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switch101-81 ハイヒール

 今日は、先生と鬼柳さんと一緒に映画を観に行く約束をしてた。

 あたしは、朝早くに目を覚まして、どきどきしながらその支度をした。
 忙しい先生に、更に忙しい鬼柳さんが共に休みを取ってくれたのは、あたしの我侭のせいなの。

 休みだから本当は休んで欲しいのだけど、そうすると二人とも本当には休まない。

 仕事人間だから、あたしが映画に誘わなかったら、本気で仕事モードのままだったと思う。

 それくらいに二人は働き過ぎなのよ。

 朝から深夜まで仕事漬けだって解ったのは、土曜に先生にピアノを聞いて貰っていた時に解ったの。

「綾乃ちゃんが来る時が休みの日みたいなものだから」
 と先生は言う。

 それって休みじゃないよね。

 あたしの面倒を見るのに休みな訳ないもんね。

 で、色々提案したんだけど、結局家にいると先生は仕事しちゃうし。
 色々あって先生は自由に家から出る事が出来ないから。

 色々考えた挙げ句に、あたしが映画に誘った訳なのよ。
 映画と聞いて先生はすぐに興味を示してくれた。

 家から出ないし、テレビを観る時間もない状態。

 有り得ないからそれ。

 で、鬼柳さんにそれを相談したら、鬼柳さんも休みを取る事になった訳なの。

 あたしは素直に喜んだわ。
 だって三人で出かけるのなんて、沖縄以来なんだもん。

 この一週間、それが楽しみで楽しみで仕方なかった。
 服も靴も新調してみたり。

 朝も目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまったくらい。

 寮の朝食を取って、先生と鬼柳さんとの待ち合わせの時間までが長かった。そわそわして時計を見ては溜息ついたり。

 やっと時間になって、先生達が迎えに来る時間になってあたしは寮の前の道まで出た。
 先生達はお付きのSPが運転する車で現れた。

「綾乃ちゃん、おはよう」
 先生はそう言って出迎えてくれた。

「おはようございます」
 あたしは先生の隣に座った。

 前の席はSPが座ってて、後ろに3人乗る形だけど、先生を真ん中に挟んで座った。

 鬼柳さんが何も言わなかったので思わず覗き込んでみるとなんだか寝ているみたいだった。

「疲れているの?」
 思わずそう聞いてしまう。
 すると先生は頷いた。

「昨日も遅かったしね。着くまで寝るって言って」
 そう言って先生は耳打ちしてくれたけど、絶対寝てないと思う。

 鬼柳さんって先生以外の人の前で寝たりしないんじゃないかって思ったからなの。



 合流してから約30分で街中まで出られた。
 土曜日なので、やっぱり人が多い。

 込み合っているんだけど、やっぱり黒服の男が先導するこの集団は皆避けてくれる。

 なんだか恥ずかしいけど、先生と鬼柳さんはまったく気にも止めてない様子。

 慣れちゃったのかなあ?
 そう思ってしまった。

 映画館でも、やはり目立ってる。
 黒服の男で目立ってて、更に先生と鬼柳さんという組み合わせで目立ってるのよね。

 そんな感想を洩らしてしまうくらいに本当に目立ってた。

 映画はアクションモノになった。

 先生って結構こういうモノが好きみたい。あたしも好きだけど。鬼柳さんはなんかどうでもいいという感じ。

 やっぱり映画なんて先生が一緒じゃなかったら観たりしないんだろうなあ…。

 先生は一生懸命観てたけど、鬼柳さんはやっぱ寝てた。
 あたしも途中から集中しちゃって、後の事は覚えてない。

「面白かったね」
 映画が終わって先生がそう言う。

「うん、面白かった」
 あたしも凄く楽しかったのでそう言った。
 その先生の隣で鬼柳さんが大欠伸をしていた。

「寝てた…」
 と呟かれてしまって、先生と二人で笑ってしまった。
 うたた寝程度だろうけど、本気で映画には興味はないみたい。

