novel短編

「初めてだから」-3初めてだからうまくいかない

「な、天野、一緒に今度出かけないか?」

 そう塚本が言ってきたのは翌々日くらいだった。借りたCDを録音したので返していた時に、塚本がそう言って友達と今度遊びに行くんだけれど一緒に行かないかと持ちかけてきたのだ。

「え、でも」
 それは塚本と仲がいい友達同士の話じゃないのかと天野が言うと、塚本はどうせいつもつるんでるだけの奴らだから気にするなと言われた。

 最初行く気はあったが、他に友達がいるんじゃなかなか自分は仲間に入れないと思って断ろうとするも、そこにまた久保が口を挟んで勝手に行くことを了承してしまった。

 一旦約束したことは守らないといけないと塚本たちに迷惑にならないように天野はなんとか私服も気をつけて準備までした。


 そんな日曜。塚本たちと出かける。待ち合わせ場所までそれほど遠くはなかったが遅刻して迷惑かけるわけにはいかないので早めに出て、塚本と落ち合う場所に10分前に着いた。そこに立ってずっと人を眺めていると数分で塚本がやってきた。

「早いね」
「早く着いてしまって」
 そう言って天野は笑う。塚本も笑って時計を見る。

「後5分か。あいつら時間守らないから何分待つかな」
 そう言うとその待ち合わせ場所の後ろにある喫茶店に塚本が入ろうと言った。

「どうせ10分以上遅刻するやつらだから、立ってるだけじゃしんどいだろ」
 塚本はそう言って天野の手を引いて喫茶店に入る。そこでコーヒーを頼むと、塚本が言う。

「ここにはミルクも砂糖もあるぞ」
「はいはい、使いますよ。たっぷり」
 また小馬鹿にされて天野はもう慣れたとばかりに砂糖とミルクを使ってコーヒーを飲んだ。

 やっぱりブラックは口には合わないのは仕方ない。見栄を張っても仕方ないと思ったのだ。

「今度はちゃんと用意しておくからな」
「いいですよ、もったいないから」
 くすくす笑って言われるとやっぱりからかわれているようだ。
 というより今度は本当にあるのだろうかと、ふと天野は気になった。確かに塚本と出かけるようになったから親しくはなっているのだろうけれど、また家に行くなどということはないような気がするのだ。

 CD借りるにしても持ってきてもらえば済むことだし、返すにしても学校で十分だからだ。
 そう考えるとちょっと悲しくなってくる。
 それからちょっとした学校の話をしていると、やっと塚本の友達から携帯に連絡が入ったようだ。

「やっときたらしいよ。じゃ行こうか」
 塚本はそういってレシートを持って行ってしまった。自分の分は払うというと、また今度奢ってと言われて却下されてしまう。往来でお金の押し付け合いも迷惑になるかと思い、天野は今度があるなら絶対に奢ろうと決心した。

 塚本の友達はちょっと派手な人だ。よくナンパなどをしているようなそんな雰囲気がある軽い人で、名前は山本と大内と言った。あまりクラスには馴染んでなく、よく授業をさぼったりしている人たちで、塚本以外とは会話もしないことが多い。
 そんな人たちが天野を見て、なんだこいつという顔をして言った。

「なんで、こんなのいるんだ?」
 そう言ったのは山本だ。
 一瞬びくっとする天野。あまりこういうズケズケとモノを言う人間には慣れてないのでおどおどしてしまう。

「俺の友達だからだ」
 塚本がそう言うと、山本はふーんと言って話をさっさと切り上げた。どうやら気に入らないのか無視することにしたらしい。その横に立っていた大内はにやっとしただけで何も言わなかった。

 塚本には悪いが、天野にはこの人たちとは合わない気がしてならなかった。
 この後もゲームセンターに行ったりしたが、どうしてもその場に馴染めず、天野は角にあったベンチに座ってジュースを飲んでいた。塚本はシューティングゲームを一旦やり終えると、そんな天野を見つけてやってきた。

「もしかしてゲーセン苦手?」
 そう問われて天野はちょっと困った顔をしてから頷いた。

「大丈夫かと思ったんですけど、こんなに賑やかだなんて思わなかったから」
 日曜のゲームセンターはそれは人でごった返す。家族連れなどもいたりして、かなり騒がしい。ただでさえゲーム音でうるさいところに大声で話す人、そんな人がたくさんいるのだ。

「そうか。だめだったか」
 そう言った塚本は山本がゲームしているところへ言って何か言っている。山本は塚本が言った言葉に驚いていたらしく、瞬時に天野の方を見て睨んだ。そして塚本が何かを手渡すと悪いなという感じに頭を下げてまた天野を睨む。
 戻ってきた塚本は。

「じゃ、外出てちょっと何か食べよう」
「あ、いえ、いいです」

「遠慮しないで、俺がそうしたいから」
 気を遣ってくれているのは十分に分かるのだが、せっかくゲームセンターに来て楽しんでいるのに中断させてしまうのは悪い気がする。

「いえ、もう時間も時間なので帰ります」
「え? 夜もちょっと一緒に行きたいところがあったのに」
 塚本はそう言って残念そうな顔をする。どうやらどこかまだ連れて行きたいところがあるようだ。

「ね、もうちょっとだから」
 そうまでお願いされると断るわけにもいかず。

「……家に電話しないと……」
 そう言って天野は塚本の傍を離れてトイレに向かった。そこが一番静かで電話しやすい場所だったからだ。
 どう親に言おうかと迷っていると、トイレに山本が入ってきた。

「よう」
「あ、どうも」
「なんだよお前、ほんと邪魔だな」
 山本はいきなりそう言った。いきなりの言葉に天野の顔が凍り付く。
 その表情を見た山本はさらに追い打ちをかける。

「塚本もこんなのと一緒じゃ楽しめないだろ。お前さっさと帰れよ。いらねーんだよ」
 そう罵倒されて、天野はそうなのかもしれないと思った。山本の言い分ももっともだ。せっかく塚本が連れてきてくれたのに楽しめない自分が悪いのだろう。ゲームセンターくらいで文句言うようなヤツは最初から邪魔なのだ。

「じゃ、さっさとママのところへ帰れよ」
 山本はそう言うとトイレから出て行った。どうやらそれだけを言いに来ただけのようだ。

 そうまでされると本当に自分は邪魔なのだなと思う。友達の友達とは上手くいかないのは分かったし、塚本はもともと山本たちの友達なのだから後から入ってきて文句を言う天野が邪魔だと思うのは仕方ないことだ。
 そう思うと天野は何故塚本がこんなところに自分を誘ったのかが分からない。
 どう考えても合いそうにもないのは分かりそうなものなのに。

 いろいろ考えていても仕方ない。邪魔だと言われ帰れと言われたのだから帰るしかないだろう。塚本たちの楽しみにの邪魔をしてはいけない。
 そう思って天野はトイレを出ると、塚本の元に戻ってこう言った。

「あの、やっぱりだめって言われました。早く帰ってこいって……残念だけど、今日はもう帰ります。誘ってくれてありがとう」
 天野はそう言って頭を下げて礼を言った。

「残念だね、また遊ぼう」
「……はい」
 それはもうないかもしれないなと思いながらも、約束だけはしてしまった。

 駅まで送ってくれるという塚本を制して天野は逃げるようにゲームセンターを後にした。
 塚本とは気が合うけれど、こういう遊びでは気が合わないのだろうなと思うとなんだか泣けてきた。

 もう遊びに行くことはないだろうし、誘われても断るようにしようと、こんな寂しい思いをするなら最初から断っておけばいいのだと天野は思っていた。