novel

calling-10

 寧野(しずの)が戻ってきたのは、誘拐から一週間経ってからだった。
 寧野(しずの)の言葉によると、覚えているのは二晩のみで、他は運ばれていたのかもしれないと言った。誘拐犯が船を使ったのもあり、輸送に二日ほどかかっていたと思われる。
 寧野(しずの)がロシアから戻ると、真栄城俐皇(まえしろ りおう)が連絡をしてきた。
 耀(あき)が受けた電話では。
「寧野(しずの)が新潟に今日のウラジオストクからの飛行機で到着する」
 そう言われただけだった。
 どうして寧野(しずの)がロシアにいることを俐皇(りおう)が知っているのか。いやもし偶然であったとして、どうして日本に帰そうとするのか。いや、そもそもお前は何を考えている。
 いくら考えても分からない答えは置いておいた。
 それでも寧野(しずの)は戻ってきた。
 そして戻ってくると、皆の安堵の言葉を受けるよりも早く、耀(あき)が寧野(しずの)を連れて屋敷の離れに連れて行った。



 ベッドに沈む寧野(しずの)の体を追いかけて、耀(あき)は獣のように四つん這いで歩みを進める。それから逃れるように寧野(しずの)がベッドから降りようとするのを耀(あき)は捕まえた。腕を掴んで仰向きにしたが、寧野(しずの)がまた逃げようとしたのを押さえつけるようにし、素早くズボンに手をかけ、一気に下着までも脱がせた。
「……あ」
 ズボンが中途半端に脱げていて、足が拘束されたように動かない。そのズボンには耀(あき)の足が乗っていて、完全に足は拘束したような状態だ。
 耀(あき)の前にお尻を突き出したような形になってしまっていることに気づいて寧野(しずの)が逃げようとするも、それを耀(あき)がしっかりと両手で掴んだ。尻の割れ目を開き、孔を露わにするといつの間にか出してきていたコンドームを指につけて寧野(しずの)の孔に指を二本も入れてきた。
「あっ……あぁ!」
 中を抉るように動かされ、一瞬で寧野(しずの)の逃げる気持ちがなくなる。こうされると弱いことを耀(あき)は知っていた。
 指が抜けてしまうと、そこに耀(あき)の唇が当てられた。熱い舌がぬるりと寧野(しずの)の体内に忍び込む。また指が入り、それが孔を広げ、そして舌がその周辺を舐めてくる。
「んぁあああぁっ……あぁ……んふ……んっ」
 堅い蕾を広げられるだけ広げ、孔は唾液で溶けてぬちゃっと音を立てている。指が三本入り、くちゅくちゅと音を立てながら出入りを繰り返す。
「ぁああぁ……だめっああ……だめ……んぁあっ」
 孔を耀(あき)の指でかき回され、触ってもいない寧野(しずの)自身が、ポタリと精の先走りを見せていた。ねったりとした液がどんどん溢れ、ベッドのシーツを汚していく。
 寧野(しずの)は枕を掴んでそれを抱きつき、快楽を味わいながらただひたすら悶えた。
 指が抜き取られた時には、そこはすでに淫蕩に変えられていた。いつの間にか足されたジェルで、孔は完全に耀(あき)を受け入れる準備を整えてしまっている。
 ひくひくと収縮をし、待ちわびるように動くうねりに耀(あき)自身が近づけられた。
「あぅっあぁっ……んっ」
 ズッと耀(あき)自身が寧野(しずの)の中に入り込んできた。大きさや熱が一気に伝わってきて、寧野(しずの)の中で耀(あき)はさらに大きくなる。耀(あき)自身が脈を打っているのすら伝わってきて、耀(あき)の愛の強さを感じる時だ。この時こそ、耀(あき)の寧野(しずの)への執着がいかに強いか感じることができるのだ。
 根本まで入り込むと、勢いよく引き抜き、そしてまた奥まで突いてくる。激しい動きを二三回繰り返した後、耀(あき)は小刻みに孔をかき回した。
「あぁあっ……あっは……はっあ……んんぁっ」
 中をこすられる感覚が心地いい。それに併せて寧野(しずの)も腰が動いてしまう。ゆらゆらと動きに合わせてくる寧野(しずの)に耀(あき)はニヤリと笑う。
