novel短編

恋愛感染エゴイスト4目的

「うーん、ここでもない……か」
 弥斗(やと)はやっと起き出した二日目にして、部屋中を探索していた。散々三沢に攻められ犯された次の日もまた同じように部屋に連れ込まれてやられてしまっていたから、もう我慢がならないと自分の与えられた部屋に閉じこもっていた。

 三沢は二三回ドアを叩いたくらいですぐに諦めて下へ降りていったようだったので、なんとか逃げられる場所はないかと弥斗は部屋中を探していた。
 この部屋だけはなんとか閉じこもることが出来るようで、三沢は鍵は持ってないらしい。持っていたらすぐに入ってくるだろうし、そういうヤツだということはここ数日で分ってしまっていた。

 体はすっかり三沢使用に変えられてしまって、あの手で撫でられたらもう駄目なのだ。それに気づいてからは逃げ回り、三沢を苦笑させていた。
 とりあえず部屋中を調べてみるが、部屋にシャワールームとトイレがあるくらいで、ここはもともと監禁する場所だったのではないかと思うくらいに整っている。

 部屋にある冷蔵庫から水を取り出して飲む。
 一服して弥斗は不満を大声で叫ぶ。

「なんで通気口とかないんだよ!!」
 よく推理とかである配管工の通気口を見つけようと思ったが、そこはそこ。監禁用にこしらえたものがそんなことで波状するような間抜けな三沢ではなかった。

 通気口はすでに何かで重しをされているらしく開かないどころかびくともしないのだ。 確かにそれように用意したと豪語していただけのことはある。
 他に見落としがないか探したが何にもなかった。窓は完璧にはめ殺し。割ろうとして椅子を投げたら椅子の方が粉々になった。

 つまり、防弾でもあるわけだ。これには呆れかえるばかりである。
 その時部屋がノックされた。三沢が確認にきたらしい。

「何か変わったことはないか?」
「……なーんもありませーん」
 弥斗は自棄になってそう返した。
 するとドア口の三沢は笑って言う。

「そうだろうと思った」
「……っ、くそったれ!!」  
 憎々しげに弥斗は叫び返す。もうほんとに憎くてたまらない。全部が三沢の思い通りなど本当に腹が立って仕方ないのだ。
 ここまでもきっとあの三沢のことだ。計算積みなのだろう。そう思い当たると余計に腹が立ってきた。

 弥斗はすたすたと部屋を横断すると、さっと鍵を上げて外へ出た。そこには三沢が立っていたが、それを無視して横を抜けて下に降りる。

「もう籠城は辞めたのか?」
 三沢がそう聞いてくるので弥斗は睨み付けて答えた。

「腹が減っては戦はできぬ」
 そう言ってやると三沢はぶっと吹き出して笑い出した。

「残念だが、毎回1回分しか食事は用意出来ないよ」
 三沢がそう言うので弥斗はちっと舌打ちをする。どうやらそこら辺も見透かされていたらしい。

 食事は確かに1回分しか毎回出されていない。誰が作っているかとかそういうのは分らないが、三沢は毎回違う料理を用意している。
 ただ誰か他にいるらしいというのは分る。三沢がずっとこの中にいるのに、食事の時だけは1分くらいいなくなるだけだからだ。
 ずっと見張っていてもいいのだが、抜け出すのは無理そうだった。

 三沢はそういう時に限って、居間に弥斗を閉じこめて行くからだ。だから三沢がどこから出入りしているのかまだ弥斗は見たことがないのだ。
 食事は出るが、やることやられるとたまらない。なので食事をした後はまた閉じこもるのではなく、今度は廊下中を探索する。

 三沢は居間で何かの書類を見ていたから忙しくて弥斗に構っている暇はないようだ。その間に秘密の抜け穴とやらを見つければいいんだと弥斗は思って探す。

 ドア一枚一枚を押したり引いたり横に引いてみたりといろいろしてみたが、まったくどこもかしこも動こうとはしない。
 壁を叩いてみてもそこはコンクリート。重い音しかしない。

 しばらくコンコンと叩き続けたが、どこも同じような反応しかない。向こう側に空間でもあれば何かあると思ったが、それもない。
 諦めて二階へ戻ると、今度は一応は三沢の寝室である座敷に入り込む。

「ここでもなかったら、一体どこなんだ?」
 弥斗はそう呟いて、窓を確かめるがこっち側の窓は全部はめ殺し。やはり抜け道はないようだ。弥斗が入れる部屋は全部完全にふさがれているらしい。
 ここまで完璧にされるともう諦めるしかないのだろうかと思えてくる。

