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switch101-86 肩越し

鬼柳さんは沖縄にきてから、よく風景写真を撮るようになった。

 その目に映るのは、どんな世界なのだろう?

 そう思ってしまうくらい淡々と鬼柳さんは写真を撮る。

 時々、俺も撮られるんだけど、人を撮るのは好きじゃないと言ってた。記念写 真にと俺が無理矢理頼んでしまったから、沖縄のメイドさん達との写真は撮ってくれたけど。

 それはやっぱり申し訳なかった。

 今は、海を撮ったり、空を撮ったり。

 沖縄中の綺麗な場所を切り取っているんじゃないだろうかと思ってしまう。

 でも、まだ鬼柳さんが撮った写真自体みたことはない。
 それでもここで何百枚と撮っている気がする。

 現像するモノがないからとかで、写真を見る事は出来ない。

 だから、撮ってる鬼柳さんの後ろから、その世界を見る事しか出来ないんだ。

 黙って、ただ風景を撮る鬼柳さんの後ろに立って、カメラを向けている方を見るんだ。

 そこに広がる世界は、本当に切り取ってしまいたいくらいに綺麗なんだ。

 何も言えず、ただ見るだけ。

 鬼柳さんの肩越しに見える世界は、自分が見るモノと違って見える。

「気になる?」
 肩越しに見ていたのに、鬼柳さんが振り返った。

「え?」

 何が気になるって?

 俺はキョトンとしてしまう。

「ずっと見つめられてるから、気になるのかと思って」
 鬼柳さんは笑ってそう言う。

「う、うん」
 確かにその写真の事は気になってるから俺は頷いた。

「これ?」
 鬼柳さんはカメラをヒョイと俺の前に出したんだ。

 それは一番最初に鬼柳さんと出会った時に持っていたニコンのカメラだった。

「これって」
 俺はそれを慎重に受け取って眺めた。

 沢山傷がついているけど、ちゃんと手入れされているモノだった。あの時、砂に投げた傷もついているかもしれない。

「傷だらけだけど、使い慣れてるからな」
 と、鬼柳さんはそう言った。

 きっとこれは傷だらけでも、今まで大切にしてきたモノなのだろう。そう思えた。

「これで見ると世界が違って見える?」
 俺はそう聞いてしまう。

「んー? そうでもないぞ」
 ヒョイとカメラを取られてしまって、鬼柳さんはさっとカメラを構える。その姿は真剣そのもの。

 そして。

「ほら見てみろよ」
 とピントを合わせた世界を見せて貰った。

 それは本当に美しい世界。
 自分の目で見るよりも、もっと美しい世界を見事に切り取っていた。

「やっぱり違って見えるよ」
 俺はそう言ったのだけど、鬼柳さんは不思議顔。

「そうか?」

「鬼柳さんの目って綺麗なモノを見る事が出来る目なんだね」

 本当にそうとしか言えないくらいに綺麗なんだもん。

 俺がそう言ったものだから、鬼柳さんはキョトンとしていたんだけど。

「そうか、それで透耶しか撮りたくないんだ」

 なーんて馬鹿な答えが返ってくるんだよね。

「馬鹿じゃないの…?」

 意味解らないよ、それ。

 でも、鬼柳さんは嬉しそうにしているし。

 ねえ、どういう意味?
 とは聞けない。口が裂けても聞けない。

 もっと馬鹿な答えが返ってくるに決まってる。

 また空へとカメラを向けた鬼柳さんの肩越しに俺も空を見る。

 そこに撮られている風景は、きっと美し過ぎて泣けてきちゃうようなモノになっていると思う。