 こういう風にしつけたのだ。気持ちよければ好きに動いていいと。それを寧野(しずの)は恥ずかしながらも、段々と慣れてきた。今では言われなくてもそうするし、気持ちいいと体で表現することも得意だ。
 寧野(しずの)の内部が耀(あき)自身を捕まえ射精へと導く。孔の中で弾けると、寧野(しずの)も一緒に達した。
 ぐったりとした寧野(しずの)がそのままベッドに沈むと、耀(あき)はすぐさま寧野(しずの)中から出て、寧野(しずの)の体を仰向けにした。
 露わになっている達したばかりの寧野(しずの)自身に、耀(あき)はそれを掴んで口に入れた。
「……ああぁああっ……だめっいったばかり!」
 残滓のある寧野(しずの)自身を耀(あき)は口で何度もしごき、寧野(しずの)自身を起たせると、密を吸い取るように丁寧に舐め、そして口の中に射精させた。
「も……ああぁあああ!」
 搾り取るようにいった後も舐めとり、そしてそのまま寧野(しずの)の腰を持ち、一気に孔に耀(あき)自身を忍び込ませた。
「ひっぃぃっ……やぁあっ……死ぬ……あぁ!」
 今度は早急に奥まで突かれ、その衝撃でドライオーガニズムに達する。びくびくと震える寧野(しずの)の体をさらに耀(あき)は突き、一度吐き出した精のせいでなめらかになった内部を自由自在に動き回り、寧野(しずの)だけがまた達する。
 寧野(しずの)の上着を剥ぐと、そこに残るキスマークの数に耀(あき)は一瞬だけ我を忘れそうになる。だが、こうなったのは己の未熟が呼んだものだと言い聞かせて、そのすべてを上から塗り替えた。
 震える体の乳首に吸い突き、飴玉を舐めるように舌で転がして美味しそうに耀(あき)は舐め尽くした。
「ふっう……んぁあっあっ!」
 片方の乳首を吸い、吸ってない方を指でこね回し、寧野(しずの)自身は耀(あき)の腹にこすられている。腰は緩やかに動くというやり方はすべてを攻めている。寧野(しずの)の腹には吐き出した精がまた貯まった。それでも勃起は止まらず、起ったまま精を吐き出している。
「あああ……あぁああ……ああぁぁっ!」
 気が狂ってもおかしくない快楽に寧野(しずの)はただ翻弄されるだけだ。
 それもこれも全部自分が招いたことであるから、受け入れるしかない。
「耀(あき)……んぁあ……すき……」
 怒りに満ちている顔を眺めながらも、寧野(しずの)は微笑んで耀(あき)にそう言っていた。
 するとその答えは簡単だった。
「そんなのは知っている」
 その言葉と同時に耀(あき)は寧野(しずの)の中に射精した。吐き出た瞬間、孔から抜き、残りの残滓を寧野(しずの)の体にもかけた。
 それは雄がするマーキングだ。
 寧野(しずの)精と耀(あき)の精が混ざったものが、寧野(しずの)の腹に乗っている。寧野(しずの)はそれを混ぜ合わせるように手に取って、腹を撫でるようにした。
 そうだよ耀(あき)のものだよと言うようにだ。
 耀(あき)はそれを見て少し驚いたような顔をしたが、穏やかな笑顔を向ける恋人の言いたいことは理解できた。
「お前を今更ほかの誰かにくれてやるつもりは毛頭ない。お前が望んでもだ」
 耀(あき)がそう言い切ると、寧野(しずの)は頷いてから言った。
「そんなことがあったら、その時は殺して。そして耀(あき)のものにしておいて」
 そんなことはないと言わない。
 もし耀(あき)の命に関わることで寧野(しずの)が選ばざるを得ない時がきた時、寧野(しずの)は耀(あき)の命を優先するために、耀(あき)には不快な返答をするかもしれない。
 だからその時は殺してくれて構わないと言うのだ。
 耀(あき)を生かしてなおかつ、足かせにならないために。
「二度と耀(あき)の重荷にはならない」
 寧野(しずの)の決意は、耀(あき)が考えているよりも重い。普通の人間ならこの重さに耐えられはしないだろう。気に入らないなら殺してくれていいと口では言える人間は多いが、寧野(しずの)は心の底からそう願っている。這いずってでも戻ってくるような人間が言う言葉だ。軽いわけがない。だがその答えに満足して微笑むのが宝生耀(あき)だった。
「いいだろう、その通りにしよう」
