novel

spiralling-8

 耀が犹塚智明(いづか ともあき)に案内されて通された場所は、老院たちが暮らす棟からは真逆に位置する、宝生組の重要な関係者が宿泊する棟の方だった。ここは組長や耀などが滞在する時に使う以外は使われることはない場所だ。そこに寧野を宿泊させるということは本家は寧野を宝生組の重要な関係者として扱っているということだ。
 もし寧野と耀を別れさせようとしているのなら、この待遇は絶対にない。出て行って欲しいのに特別扱いをしては意味がない。むしろ差別化を図る方が自然だ。
 だからこうしているということは、本家やあの人たちの目的が一瞬にして推測できる。別れさせるどころか、もっと寧野の方から宝生組に深く関わりを持たせて、絶対に出て行けないようにしようとしているということだ。
 廊下を通り部屋の前まで行くと、障子に影が映っているのが見えた。寧野と誰かが座って話しているところのようだ。
 誰かが懐柔しているのかと乱入する勢いで行こうとすると、それを智明が止めた。
「少し聞いてやってくれませんか?」
 そう言うのだ。
「何をだ」
「寧野さんの思っていることです」
 そう真摯に訴えてくる智明の態度が、まるで自分の方が一番寧野の思いを理解しているのだと言っているように聞こえて、耀の機嫌を降下させていく。耀はこんなに自分の感情が激しく動いて、さらにたぶん解る人には解る程度に感情を顔に出している状況に動揺もしていた。
 寧野のことになると感情的になる。それが今の自分の立場では許されないことだから、なんとか感情を抑えようとするのだがそれも失敗する。
「お前に、言われるまでもない」
 耀がそう言って奥歯を噛みしめる。ぎしりと歯が合わさって音を立てる。イライラして仕方ない。これでは話し合いどころではない。寧野に八つ当たりさえしそうだった。
 関係を悪化させたいわけではない。寧野が何を考えているのか聞くだけだ。そして、それがなんであれ、あの人たちに利用されているだけだと理解させなければならない。
 そう決意して耀はガラリと障子を開けて寧野の部屋に入った。
 その場に耀が突然登場したことに、寧野がこちらに向けた視線が驚きでいっぱいになる。だが次の瞬間、まずったとばかりに気まずそうにした。
「寧野、帰るぞ」
 耀は話し合いをここでする気はなく、とにかく帰ってからにしようとした。だがそれに対して寧野ははっきりと言った。
「いやだ」
 拒否の姿勢を向けた寧野の言葉に耀は一瞬で怒気をみせた。寧野の近くに座っていた萩野谷はそれを見ただけでびくりと震え上がり、こそこそと部屋の端の方へと避難を始めた。
「寧野」
 少し声を大きくして呼ぶのだが、寧野はそれに反発をしてきた。
「そうやって家に帰ってから二人で話し合うっていうのが耀の計画なんだろうけど、そうしたらまた俺は言いたいことも言えなくなる」
 寧野の言葉に耀は。
「いつもそうやって我慢していたとでも言うのか。どこにいたって言いたいこと言えばいいだろうが!」
 寧野が何か言いたそうにしていることは知っている。でも「どうした?」と問うた時寧野はいつでも「何でもない」と答えていた。だから耀が寧野の意見を聞かなかったわけでもないし、言いかけた時に邪魔をしたことだってない。それを耀が言わせなかったと言われたら、違うと言えた。
 けれど寧野からすればそれは耀がそう思っているだけに過ぎないことだった。
「俺が何か口にしようとした時、お前、いつも絶対にそれは言うなって顔するよな。俺が言いたいことを言おうとするとだけど。他の時はそういう反応はしなかった」
「だったら今聞いてやろう。一体何を言いたかったというんだ。この三年、寧野はそうやって黙ってきたじゃないか!」
 耀が声を荒げて寧野に言う。言おうとしたことを怖がって威圧はしたかもしれない。けれど、結局言われなければ自分は解らないのだ。寧野が本当は何を言おうとしていたかなど、心の底まで除けるわけではないのだ。  
「俺はずっと耀に話したいことがあった」
 寧野は静かにそう言う。耀が激高しているのに対して、寧野は静かなものだった。
 側で見ている人達にならはっきりと認識できるくらいに、耀の方が不安定だと言っていた寧野の言葉を理解できる状況だった。寧野が耀に対して何か言おうとした瞬間の耀の激高ぶりは、寧野がずっと口を閉ざしてきた理由とも合致する。言うと暴力をふるわれるわけではないが、言うと関係が終わるかもしれないと考えれば、言うに言えない状況だったことは確かだ。
 そうした不安定な関係を一掃したいのは寧野の方だった。
 それは耀が考えているようなことを寧野が言おうとしていたわけではないということだ。
「耀はさ、俺が組関係のことを手伝うって言うと嫌がるよね。そんなことをやる必要はないって言って」
「本当に必要ないからだ」
「じゃあ、俺は何の為に耀の側にいるの?」
「恋人でいいじゃないか。わざわざ組関係のことに首を突っ込んで、宝生組の構成員になる必要なんてない」
「構成員じゃなくてもやり方はあるって九猪さんは言ってた」
 寧野は九猪にまで相談をしていた。そこにまた苛立ちを感じるのだが、それをすぐに察した寧野が言う。
