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switch101-21 はさみ

「おい、透耶…」

 いきなり耳元で名前を呼ばれて、俺はびっくりして持っていた鋏を落としてしまった。

「うわ! びっくりした…」
 鋏は俺の足と足の間に刺さっている。
 危なー…。

「いきなり声かけないでくれる?」
 俺は言って鋏を拾った。

「悪い。けど、声はいきなりかけるもんじゃないか?」

 もっともな事を言われて、俺は溜息を吐いた。
 
 そうなんだけど、耳元でするのは違うと思うんだ…。

「何やってんだ?」
 俺が鋏を使って何をやっているのか気になるらしく、手元を覗き込んできた。

「スクラップ? どうすんだ?」
 どうも、俺がする事する事、何でも知りたがるのが今の鬼柳だ。

 ちょうど俺は、新聞の中で気になる所を切り抜いてスクラップブックに張り付ける所だった。

「資料にするの」
 俺がそう言うと、鬼柳が鋏を俺の手から取り上げた。

「ちょ…何?」
 俺が聞こうとしたら、先に鬼柳が言った。

「何切ればいい?」

「えっと…赤色で囲っている所を…」

「解った、これだな」
「うん…」

 よく解らないが、どうも手伝いたいらしい。
 だが、切ろうとした所で俺は鬼柳の手を止めた。

「待って、鬼柳さん、何で左なの?」

 そう、鬼柳は左手で鋏を持っているのだ。

 あれ? お箸は右だったよな?

 俺がそう言うと、鬼柳が言った。

「ああ、俺、本来左利きなんだ。箸とかは、日本人に習ったから、右で持つものだって覚えたけど」

 なるほど。
 アメリカの食事は、フォークにナイフだった…。
 ああ、それに煙草吸う時はどっちも使ってたっけ? 納得。

「そうなんだ。でも、その鋏、右専用だから、左じゃ切れないよ」

 俺がそう言うと、鬼柳は意外そうな顔をしている。

「鋏に左右があるのか?」
「え? 普段使わないの?」

「まあ、実家から持ってきた鋏は家にはあるが…。あまり使わないな」

「じゃあ、左専用の鋏だったんだよ。鋏にある刃の関係で、左利きの人が右利きの人の鋏を使うと切れない事があるんだ。だから、左専用のも売ってるけどさ」

「へえ、それは知らなかった。じゃ右でやる」

 鬼柳は意図も簡単に言って退けて、右で鋏を持つと器用に新聞を切り取りはじめた。

 器用とは思ったが、まさか左右使えるとは思わなかった。

 何か…ムカつく野郎だな…。
 何でも出来る奴ってのは。