novel短編

初めてだから」-7初めてだからお手柔らかに

 昼食を食べた後は繁華街で買い物をした。別に欲しいものがあったわけでもなかったがただ見て回るだけでも楽しいものだ。天野たちは本屋に寄っていろいろな本の新刊などを見て回る。

 天野はそういえばと思う。塚本の読書傾向はミステリが中心だった。天野もある作家が大好きで読んでいるのだがその別のシリーズが出ていた。

「塚本、こういうの読む?」
 最新刊を掲げて問うと塚本は図書館にある分は借りて読んでいたらしい。

「この作家の本、結構な頻度で出てるから他の本買ってるとどうしても追いつかなくなってね」

「なんか難解なミステリの本がいっぱいあったもんね。ハードカバーで」
「うん、あれは一時期はまってたから。最近は遊びにお金使ってたから買うに買えずで。天野はその作家好きなの?」

「うん、大好き。デビューした時からずっと買ってるよ」
「じゃマニアなんだね。本全部持ってる?」
「揃ってるよ」

「んじゃ、「朱の封印」から後、貸してくれない?」
 塚本は言って本棚を見る。ちょうど図書館にある本までの表紙を確認して、その先がかなり出ているのに驚いていたようだ。天野はうんと頷いて新刊を買う。

「そういや深夜にドラマ放送もしてたよね?」
「してたよ〜全部録画してるけど、それも見る?」

「一緒に見ない? かなり長い時間だろうから、泊まりにくればいいし」
「あ、それ面白そう! 一気に見るのも泊まるのも!」
 天野はお泊まりが楽しいものになりそうで始終笑顔だった。

 塚本は実は下心満載ですとははっきりとは言えなかった。まさか自分が天野のことを抱きたいと思っているほど好きになっているとは思ってないかもしれない。泊まりなんて言ってしまったが、自分が抑制出来るかどうかは自信がなくなってきた。

 天野との関係を壊したくないけれど、好きだという気持ちは伝えたいと思う。この気持ちはどんどん膨らんでいって収集がつかなくなってきているようだ。

 今日の天野はとても可愛い。可愛すぎてどうしたらいいのか分からない。

 買い物はただ見て店を冷やかすようなことになってしまったが、ある雑貨店で妙なストラップに天野が気に入ったらしく爆笑している。塚本はこっそりとそれを買っておいた。後で渡そうと思ったのだ。
 そうして帰る時間になって、人通りが少なくなった住宅街まで出てきた。

 電車に乗るとあっという間に家についてしまうのが寂しいのか天野はいきなり「歩こう、一駅分」と言いだし歩くことになってしまった。途中堤防があるのでそこが散歩道にはぴったりだというのだ。

 確かにそこは川沿いの堤防で、犬を散歩させたり、野球などが出来るような整備された場所だ。天野は自転車でたまにきてはここでぼーっとしていることもあるそうだ。

 この近くに住んでいるのに塚本はこの場所を知らなかった。家から駅までしか往復してなかったのでこういう場所があるのをまったく知ろうとしなかったのが原因だ。

 そうして堤防まで来ると、いつも居る場所だというところに天野に案内された。そこは夕日が落ちていくのが見える場所で、眺めもいい。周りは段々と人が少なくなっていくのだが天野はそこから動こうとしなかった。

 一人の世界に入っているのかと思うと寂しくなってくる塚本。
 だが次に天野が顔を上げた時の真剣さにはちょっとびっくりした。

「どうした天野?」
「……うん」

「何か嫌なことでも今日あった?」
 急に今日の出来事が不快になったのではないかと塚本は心配になってくる。

「楽しかった、すごい楽しかった」
 天野はそう言うのだが表情が固い。一体何がどうしてこうなってしまったのか塚本には分からなかった。

 一方天野は凄く緊張していた。ずっと今日一日を振り返って、ずっと自分が思ってきたことを考える。

 塚本はとても優しくて親切だった。久保に言われたことをふと思い出してしまい、自分はそうではないと否定してきたものが今本物に変わってしまっていた。

 好き。すごく好きだ。人を好きになることがこんなにドキドキと心臓を鳴らすものだとは知らなかった。この思いを伝えたら塚本との関係はどうなってしまうのか。
 でも言わずにはいられない気分、今はそういう気分だった。

