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switch101-101 貴方というひと 透耶編

 最初に出会ったのは、海の中だった。

 俺がぼけっとしていたのを助けてくれた青年がいた。
 俺は驚いてその人を見つめ返した。とても綺麗でかっこいい人だと思った。

 日は暮れ、海はまだ寒くて俺は震えてしまっていた。でも何かが熱かった。

 その人の名前は、鬼柳恭一と言った。

 鬼柳さん、俺はそう呼んでいた。その人は、助けてくれたうえに家にまで連れていってくれ、食事まで与えてくれた。
 俺はぼーっとしてるから、その性癖に気が付かなかったんだけど。

 鬼柳さんは、俺を抱きたいと言い出してきた。俺は必死で逃げようとしたけど、力では到底叶わなかった。
 そのままなし崩しで抱かれてしまったのだ。

 でも俺はその人を憎む事が出来なかった。

 とぼけた性格な上に、日本語がマトモに通じない。そこに俺は頭を抱えたんだけど、それでも鬼柳さんは俺に触ってくるのだ。止めようとしても無駄 で、最後にはここを出てしまえば忘れるだろう、事故として終わると思って、俺は逃げ出そうと何度も試みた。

 でも逃げだせなくて、最後には諦めてしまった。

 鬼柳さんは、なんでもできる人で、そこには感心していた。
 料理が上手くて、掃除も洗濯も全部自分でやってしまえる人なのだ。

 俺は結局逃げだせなくなってしまった。何故か逃げ切れないと思ってしまったから諦めてしまったのかもしれない。

 そして別荘では誘拐事件に巻き込まれてしまった。その時も鬼柳さんは俺を助ける為にいろんな事をしてくれたらしい。後で聞いた話なので、深い部分はよく解らない。でも鬼柳さんが凄いことをやってくれたのだけは理解出来た。

 でも鬼柳さんの好きには答えられなかった。断る事も出来なかった。
 俺は次第に鬼柳恭一という人間に惹かれてたのかもしれない。


 沖縄まで拉致されたにも関わらず、俺は心の底から怒る事も出来ないでいた。
 不思議な雰囲気を持っている鬼柳さんの魅力にだんだんハマってしまったかのようだった。

 沖縄では、いろんな事があった。

 俺は意を決して鬼柳さんに自分の過去を語った。まだ怖くて震えてしまう怖い話。それでも鬼柳さんは俺の話を黙って聞いてくれた。それは嬉しかった。泣きたい程嬉しかったんだ。

 何故、この人なら俺の過去の話をしてもいいと思ってしまったのだろうか。それは今なら解る。包容力がある人だからこんな話でも受け入れて貰えると思えたんだ。

 辛い事を話して、俺は少し楽になった。

 それからは鬼柳さんに対して、凄く前向きになれたのかもしれない。
 でも呪いの事もあるし、と思いながらも俺は鬼柳さんに惹かれてしまっていた。

 受け入れてはいけないと思えば思う程、鬼柳さんを好きになってしまったのかもしれない。

 鬼柳さんとはいろいろあったけど、俺はもう鬼柳さんなしでは生きて行けないと思えた。だからある人に相談して、後押しをして貰ってしまった。

 俺は、沖縄で鬼柳さんに告白をした。
 熱いアスファルトの熱で靄がかかってしまうあの場所で。

 鬼柳さんは凄く喜んでくれたのは意外だった。一時の遊びだと自分が思っていたからかもしれない。だから鬼柳さんの言葉は嬉しかった。

 俺はあの光景を一生忘れない。

 鬼柳さんが優しく笑って頷いてくれたあの日を忘れない。



 東京に帰ってからは一緒に暮す事になった。

 鬼柳さん、恭はなんでも良くできる人だったから、全てを任せてしまった。

 新居には恭の家の執事さん、宝田さんがやってきていろいろと手配をしてくれた。恭を育てた人の話は、俺を安心させてくれた。

 恭がどんな育ちをしてきたのかは凄く興味があったから。

 それから恭が自分が住んでいるというアパートへと連れていってくれた。人は入れないと言っていた家は、俺が想像してた通 り、カメラ機材や写真の山だった。

 そこで、恭は過去を話してくれた。

 とても辛くて誰にも話してない内容だった。俺は何もいえずただそれを受け入れてあげるしか出来なかった。でも吐き出すように話してくれる恭を愛おしいと思った。
 そういう話をしてくれるということは、俺は信頼されていると感じたからだ。

 でも、なんでもエッチに繋げるのはどうかと思うけど。

 そこで、俺は恭の写真を沢山見た。風景写真が殆どしめていた。どれも綺麗で、まるで恭の心を現しているかのようだった。
 心が優しいから、こういう写真が撮れるのだろうと思えた。

 それからは恭の繊細さがよく解るようになった。

 俺はそれを優しく包んであげることしかできない。恭が俺にしてくれたようにしてあげるしか出来なかった。

 恭は、前にもまして、色んな事を話して聞かせてくれた。
 それはとても嬉しい事だった。

 心が通っているからこそ、恭は色んな話をしてくれるのだと解ったから。
 俺は本当に愛されていると実感する時がある。

 恭が優しく微笑んでくれるととても嬉しい。
 心に熱いものが込み上げてくる。
 それくらいに感じてしまうんだ。

 ねぇ恭。

 俺はとても愛してるよ。
 恭に負けないくらいに恭の事を愛してるよ。

 いつも愛してる、好きだと言ってくれてありがとう。
 それはいつも俺の心の支えになる。

 離れていてもずっと側にあるものに変わるんだ。
 本当は面倒くさがりなくせに、その言葉だけは忘れないよね。

 だから俺も恥ずかしいけど、ちゃんと返すね。

 恭は更に強くなったよね。
 俺も恭を見習って強くなれてるかな?

 恭はもう大丈夫だよね。

 本当に愛おしい人。

 どんなに離れていても大丈夫だという心をくれたよね。

 世界でただ一人だけの人。

 俺は本当に愛してる。

 貴方の全てを愛してるから。

 それだけは忘れないで。

 ねえ、恭。