「ほら、そうやって自分は俺の言いたいことを聞かなかったくせに、周りに相談していることを怒るんだ。そんな権利なんて耀から放棄してたくせに」
 寧野の言いたいことを聞かないという選択をした耀には、寧野が他の誰かに相談をしたことを非難する権利はない。
 これにはさすがに耀も反論はしづらかった。
 寧野は最初から話し合おうと努力はしていた。けれど耀は最初から聞く気がなかったのだから。
「俺が九猪さんに相談したことは、億伎さんにも聞いたし、偶然会った組長代理にも聞いた。俺は宝生組の内部に入ることは出来ないかもしれないけれど、それを外からサポートするくらいの力をつけることは出来ないかって」
 九猪だけではなく、組長代理にまでそれを聞いたということは、寧野の意志は耀以外知っていることになった。それでこういう騒動になっているわけだが、それは周りがお節介をした結果のことで、寧野本人がそうして欲しいと思ったわけではない。
 けれどもしかしてと思うところがあって、寧野はこの話を受けたのだろう。
 だがそれを耀は認めることが出来ない。そんな危険なことをして欲しいと思ったことは一度とてなかったからだ。
「そんなことはしなくていい。俺はそんなに頼りないのか」
 ついに本音が出た。耀はずっと思っていたことだ。寧野のために沢山のことを覚えて実行してきた。組のことは当然であるが、その関係で寧野が不幸にならないようにと気を遣ってきた。
 なのに寧野は自ら危険に向かって行こうとする。自分の父親の亡くなった状況を夢にまで見て思い出して泣いていることだってあるのにだ。
 そういう寧野を守っているつもりだったが、今のままでは不十分だと寧野は言うのか。
「そういうことじゃないんだ。耀は頼りになっているよ。ただ、それでは俺が生きている意味が見出せないんだ」
 寧野が落ち込みかけた耀に耀のせいではなく、自分の心の問題なのだと告げる。
「耀が望むように生きられれば、きっと楽なんだと思う。そんな現状に不満があるのは、俺の心がそれじゃ駄目だって何度も違和感を覚えていくからなんだ」
「……不満なのは何なんだ? 寧野、お前は何を願ってる?」
 基本的なところで耀は寧野にそれを確認したことはない。
 耀の基準で寧野を幸せにしていこうとしていた。だが、それでは寧野の気持ちはそこにはない状態で、きっとそれは自分で寧野との関係を劣化させていることになる。
 寧野はそれを回避しようとしているだけだった。
「願いって、それほど大それたことではないけど。出来れば、耀の側で耀を守りたい。ただ守られているだけではなくて、俺だってそのために強くなったんだから」
 寧野はそう言って笑う。それだけの為にあの事件以降、時間を費やしたというのだ。
「耀の側にいるって、ただ側にいるだけじゃ意味はないんだ。耀はそれだけでいいっていうけど、俺はその通りに出来ない。だって耀が望んでいる光景は、俺で作られてたものじゃないから。解る?」
 寧野は耀が望むことは、耀がその環境で育ってきたから、同じようにすれば寧野も幸せだと考えたのだろうと思っていた。家に帰ったら、恋人が食事を用意して待っていて、そして部屋ではごろごろと仲良くし眠って、朝起きれば恋人が起こしてくれて、キスで見送って貰って仕事に出かけるという普通の家庭にある、普通の光景。それが耀の理想の環境だった。
 あの家を出て、そうした光景になることはなくなってからも耀はあれを理想だと思っている。
「俺は月時響じゃない。織部寧野なんだ」
 寧野がそうはっきりと言うと、耀はやっと寧野との意見の違いがどこから起きているのかを理解したようだった。肩の力が抜けたようにその場に座り込み、片手で顔を覆っている。
 根本的に間違った考えに至っていた原因は、昔の光景を忘れられないだけではなく、そうすれば寧野も幸せになれるはずだ、自分も幸せだったからと思い込んでいたことに始まる。
 寧野は物心ついた頃には一家団欒の記憶がなくなっている。だからそういう風に暮らしたことがないので、それが絶対的に幸せであるという基準がない。耀が望んでいるならとそうした暮らしをしてきてみたが、どうも寧野本人の感覚と合うことはなかった。
 それもそのはずで、寧野は父親が生きて一緒にいてくれていただけでも十分幸せだった。それ以上の幸せがあると言われてもそれは寧野が感じる幸せとは違う。
 それが不満の一つとして寧野が考えるきっかけになった。
 このまま耀の望むままに暮らしたところで、それは自分が望んだこととはたぶん重なることはない。自分の立場が一生このままであるということはあり得ないことで、どこかで歪みが生じてくるはずだ。
 その先駆けと言ってはなんだが、まず鵺(イエ)の龍頭(ルンタウ)である。
「この間、犬束(いぬつか)さんに呼び出されて会ったんだけど、いつもと違う口調で、「一緒に行かないか」って言われた」
 寧野が真剣に自分の立場を考えるようになったのは、自分の中に違和感がわいていることに気付いた時だった。
 このことはまだ耀には話してはいなかった。この頃から耀の拒絶が酷くなっていたからだ。
 初めて聞く話に耀は顔を上げて寧野を見た。今度は責めているわけではなく、そんな話が出るような状況がすぐに想像出来たのだろうか。
