novel

everyhome-14

「那央(なお)って、侑(ゆう)さんのことどう思ってるの?」
 昼食時にいきなり摩鈴(まりん)がそう聞いてきた。

 久々に4人揃って昼食になったが、バイトに関しては上手くいっていると話していた。けれど、他3名の関心事はそこにはなかった。那央がバイトが上手くいってないならそう相談していただろうからだ。

「ど、どうって?」

 どういう意味で聞かれているのか那央は聞き直した。普通にいい人だからと答えるのとはまた違った意味で聞いてきているのだとは分かっていたが、それが何なのか分からなかったからだ。

「いやだかね。好きとか嫌いとか」
 摩鈴はそう言って話を進めようとする。

「摩鈴、それじゃ那央は分からないよ」
 海都(かいと)がそう言って摩鈴にはっきり言うように勧める。

「いやーなんというかさ。はっきり聞くのもどうかと思うわけでして」
 普段言いたい放題、聞きたい放題だと言うのに、今日はどうも問題が違うらしい。

「聞きたいくせに聞きたくないと?」
 大雅もそうツッコム。
 どうやら那央に本当の意味での好きか嫌いかを聞きたいらしいのだ。
 それを他の2人も聞けよと言っている。

「んー……よく分からないけど、気になる人だなとは思うよ」
 那央は先手を打ってそう言った。

 好きか嫌いかと聞かれたら好きだと答えるところだが、それはなんだか違う気がする。ただ好きなだけでは、こんなに気になるなんてことはない。実際、大雅の事でも大雅は話すまでは気になりもしなかった。

 いつもとは違う好き。それが恋愛感情なのかはまだ分からないのだ。

「き、気になる人? ってどういうこと?」
 摩鈴がそう聞き返す。
 那央はゆっくりとお茶を飲んでから答えた。

「うん。なんかね、すごく侑さんのことを知りたいなって思う。あの人は強くてすごく優しいから、なんでも甘えられるかなって思ってたけど、そうじゃないって分かったから」

 那央はすごく穏やかな顔でそう言う。その顔を見たことがなかった摩鈴、海都は仰天している。
 しかし、大雅は驚かない。最近那央はこういう顔をするようになったのだ。あの侑と知り合ってからここずっとそうだ。

「なんか、那央ちゃん、柔らかそうなんだけど……」
 摩鈴がそう表現する表情は、本当に柔らかいもので、他人の話をしているときには出るものではなかった表情だ。

「実際柔らかいんじゃないか? 相当甘くされているみたいだしよ」
 大雅はなんてことないと答える。

 実際問題はおいていくとして、那央はかなり侑に興味を持っていることが分かる。それが恋愛に発展するのか、それともただの憧れで止まってしまうかは、向こうの出方次第なのだろうと大雅は思っている。

 とはいえ、向こうは大雅を敵意で一度見てきているから、一目惚れか何かで那央のことはかなりお気に入りなのだろうと伺える。

「……へえ、あの人が甘いねえ……怖いななんか」
 摩鈴が信じられない顔をしている。彼はとても厳しい人で、人にも同じように結果を求める人である。それに人にも自分にも厳しくしているから、人に甘くしている様子など想像出来ないのである。

「いやあ、なんかもうメロメロって言葉使ってもいいよね」
「いいんじゃないの。実際そうだし」
 海都は平気な顔をして言う。

「あのさ、気に入ってもらってるのは嬉しいよ、でも、なんで好きか嫌いかなんて聞くの?」
 那央は何の話になっているのか分からずに尋ねる。
 今までちゃんと恋愛の話をしていたのにと全員ががくっとなる。

「那央ちゃん、初恋はいつですか?」
 摩鈴が真剣に聞く。

「は? えっと、小学生の時だったかな」
 いきなりの変な質問であったが、那央は素直に答える。

「成就しましたか?」
「しないよ、俺嫌われていたから」
 那央はまさか成立するわけ無いと手を振って笑って流した。

「ええ〜〜〜〜〜〜なんで?? 那央の小学生の時なんか、可愛すぎて天使だったろうに!」
 摩鈴が信じられないと叫ぶが、大雅が苦笑して言う。

「女はな、自分より可愛いとか美人から好かれると、引き立て役か!?と思って嫌いになるんだよ」
 経験があるわけではないが、そう女が言っていたと大雅は言う。

「ああ、肝の小さい女の話なんか私は知らない。そんなのいいじゃん、彼氏美人でさ」
 そういうのを自慢したくなる摩鈴。それどころかその彼氏より可愛くなってしまうところもあるので、他の人とは違う人種だ。

「摩鈴はそうでも他は違うということだ。一般的な女の場合は、那央と一緒に居たくないなと思うそうだ」
 高校時代にそういう話が出て、大雅はそういうことを聞いた。

「じゃあ、那央……」
 摩鈴がすごく悲しそうな顔をした。
 それでずっと一人だったのかと。

「あ、うん。大雅がそういうまで、ただ単に嫌われていると思ってたんだ。そういう考えがあるなんて思わなかったしね。だからいいんだ」
 嫌われたり、憎まれたり、そういうことには慣れている。慣れているから無視することも覚えた。

 負の感情は受け続けると確かに負担にはなるが、学校やそういうところだけなら那央は耐えられると思っていた。

 大雅と知り合って、段々変わって来たし、摩鈴や海都と知り合って、友達はいいものだと気づいた時には、ちょっと悲しかったくらいだ。

 何故自分は人と違うような道を来たのだろうと。そこへ元凶だと思いこんでいた母親の死。彼女を恨むことは間違っているのだと気づいてまた落ち込んだりもした。

 そうした時、自分を引き上げてくれたのが、この3人だった。

「もしね、侑さんか摩鈴たち、どちらかを選べって言われたら、俺は摩鈴たちを取るよ」
 那央はそう言って少し寂しそうにする。
 三人はそれを聞いて驚いた顔をする。
 那央はこういうことを結構言うのだが、寂しそうな顔をしたのは初めてだった。つまり那央は侑を選べないことが寂しいと思っているということだ。
 それはかなりの心の変化だ。

「なーに言っちゃってるの、そういう時は両方取るんです」
 摩鈴がそうはっきりと言う。あまりに可哀想なのでそう返してしまった。

「りょ、両方?」
 那央にはその両方を取るという考えはなかったらしい。驚きようで分かる。

「そうです、両方取っても罰は当たりません。それにそんな選択をせまるようなヤツとは付き合っちゃいけません」
 摩鈴ははっきりとそういう。仕事と私どっちが大事なのなどという相手は元々次元が違うのだと。

「だよね。どっちかなんて両方好きなのに選べないよ。なんでそんな選択しなきゃならないんだよ、大事の意味が違うって言うのにさ」
 海都がそう言う。そういう風な選択を迫られたことがあるらしい。

「大事の意味が違う……そう、だよね」
 那央はやっとそのことに気づいた。

「俺たちを好きなのと、侑さんを好きなのは違うと思うよ」 
 海都がそうけしかける。

 那央は最初はキョトンとしていたが、大事の意味が違うように、好きの意味も違うのだということを言われたのだと思った。

「……そう、かも……」
 なんとなくではあるが那央は自覚してきていた。

 違うと言われた意味はすぐに理解出来たけれど、侑は一体何の好きに入るのだろうか、そこが悩みどころだった。