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switch101-83 雨垂れ

「梅雨だから、雨が凄いね」
 ベッドに寝転がったままの透耶は、バルコニーから見える位置で、外を眺めてそう言った。

 愛しあった余韻が残る身体を布団の中に潜り込ませて、雨が噴き散るバルコニーを眺めている。
 鬼柳は身体を起こして、煙草を一服している所だった。

「洗濯物が干せない時期だな」
 家庭じみた言い方だったので、透耶はクスクスと笑ってしまっている。

「乾燥機だね」

「布団が干せない」

 すっかり家事モードに戻ってしまったのか、鬼柳がそう呟く。

 布団でのセックスだからすぐに布団には湿気が溜ってしまうから、毎日でも晴れていたら鬼柳は布団を干していた。
 そうしないと快適な安眠が出来ないからだ。
 そういうことには厳しい鬼柳である。

 透耶はまたクスクス笑い出している。
 そんな透耶を見下ろして、鬼柳は透耶の頭をくしゃくしゃと撫でた。
 愛おしそうに何度も撫でるのである。

 透耶はくすぐったいと何度も抵抗するが、頭を撫でられるのは好きだった。

「明日は晴れるかな?」
 透耶がポツリと漏らした。

 明日は綾乃がやってくる。そうすると雨だと鬱陶しいとでも思ったのだろう。鬼柳は、「どうだろうな」と答えて透耶の頬にキスをした。

「何か食べるか?」
 時計を見ればもうすぐ正午。

 そんな時間まで寝てたわけでなく、朝一番から鬼柳が透耶を求めた結果である。

「うーん、軽めのなにか」
 透耶はあまり食欲がないのか、そう答えた。
 まだベッドの中でもぞもぞしている。

 鬼柳は頷いて、脱ぎ散らかしになっている服を掻き集めて、自分の服を取り出して着替えた。
 煙草を消して、ベッドから立ち上がる。
 透耶はその様子をじっと眺めていた。

「惚れ直した?」
 気が付いた鬼柳がニヤリとしてそういうと、透耶は顔を赤らめて、違うと言って布団に潜ってしまった。

 鬼柳は苦笑してから、部屋を出た。

 透耶が軽めの食事と言ったので、トースト一枚とコーヒーにサラダとフルーツ盛り沢山にして二階へ駆け戻った。

 透耶は眠ってはおらず、バスローブをきた姿でバルコニーの側の窓の方に立っていた。
 どうやら雨を眺めているらしい。

 透耶は晴れた日も大好きだが、雨の降っているのを眺めるのも好きなのである。
 雨が降った次の日の晴れも大好きだった。

「透耶、飯」

「あ、うん」

 やっと我に返ったような声を出して、透耶はベッドに戻って来た。
 鬼柳はベッドに座った透耶の膝の上に食事が乗ったトレーを乗せた。

 それがくると、透耶の食欲が湧いたのか、透耶は美味しいといいながらご飯を食べ始めた。

「恭は食べた?」

「作りながらつまんで食べたから気にするな」
 鬼柳はニコリと笑って、透耶の頬を撫でた。

 なんだろうと透耶が思っていると、口の端についたマーガリンを拭き取ってくれたようだった。

「バケツひっくり返したように降ってるな…」

「今日は家から出られないね」

「いいなそれも。透耶がいてくれるならそれでいいもんな」

「そういう問題じゃないんだけど?」
 透耶は可愛らしく首を傾げてしまった。

 鬼柳は笑ってベッドに寝転がった。

 透耶も鬼柳が用意した食事を全部食べ終えて、ベッドに寝転がる。

「このまま寝ちゃいそう…」

「それもいいな。することもないし」

 鬼柳がそういうと、透耶が鬼柳にぴたりと寄り添って来た。
 本当に眠くなったからだ。

 鬼柳は透耶を抱き寄せてから、布団を引き寄せて中へと潜り込んだ。

 今日は寝て過ごすと決めたようだった。

「たまにはこんな日もいいだろう」
 夢うつつの透耶の耳にそれだけが響いて聴こえた。