 そういう約束を作った。だから絶対に寧野(しずの)が耀(あき)を裏切ることはない。耀(あき)のためにしか生きてないと寧野(しずの)が言うのだから、その通りにしておこうというのは卑怯なことかもしれないが、それでも耀(あき)には嬉しいことだった。
 地獄の底までこの恋人は付いてきてくれるというのだ。
 それを幸福と思う方もおかしいのだろうが、この世界にいて、いつ死んでもおかしくないのだ。こういう約束はありだ。
 寧野(しずの)は答えを受け取った後、耀(あき)の残滓で溢れる孔を広げてみせ、そして言った。
「もっとちょうだい」
 欲しくて甘える様子に、終わっていた興奮がよみがえる。そそり立つ物を見て寧野(しずの)は嬉しそうにしながらも恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「欲しいなら」
 耀(あき)がそう言うと、寧野(しずの)は起きあがって、耀(あき)自身を躊躇なくくわえた。耀(あき)自身の先をちろちろと舐め、側面を舐めながら、ゆっくりと口に含んでいく。口の中一杯になるほど大きくなった耀(あき)自身を口腔を使ってしごいて吸う。
「……んっ……はっ」
 耀(あき)も気持ちがいいのか、うめきをあげて寧野(しずの)の頭を撫でている。寧野(しずの)はそれが気持ちよくて、耀(あき)の足に手をかけて、体を使って口腔の耀(あき)自身をしごいた。
 そのうち、耀(あき)が寧野(しずの)の頭を掴んで、強引に喉まで突き刺さるような動きをして寧野(しずの)の口腔を犯す。
「うっうぅ……」
 喉まで突かれてむせかえりそうになりながらも、それさえも気持ちがいいと思うほど寧野(しずの)は耀(あき)の物を大事にくわえていた。
 その寧野(しずの)の口の中に、耀(あき)は精を放った。
 熱い迸(ほとばし)りが口腔からあふれ出すも、寧野(しずの)はそれを必死にこぼさないように飲んだ。耀(あき)自身をくわえたままあふれ出た精を飲み、耀(あき)自身についている残滓さえも丁寧に愛おしげに舐めた。
「さあ、次はどこに欲しい?」
 耀(あき)がそう言うと、寧野(しずの)は耀(あき)に尻を突き出した。そして自ら足を大きく広げ、孔がよく見えるようにして見せた。寧野(しずの)の孔はさっきの耀(あき)の残滓がトロトロと溢れ、シーツに落ちる。
「ここ、突いて」
 可愛くねだるように寧野(しずの)が言うと、耀(あき)はそこへ自身を当てて、ゆっくりと進入した。その途中でローションを足した耀(あき)は、激しい突きで寧野(しずの)を犯し、達する寸前に止めては首筋にキスを降らせ、さらに腰を進めという行動を繰り返した。
 我慢しきれなくなったのは寧野(しずの)の方で、寧野(しずの)はとうとう叫んでいた。
「中をもっと突いて、もっともっと、中で出して一杯出して」
 耀(あき)の首に手を回して耀(あき)の耳元でそう言った瞬間、耀(あき)は激しい動きで寧野(しずの)を一気にドライオーガニズムにさせると、そこをさらに突き、ほぼ痙攣していると言っていい寧野(しずの)の孔を陵辱し、エクスタシーという最大の絶頂を得られた。
「しんじゃ……う、ふ……あぁあああっん!」
 望み通りに奥まで突いた瞬間に耀(あき)も中にすべての精を吐き出した。内壁は耀(あき)自身を抱きしめるようにギュッと締まって絡まり続ける。
 耀(あき)はその締まりを快く感じながら、寧野(しずの)の絶頂が終わるまで中から出て行くことはなかった。
 寧野(しずの)の快楽が過ぎるのは、いつものように長い。最近はもっと感じるようになっているのか、気絶寸前まで行ってしまう行為でも寧野(しずの)は何でも受け入れた。
 耀(あき)のすべてが欲しいと、平然と言う寧野(しずの)は、耀(あき)がさらけ出す凶暴性すらも受け入れてくれる。
 無理矢理始めることもあるセックスでも、寧野(しずの)は本気で嫌がりはしない。戸惑いながらも結局行為をさせた後、何があったのかと聞くような性格だ。気持ちいいことをしているのに罪悪感を与えたくないと思っているらしく、耀(あき)には甘いのだろう。
