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switch101-85 コンビニおにぎり

「え? 恭が昼食作るの忘れてた?」

 透耶はキョトンとして宝田を見上げた。

 現在、鬼柳はエドワードの仕事を手伝っており、かなり忙しい毎日を送っている。

 今日も朝早くに呼び出されて出かけたばかりである。

 その忙しい中でも鬼柳は透耶の昼食や夕食の準備を忘れたことはなかった。

 しかし、今日は時間がなかったのか、作っていかなかったらしい。

 …もしかして、お昼に抜け出してくるつもりだとか…。

 そう透耶は思ってしまった。
 忘れられた事はまったく怒っていないが鬼柳らしからぬ事だったので少し驚きだった。

「恭も忙しいから忘れるのは仕方ないよ」
 透耶は笑ってそう言った。

「宜しければ私がお造り致しますが」
 宝田がそう申し出てきた。

 宝田は鬼柳に料理を最初に教えた人物で、かなりの腕前である。それは透耶もよく知ってた。

 でも、透耶は首を横に振ってしまう。

「やはり恭一様のでないと召し上がれませんか?」
 残念そうに言った宝田に透耶は慌てて説明をした。

「い、いえ。そういう訳じゃないです。ただちょっと」

「ちょっと?」

「ええ。久しぶりにコンビニのおにぎりなんか食べたいなあと思って。それで」
 透耶はそんな事を言い出した。

 鬼柳の手料理を食べ出してから、一度もコンビニのお弁当なりそうしたモノを口にしていなかった。
 だから、なんか懐かしくなってしまったのである。

「コンビニですか…確かに近くにございますが」

「そうだ。宝田さんも皆も一緒に買いにいかない?」
 透耶は出かける事が楽しみなのかそう言ってきた。

 …コンビニなんて半年ぶり〜。

 そうした楽しさが出てきてしまったのである。

「解りました。今日はそう致しましょう」
 透耶が愉しみにしているので、宝田も息抜きが透耶には必要だと思ったのだろう承諾してくれた。

「やった! 宝田さん、行こうよ」
 透耶は喜んで立ち上がった。

 本当に嬉しそうにしているので、宝田は苦笑してしまった。
 さっそくコンビニに行く準備をして透耶は玄関で宝田を待っていた。

 側にはSPの富永と石山が付き添っている。

 コンビニに行くだけでも透耶は1人で出かける事は出来ない。
 厳重な守りに囲まれて、透耶は宝田と一緒にコンビニに出かけた。

 久しぶりに入ったコンビニはちょうどお昼を過ぎた辺りで、混雑していた。

 だが、黒服の男が二人もいて少年を守るように入ってくると、一気に散ってしまった。
 さすがに怖いというのもあったのだろう。

 だが、中には近所の人も居て、透耶に話し掛けてくる。

「あら、透耶君、今日はコンビニで買い物?」

「ええ、お昼を買おうと思って」

「え? 鬼柳さんは?」

「今、仕事で出かけてていないんです」

「あらら、でもちゃんと作っていそうなのに」

「今日は朝早過ぎて忘れてたみたいです」

「そうなの? まあ、大変だわねえ」

「恭は大変みたいです」

 そんな世間話をしながら、透耶は自分が好きなシャケと、昆布、おかかのおにぎりを手に取った。

 もちろん、家の警備をしている人の分も買わなくてはならなくて、弁当を二つ取る。

 富永や石山も自分の分を取り、宝田も物珍しそうに物色している。
 全部を買って家に戻る途中で透耶は聞いた。

「宝田さん、コンビニって始めてなの?」
 珍しそうに中を観ていたのが気になったのである。

 すると宝田は頷いた。

「はい。初めてでした。貴重な体験でした」
 と笑っている。

 嘘…本当に初めてだったんだ…。

 透耶は驚いてしまう。

 普通の店は詳しい方である宝田がコンビニデビュー。

「え? じゃあ、日本にいた時、食事とか自分で作ってたんですか?」
 手抜きでコンビニを使う主婦だっている世の中だ。
 透耶も鬼柳に出会うまで、コンビニを毎日利用していたくらいである。

「はい、自分で全部作っていました。でも今日はいい体験をさせてもらいました」
 宝田はそう言って笑っている。

 うわー本気で初めてだったんだ。

 透耶は宝田が嬉しそうにしているのがなんだか不思議だった。



 家に帰ってコンビニ弁当を皆で広げて食べる為に中庭にあるパラソルで食べる事にした。
 宝田は初めて食べるコンビニ弁当やおにぎりに感心していた。

「なかなか美味しいものですね」
 チンしたお弁当など初めてなので珍しがっていた。
 透耶も久しぶりのコンビニおにぎりを頬ばって食べた。

 本日、宝田正宗、コンビニデビューの日


 夜になって鬼柳が帰ってきた時、透耶はそれを報告した。

「今日ね、コンビニ行ったんだけど、宝田さん初めてだったんだって」
 透耶が嬉しそうに喋っているなか、鬼柳は申し訳なさそうにしていた。

「ごめん、俺が忘れてたから」

「そんなのいいよ。久しぶりだったし楽しかったよ」
 透耶はそう言って鬼柳を慰める。

 透耶は本当に楽しかったと鬼柳に語った。

 鬼柳が準備を忘れた事は透耶はまったく責めなかったし、それ以上に楽しかったと言う透耶を見て、鬼柳はホッとした顔をしていた。