novel短編

「初めてだから」-4初めてだから慎重に

 最近、というより、あの遊びに行った日より塚本は天野に避けられているのを悟った。
 話しかけると普通に話してくれるのだが、遊びに誘ったりまた家においでといっても、何故か断られる。
 
 ゲームセンターが苦手だったから趣味が合わないと思われたのか、避け方が今まで以上に露骨だった。この間家に来た時や、喫茶店に居たときはそうは感じなかったどころか、好感触だったと思う。
 友達だという久保と約束があるからと毎回断られると、こういろいろ勘ぐりたくなる。

 それより自分はどうしてこんなに天野を誘いたいのだろうか。今までだって山本や大内とも上手くいっていたと思うのだが、急に何かが違うような気がしていたのだ。

 天野と話をした日から、自分が何か変わっているのかもしれない。どうでもいい人間関係が重要に思えてきてならないのだ。
 山本たちに誘われても最近は断ってばかりいる。どうしても行く気になれないし、それより天野のことばかりが頭の中を占めていてどうしようもない状態だ。

 今天野は自分の席で久保と話をしている。何か言われたのか笑っている。そういうのを見ると何故か悲しくなってくる。自分にも笑ってくれていたのに、最近は困惑した顔をしているのだ。もしかして自分は嫌われたのだろうか。何がいけなかったのかと考えるとゲームセンターとしか思えない。あれで引かれたのか。

 でもそれ以外の場所に行こうと誘ってもまったく反応してくれず、CDを貸すからおいでと言ってももう食いついてくれなくなってしまった。じゃあどうすればいいのだろうか。どうすれば天野と一緒にいられるのだろうか、ずっとそのことばかり考えている。

 嫌われているならもう話しかけないでくれと天野ならはっきり言いそうなのに、話しかけたら一応反応はする。ちょっとは嬉しそうな顔をするも、何かひっかかってならない。
 そう考えていると山本が話しかけてくる。

「どうしたんだよ、最近ずっと引きこもりかよ」
「いいんだほっといてくれ」
 素っ気ない言い方ではあったが、山本との間では通じるはずだ。

「なんだよ、この間から変だぞ。あの天野とかいうヤツがきてから」
 山本はいきなり確信を突いた。

「それが?」
「今までそんなことなかっただろう。なんだよつまんないヤツになっちまって」

「つまらないなら誘うなよ」
 自分はそれどころではないのだから。と付け加えたかったがそれは言わなかった。

「わかったよ」
 山本はそう言うと、さっさと教室から出て行った。ほっとして天野の席を見ると天野たちはいなかった。どうやら山本と話している間に何処かに出かけたらしい。

 とたんに教室にいるのがつまらなくなり、塚本は教室を出て屋上への階段に向かった。
 そうしたところに山本の声が聞こえた。

「おい、お前いい加減にしろよな!」
 怒鳴っている先には誰かいるようだった。

「いい加減にしろはお前じゃないか!」
 そう怒鳴り返したのは、声からして久保だ。
 どうやら久保と山本が言い合っているらしい。何があって言い合いなのかと聞いていると。

「そいつのせいで、塚本がつまんねーやつになっちまったじゃねーか!」
「人のせいにするなよ! 自分らだって塚本のこと利用してんだろうが!」

「なんだそれは!」
「お前らが屋上でよく塚本のこと馬鹿にしてんの大体のヤツはしってんだよ。何友達面してんだよ! 金づるとしか思ってないくせに!」

「きさま!」
「図星さされたからって殴るんですか! 手を出した方が負けですよ!」

「……っ!」

「あんたらに天野のこととやかく言われる必要ないんだよ! もう塚本と関わってないんだからほっとけ!」
 その言葉に塚本は呆然とする。

 この話を総合すると、自分が山本たちとつるまなくなってからずっと天野は山本たちからこういう暴言を言われていたことになる。これではいくら自分が優しく誘ったってくるわけはない。

 天野はずっとこういうことをされるのが嫌で塚本を避けていたのだ。それなら納得がいく。
 こういうことをずっとされていたなら確かに嫌にもなるだろう。関わりたくもなくなるだろう。
 塚本はそう思って、すっと影から姿を現した。 

