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switch101-50 葡萄の葉

「透耶、晩酌しないか?」

 唐突に部屋に入って来た鬼柳が透耶にそう告げた。

 透耶は今仕事の最中だったが、今日はこのくらいして終わろうかと思ったのだ。

 そうしたところへ鬼柳のその言葉。

 透耶はうん、と頷いて机の上を片付け、PCの電源も落とした。

 鬼柳に促されるまま居間へと入った。

 そこは照明が落とされていて、明かりはキャンドルだけになっていた。

「うわー」
 雰囲気たっぷりな状況に透耶は感激していた。

 鬼柳は何を思い付いてこんな事をしてきたのかは透耶には解らない。でもこうすれば透耶が喜ぶだろうなということだけは鬼柳は他の誰にも負けないくらいに出来る男なのである。

 鬼柳は床に座って、透耶を自分の立て膝した間に透耶をすっぽりと収めた。

「こんな事、よく考え付いたね」
 透耶が感心していると、鬼柳はニッと笑った。

「透耶がロウソクの明かり使ってみたいって言ったからな」

「いつ言ったっけ?」

 透耶には思い出せない。

 なにしろ思い付きで言った言葉だから、それがいつ何時というのは不明なのである。

 うーんと考えているその先で、鬼柳は葡萄の葉のマークがついたワインをよそってくれる。

 ワイングラスを受け取っても透耶はずっとロウソクの明かりを見つめていた。

「綺麗…」
 そう呟いてしまった。
 すると何を勘違いしたのか。

「透耶は綺麗だもんな」

 と、うんうんと納得する鬼柳に透耶はずっこけそうになった。

「違うって、ロウソクの明かりの話」
 透耶がそういうと、鬼柳はああっと納得したらしいのだが。

「でも透耶が綺麗なのも事実じゃん」
 そうあっけらかんに答えたのである。

 もう返す言葉を失ってしまう透耶。

 なんでそこでズレてんだか…。

 透耶は気を取り直して、鬼柳と乾杯した。
 ワインは程よく冷えていて、喉越しもよかった。

「美味しい…」

「そか、良かった」
 鬼柳はワインを一気に飲んで、また注ぎ始める。

 ロウソクの炎に写し出される鬼柳の顔は、いつもと違って透耶をどきまぎさせた。

 鬼柳もまた同じだった。

 ロウソクの炎が写し出す透耶の顔は、いつにもまして綺麗だった。
 まるで触れてはいけないものなのかもしれないとさえ思った。

 純粋、無垢な存在。
 そして自分が愛してやまない少年。

 ただこの人が微笑んでくれるだけで、何よりも嬉しいのだ。

 それは透耶も同じだった。

 鬼柳が微笑んでくれるだけで、本当にそれだけで良かった。

 二人はワインを飲みながら、何も話すわけでもなく、ただぼんやりとロウソクの炎を見つめていた。