千雅(ちか)を勝手に人身売買し、強姦するような人間に売ったのだ。その人物が死んだと聞いて、これで邪魔が消えたと思えるのは誰でもそうだ。ただそれを口に出して言えないだけなのだが、緒方(おがた)は素直にそう感想を漏らした。
「何も万歳して喜べって言うんじゃないんだ。ホッとしたとしても何の罪にもならない。それに叔父さんは悪いけど自業自得なんだ。それを千雅(ちか)が悲しいと思うのは、お母さんのことがあるからだろ? だから申し訳ないような気がするだけだよ」
 緒方(おがた)がそう言って千雅(ちか)の頭を撫でる。
「だから泣いても別にいいんだよ。千雅(ちか)にとっては一応身内なんだ。知ってる人が殺されたら、動揺もするもんだしね」
 緒方(おがた)の言葉で千雅(ちか)は自分が偽善で泣いているのだと思えた。良い思い出なんて何一つないけれど、母親の身内で知っている人が殺されて動揺しただけだ。 緒方(おがた)はそんな千雅(ちか)の頭を撫でて、寝ておしまいと言った。
 千雅(ちか)はそのままその通りに意識をなくすようにスッと眠りに入っていった。


 翌日、千雅(ちか)は警察で事情を説明し、折原(おりはら)の自供と違う部分がないのか確認をした。折原(おりはら)は弁護士が付くと犯行を否認したが、弁護士が付かないヤクザの友野猛(ともの たける)などは自白をし、すべて折原(おりはら)の仕業であると自供している。その折原(おりはら)の部下である加地雄飛(かじ ゆうひ)は、折原(おりはら)に金で雇われていたと自供。ほぼ友野の自供と同じであることから、折原(おりはら)の主犯は免れない。
 更に襲われた千雅(ちか)の家に突入した警察がいたお陰で、千雅(ちか)の証言もしっかり補強され、更に千雅(ちか)が被害届を出していたことから、折原(おりはら)の弁護士もこのまま折原(おりはら)を無罪にできるとは思っていないようだった。
 その弁護士も千雅(ちか)に付いている弁護士が神光路(かなえ こうじ)だと分かると、供述を一転させて計画的ではなく、突発的なものだと言い張るようになった。
 けれど、人身売買の相手である久松和宏(ひさまつ かずひろ)の殺害が発覚。久松(ひさまつ)を殺したのが折原(おりはら)の雇った人間であることが分かると、折原(おりはら)の弁護士はその場で弁護を辞めた。
 勝てないからではなく、殺人事件となれば分野が違いすぎて荷が重すぎるからだ。
 折原(おりはら)は金で弁護士を雇い直していたが、どれも証拠が揃いすぎていて、無罪を勝ち取るよりも反省をしていることを前面に押し出した方がいいと思ったのだろう、千雅(ちか)に和解を持ちかけてきたほどだ。
 だが千雅(ちか)の事件を和解にすることはできても殺人は向こうにはならない。更に人身売買の証拠まで出てきたので、千雅(ちか)の事件はそっちの方でも容疑が固まったのだという。
 千雅(ちか)は和解はせず、すべてを緒方(おがた)や神(かなえ)に任せた。
警察も起訴はできると分かってやる気が出たようだった。