「言わなかったのは、相談するまでもなく、俺の答えが決まってたからなんだけど。断ったら妙に困ったような顔をしていたから、何か別の事情があって俺を手元に置きたいと思ってるんじゃないかって。そう考えたら、黙っているわけにはいかなかった。耀に相談しようとしたけど、話を聞きたくなさそうにしてたからタイミングが解らなくて」
 寧野が困った顔をして言うと、耀は思い当たることが沢山あることに気付いた。
 話そうとして話しかけると耀は聞きたくないと黙らせる為に、様々な行動で黙らせていた。今回のドイツへ行く前日も寧野はちゃんと話そうとしていた。
 そうして大事なことを聞かないという選択をして、大事なものを無くそうとしていた。
「悪いのは俺か」
 自嘲気味に言ったのだが、それに寧野がすぐに答えた。
「俺も悪い。耀が激高したとしても、喋っておくべきだった。俺らって基本的に重要なことを話してないんだと思う。だから気持ちも行き違いが生じて、こういう事態にでもならないと言いたいことも言えないような環境を作っちゃったんだと思う。こうなったのは俺も悪いし、耀も悪い。恋人でいるってことは一人の願いや希望だけを叶えればいいってことじゃないんだって。二人で喧嘩をしながらでも二人で決めていくことなんだって、そんな大事なことも忘れてた」
 そういう意味では寧野も耀が話を聞いてくれないからと勝手な行動をしたわけだ。老院の話を勝手に受け、自分の立場を作ろうとした。
 耀もそういうことを忘れていたのは事実だ。
 他人に言われないと気付けないほどに自分たちに余裕がなかった。
 耀はそれがどうしてなのかと考えると、あまりに寧野を束縛しすぎ、寧野と他人との関わりを閉じ、自分もまた寧野のことに関しては他人の意見を取り入れたりしなかったことが原因だろう。
「耀」
 一応反省を二人がして、しんみりしたところで寧野が耀を呼んだ。
 しっかりと寧野の顔を見ると、いつもより力強い意志を感じる視線をまっすぐに耀に向けていた。
 それを眺めて初めて耀は、ああやっとあの時の不安な少年だった寧野はもういないのだなと気付いた。必死で守ろうとしてきた寧野は、すっかり成長を遂げて、耀を支えられるくらいになっている。それを見ようともしなかった自分はなんて愚かなのか。
 あまりにも近くに居すぎて、寧野が変わっていく様子を感じ取れなかったから気がつかなかったのもある。
 呼んだのに見つめるだけで近寄ってこない耀を寧野が手招きをして呼ぶ。
 宝生組の構成員が見たら全員が憤怒しそうな対応だが、耀は呼ばれるままに寧野に近づいていって寧野を抱きしめると肩に顔を埋めていた。
「俺が寧野を宝生組内に入れたくない気持ちはまだある。けれど逆の立場だったとして、寧野が俺にごくごく一般的な生き方をしろと言ったとしても、俺にはそれが出来ない。そういう問題だろ?」
 無い物ねだりをしすぎると、相手が生きていくことすら出来なくなる。耀の場合、普通に生きるという生き方がもはやできない。ヤクザを辞めて一般人になって、耀が望んだ小さな幸せが詰まる家庭を作って生きていくことは、きっと何よりも息が詰まって、またこの世界に舞い戻ってしまうだろう。耀が望む幸せは、過酷に生きる中での小さな幸せがある状況だからだ。
 無理なことを寧野にさせようとしていたとやっと理解した。
 寧野はそうしたごく一般的な幸せな家庭で育ったわけではない。一般人に戻ったところで、結局耀と付き合っていれば、一般人としては暮らしてはいけない。根本的なところで月時響と織部寧野は違う。
 響の場合、まだ家族が死んでいることに関しては、誰に殺されたのか不明となっており、公式発表や新聞などでは当時の様子はまったく語られてはいない。あの病院が宝生組と関係があると解った時点で事件は「どうせヤクザの抗争だろう」と見方が変わって続報は報道されずに終わって、記録は警察に残っているのみだ。しかもそれは当時ですら30年前の出来事で、九十九との関連性が疑われた今でなければ、響がヤクザと直接関わりがある生まれであることは誰にも想像すら出来なかった。
 だが、それでも一般人として暮らしていくにも限界はある。その限界を感じたために響は道場を引き継いで会社を退職した。
 あの響でさえそうなのだから、父親がヤクザであり、その抗争で殺されたのがたった数年前となれば、誰にでも事件のことは調べられるし、寧野に興味を持って調べたら宝生組との深い関わりが出てくる。
「そういうこと。ほんと今まで理解してなかったなんて、案外馬鹿だな」
 耀が触れている寧野の肩が揺れている。笑っているらしいが、本当にその通りだなと耀は思った。
 本当に今更だったのだ。
 抱きしめていた肩や背中を手で撫でて、あれから成長すらしていないと言う寧野の変化を確かめた。肩幅は少しだけ大きくなっていたし、筋力は圧倒的に今の方がついている。それでも平均的な青年の身長には達していなかったし、体重もぎりぎりのはずだ。
 髪の毛だけは少し長めに伸ばして貰っているが、それは寧野が髪型に拘りがないことから耀の要望を叶えて貰っているに過ぎない。
 着ている服も耀が褒めたものを好んで着てくれている。寧野は見た目とは違い細かいことにあまり執着していないので、耀があれこれ勧めるとそのまま使ってくれる。
