novel

everyhome-15

 那央(なお)の仕事が終わって、その様子をいつものように見に来た侑(ゆう)は少し驚いていた。
 というのも那央にじっと見られているからだ。

 那央から見られていること自体はそんなに珍しくないのだが、那央が仕事がちゃんと出来ているかいないかでその様子を見ているのではなく、明らかに違う視線で侑を見ていたからだ。

 こんなに熱い視線、どうしたのか?

 海都(かいと)からの報告では、好きの種類の自覚をさせたらしいが、その確認しては熱心すぎる。

「那央、どうした?」
 侑が言葉を向けると、那央はハッとして視線を逸らし、また視線が戻ってくる。

「あの、今日の分は……」
「ああ、いいよ。これで上出来だ」
 侑は中身を確認して言う。那央の仕事はいつも完璧だったからそんなに問題があるはずがなかったのだが。

「よかった」
 那央はホッとして胸をなで下ろす。

「今日の那央はどうしたのかな? 視線がとても熱い」
 侑が椅子に座って那央の視線と同じ位置にする。その視線が真剣で、那央はびっくりした。
 何かがいつもと違う。そしてそれを仕掛けたのはきっと自分なのだと那央は思った。

 あんな目で見たりしたから。何かが変わったのだ。

「……あ」
 頬に当てられた手はいつもの様に暖かいが、何かが違う。 

「この唇は何が言いたいのかな?」
 そう言って指で唇を撫でられた。そうされて一瞬で那央は固まってしまった。

「那央」
 侑の呼ぶ声でハッと我に返る。

「あ……あの、好きの意味を考えてました」
 那央は素直にそう言った。

 今のは何だったのか。いや、それどころか自分はドキリとしてはいたが、嫌ではなかったではないか。
 その意味は何なのか。

「好きの意味? どんな好きなのか? それは私のことかな?」
 そう言われて那央は素直に頷いた。

「貴方を、どの好きなのか、当てはめてみようとしたのですが、俺が知ってる好きには当てはまらないんです、何故?」
 那央は本当に困っていた。

 大雅を好き、摩鈴(まりん)を好き、海都を好き、知り合いや、大家さんが好き。そういうのを全部当てはめていくと、知っている好きに当てはまるのに、何故侑はどれにも当てはまらないのか。それをずっと考えていた。那央はそう呟く。

「どれにも? そう。それは那央が知らない好きだからだろうね」
 侑はにこりとしてそう言う。

「え?」

「私のことは好きなんだ?」
 侑はそう言って那央を誘導する。

「はい」
「では私と同じ好きかもしれないね」
 侑はそう言って更に優しく笑う。こういうことを教えるのもまた一興だった。
 那央はちゃんとした意味での恋愛の好きを知らないのだから。

「同じ?」
 那央はきょとんとして侑を見つめる。その目が真っ直ぐでとても綺麗だった。

「好きにもいろんな種類があるが、愛するというものもあるんだよ」
 侑はどんどん話を進めていく。こうすることで那央が自覚してくれると嬉しいからだ。

「……愛、する?」

「そう、抱きしめて、撫でて。そうしてもっと自分のものにしておきたい、そういう感覚だね」
 そう侑が言うと那央は思い当たることがあったように声を出した。

「……あ」

「それはある?」
 確認する。

「……はい」
 那央はそう言って侑の頬を触る。
 そう思ったのは侑に触った時だ。

「もっと触りたい?」
「はい……」
 鋭い目が自分を捕らえていて、那央は誘われるがまま侑に触っていた。

「違う触れ方もあるんだけれど……」
 侑がそう言うと、顔が近づいてくる。そのままぎゅっと目を瞑ると唇に何か触れる感覚があった。

 ハッとして目を開けると、キスをされているのだと分かった。
 最初は触れるくらいのキスをたくさん。そして段々と長くなってくる。

「ん……は……」

「ああ、いい顔をしている。キスは好き?」

「……あん……」
 耳たぶに直接吹きかけられた言葉に那央はびくと身体を震わせる。この身体がどうにかなってしまいそうで、ぎゅっと侑の腕を掴む。

「お、俺、ど、どうか……なっちゃうの……?」
 那央はうっとりした顔をしてそう言っていた。

「那央、大丈夫。気持ちいいんだな?」
 ちゅっと頬にされて、また唇にキスがやってくる。

「んん……ふ……」
 舌が口内に入ってきた時は少しびっくりしたが、これがディープキスなのかと思いながらも那央は受け止めた。舌を吸われたり、口中をいやらしく這い回る侑の舌が何故か気持ちい。          

「あ……ん……」
 トロリとした目をした那央が侑を見つめる。半分は夢見ごちなのだろうが、実にいい感じになってきた。

「今日はこれくらいでいいかな」
 那央がこれ以上耐えることが出来るとは思わないので、キス止まりだなと侑は思った。今このままの状態で押し倒してもいいのだが、それでは那央の心はまだ分からないままになってしまう。

 好きだと思わせ、そう思って侑を欲しがるようになるまでは、まだだと侑は思う。
 好きな人に好きだと言われたい。欲しいと求められたい。その欲求が侑には出てきた。
 那央はそうした想いを確実に育ててきている。侑が望むような方向でまっすぐに育ってきていた。

「ん……」
「那央。可愛いな……」

「やん……」
 頬にキスされると那央がピクリと眉をハの字にする。

 侑に寄りかかるように崩れてくる。それを支えて背中を撫でてやると、ホッとしたように那央が身を任せてくれた。

 このまま何をされてもいい。そんな気分にさせている。それが嬉しくなってくる。

「那央、今日も送るよ」
 そう言って侑は那央を立たせる。

 那央はぼーっとしたまま立ちながらも、荷物を持って後を付いてくる。まるでひよこが初めて親を見た時のような感じだった。