 その姿に最初に気付いたのは、こっちを向いていた久保だ。

「やば!」
 久保はとっさに口を押さえた。さすがにこれには天野も山本も異変に気付いてこっちを向いた。

「……塚本、お、おい、さっきのは……」
 気が動転した山本はなんとか言い訳をしようとした。自分たちが塚本を利用していたのは図星だったことは明白であるが、まだ関係は続けたいと思っているらしい。

 でもそんなことは十分承知していた。山本が自分の金欲しさに付き合ってくれていることなど、最初からそういう後腐れないもので間に合っていたのだから。
 でももうそれも出来ない。

「知ってた。というか、金づるなら一応暇つぶしには付き合ってくれるかと思ってたから別にどうってことはない」
「……ちょっ」
 まさか塚本がそういうつもりで自分たちと付き合っていたとは思ってなかったのだろう。山本は驚いている。

「だから、そういうのもうやめようかと。山本もバレて気まずいんだろ? 俺も利用してるのはもう嫌だから」
 塚本はそう言って山本たちとの関係を切ろうとしていた。
 天野はその言葉を聞いて呆然としている。まさか友達同士が金の繋がりでしかなかったなんて思いもしなかったのだろう。

「……わかったよ、もうかまわねえよ」
 山本はそう言葉を吐き捨てると階段を下りて行ってしまった。彼の中でもこういう関係はもう続かないのだと理解できたらしい。

「ごめんな、天野。こういうことされているって気付かなくて。随分嫌な思いをしただろう」
 そう塚本が言うと天野はまだ混乱しているようで言葉が出てこない。やっと出たのは疑問だった。

「……なんで、仲良かったよね……」
 塚本と山本の関係がただの金繋がりだけとは思えない天野はそう言っていた。信じられないのだ。

「所詮金の繋がりなんてこんなものだ……ちょっとは悲しいけどな」
「じゃ、少しはそういう関係でもなくてよかったって思ってるんですか?」

「つるんでた時間は長かったし、でも仕方ないよ。天野にこういう嫌がらせしてまでってのは違いすぎるからね。これでもう俺との関係はきっちり切れるよ」
 そう塚本が言うと天野が慌てて塚本の服を掴んだ。
 その必死な顔に塚本は驚く。

「じゃ、俺との関係は、なんだったんですか? お金とか関係ないし、喫茶店の奢りはちゃんと奢り返せば済むし、というかまだ奢られたままじゃ縁は切れません」
 天野はそうはっきりと言った。

 ずっと天野は塚本と山本の関係を壊したくなかっただけで行動していた。自分が居なくてもいいんだと思っていた。それなのに今二人の関係は最初から壊れていたというのだ。そんなことを言いながら、塚本は悲しい顔を見せた。それなのに自分まで去ってしまってはあまりに酷いではないか。

「……天野?」
「なんで一人になろうとしてるんですか? 確かに俺も悪かったです。こんな避け方したら嫌な気分になる。ごめんなさい」
 天野はそう言って頭を下げた。

「どうして天野が謝るんだ? 悪いのは俺だろ?」
 謝られて塚本は困惑した。どうして天野が謝るのだろうと。

「俺も悪いんです。だからどっちもどっちです」
 天野はそう言って顔をあげるとちょっとだけ笑った。
 久しぶりにちゃんと見る天野の笑顔だ。それは前に見た時と変わらない。なんだかほっとする。

「あーあ、なんかやってらんないな」
 そう言ったのは一部始終をみていた久保だ。しかし久保はただ笑っているだけで、この惚気大会に参加しているのが恥ずかしくなってきただけのようだ。

「康太、いろいろありがとう」
 そう天野が言うと、久保は悪い気はしないようで照れたように笑う。

「まあ、俺も頑張ったし、昼飯今度奢れよ。あ〜あパン残ってるかな」
 久保がそう言ってさっさと階段を下りていく。ちょうど昼ご飯のおやつにとパンを買いに行こうと久保が言い出したところを絡まれていたので、久保は自分のお腹がすいているのだとわざと気を利かせてくれたらしい。

「今度、俺も久保に奢るよ。なんか世話になってたみたいだしね」
 塚本はそういってやっと天野を見て笑った。

「今度こそ、俺の誘いはOKしてもらえるのかな?」
 塚本は天野の耳元でそう言った。天野はちょっと顔を赤らめて言うのだ。

「今度は映画行きましょう」
 そう小さく言った言葉に塚本はうんと頷いた。
 これから天野とは違った関係になれそうで、嬉しくて仕方なかった。