 だから自然と耀の好みになっているので、そういう面での不満は一切無い。
 今だって、その匂いはしている。
 そこまで思って耀はふと寧野に尋ねた。
「もしかして、ここに泊まっていたわけじゃないのか?」
 急に真面目な声で耀が言うと、寧野が眠そうな声で言った。
「なんでここに泊まらないといけないんだ」
 意外そうに言う。
「なんでって……ここからこんな時間に帰ってまた来るのはアレじゃないか?」
 そう耀が言うと、寧野は溜息を深く吐いてから言う。
「そうしたら、今日みたいに耀が帰ってきたときに出迎えられないじゃないか」
 言ったあと、寧野はむすっとしている。今日だってさっさと帰っていれば耀が帰ってきた時間辺りに間に合っていたのだという。なのに萩野谷を説得するのに時間がかかり(説得という名のお茶会を開かれて逃げられない=懐かれた)ので、帰るに帰れなかったのだそうだ。
 極力、耀を出迎えるようにしたいというのが寧野の目的が達成できなかったことを思い出してブツブツと文句を言っている。
「大体、萩野谷さんの暴走を止めて欲しいっていうことだったから、一応説得はしたし、萩野谷さんにもまあ、色々思うところがあったみたいだから、話を聞いてやって問題があるところは耀に報告して決めて貰おうと思ってたんだけど、なんか違うことになってって」
 寧野がなんでこうなったんだっけと首を傾げているので、萩野谷との間に何があったのかを尋ねると、寧野が萩野谷にしたことを聞いて耀は盛大な溜息を漏らしてしまった。これは連れ戻す戻さない説得するしないの問題ではない。どう考えても調教しているだけに過ぎない。
 足蹴にされ、さらに水をぶっかけられながらもその後懐いている萩野谷の性格にも問題がありそうだが。そういや、あそこの組はこういうのが沢山いたような気がする。そう思い出して、どうやら美形を好いている萩野谷の理想にはまったらしいと気付く。
 最近になってよく運動をしているからなのか、肌の張りが違うし、筋肉が引き締まって前より痩せたように見える。そういえば、ドイツに行く前に抱いた時には気にしなかったが、まったく気にすらしなかったことが不思議でならない。
 寧野を恋人と定めてから他を抱いたことはない。必要性がないこともあるがずっと寧野の身体だけで満足していたのもある。
 がざごそとまさぐって、シャツの中に手を入れ、地肌を撫でる。
 触ると手に馴染む感触に抱いている間はずっと安堵していたことを思い出す。子供の頃、これがないと安心しないというライナスの毛布のような存在と言えば解りやすいかもしれない。織部寧野という人間がいないと宝生耀という人間が正常に可動しなくなっているのかもしれない。だから失うのが恐くなり、不安が増すのだ。
「……というか、何してんの……」
 せっかく説明をしようとしていたのに、耀が体中をまさぐりはじめた為、寧野はさっきの話の何処にこういう行動に出る要素が含まれていたのか真剣に疑っているような声色だった。
 知らぬは本人ばかりとはよく言ったものだ。
 この妙に何かを引きつける要素を持っているのは何だろうか。
 見た目は十分目の保養になる。初対面では寧野の大人しすぎるところで大人しい人間だと思い込むのだが、その後、とても大人しいという性格ではないと思わせる大胆な行動で度肝を抜かれる。
 耀も寧野は大人しいから守らなくてはと思っていたが、結局、前回の事件の黒幕を殴り倒したのは寧野だった。
 だからあれ?と一瞬考え込んでから、もしかして大人しく見えているのはただ単に怒りのボルテージが緩やかに上がっていくタイプで、喜怒哀楽の怒が見えにくいだけなのかもしれないと気付く。
 寧野は基本的に父親の言うことはよく聞いていて、状況判断だけはよく出来ていたらしいので、危険を察知する能力は他の誰よりも高いのだろう。言葉の端々にある緊張感まで読み取れるのだから、耀が機嫌が悪いことなど随分前から察知していただろうし、気を遣っていただろう。
 そう気付いて、耀はくすりと笑ってしまう。寧野はちゃんと耀のことをよく見ているのだなと。
 耀はすっとシャツを捲り、見えた脇腹にキスをした。
「……わ、ひゃははははは、ちょっと、そこは!」
 真剣にこそばゆいのでやめてくれと逃げようとする寧野をしっかりと両手で抱え込んでからの攻撃だったので、寧野が逃げようとしても逃げられず、縺れたまま床に転がるしかない。半分は耀を引き摺る形になって外へ逃げようとする寧野であるが、さっきまで部屋の外にいた二人、智明や萩野谷はいないらしい。
 耀たちが酷い争いになったら仲裁するつもりだったようだが、耀よりも寧野の方が冷静だったことと、耀もそれによって冷静になれたお陰で、大した喧嘩にはならずに済んだことを確認して下がっていったらしい。
 ということは、その後に二人がそのまま仲良く帰るとは思わないだろう。
 逃げようとする寧野を逆に引き摺るようにして、隣の襖を開けると、案の定、布団がすでに用意されていた。
 どうやら今日寧野を帰さなかったのも計画のうちの一つだったらしい。
 だんだんと老院とあの人達が何をしたかったのか解ってきた。
