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switch101-69 片足

 俺は現在片足歩行中。

 何故って、この間誘拐され逃げた時に出来た足の傷が完全に治っていないからだ。

 もう片方の足は完治して、歩いてもいいんだけど、もう片方の足はまだ完全じゃないんだ。

 松葉杖も考えたけど、それを使い慣れる頃にはそれともおさらばという状況で、しかも運動音痴な俺には車椅子さえ与えて貰えなかったという酷い話。

 自分で好きな場所に移動出来ない事がかなり辛いと解った。

 誰かの手を借りないと動いてはいけないとか言われたし。

 それでも大人しく仕事をしていれば、さほど不便じゃなかったりで。どっちなんだよって感じ。

 恭は仕事に出かけて今はいない。

 日中はSPの人が書斎の前にいて、俺が出てくると行く先へと抱き上げて連れて行ってくれる手筈になってる。

 でも片方が使えるようになってからは、もう片方も大丈夫だと思って、俺はやっと気侭に部屋を出る事を許された訳。

 でもあまり悪い方を使わないで欲しいと主治医である先生にも言われているので、ケンケン歩きなんだよ。

 ケンケンで書斎から居間へと移動。
 何故かSPまで付いてくる豪華さ。

 まあ、俺が軽はずみをしてしまった代償だから仕方ない。
 家の中でさえ、今回は危なかったんだから。

 未だに一人で寝室に上がるのが怖い。

 人がいたという恐怖が蘇ってくるのが嫌だった。恭が一緒じゃないと、眠りには入れない。

 こういう俺を喜んで迎えてくれる恭は強い人だと思う。もう大丈夫だからでは俺の心は納得してくれないから。そこを解ってくれるのが嬉しい。

 まあ、恭の場合、人前で俺が恭に頼ってくるのが嬉しいらしいんだけど、それは仕方ないと諦めている。



 夕食も終わって、仕事も一段落したのでTVを見ることにした。
 ニュースは飛ばす。

 今のニュースは、あの男のニュースばかりなのだ。

 最初は大丈夫だろうと思って見てたが、やはり震えは止まらなかった。それを見兼ねてSPの石山さんがTVを消してくれた。

「まだ早過ぎます」
 そういうお小言を貰ってしまった。

 俺に傷を残したあの男は生きている。まだ意味不明な言葉を発しているらしい。

 俺に執着して、そういうことばかり口にするんだそうだ。
 それを何故俺が知ってるかというと、従姉の知り合いの警部さんからの情報だった。

 あの男は俺のことばかり話すんだそうだ。
 絶対に逃げだせない場所にいる男でも俺は怖い。

 存在そのものが怖いのだ。

 俺はTV番組をバラエティーに限定して見ていた。笑っている方がいいに決まってるから。考えなくてすむから。

 そうしていると恭が帰ってくる。

「透耶、いい子にしてたか?」
 ぴっしりとしたスーツにネクタイを緩めた姿。髪も綺麗に掻きあげていて、いつもの恭とは違う。

「おかえり」
 恭を引き寄せておかえりなさいのキスをする。

 これはできるようになった。でも夜のセックスはまだ怖くて出来ない。
 恭が怖いんじゃない、あの影がまだ見えて怖いんだ。

 恭も解ってくれていて、手を出すことはしてこない。
 ここ数日もそうである。

 一緒には寝るけど、セックスはしない。暗黙の了解という感じになっていた。

 恭は俺がキスすると、嬉しそうに笑って、仕事の疲れた顔を微笑みに変えてくれる。そして顔中にキスを落としてくれる。

 大丈夫だと安心させるような優しいキスばかりしてくれる。

「透耶、明日病院だからな」

「うん、解ってるけど、また付いてくるの?」
 俺はそこまでしなくても大丈夫だと言った。

「駄目だ。透耶を抱きかかえるのは俺だ」
 と恭はそこだけは譲らない。仕事が忙しい時でも、恭は俺が病院に行く日は必ずついてくる。

 そして家まで送ってから仕事に出かけるのである。
 そんなことが続いていた。

 明日の病院で歩く許可がでたら、俺は自由に歩き回れるようになる。

 今度こそ完治してますように!

 両足から片足、今度こそ完治を願わずにはいられない。