「あのさ、気持ち悪くなってしまうかもしれないけど……」
 いきなりそう言い出した天野に塚本は困惑しているようだった。

「うん、それで? どうしたの?」
 塚本はちゃんと話を聞いてくれる体制になった。

「うん。いきなりだけど、すっごい塚本のことが好き」
 いきなりの告白に塚本の頭は混乱した。まさか好きの意味は自分と同じなのか? どういう意味で好きなのか? いったい天野はどうしたのだ?といろいろ頭の中を言葉が駆けめぐる。

「……好きって、どういう?」
 やっとのことで塚本は聞き返せた。勘違いしてはいけない。ただの友達だから好きだという可能性もあると自分の思いは後回しにした。

「うん、その……恋愛感情での好きなんだ……」
 天野はそう告白してきた。

「や、あの、気持ち悪いのは分かるんだけど、俺、どうしてもこれ言いたくなっちゃって」
 天野は慌てながらもちょっと笑って言っている。もし引かれたら茶化そうと思ったのだ。

 塚本が固まってしまったので天野は焦ってしまった。やっぱりこういうのは引かれてしまうのだなと自覚して反省もした。親切にしてくれた人に言う言葉ではなかったのだろう。

「ほんと、ごめん……」
 天野が再度謝ると、塚本がやっと息を吹き返したように問う。

「俺が好き?」
「あ、うん」

「恋愛感情で?」
「うん……」

「本当に?」
「本気……」
 何度も塚本は確認してくる。段々天野の声は小さくなっていく。やっぱりいきなりでは理解も出来ないだろう。そう思ってやっぱいいと言い出そうとしたら、塚本がいきなり笑い出したのだ。

「ちょ……と」
 お腹を抱えてくくくっと笑っている。人の告白がそんなにおかしいのか!? と天野は段々腹が立ってきた。確かに気持ち悪いかもしれないが笑うことはないと思う。

「そんな笑うなよ、こっちは真剣だっていうのに!」
 天野がそう怒鳴ると、塚本は違う違うと言った。

「そうじゃなくて、まさか天野から言ってくれるとは想像もしてなかったから」
 そう言って笑いを納めたあと、優しい顔で天野を見る。それは少し照れているようにも見えて、天野はドキリとする。

「どういうこと?」
「俺も天野のこと好きなんだ。だからどうやって告白しようかってさっきから悩んでいたんだよ」

「……え?」
 まさか塚本も同じ気持ちだったとは思いもしなかったので今度は天野が固まった。

「だから凄く嬉しい。嬉しすぎて最初耳がおかしくなったのかと思ったくらい。妄想してるんじゃないかと思ったくらいだった」
 塚本は本当に嬉しかった。好きだと告白しようと思った相手からまさかの告白だから。天野も勇気を出してくれた。ちょっと遅かったら自分から告白していたはずなのに。

「え……と、じゃ、もしかしてこれって」
「両思いってことだったわけだ」
 塚本がそう言ったので天野はホッとしてすぐに笑顔になった。

「そっか。よかった……嫌われるんじゃないかって思ってビクビクしてたのに」
「俺もそうだよ。この関係が壊れるのが怖かった」

「二人してびびってて、蓋あけたらなんだこれってなるね」
 そう言うと天野は笑い出してしまった。自分たちの緊張やら言葉やらを思い出すとまったく笑うしかないような出来事だ。緊張から解き放たれると人は笑いたくなってしまうものなのだろうか。

 二人はしばらくその場で笑っていた。
 緊張から解き放たれて、嬉しい気持ちがたくさん出来ていた。