 その目的とは本家に伝わるあの儀式をやってしまえと思っているのだ。正直あれは昔はどうかと思ったが、あの時、組長代理は響を無断で連れ去られたことに関しては怒ってはいたが、儀式自体に関してはそれほどでもなかった。あの時は耀の方が切れていたのもあったから溜飲が下がったのかと思っていたが、実際自分がその状況にはめられるとあの時組長代理が何を思っていたか悟ることが出来た。
 どうでもいいのだ。そういう儀式だからだとか、仕来りだからだとか、そういう些細な理由はどうでもいい。目の前に抱きたい人間がいたから抱いてしまっただけなのだ。まあ組長代理の場合、抱く理由が運良く舞い込んだだけなのだろうが。
 そして儀式というものに否定的だった耀もこの際、どうでもいいと思いだした。
 儀式をやろうがどうしようが、結果プラスになるならこの制度も利用して、寧野に勘違いをさせるやり方もある。この儀式をやることで本家は女性で言えば妻という立場を与え、組長に属する存在として公に認めると言っているのも同然だ。当然、それは男だろうが女だろうが関係ない。そういう存在であるということを認めさせることだからだ。
 寧野が耀と共に歩く為に、ちょっとした立場が必要だと言うなら、その立場を耀が作ることが出来る。いや、むしろ耀にしか出来ない。この儀式をすれば、自動的に本家の全ての権限を耀同様に出来る。昔と違って組関係はさすがに無理であるが、本家の立場が上がればそれだけ認められたことを無視出来なくなる状況は変わっていない。宝生という組織、暴力団組織とは違った宝生の一員であるという立場が生まれ、組は寧野を完全無視した決断が出来なくなる。デメリットといえば、そのせいで寧野の行動が全て監視され、寧野が望ますとも強制的に耀の発言一つで何もかも決められることになる。だがそれは話し合いをして解決すれば、それほど問題にはならないはずだ。
 寧野はそういう風にしていこうと言っているのだから。
「えーと、これはあからさまだな」
 ずるずると引き摺られて隣の部屋に行けば、用意された布団にどう考えても寧野が休むために用意したわけではないというサイズから、何をするために用意したものかはさすがの寧野もカマトトぶることは出来ないようだ。
 抱え込んだままの寧野の項にキスをすると寧野は抵抗はせずに身体を包み込んでいる耀の腕を撫でてきた。耀がすっかりその気になっていることはさっきの様子から分かりきっていただろうし、目の前にさあどうぞと場所が用意されていたら、とりあえず治まらないからここでもいいかと考えたことまでは寧野にも伝わっているらしい。
 ただ儀式が行われているという感覚はないというか、こんな簡易的な状況で儀式が認められるとは思ってもいないらしいので、緊張は一切無い。
 あまりに普段と変わらない態度で反応してくれるので、ここで水を差すようなことを言っては白ける。
「えっとあの、萩野谷さんのことだけど……」
 一応、話が中断したままだったことだったのを気にしたらしい寧野がそう言って耀の手を止めようとしているが、それを的確に躱して押し倒し、キスをしようとしたところで不満そうに抵抗された。近付けた唇を塞いで目が訴えている。
 自分がした行動でどうなるのかを把握しておきたいようだ。確かに色々話が中途半端なところがある。このままうやむやにしたままにしておく訳にはいかない部分もあった。こうやって話を聞かずにきてしまった手前、気分は乗っていても寧野の言葉には応えないといけない。それではこれまでと同じ対応のままになってしまう。
「で、寧野から見て萩野谷の言い分はどうなんだ?」
 寝転がらせたままで寧野が塞いだ手にキスをしてやってから尋ねると意識はそっちに向いたようで力が抜けた手が簡単に離れていく。その手を取って手の甲にキスをした。
 さっきまでは少しだけ照れていた程度だった寧野の態度が一気におかしくなってくる。真っ赤な顔をして視線を反らして困っている。性行為をするという場面になっても大して動揺することはないのだが、どういうわけか細かいキスや大事に扱うと恥ずかしさが増すらしく、反応が大人しくなってくるのだ。
「なんか、老院の古参二人に対して反発が凄いみたい。耀を手駒にして宝生組を乗っ取っていると思ってたみたいで。でもそれはたぶん」
「たぶん?」
「実力の差を感じたかプレッシャーが凄かったんだと思う」
「プレッシャーか……まあ、あの二人の前で冷静で居られる人間なんて片手で数えるくらいしかいないから仕方ない」
 音羽はともかく、志智は化け物級の存在だ。普段はいるのかいないのか解らないくらいに存在感を隠してしまうのに、ここというところでは強烈な威圧感を放つ。ただの老人だと思っていたらそうではなかったことに全員が一気に不安を覚える。
「うん、俺もちょっと感じたことがない威圧感がすごかったなって思ってたから、萩野谷さんクラスの組長が自分より上がいる状態になれないんだと思ったかな?」
 寧野の言うことは間違っていない。萩野谷は組長としてはレベルが高い。西塔組は宝生組では幹部であったし、北海道内では敵なしでロシアという海外との取引を長年安定させてきた強者でもある。その自信があって入ったところに、自分以上の凄腕がいたとしたら自分のレベルが思ったよりも低いような気がしてそれを認めたくないばかりに気だけが焦ってしまうだろう。