「なんで、俺が……」
 こんな目にあっているんだろうか……。そう考えると段々悲しくなる。
 家で大人しくしていた方が天国だったかもしれないのに、それにさえ不満を漏らしていたことを反省する。まだ家の方が人を呼べただろうし、三沢以外の人間だっていたから話し相手にだってなってくれただろう。
 そうして自分はどれだけ贅沢な環境に居たのかを思い知る。

「……駄目だな、本当になんかもう」
 三沢の目的は本当に自分なのかも怪しい。
 あれはただの口実で、暇だから自分の体に手を出しただけなのだろう。三沢のような男が男に、しかも年下のやっかいな者に手を出すとは思えないのだ。
 それに祖父の言いつけ通りにというのも怪しい。

 あんな厳しい祖父が男が孫を欲しいと言ったからといって、簡単に信用して渡したりするだろうか?
 そもそも誘拐自体、三沢だけがしていたことで、本当に誘拐した人間は三沢本人だとしたら、今での流れも説明出来るような気がする。

 はじめから誘拐犯は三沢で、今弥斗を監禁して他の誰かが交渉しているとすれば、話が繋がってくる。三沢は財産の欲しい身内の誰かに雇われた人物だったということだ。

 はじめから弁護士として近づき、祖父の信用を得ておいて、遺言状の中身を誰かに教えていたとしたら、その中身によっては弥斗に死んでもらいたいくらいに思う人もいるだろう。
 たとえば、逸郎の父親隆宏などは弥斗が一番邪魔だと思っているに違いない。他の祖父の親戚だって弥斗がいなくなれば、少しでもお零れをちょうだい出来るような立場の人間ばかりだ。

 そういう人たちが一致団結したとしたら、三沢のような口が上手い人間を祖父の元に送り込むことだって可能だろう。
 全員がグルだとしたら、祖父は今頃全部の遺言状を書き換えているかもしれない。そう思ったら、解放も近いかも知れない。

 だが祖父が人の言うことを聞いて財産を狙っている連中の言うことを聞くだろうか?
 あの頑固者はそういうことには従わないタイプだから、話はこじれて長引くかも知れない。
 自分はいつまでここにいて、無事に解放されるのか。

 そもそも自分は生きて解放されるのか?
 そう考えると怖くなる。
 ただでさえ無理矢理犯されて、精神的に参っているところに、最後はドンと撃たれて海に捨てられて終わりなどということだってあり得る。

 財産狙いの相手が誘拐犯だとしたら、その方が安全でより財産を手に入れられる様な気がする。
 もし弥斗が生き残って戻ったとしたら、祖父はそんな遺言状はなかったことにして書き換える事だって出来るのだ。

「……あ……」
 やっぱり自分は生きては帰れないのだなと考えが浮かんでしまうと体が震えてきた。どんどん震えて涙まで出てきた。
 初めて自分が怖いと感じたのだ。それまではずっと三沢に流されて馬鹿なことをだと軽く思っていたから、殺されるなんて考えもしなかったのだ。
 暫く泣いていると、いつの間にか誰かの手が頭を撫でていた。

「……?」
 誰だと見上げると三沢が困った顔をして弥斗を撫でている。

「泣かないでくれ……」
 そう苦しそうに告げられて弥斗は泣きながら三沢に怒鳴る。

「だ……誰のせいだと……」
「誘拐なんて企むヤツが悪いな」
 速攻で責任転嫁してきて弥斗はむかっとして怒鳴る。

「ぜんっぶ、お前が企んだことで、お前が悪いんだ!!」
「ああ確かに私も誘拐犯だったな」
 三沢は自分が誘拐犯だということはさっきまで今の今まで忘れていたかのように暢気に言ってくるから余計に弥斗は腹が立ってくる。

「お前、マジでふざけるなよ……っ」
「ふざけてないぞ、大真面目だと最初から言っているだろうが」
 三沢はそう言って、弥斗を抱き上げるとさっさと一階に下りていく。

「お前、ほんといい加減に……」
「真面目な話、私は今忙しいんで、ここらでちょっと寝てしまえ。寝不足だろう。余計なことを考えるのも全部」
 三沢はそう言うと居間に戻ってソファにそのまま座る。

「そんなばかな、うわっ……」
 そうしてソファの空いているところに弥斗を下ろすと、頭を膝に乗せて背中をさすってくる。それはいやらしいそれとは違い、あやすようなそれだった。

「……?」
 なんだこれは? と弥斗は三沢を見上げるも三沢は書類を手にして真剣な顔をしている。どうやら忙しいのは本当のようで、仕事をここに持ち込んでやっているらしい。
 邪魔するのはなんとなく気が引けて、弥斗は大人しく目を瞑った。

 背中をぽんぽんとする一定のリズムが気持ちよくて、その後は何も考えずにただただ眠りの世界に引き込まれたのだった。