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switch101-40 小指の爪

「あれ? 恭の足の小指の爪って変型してない?」

 透耶がふと下を見た時、鬼柳の足の小指の爪が少し変型している事に気が付いた。鬼柳はちょうど庭で裸足で打ち水をしていた。

 透耶はその隣で水を被って遊んでいた時だった。

「ん? ああこれ?」

 鬼柳は自分でもそれが解っていて、自分の足を見た。
 透耶はしゃがみ込んで小指の爪を見ている。

「うん、どうかしたの?」

「ああ、カメラを落とした時に変型したんだろう」
 鬼柳は平然として答えた。

「え?! それって痛いでしょ!!」
 透耶は驚いて顔を上げた。

 カメラが足に直撃して出来た爪の変型。まだそれは治って無い所を見ると、相当痛かったはずである。それなのに平然と答えられて透耶は青ざめた顔をしていた。

「あー、痛かったのは覚えてるけど。寒かった方が気になっててな。放っておいたらそんなになった」

 やはり平然として鬼柳は言う。

 …寒さの方がって、痛いのには変わり無いでしょ?!

 透耶は信じられないという顔をして鬼柳を見た。
 鬼柳はやはり平然としている。

「それより透耶、日も暮れてきたし、夏とはいえ、風邪引くぞ」

 鬼柳はそう言って水を止めると、用意していたタオルを透耶の頭に掛けた。

 そして乾かすようにくしゃくしゃとする。

 透耶はされるがままで、まだ鬼柳の足の小指を見ている。

「気にするなって、今じゃ痛くもなんともないんだから」
 鬼柳はそう答えて透耶を抱きかかえると地下室の自分の仕事部屋に入った。

「うん…今は痛く無い?」

「痛く無いよ。それより透耶が風邪引かないかの方が気になるから、風呂入ろうな」

「うん…そうだね」
 それでも透耶は気になるようで、ジッと考えている。

「仕事のボスがな。怒って机をひっくりかえした時にカメラがそこへ落ちたんだよ」
 あまりに透耶が気にしているので鬼柳はそうなった訳を説明した。

「ボスが?」

「キレやすいんだ。でもそれより寒い場所にいたから、早くそっちから暖かい場所へ戻りたかったのしか覚えて無いんだよ」

 鬼柳は本当にそうだったのだから、透耶が気にする必要はないと言う。

 確かに古傷だからもう大丈夫なのだろうけどと透耶は思ってそれ以上考えないようにした。

 というより、それ以上その事を考えられない事を鬼柳にされてしまったからであった。