 寧野の分析は間違っていないし、耀は萩野谷の暴走も仕方ないと解っていた。ある程度見逃しているところもあった。あれ以上無様な真似をするなら、これ以上囲っている価値はないと見限るところだったが、寧野の登場で運良く拾われた。さっきの怯えっぷりをみれば解ることだ。耀が暴走して登場したことで一気に萩野谷は耀に逆らうのはやめようと思っただろう。
「でね、そりゃ世の中上には上がいるのが当たり前で、状況によってはそれ以上だっているわけだろ? そういうことを今更でも解るなら、自分を客観的に見られるように成長したと思えばいいんじゃないかなって言ったら、なんか懐かれたというか」
 当たり前のことを平然と言い放った寧野に目を覚まされたというところなのだろう。それに姿形が好みである。萩野谷が本気で危ないことを考える前に十分釘を刺しておかないといけないだろう。とはいえ、ある種の憧れが入っているところがあるようだから、犹塚智宏と同じ感覚で愛でるつもりだろうけれど。
 そもそも萩野谷の趣向を理解した上で寧野を差し向けたのは間違いないだろう。その上で寧野の価値観も問うたわけだ。そして耀までも巻き込んで、今この有様なのだ。
 総合的な結果では志智の思い通りになっているはずだ。
 悔しいが策士としては、一流なところは認めざるを得ない。志智は自分の手をそれほど使わずに事を治めて、さっさと平穏な日常に戻したかっただけだろうが。
「まあ、萩野谷は二度とあんな真似はしないだろう。寧野はよくやった」
 耀は寧野の功績を褒めた。実際、耀だけでも十分脅しでいけただろうが、それでは萩野谷に対して遺恨が残ったままになり、西塔組とも軋轢が生まれる。その回避を寧野が上手くしたことは確かだったからだ。
 褒めて頬を撫でてやると、寧野はほっとしたように笑った。
 だが、それを眺めていたら思い出して腹正しいことをさっき寧野が言っていたことを思い出す。
「そういや、外で蔡(ツァイ)にあっただと?」
 笑いながら寧野に言うと、寧野は目が少しだけ泳ぐ。
 外で二人っきりで会うのは危険だと判断した耀が、会うなら自宅で会ってくれた方が安全だと言って、寧野のところに蔡(ツァイ)が来ることを許していた。その約束が守られていなかったことに突っ込みを入れると寧野は言い訳を始めた。
「凄く急いでて、ちょうど会社の近くだったし、それにボディガードは近くにいたし、大丈夫だと思って。まさか人が多い喫茶店の一角でどうこうなるとは思えないから」
 テロでもない限りそこで銃撃戦という流れにはならないのが日本だ。海外だったらバズーカでも打ち込まれることだってある。
 幸い蔡(ツァイ)が龍頭(ルンタウ)であるという公然とした事実が表沙汰になっていないので、それほど大げさにはならないだろうが、寧野が言っていた話しが本当だとしたら、その意味合いは変わってくる。
 蔡(ツァイ)はどういう理由か解らないが、今後動きが取りにくくなるのだろう。
「犬束(いぬつか)さん、ちょっとだけ寂しそうだった。今まで冗談みたいに一緒に行こうって言ってもらってたけど、今回のは絶対に冗談じゃなかった」
 寧野がそう言うので耀は真剣になる。鵺(イエ)の情報はまだ入ってはいないが、龍頭(ルンタウ)として蔡宗蒼(ツァイ ゾンツァン)が本格的に顔を出すことになったのかもしれない。龍頭(ルンタウ)の顔を出すことは危険ではあるが、一般人にはっきりとわかる形で出すことではなく、組織内でこの人が龍頭(ルンタウ)であるというちゃんとしたお披露目をするということなのだ。今は司空(シコーン)の要望で顔を晒したりしていなかったが、大学も出てどっぷりとこの世界で生きていく準備が整ったから顔出しをするということだ。
 そうなると黒社会でこれまでにない変動がみられるはずだ。司空(シコーン)が完全に引退をし、子に地位を全て譲るということなのだ。寧野に言ったことは自分の身が危なくなるので出来れば引き取りたいという純粋な蔡(ツァイ)の意思だ。もちろん寧野がそれを承諾することなどないことを予想していたから少しだけ困った顔をしていたのだろう。
 強引に攫う手もあるが、それでは今まで築いてきた寧野との絆を一切切ってしまっての行動になる。それが出来なかったところに蔡(ツァイ)がどれだけ寧野を大事にしているのかが解る。無条件で直系の肉親に対しての思いが強いのだろう。
 その辺の変動を予想したのだろう。組長代理が念を押してきた理由も納得が出来る。蔡(ツァイ)の立場がこれまでの甘えた立場ではなくなるので、寧野にもその覚悟をしてほしいという意味でどちらにつくのか聞けと言ったのだろう。
 耀がそれを寧野に尋ねようとした時、寧野の方が口を開いた。
「行こうって言われても、俺には耀がいるし、日本を離れる気はないから、ついて行けないよね。それによくよく考えたら、ついて行く理由がないよね」
 そう言うのである。
「何故だ?」
 耀が不思議そうに聞き返すと、寧野は呆れた顔をして言った。
「何言ってんの。俺、どう考えてもあっち側からしたら敵なんだけど?」
 敵って何のことだ?