 耀(あき)もそれを知っているから、寧野(しずの)に甘えて、無茶をする。その無茶さえも寧野(しずの)は包んでくれる。
 懐の大きな相棒だと思っているが、それ以上に寧野(しずの)の懐は深く甘い。
 

 風呂に入るのも一緒になるともちろん、ただですむわけはないが、今回は寧野(しずの)も自分が悪いと思っている部分が大きいと分かっているのか、耀(あき)を快楽に誘い、怒りを静めようとしてくる。
 普段なら風呂セックスはいやがるのだが、今回は積極的に耀(あき)の体を触りまくり、乳首を愛おしげに吸い、体中をなめ回した。それに反応した耀(あき)自身をまた大きくなったと喜んで舐める。
「んふっ」
 どうやらフェラチオは好きらしく、躊躇なくくわえるようになっていた。口の中に出してやるのも喜ぶようになっているから、耀(あき)好みに成長を遂げてきている。
「ん……ん」
 くわえている口の端から涎が溢れ、それが滴っているほどの執着で、寧野(しずの)は耀(あき)自身を舐めた。先走りが出始めると、先端を集中的に舐めて、くわえては舌で舐め、キャンディーみたいな舐め方をしてはくわえると繰り返した。
 そして本格的にくわえてくると、口の中に出して欲しくて催促するように舌を絡めて吸いついてくる。寧野(しずの)の好きに任せておくにしておいたが、それでも耀(あき)は達することができた。その耀(あき)が達したものを口一杯に頬張ると、寧野(しずの)も一人で達した。口内を犯されるだけで達してしまうほどに寧野(しずの)はどうしようもなく、耀(あき)のことが好きだった。
 口の中一杯にしてやると、綺麗に舐めとって飲み込み、嬉しそうに笑う。だが萎えた耀(あき)を見てまたそれをくわえて起たせようとする。


 湯船に入っても収まることはしなかった。
 座っている耀(あき)の上に寧野(しずの)が跨がり、さっきまで己がくわえていたものを孔の中に招き入れる。
 水の浮遊力を借りて動きやすくなっているのか、寧野(しずの)は自分のペースで進めた。
「んっあ……あぁっ……んっ」
 バシャバシャと水が鳴っているが、その音に負けないほど寧野(しずの)は声を上げていた。気持ちよくて仕方がないという腰の動きに合わせて動いてやると、寧野(しずの)の声はもっと甘くなる。
「んぁっはっ……あっ……あぁっ!」
 とどまるところを知らない性欲というのは、通常、どっちかが参ってしまう。いわゆる性の問題というところに突き当たる。
 もし寧野(しずの)が普通の男とできていたとしたら、ここまでつきあってはくれないだろう。それくらいに淫乱で妖艶である。持て余してしまうところなのだが、耀(あき)はそれ以上の絶倫だった。
 本人は寧野(しずの)に煽られればどこで欲情できると公言するほどの絶倫で、前は寧野(しずの)がついていけずによく気絶していた。最近は体力をつけた寧野(しずの)が耀(あき)のペースについてくるようになり、ついにはほぼ同じほどの性欲である。
 なので、どちらかが終わりにしようと言わない限り、絶頂の回数が多い寧野(しずの)がそれこそ気絶するまで続けることになる。
「耀(あき)……耀(あき)」
 もっと欲しいと誘う腰が性器を飲み込んだままで何度も中が収縮する。催促するように締め付ける内壁に、耀(あき)は満足して手を貸してやった。
「あ! あっ!」
 押しつければ吐き出すように寧野(しずの)の甘い声がバスルームにこだまする。バシャバシャと水がうねって跳ねる音がなるが、それでも浮遊からなのか、何かが足りない感じであった。
「寧野(しずの)、立ってこっちにケツを向けろ」
 耀(あき)が壁に手をつくように言って、寧野(しずの)を立たせ、湯船の中でそのまま閉じそうな孔にまた耀(あき)自身を一気に根本まで突き刺した。
「……っ!」
 声も出ないほどの衝撃に寧野(しずの)は一気に達した。
 パシャリと精が吐き出され、滴る様をみて耀(あき)は動き出した。