 それから、街中でショッピングをしたの。
 先生は久しぶりだったから嬉しそうにしてて、あたしと二人で雑貨の小物を選んだりしてた。

 そのショッピングの途中であたしは足に違和感を覚えた。
 新調したハイヒールが合わなかったのか、段々足が痛くなってきたの。

 でもこんなに楽しい日なのに、足が痛いくらい我慢出来る。
 そう思って、それを我慢してた。

 昼食も軽めにとって、またショッピングへと思った時。

「ちょっと待て」
 とあたしは鬼柳さんに呼び止められたの。

「何?」
 あたしが顔を上げると、鬼柳さん、何か怒ってる感じ。

 不安になって先生を見ると先生も眉をしかめてるの。

 一体何が?
 あたしにはさっぱり解らなかった。

「透耶、ここでちょっと待ってろ」

「うん解った」
 二人は阿吽の呼吸で何か解ってるみたいだけど。

 鬼柳さんが立ち上がって、さっさと店を出て行った。
 先生とSPはそれを見送ってた。

 あたしだけがキョトンとしている状態なわけよ。

「何かあったの?」
 あたしがそう聞くと、先生が溜息を吐いたの。
 それから真剣に言われてしまった。

「綾乃ちゃん、靴擦れしてるならそう言わなきゃ」
 そう言われてあたしは足が痛い事を思い出したの。

 本当に忘れてたんだけど。

「なんで解ったの?」
 あたしはそう聞いてしまった。
 自分でも痛い事忘れてたくらいだったのに。

「解るよ。もう言い出さないから、まだ大丈夫かと思ってたけど。駄目、見てられない」
 先生にまで見破られているとは思いもしなかった。

「忘れてたの」
 あたしは正直に言った。

「うん、そうだと思ったから恭も待てって言ったんだと思う」
 そんな風に言われてあたしはキョトンとしてしまった。

「何処へ行ったか知ってるの?」

「大体はね」
 先生はそう言った。

 うーん、鬼柳さんは何処へ行ったのだろう?

 そう思って30分。
 鬼柳さんは何か袋を下げて帰って来た。

 でも帰ってくるなに、あたしの前に跪いたのよ。

「え? 何?」

「綾乃、足出せ」
 鬼柳さんはそう言いながらも、あたしの足を掴んでいる。

 えええ?何?

 とあたしが固まっていると、鬼柳さんはあたしのハイヒールを脱がせたのよ。

「やっぱり」
 舌打ちするように言われてあたしはハッと我に返った。

「何??」

「足、酷くなるぞ。手当てしておくからな」
 有無を言わせない口調で言われてあたしは頷いた。

 だって恐いんだもーん。

 靴擦れした足は少し血が滲んでいた。
 ここまであたしは我慢してたんだと今更ながら自分のことなのに驚いてしまった。

 鬼柳さんはさっさとあたしの足を手当てして行く。

 なんだか慣れてるみたい…。
 そう言えば、先生も足に怪我してたんだっけ?

 誘拐された先生が足に怪我をしただけで戻って来たとは聞いていた。

 だから手当てに慣れてるのかなあ?

 などと思いながら、足に消毒されて絆創膏を貼られた。

「ハイヒールは没収。こっちの靴にしとけ」
 そう言われて鬼柳さんが取り出したのはスニーカーだった。

「え? 買って来たの?!」
 あたしは呆然としてしまう。

 それを買いにもいってたんだ!

「ヒールの靴なんてまだ早い。ローファーくらいにしてろ」
 そう忠告されてしまった。

 確かに今日の靴、ハイヒールはかなりヒールの高いもの。
 普段履かないものなのよ。

 奮発したのが仇になった。

「ごめんなさい」
 あたしは素直に謝った。
 だってそんな心配かけてるとは思わなかったから。

「素直でよろしい」
 鬼柳さんはそう言ってニヤッと笑った。

 むむむ…そのニヤって何よ。
 先生は先生でにっこりしてるし。
 背伸びするのはよくないって事なの?

 二人とも、あたしの事、本当に子供扱いしてない?

 これでもあたしは女なんだからね。

 いつか、ハイヒールが似合う超絶美人になってやる!