novel短編

「初めてだから」-8初めてだから優しくしてね

 散々二人で笑った後、ふと天野が塚本の顔を見ると、塚本が真剣な顔をしている。

「天野」
「ん? なに?」
「キスがしたい」
 塚本がいきなりそう言い出した。

「え!?」
 いきなりそんな具体的な話になって天野は慌ててしまう。
 そこまで心の準備が出来ていたわけではない。玉砕覚悟だっただけにこの展開は凄く照れる。

「嫌なの?」
「え! そうじゃない!」
 天野は慌てて言い直す。

「そうじゃなくて、その」
「その?」

「……キスとか初めてだから……その」
 天野はそう言って顔を真っ赤にする。その姿が可愛い。今時キスもしたことないとは、なんと運がいいのだろうか。そう塚本は思う。ラッキー以外にない。自分だけが天野にキスのよさを教えてあげられるのだ。

「天野……」
「は、はい!」
 天野は緊張しきった様子ではっとして顔を上げる。そして直立不動。

「そんなに緊張しなくていいよ」
 塚本はそう言って手を天野の頬に当てる。その頬をゆっくりと撫でて安心させる。緊張している天野がふっと肩の力を抜いた。

「……塚本の手、気持ちいい」
「そうか」
 塚本はまるで猫でも撫でるように顎を撫でてやると、天野は気持ちよさそうな顔をしてうっとりしている。その顔がさっきまでの可愛さとは違い艶っぽさが出てくるのだ。

 その艶っぽい顔に塚本は心を捕まれた。なんて顔をするのだと思ったりもした。これはキスだけですませるにはもったいない。もしかしたら天野はかなり色っぽく変身するかもしれない予兆だ。こんなのを見せられたら他の男だってみんな気がおかしくなるに違いない。
 天野の少し開いた唇に誘われるように塚本はキスをしていた。

「ん……」
 うっとりしているところにキスをされた天野は夢見心地になってしまう。塚本とキスをしている。それがどんなに凄いことなのか分かっている。だから嬉しくて感じてしまう。

「ん……ふ」
 塚本のキスはただのキスじゃなかった。俗に言うディープキス。舌が口内に入ってきて天野の舌に絡めてくる。天野はこういう場合どうすればいいのか分からないけれど、誘われるままに絡みつけた。

「んふ……は……」
 キスはなかなかやまない。塚本は貪るように天野のキスをし続けた。その手はいつの間にか天野の身体を支えて、絶対に離さないというふうになってしまう。後頭部に手をあて、逃がさないようにキスを続ける。

 天野は頭の中がふわふわとしてきた。塚本の舌は天野を宥めるようにゆっくりと動いていて、それに感じて身体がゾクゾクしてくる。そして身体も熱くなってくる。キスされていると気持ちがいい。身体を撫でられても気にならず、そこから熱くなってくる感覚に少しだけ驚く。

「は……ん」
 もうこれ以上したら自分がどうにかなってしまいそうで、でもどうにでもなれという気持ちにもなってきて後は何も考えられない。

「あ……ん」
 キスってここまで凄いのかということと感じるのだということを教えられている。
 散々長いキスをした。塚本が求めるままに天野は答え、それに乗せられて塚本も求めるがまま求めた。
 そうしてキスがやっと終わる。

「……あ……はぁはぁ」
 やっと息がまともに出来るようになると、天野はぐったりとしてしまっていた。その身体を抱いたまま塚本は天野の顔を胸に押しつけた。そうするとちょうどぎゅっと抱きしめられる。

 背中をさすって呼吸が落ち着くのを待ってあげる。天野はしばらく深呼吸のような息をしていたが、やっと落ち着いたようにしゃべり出した。

「き、キスって……すごい」
 そう感想を漏らしたのだ。塚本はクスリとする。あんな激しいキスなんて初心者にするものではないのだ。通常みんながそうしているわけではないのだが、何故か自分は制止がきかなかったようだと苦笑する。

「どういうふうに?」
 塚本は天野の背中を撫でながら聞く。

「……頭の中が真っ白になってきて……気持ちよくて、どうにかなっちゃいそうだった」
「それはよかった。俺も気持ちよかったよ」
 塚本は満足した声で言っていた。

「でも……キスだけでこんなんじゃ……」
 天野は突然そう言い出す。なんのことかとふと思ったら、どうやら塚本には全部くれるらしい。

「俺……どうしよう……」
 あんなに感じるんじゃ、セックスまでしたらきっと頭がおかしくなってしまうと天野は思っていた。キスだけであんなになっていたらそりゃもう耐えられる自信がなくなるのは仕方ない。

「キスなんてそのうち慣れてくるよ」
「そう、なの?」
 天野はきょとんとして塚本を見上げる。まだ甘い余韻から抜けてないので色っぽさがさらに増している顔をしていたから塚本はくらりとした。こんな無防備になられると即座に襲ってしまいたい衝動にかられる。ここが外で良かったとふと思う。

 まだ天野にはセックスは早い。キスから順番に慣らしていくのがいいだろう。そうすればどんどん色っぽくなってくれそうで、なんだが嬉しくなってしまう。

「徐々にしようね」
「う、うん……」

「たくさんキスもしよう」
「うん、キスは好き。気持ちいいもん」
 天野はにっこりとして言う。初めてのキスだったが、塚本は優しくしてくれたし、気持ちも最高によかったからまたしてくれるなら嬉しかった。

「天野は気持ちいいことが好き?」
「うん、塚本にされるなら好き」
 そう素直に答えられて塚本の顔は満面の笑みになったのだった。