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switch101-52 真昼の月

 こんなに明るいのに、鬼柳さんってばどうしてHしたがるんだろう。

 透耶は、眠っている鬼柳を押し退けてベッドから出た。

 幸い鬼柳は深い眠りに入っているのか起きなくて、透耶はベッドから抜け出す事が出来た。

 バスローブを着て、バルコニーに出ると、空には白い月が出ていた。

 鬼柳に騙されるように連れられて沖縄まできてしまった。

 皆透耶を巧い事誤魔化し、沖縄にいるとだけしか教えてくれなかった。この場所が何処だとか、そうした詳しい情報は、鬼柳すら知らないらしい。

 そんな事があるわけないと思っていたが、ここがエドワードの別荘だと解ったとたん、鬼柳に地理がなくても仕方ないと思える透耶である。

 鬼柳すら、SPが船頭する車でここまでやってきている。

 運転は向こう任せだったのだから、鬼柳が道を覚えて、しかも知名まで覚えている訳はない。

 しかもここにやってきてから透耶は、あの別荘と同じように外へ出る事を禁じられていた。

 禁止と面と向かって言われた訳ではない。
 ただやんわりと、外は危険ですとだけ言われただけなのだが、それでも十分脅しになっている。

 地理のない場所で無一文で外へ出るなどしても、何処かへいける訳でもない。

 まさか警察に駆け込む訳にもいかない。
 警察に駆け込んだところで、透耶は何も説明出来ないからだ。

 鬼柳の事を少なからず気になっている今、鬼柳を誘拐拉致などで訴える事が出来なくなっていたからだ。

 好きではないにしろ、嫌いでもなかった。
 向けられる行為は嬉しかった。

 性行為が嫌でも、今更拒む事も出来ない。
 何処かで許している自分がいる。

 与えられる快感をじっくりと味わっている自分がいるのも確かなのだ。

 それを鬼柳だけのせいには出来なかった。

 この関係を難しく考えれば考える程、どんどん落ち込んでしまう。

 こうしている場合ではないと思う反面、こうしていたいと思っている自分も存在するのだから。

「はぁ…どうすれば」

 はっきりと呪いの事を話してしまえばいいだろうけれど、それすら言えなくなってしまう透耶。
 すっかり落ち込んで悩んでいると後ろに気配を感じた。

「何をどうするんだ?」
 後ろから被さるようにして鬼柳が抱きついてくる。

「き、鬼柳さん、起きてたの?」
 寝ているからと安心していたのだが、鬼柳はバスローブを羽織っていた。

「透耶が起きた時に起きてた」
 鬼柳はそう答える。

 いつもそうだった。鬼柳は透耶が起きると同時に、いくら睡眠時間が短くても起きてしまう。
 隣に透耶がいないというだけで、安眠が出来なくなっていたのだ。

「起こしてごめん」
 透耶は素直に謝った。

「いや、起きる時間だしな。でも透耶。今日も可愛いな」
 鬼柳はそう言うや否や、透耶の顎を掴んで持ち上げると、朝一番のキスをしてくる。それも唇に深く。

「んっ!」
 ちょっと待ってなどと言う透耶の言葉は飲み込まれてしまう。

 こういうのは卑怯だと透耶は思っていた。言いたい事は全部聞かないようにキスで誤魔化されていると思ったからだ。

 実際、鬼柳は透耶が否定する言葉を全部塞いでしまう。

 今はまだ何も聞きたくないとばかりに。

 でもそれはいつもの事で、透耶も最後には諦めてしまう。そうして鬼柳に誤魔化されてしまう透耶だった。