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switch101-2 階段

 ここが結構好き。
 何の意味もなく、立ち止まって座っている。
 立派な造りで、家のものとは違う。

 昔はよく弟と両親が帰ってくる日には、そこに座って待っていたっけ?

 俺にそっくりの弟。
 寄り添って、下らない歌歌って、何時間でも座ってた。

 でも、もういくら待っても両親は帰って来ないし、弟も家を出て行っている。

 弟は覚えてないかもしれない。

 こんな下らない事を、俺は今でも時々やってしまう。

 学校の階段とか、人があまり使わない所で座ってた。
 マンションでも、屋上へ上がる階段に座ってた。

 もう誰も帰っては来ないのに、俺は誰かを待っているかのように、そこへ座り続けて、何時間も無駄 に過ごす。
 
 意味ないけど、やっちゃうんだなあ…。
 癖かなあ?
 それとも俺だけが、おかしいのかなあ?

 ぼーっとしてそこでそんな事を考えてたら、いきなり声が降ってきた。

「透耶」

「ん?」
 
 見上げると、鬼柳が俺を覗き込んでいる。
 
 どうしよう、満面の笑みだ…。

「な、何?」
 俺がそう言うと、手が伸びてきて俺の頭をクシャクシャと撫でている。

 何だあ?
 
 俺がキョトンとしていると、鬼柳が俺を軽々と抱え上げて、階段を降りて行く。

 んー? あれ? 前もなかったっけ、これ…。

 ソファに降ろされると、鬼柳が抱きついてくる。
「ただいまー」

 愛おしそうに、俺の額にキスをする。
 うーん、それに慣れている俺もどうだろう?

「おかえり」
 笑って言うと、鬼柳は満足している。

「んー、階段で俺が帰ってくるまで待っててくれると、無茶苦茶嬉しい!」

 どうやら…勘違いされてしまった。
 ん? 待て、殆ど合ってないか?

 俺はいつも誰かが帰ってくるのを待ってたんだ。
 こーんな奴でも、俺にとっては待っている価値があるらしい。
 なんてこった。

 まるで忠犬八公よろしくやってるし。

「…別に、ただ誰かが帰ってくるのを待ってただけ」
 
 俺がそう呟いたら、鬼柳が首を傾げて俺を見つめてる。
 変な言葉を吐いてしまった。
 それでも鬼柳は独自の思考回路で解釈するらしい。

「それって、俺でいいんじゃない?」
「は?」
「誰じゃなくて、俺にしとけ。絶対透耶の側に帰ってくるから」
 
 優しく微笑まれて、俺は戸惑って思わず頷いてしまう。

 それで押し倒されてたら、世話ないって?
 俺も思うよ。