「犬束(いぬつか)さんとか道橋さんは確実に味方かもしれないけど、その他はみんな俺のことは邪魔だと思ってるよ。行ったらたぶん殺されるんじゃないかな? 犬束さんもその辺解ってるから強引に連れて行こうとはしなかったみたいだし。それにさすがに宝生より危険があるようなところに進んで行く気にはなれないなあ」
 のんきに語っているようであるが、これは寧野が蔡(ツァイ)について行くとすれば冷静に考えてそれが一番ありえるという話だ。いくら龍頭(ルンタウ)の大事な家族であるとされても周りがそれに納得はしない。
「だって、生まれた時から日本に住んでて、価値観も違うし、そもそも鵺(イエ)っていう組織のなんたるかを解ってない素人を大事にしろと言われても向こうからすれば、いやいやおまえ絶対スパイだろって状況だろうし、ついて行ったところでたぶん誰も来ない、使用人しかいないようなところに監禁されて一生を終えそうだし、外に出られたと思ったら違う組織に横流しなんてこともあり得るわけだし、なんというか、行くだけ命がなくなる確率が倍々で上がっていくだけという考えるだけ無駄な作業かなと」
 たぶんそれが一番妥当で、折り合いつけてもそこが両方の落ちどころかもしれない。それ以上の妥協は選択だ。耀が鵺(イエ)の蔡(ツァイ)側ではなかった場合、こういうことがあれば、せいぜい妥協してそこだろうと思えた。
 そこまで頷いて聞いていて耀は目を見張る。
 寧野(しずの)は鵺(イエ)になんとなく危険が迫っていると感付いて、ついて行かない理由を耀だけにしないで蔡(ツァイ)さえ納得して諦めるような答えを用意出きるようになっていたのだ。
「俺だって、情報くらい仕入れるよ。九猪さんに聞けば、ある程度の情報は教えて貰えたし、駄目だった場合はちょっとカマかけて他の人に聞いてみるのもありだし、それに……」
「それに?」
「耀は忘れているかもしれないけど、一番の情報源は、うちの社長。あの人、組長代理と直接裏で繋がっているから嫌でも情報入ってた。あの人ある意味スパイだよ」
 さらっと何でもないことのように言われて、耀はふうっとため息をついて枕に頭を沈めた。
 忘れていた。本気で言われるまで忘れていた。そんな直結した確実に情報をもらしてくれるような人が寧野の目の前にいるのだ。
 組長代理の後輩で組を継ぐ前に父親に組を解散されたという経歴を持つ社長に組長代理が任せているフロント企業。情報通信等のIT系というなんとも怪しい会社であるが、そこに寧野は就職をして、社長の手伝いをしている。あの社長も十分怪しいが組長代理との付き合いは海外での場合が多く、いわゆる外資系と言われる存在で、警察もさすがにあれがフロント企業とは思ってもいないようだ。
 寧野を自然と引き入れる為に企業としておかしくないように準備をして引き入れたりもしたが、その結果、未だに怪しまれるところはないという。
 その会社が入っているビルに組長代理が経営する金融業者が入っていて、そこを訪ねる関係でその会社にも顔を出していることもある。大抵、社員が全て帰ってしまった後のことが多く、寧野は残業を強いられて残っているところに組長代理がきて、お茶くみをさせられている時にどうしても話しが耳に入ってしまうのという。
 そりゃ二人が寧野の耳に入れようとして話しているのだから仕方ない。
 最初からそのつもりで寧野を監視するついでに寧野がどういう立場なのかを探ろうとしていたからそうなっているのだ。寧野もその辺は解っていたようで、仕方ないと諦めていたらしい。
「俺がどう考えていようと、組長代理が安心することはないんだ。それはまあ仕方ないし、それで安心する人がいるならそれを嫌だとは俺には言えないからね」
 どこに居ても結局監視されることに変わりはない。異端であるがゆえに、もう一般人として暮らしていくことは出来ない。
 たとえ一般人として暮らしていても、警察や公安は寧野のことを見逃してはくれない。寧野で徳をすると勘違いする輩がいるかぎり、平穏なんてものはない。
「ほら、なんていうか。普通、平穏な世界が壊れて悲観する人が多いでしょ? 俺はそうじゃないんだ。確かに残念だなと思うけど、それと同時にああやっぱりそうなんだって、ドキドキする。俺の居る世界は違うんだって、ホッとする」
 上手く言えないと寧野は言う。平穏な世界が壊れて泣く人が一般人。しかしそれで自分が出番だと思えるのは、すでに一般人ではない感覚だ。
 だが、それは耀よりももっと残酷な運命に翻弄された人間が、幸せという単純な感覚すらも嘘だと思わないと生きていけなかったという経験からくるものだ。
 寧野の世界は昔から狂っている。それを下手にねじ曲げて寧野に合わない幸福を押しつけると寧野は海水から淡水に移された海水魚のように生きられない。両方が生きていける環境は作れるけれど、いわば囲われた世界でしか実現しない。
 寧野はそれすらも嫌だと言った。
「耀に助けられた時、全部終わったって言われて拍子抜けした。でも終わってなかったって解った時、ドキドキした。血がたぎるというか、そういう風にああそうだよな終わってないよなって。耀に再会した時、目眩がした。俺が生きられる世界につれて行ってくれるんだって」
 耀を見つめる視線が熱っぽくなってくる。
 伸びてきた手が耀の頬を撫で、指が唇を撫でる。
「どうしよう、凄く好きだって胸一杯になって、涙が出るくらい耀に触れられることが嬉しい」
 今は言いたいことが正しく耀に伝わって、面倒事が一応全部片付いて一息吐いたところだったからのか、寧野の気も緩んでいるのだろう。
 早く寧野に触りたいけれど、ここは寧野の気分に任せてみることにした。積極的な方だとは言えないが、普段は耀の方がテンションがあがって暴走しているところがあるので、寧野から誘われても大概耀のペースにしてしまっていたからだ。
 ゆっくりとした動作で起き上がった寧野が耀に跨がって乗りかかってくる。上から見下ろしてくる瞳が、完全にさっきまで話していた冷静な色をなくしている。
 ネクタイを引っ張り、それを外していく。シュルリと音を立てて外れたネクタイを寧野は手に持ってニヤリとした。
 耀の手首をネクタイで縛り、頭を通して首の後ろで固定させた。もちろん本気で拘束したいわけではないので耀(あき)が手を動かせば外せる。けれど耀はそのまま言うとおりにした。
 シャツのボタンを外して下着をたくし上げる。肌を指が撫でていき唇もそれに遅れてついて行く。愛おしいそうにキスをして舌で舐めていっている。
 ただこれだけの行動をされているだけなのに、妙に興奮しているのはやはり心の問題だろうか?