「ああぁ! ああっ! いってる! いってるの! やぁああっ!」
 パンパンと体がぶつかり合う音がなるほどの激しい動きに、寧野(しずの)は壁にすがりついたまま快楽に耐えた。
「きもち……いい……あっあっん……いい!」
 もはや何を口走っているのかさえ本人は分かってないだろうが、とにかくいいとだけ口にしか出ないほど、快楽は相当気に入っているようだった。耀(あき)も寧野(しずの)の中を犯しながら、その気持ちよさを味わっているから、気持ちは同じだ。
「ふっん」
「……あぁああっ!」
 寧野(しずの)は欲しかった奥に熱い迸(ほとばし)りを受けて、体の力が抜けそうになるのを耀(あき)が支えてやった。そのせいでさらに奥まで精が塗られ、寧野(しずの)はそれさえも感じて、快感を味わった。
 それから今度は真面目に体を洗い、寧野(しずの)の中に出したものを掻きだしたのだが、その時寧野(しずの)が一回達して、さすがにやりすぎたと耀(あき)が思った時には、寧野(しずの)が完全に気を失っていた。
 気を失った寧野(しずの)を大事に抱え、体を拭いてやってバスローブに包んで別の部屋のベッドに寝かせた。さっきのベッドは使えないので、シーツを外し、それを洗濯機なのかに入れて洗いをして、それからベッドに戻ると寧野(しずの)の安らかな寝息が聞こえてきた。
 耀(あき)はそのベッドに入り、寧野(しずの)の頬を撫でてから言った。
「本当に今更なんだ。お前を手放すなんてあり得ないんだ」
 耀(あき)は寧野(しずの)を選んだとき、自分の確たる未来を捨てた。寧野(しずの)と一緒にいるために様々なことを模索し、実行してきた。もはや一緒に生きることが耀(あき)にとって一番大事なほどだ。
 それをたかだか親戚程度のつながりで、簡単に引き裂けるとでも思ったのかと怒りがわく。そしてそれに会っていた寧野(しずの)にもだ。
 本人はその気はなかったと言っていたが、本当にそうなのか分かったものではない。
 そこまで思って、耀(あき)は心を静める言葉を思い出した。
「その時は殺して」
 寧野(しずの)はそう言った。
 耀(あき)のものであるために、耀(あき)がそれでも信じられないなら、殺してと。
 まさに今のことだ。
 寧野(しずの)は耀(あき)が信じられないと憤っていることを悟って、疑うなら殺してくれて構わないと言ったのだ。
 たぶん、その時でも寧野(しずの)は耀(あき)を愛していると言うのだろう。嘘偽りなく、この手に掛かりながらも耀(あき)を信じて死んでいくのだ。
「……あーき……す……き」
 不意に飛び込んできた寧野(しずの)の寝言に、耀(あき)は我に返る。
 寧野(しずの)をこの手で殺すことなんて、きっとできない。
 だって寧野(しずの)は耀(あき)を愛している。そのために寧野(しずの)は一般人でいることや平穏な未来を簡単に捨てて耀(あき)を選んだ。汚い仕事にもせいを出して耀(あき)の信頼を得ようとがんばってきた。そんな寧野(しずの)が耀(あき)を裏切るなんてことはあり得ないのだ。
 彼の中で耀(あき)が何よりも大事で、生きる目標。
 今回のことも生きて帰ることを選んだ結果にすぎない。
 耀(あき)はそれを知っている。だから殺せない。
「……お前、分かってて言ってたな」
 耀(あき)が寧野(しずの)を殺せないことなんて、寧野(しずの)は知っているだろう。だから殺してと言った。
 ずるいとは思う。だがそれでも寧野(しずの)は耀(あき)が分かってくれると思っている。寧野(しずの)は耀(あき)に嘘を吐いたことはない。何もかも正直に話してきた。だから今回のこともきっと罪悪感を覚えながらも答えを言ってくるだろう。
 よくいえば耀(あき)に対しては馬鹿正直なのだ。
 耀(あき)は寧野(しずの)の頬を撫で、小さくため息を吐く。
「後で覚えてろよ……」
 この程度で許してやるほど、耀(あき)は慣用ではないと口に出してみる。
 やることは一つだけだが、ただ少々しつこくなるだけのことだ。それくらい寧野(しずの)も分かっているだろうけれど。