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switch101-14 ビデオショップ

 最近、透耶がよくレンタルビデオを借りに行きたいと言う。

 俺は、そういう所へ行った事がなかったので何処へ行けばいいのか解らなかったのだが、朝ゴミ出す時に近所の主婦に聞いてみた。

「あら、ここから10分の所に大型店があるから、そこ便利よ」

 俺達がここへ越してきた時から親切にしてくれる主婦達が丁寧に地図まで用意してくれた。

 それで取りあえず透耶を連れて行ってみる事にした。
 透耶は喜んで、友達に電話をかけて、今何が流行りなのかをリストアップしていた。



 大きな店とは聞いていたが、本屋とセットなのには驚いた。
 5年程日本にいるが、こういう所へ入ったのは初めてだ。

「ここで借りるのに、身分証明が必要なのか」

「うん、あくまで借りる訳だから、もし返さない人がいたら大変でしょ。だから、カード作るには、大抵身分証明は必要だよ。俺、保険証しかないや」

 透耶は言いながら、リストアップした映画の題名を確認しながら、パッケージのあらすじを読んでいる。
 大体がアクションかサスペンスだ。
 まあ、透耶が書いているモノが推理ものだから、そういう傾向になるのは仕方ない。

 俺は特に興味がある訳ではないが、嫌なのは戦争ものだ。
 あれは嘘が多いし、思考が片方に片寄っているから面白くもない。

 俺がそう言うと、透耶もそうだと言う。

「あんまり戦争ものは、好きじゃない。不条理を感じるし」

 まあ、あんなのはやらないで済むならやらない方がいいに決まっている。
 不条理を感じるのは当たり前だ。

 しかし、こういう所でも、やっぱりAVコーナーってのはあるんだな。
 そういうと、透耶が何か嫌な事でも思い出した顔をした。

「何かあったのか?」
 俺がそう聞くと、透耶は見ていたビデオパッケージを持ったまま座り込んだ。

「?」
 なんだあ?
 よく解らないが、怒っている訳ではなさそうだ。

 一緒に座り込んで、透耶の顔を覗き込むと、真っ赤な顔をしている。

「いや、その。アレを友達が借りてきて見た事があって」

 透耶は妙に照れた言い方で、そう話出した。

「…ああいうの、皆で見るんだけど。その、凄く嘘臭いなあって…。でも、皆は、結構感じてるんだけど。俺、どうも駄 目で…」

 まあ、嘘臭いのは当たり前だ。ありゃ嘘だしな。演技入り過ぎている。

 で、透耶は何が駄目だったんだ?

 そう思ったが突っ込んで聞くと、怒りそうなので俺は黙って次の言葉を待った。

「それで…トイレで、その…。戻したんだ」

 はい? 戻した?

「吐いたんだよ…。あの女優の…声とか、やってる事が。気持ち悪くて…」

 ああ、なるほど。
 俺は納得して、透耶を抱き起こした。

「俺って、変なのかな?」
「ん? 変って?」
「だって、普通は、やっぱり興奮するとか、するもんでしょ?」
「別に興奮しないけど?」

 俺が何でもないと言うと、透耶がやっと顔を上げたんだが…怒ってるな…これは。

「何を怒ってるんだ?」
「恭は見なれてるから、そう思うんだろ」

 はははは、ビンゴだな。
 見なれてるというか、見飽きたが正解なんだが、これを言うとまた怒らせるしなぁ。

「日本のを見ても興奮しないって事なんだけど」
「はあ? ああ、そっか。洋モノじゃないと駄目なんだ」

 苦し紛れの言い訳だったが、透耶は納得したみたいだ。

 しかし、透耶がそういうので吐く程拒絶反応があるのは意外だった。
 別に女が駄目という訳ではないし、完全ノーマルなのは初めから解ってるんだがな。

「じゃ、洋モノで興奮するんだ。んー、じゃあ、それでも駄目な場合はやっぱりおかしいんじゃない?」

 そう切り返してきたか…。

 これは、答えないと、きっと透耶はキレるだろうなあ。
 俺は少し考えた。
 透耶の現状は置いておくとして、その前で透耶を縛る何かがあったのか。
 それを考えている間、透耶は黙って解答を待っている。

 結局、思い当たる原因と言えば、あれしかないよな。

「あれだろ。約束。あれで無意識に拒絶してたんじゃないか? 好きになるということは、やっぱりセックスまで含める事になるだろう?」

 我ながらいい答えだと思っていると、透耶は凄く納得した顔で頷いた。

「そうか…。それだ、きっと! うわ、すっきりした」
 透耶は問題解決したーと喜んでビデオ選びに戻って行った。

 よくよく考えたら、それだけ拒絶反応があったのに、俺はよく透耶を抱けたなと、妙に自分のテクニックを誉めてやりたくなったぞ。

 そこまで考えて、俺は透耶の後を追った。
 透耶を一人にすると危ない。
 さっきから、怪しい男が透耶を見てやがる。

 たくっ、好きな事をしている時の透耶は、フェロモン垂れ流しだから困る。
 見せつける様に、透耶の腰に手を回して、所有者が誰なのかを叩き込んでみる。
 いい具合に、透耶の方から、(たぶん無意識だろうが)俺に凭れ掛かるようにしてきたから、怪しい男はそれを見て消えた。

 まったく、こういう所でも油断がならない。



 5本程選んだ所で、透耶がレジに向かった。
 カードを新しく作って、精算する。

 すると、店員が透耶の正体に気がついたらしく、興奮したように聞いてきた。

「あの、小説家の榎木津透耶さんですよね?」

 ストレートに聞かれて、透耶は一瞬迷った様に返答に詰まっていた。

 俺は、さっさとビデオの入った袋をレジから取り上げた。

「帰るぞ」
 言って先に歩き出すと、透耶は店員に頭を下げて俺を追ってきた。

 横に並ぶと、透耶が言った。
「あ、ありがとう」
 
「いや、悪い。俺のでカード作れば良かったな」

 しくじったな、これは。
 
 透耶は見た目なら、女に見えない事もない。
 だから免許証なら誤魔化しが効いただろう。光琉に似ているとしてもだ。
 名前だって、女の同姓同名でもありえる。

 しかし、保険証では男女の区別が一発でバレる。
 男でこの名前、帽子を被っていても、よく顔を見れば、もう疑う予知はない訳だ。

「それはいいんだけど…。やっぱ、住所バレたらマズイかな?」

「ま、今回は仕方ないな。そう広まるものでもないだろう。今度からレジは俺がする。もしもの為にカード作る時は俺のも一緒に作って置くよ。そうすりゃ透耶が使ってもバレないだろう?」

「そうだね」
 透耶は素直に頷いた。

 まったく、透耶が外に出ると、ろくな事にならない。
 変な輩は見てやがるし、小説家だとバレると、騒ぎになるし。
 絶対、一人で行動させてはならない事がよく解ったぞ。