 それとも?
 ズボンを脱がせて下着までずらす。そそり立つ耀自身を見て寧野は嬉しそうにする。大切なものを舐めるようにしてソレを口に含んで唾液を付け舌で舐めてくる。口に含んで吸っている姿を見ながら、早く寧野をどうにかしたい気持ちを抑えるのに耀は必死だった。
 ここでいつものように耀が主導権を握ってしまったら正直いつもと変わらなくてつまらない。せっかく寧野がその気になっていて積極的に自分を求めてくれているのだ。その行為を無駄にしてはダメだ。
 美味しそうに耀自身を舐めている寧野を見ながら、耀は口から漏れる息をなんとか整えようとする。
「……くっ」
 気持ちよくて漏れる声に寧野が興奮しているのがよくわかる。耀が気持ちよくなるように必死に舐めて耀を達かせる。
「……!」
 耀が達し、寧野の口の中に精液を吐き出す。
「ん……」
 喉に叩きつけられた精液を寧野は受け止めてあふれそうなものをそのまま飲み込む。決していい味ではないが興奮している時には気にならない些細な味だ。たぶんこういう行為の時の記憶がいい記憶だから、不快なものとは思わないだろう。
 飲み込んでしまってから寧野は用意されている布団のそばに行為のために使う道具が一応すべて揃っていることに気づいた。
 服を耀の目の前で脱いで自分でローションを使って穴を広げようとすると耀が手を縛ったままで寧野の胸に触れる。指が乳首を撫でてそれに合わせるように寧野の体が揺れる。
「あ! んっ」
 準備ができると寧野が自分で耀自身に跨がって自分の中に迎え入れる。 ローションのおかげでスルリと飲み込んでいく。しかし大きくなっているモノをいきなり深く受け入れるのは一週間ぶりなのでゆっくりと呼吸をしながら受け入れる。
「んふっあっ」
 全部を飲み込んでからも耀は寧野に主導権を渡したままだった。息を何度も吸って呼吸を落ち着かせて、寧野はゆっくりと腰を動かす。最初はひねるように揺らして慣らしてからゆっくりと腰を上げていく。
「んぁあ」
 腰を動かして動き始めた寧野を気遣いながら、耀は上半身を起こして寧野の体に触れていく。動かす行為には手を貸さないがそのほかの行為は続けていく。
 ゆるく乳首を撫で回し、寧野のリズムに合わせる。そうしていると寧野の行為も激しくなってくる。腰を激しく動かし自分の気持ちがいいように内部に耀自身をすり付ける。
「あっあっ!」
 目の前で妖しく身を捩らせる恋人を眺め、耀は少しだけ腰を突き上げる。その一突きで寧野は予想外の快楽で達した。
「んぁああぁぁ!」
 一度も触れていない寧野自身が精液を吐き出して耀の腹を汚す。達した直後も寧野はびくびくと体を痙攣させて耀自身を締め付けてくる。強すぎる締め付けに耀は耐え、寧野だけを一端達かせる。
「ん……あ、あき……いってな……」
 自分だけ強制的に達かされて不満に思っている寧野が受け入れている耀自身がまだ堅いまま自分の中にいることに気づき焦っている。
「おれ……ダメだった?」
 快感でいろんなものがおかしくなっている寧野が、目に涙を浮かべて自分のやり方がよくなったから耀が達ってないのだと思って泣きそうになっている。
「いや、良かった。でもまだまだ終わりたくないから」
 耀はこの隙にネクタイの結び目を口で解いてしまって、自由になった手を使って体制を入れ替える。繋がったまま寧野を布団に押しつけ、驚いている寧野の中にさらに深く己を忍び込ませる。
「ああ!」
 突き上げた瞬間、寧野の体が大きくしなる。
「これから俺のリードでやるから、寧野覚悟しろ」
 寧野の上から獲物を襲うかのようにのし掛かった耀がニヤリとして寧野に言い放った。
「え?え?ええ?」
 何を宣言されたのか一瞬理解できずにびっくりしたように耀を見返した寧野だが、その意味はその5秒後に理解した。