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switch101-90 イトーヨーカドー

 今日は少し遠出しよう。
 買い物をしてくるという恭がそう言い出した。

「なんで?」
 俺がそう聞くと。

「この近くのイトーヨーカドーのフルーツが安いんだ。サービスデイってやつなのかな」

「へえ。それで出かけるの?」

「透耶も行くか?」

「うん、行く」
 俺は仕事が一段落していたので、実は暇になってた。
 だから一緒に出かける事にした。


 車に乗って数十分かして、イトーヨーカドーに着いた。

 外は梅雨で湿った空気が暑かったが、店の中に入ると、涼しい空気が流れてきた。

「透耶、はぐれるなよ」
 恭はショッピングカートを取り出して、そこの上下段にカゴを設置して、買う気満々なようだ。

 俺は恭の後を付いて行くだけ。

 フルーツのコーナーは、近所の果物屋で買うより安い値段で売っていた。
 それを手に取って、恭は真剣に買い物をしている。

 当然話し掛けられない状態。
 主夫な恭だから、横から口出しされるのは好きじゃないんだよね。

 俺はそれが解っていたから、恭が見ているフルーツを何処でどう見分けるのかと思ってマジマジと見てしまう。
 恭は気に入った物は即座にカートに入れて行く。その作業の早い事。

 俺が買い物したらもっと時間がかかりそうな感じなのに、恭はさっさとフルーツを見極めている。

 このフルーツはたぶん俺の朝食に並ぶはずのものだ。

 恭は俺があまり朝食べられないのを知っているから、食べ易いフルーツをよく出してくれる。

 それがどれも美味しいのは、こうやって恭が吟味してくれているおかげとでもいえようか。

 フルーツの棚を一通り見終わって、何とか安い果物を買い終えた。

 後は食材のサラダ類。
 これも俺が朝昼晩と必ず食べさせられているものだ。

 それを選ぶのも早かった。普段買い慣れているからだろうか。さっと取ってはカゴに入れて行く。

 俺はそんな恭の姿を見るのは初めてだったので、興味津々だったんだ。
 こんなに真面目な顔をして買い物をしているとは思えなかったから。

 ふと思った。

 今度から出された物はちゃんと食べよう。こうやって恭が考えてメニューに入れてくれてるのだから、粗末にしちゃいけないよね。

 そうして全ての買い物が済むと、かなりの量になっていた。
 恭は素早く袋と箱に荷物を詰めて行く。

 そうしてパンとか軽い物を入れたのを俺に手渡した。

「透耶の指が駄目になるといけないから、軽いものな」
 確かにそうだった。

 ピアノ弾く人間には、指が大切だから、重いものを指にかけてはいけないのだ。
 でも手伝いが出来るのは嬉しかった。

 車まで戻ると、恭が言った。

「透耶、右のポッケから鍵出して」

「うん、解った」
 俺はポケットをささっと探し出す。

「あれ? ないよー」
 ポケットには何も入っていない。

「じゃ、左だ。ごめん」

「左〜。あったよ」
 俺は鍵を取り出して、すぐにリモコンで鍵を開けた。

 それからトランクを開けて、恭が持っている箱を慎重に収めた。
 自分で持っていた袋もそこへ収まる。

「準備完了」
 恭がそう言って、ニコリと笑った。
 俺も笑って返した。

 へえ、いつもこんな大変な思いをして買い物してるんだ。
 俺は妙に感心してしまった。

 これじゃ好き嫌いやら食べたくないなどは言えない。
 俺の為に用意してくれているのだから更に文句もいえない。

 今度からちゃんとしよう。

 俺はこの買い物でそう決心することが出来た。
 これもお出かけのお陰かもしれない。