novel短編

Together-7

 そうしている間も茅人(かやと)からの攻撃は止まらなかった。毎朝来ては同じような台詞を言っていたのだが、そのうちだんだんと言うことが変わっていった。

 そんなにいいならやってやったっていいんだぜ。
 どうせ誰でも同じなんだろう。

 そういう言葉に変わっていた。
 どうやら、学校での未遂を本当にあったように思っていたらしい。

 緒都(おと)を襲った人たちが何を言ったのかは分からないが、茅人はそれを信じているらしい。 緒都はそれを毎朝聞かされることになるのだが、インターホン越しに言われる言葉にもう辟易していた。

 相手にしていないのにどんどん酷くなるのは何故なのだろうか。
 もう放っておいてくれないか。
 そう何度も思うが、どうあっても茅人はやめないらしい。

「茅人……なんで?」
 茅人の暴言を聞くのも時間の問題だった。
 緒都の精神が耐えられなくなってきたところだった。そんなところで父親に登校拒否していることがバレた。

「緒都、きなさい」
 夜早めに帰ってきた父親が、そう言って緒都の部屋をノックした。
 緒都は半分寝ていたが、起きて下の部屋へと向かった。
 ソファに座るように言われ、あくびをしながら座ると、父親が言う。

「お前、ずっと学校に行っていないんだって?」
「え? なんで……」
 自分はまだ言っていないというのにだ。

「茅人くんが心配して知らせてくれたんだ」
 そう言われて緒都はびくっとする。

 茅人が喋った?
 いつの間に、いやどうして?
 頭の中がぐるぐるとして考えが纏まらない。

「それに昼間、妙な男の人と歩いていたとか言っていた。心配になったから知らせてくれたらしい」
「……」
 たぶん、それはない。

 何故茅人が永哩とのことを知っているのか。自分たちは空き屋の中でしか会わなかったのだ。それを知っているということは茅人は後を付けてきたのか。

 あまりに緒都が相手をしないものだから、何かあるのだろうと思って後を付けて確かめた。そして男と会っているところを見たので言動がだんだん酷くなったのかもしれない。

「妙な男じゃない」
 緒都ははっきりとそう言った。

「なんだそれは」

「永哩さんは変な人じゃない! 茅人の方が!!」
 そこまで叫んで緒都は辞めた。
 酷いことをしているのは茅人じゃないか。なのに何故永哩を悪くいうのだ。
 信じられない。自分を孤独にしてどうするというのだ。

「茅人くんがどうかしたのか? 毎朝迎えにくるのに出てこないとかなりしょげていたらしいぞ」

「どういうこと?」

「茅人くんが父親に相談したそうだ。そこから知らせが入った。なあ、緒都一体どうしたんだ? 何があったんだ?」
「…………」

 言えない。
 学校で襲われそうになったなんて。男として、言えない。
 けれど、茅人もまたそいつらと同じ位置にしかいないことは確かだ。

 そこで、緒都は永哩の言葉を思い出した。

「お父さん、俺、塾とか行って、大検とか受けたらだめかな……」

「どうしてそんなに学校がいやなんだ? 学校ではなんの問題もないと言っていたぞ」

「俺が……嫌だから、もう学校に戻るのが嫌だから……」
「緒都、一体何が……」
 そうしたところで、いきなり父親の携帯が鳴った。

「すまない。まだ急ぎの用事があったみたいだ」
 電話に出ると誰かが見つかったらしい。

「なに、この近くに隠れていたのか。それで、え? この先といえば、空き屋だろう?」
 そう父親が言っているのを聞いて、緒都はふっと永哩のことを思い出した。

 まさか永哩のことでは?
 そう緒都が思っていると、父親がちらりと緒都を見たあとに頷いて言う。

「わかった。うちの緒都が関係していたんだな。寄ってもらってくれ。お茶くらいはだせよう」
 父親はそう言うと、電話をきった。

「緒都、悪いが今から客が来る。お前の言っていた、永哩さんとやらみたいだ」
父親は苦笑してそう言っていた。どうやら知っている相手らしい。

「え?」
「お茶を入れてやってくれないか。大事な客なんだ」

「……あ、はい」
 なんだか分からない急展開に、緒都はお茶を入れながら心を落ち着かせる。
 そうしているうちに、その人物がやってきた。

「ああ、八百(やお)さん……ご苦労様です。そちらがもしかして」
 八百は190くらいある身長で、永哩より背が高い。その人物が永哩の横に立っていると、永哩を引き立たせている。緒都はきょとんとしてそれを見ていた。

「はい、今度お迎えになる予定の逃亡中だった四十宮永哩(よそみや えいり)です」
 どうやら父親の会社の上層部に四十宮が迎えられるために騒動していたらしい。
 それを八百が探していて、やっとここの先で見つけたようだ。

 永哩さん、帰っちゃうのか。
 緒都はしょぼんとしてしまった。
 あんなに楽しい日々は、もう終わってしまうということなのだ。

 永哩も何かから逃げていたけれど、緒都と同じく終わりを迎えたらしい。

「……そうでしたか。四十宮さん、すみませんが、何かお話があるとか」
 父親がそう切り出すと、永哩は頷いて話をし出した。

「息子さんの緒都くんについてです」
 そう永哩が切り出したので、緒都も驚いた。
 もしかして登校拒否のことを言ってくれようとしているのだろうか? そう思ったがもうばれているのだから意味はない。

「緒都が登校拒否をして貴方と会ってらしたことは、友人の方から聞きました。一体なんだったんですか?」
 父親は訳が分からないとばかりにそう言う。

「緒都ははっきりと言わないどころか、心配してくれてい茅人くんのことを憎んでいるような感じで否定する。学校では問題ないと言われ、緒都は学校には二度と行きたくないと言って大検を受けるという。何があってそうなったのか、誰も言ってはくれない!」

 冷静な父親がかなり混乱しているのを聞いて、緒都は父親も不安だったのだと気づいた。誰もが何故緒都が学校へ行かないのかを説明してくれない。緒都自身もだ。

「緒都くんが言えるわけありませんよ。五十栖さん」            
 永哩がそう切り出すと、父親がキッと永哩を睨み付ける。

「他人の貴方には言えて、私は言えない? 何故だ!?」

「緒都、これからお父さんに説明する。君が話したとおりのこと以上を言うけれど、大丈夫か?」       
 永哩はそう言って、緒都が頷くのを見ると、何か昔使ったようなテープ式の録音機を出した。

「出来れば、イヤホンで聴いてください。これは緒都くんが毎朝聞かされていたものをここの玄関で録音したものです」
 永哩はそう言ってそれを父親に差し出した。
 緒都は目を見開いてそれを見る。この中にはあの言葉が入っている。

「いや!!」
 ぱっと緒都がそれを取り上げようとしたのだが、それを父親が素早く取り上げる。

「緒都……聞いてもらった方が早い」
 永哩が静かにそう言う。

「でも、でも」
「緒都、おいで」
 泣きそうになった緒都を永哩が呼ぶと、すぐに緒都は永哩の胸に飛び込んだ。

 怖い、あんなものを父親に聞かれることが怖い。
 がたがたと震える息子の姿に、父親は少し躊躇したが、永哩が頷くのでそれを聞いてみた。

 その顔色が変わるのには一分とかからなかった。 
 ここ二週間毎日蘭が盗聴したものだ。

 調べろと言われて、真っ先に飛び込んできた怪しい人物は七崎茅人だったのだ。