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switch101-19 ナンバリング

編集者に電話しなきゃ。

 パソコンに向かっていた透耶は、慌てて書斎を飛び出した。

 居間に入ると誰もいない。
 鬼柳は仕事部屋なのだろうか?

 そう思いながら、編集者直通になっている短縮を押した。

 するとディスプレイにナンバーが次々と出てくる。

 これで間違ってないよねと思いながら透耶は向こうが出るのを待っていた。

 暫くして繋がった。

「こんにちは、榎木津です」
 ちょうど電話を取ったのは編集者である手塚だった。

 いつもなら忙しくて出かけている事も多い相手が一発で捕まったのは久しぶりかもしれない。

 とはいえ、透耶から電話を入れる事は殆どなく、手塚から連絡してくる方が多いのだが。

 そこで仕事話をしていたら、ふと、手塚が言い出した。

『今晩、そっちへ行ってもいいかな? 別シリーズのイラストが決まったんでラフだけど見ておかない?』
 というのである。

 透耶の小説には必ず漫画のイラストと決まっている。それもそのはず。透耶がターゲットにしている高校生くらいの年齢の推理ものだからだ。

 その絵のお陰で売り上げが伸びているといってもいいと透耶は思っていた。

「はい、見てみたいです」

『じゃ、決まり。六時くらいにはそっちにいけると思うので、宜しく』
 そう言って電話が切れた。

 透耶はふうと息を吐いて、書斎へ戻ろうとした。
 すると鬼柳が居間へ入ってきた。

「どうした? 電話か?」

 電話が鳴ったのなら、鬼柳の仕事部屋や宝田がいる場所で電話に出ているはずだったからだ。

「うん、こっちからかけたの」

「誰にだ?」
 こそこそとして何処へかけるのだという、少しきつい口調になっている鬼柳。

 透耶は笑って、「編集者の手塚さんの所」と答えた。

「で?」

「うん、打ち合わせで家に来るって」

「そうか、夕飯だそうか?」

「そうだね。忙しいから食べてる暇もなさそうだったし」
 透耶はそう答えた。

 忙しい編集は、昼をマトモに食べた事もないと言っても過言ではない。連載の事、新刊を出す作者の場所へと1日ロードワークをこなしている。

 それだけ大変なのだ。

 鬼柳は透耶が世話になっているからという理由で夕飯に手塚を招待した。

 この家に何度か出入りしていた手塚の目的は、鬼柳の手料理にもあった。

 やってきた手塚はこっそりと透耶を伺って聞いた。

「夕飯、期待していいかな?」

「もちろんですよ」

 するとすぐに元気になってしまう手塚。
 嬉しそうな顔をして。

「となれば、さっさと仕事をしましょう!」

 そう張り切っている手塚を見て、透耶は苦笑するだけであった。