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switch番外編1宝田執事の一日

 皆様お元気でございますか?
 私は宝田正宗と申します。
 現在、鬼柳、榎木津家の執事として精一杯お務めをしている所でございます。
 その経緯は100のお題というモノの、宝田視点をお読みになると解る事です。

 今日は朝6時に目覚めました。
 朝はまず新聞を取りに行く事から始まります。
 新聞は手が汚れてはいけないので、アイロンをかけてピシリと仕上げます。
 慣れたもので、この作業には時間がかかりません。

 それから、私の仕事は玄関前の掃除と警備システムの様子を確かめる事です。
 主人の食事ですか? それは申し訳ないのですが出来ない事になってます。
 というもの、この家の食事は全て恭一様が作られているからでございます。
 本当に申し訳ないのですが、私の分まで作って貰っている次第です。
 もちろん、私は初めは断ったのですが、恭一様の趣味の一つが料理なのです。その趣味を奪う訳にはいきませんでした。
 時計が7時を回った頃、恭一様は起きだしてきます。

「おはようございます、恭一様」
 私が玄関ホールの掃除をしていると、大体そこの階段で出会うことになるのです。
「ああ、おはよう。いつものでいいか」
「はい、よろしゅうございます」
 私はそう答えて、仕事に専念します。

 その掃除が終わったところで、キッチンに向かいます。
 すると恭一様が食事を用意し終わっている事に出くわします。
「ほら、いつものだ」
 恭一様はそう言って、朝の朝食を私に手渡してくださいます。
 私はそれを持って、控えになっている使用人用のダイニングに引きこもるわけです。
 朝食は、日本食です。ご飯に卵焼きに魚、豆腐の入った味噌汁にサラダ付き。豪華でございます。
 恭一様も同じメニューをお食べになります。
 でも殆ど味わっている様子はありません。かきこんでいるという感じです。こんなに美味しい料理だというのに、勿体無い事でございます。 
 食事が済むと、恭一様は洗濯に取りかかります。
 煙草を吹かせ色物を分けたりしているのです。その時の恭一様は本当に嬉しそうです。
 家事が得意な恭一様の趣味の一つなのです。

 私はそのまま中庭の掃除をします。
 ここは透耶様がよく使われている場所ですので念入りに掃除をします。透耶様は裸足になられる時がございますので、小さな石でも怪我のもとになってしまうので念入りにしなければなりません。
 それから、透耶様の書斎の掃除をします。
 ここも透耶様が仕事をなさる場所なので、念入りにやります。
 机の上のものには触りません。仕事の最中のモノが置いてあるので、透耶様が解らなくなってしまっては大変です。
 ですので、床を掃除機でかけるだけにしておきます。透耶様が起きられてから机の上の方は掃除する事になっています。

 そして、今度は居間の掃除です。
 掃除といっても、殆ど床を掃除機でかけるだけの簡単なものになります。本格的な掃除は業者に任せる事になってますので、日々の簡単な掃除だけでございます。
 そうしていると、午前10時を回ります。
 大体この時間には透耶様が起きだしてくるのですが……今日は起きてらっしゃいません。
 どうやら昨日は透耶様は恭一様に愛されていたようですね。 こういう場合は透耶様が起き出してくるのはお昼頃になります。習慣なので、覚えてしまいました。
 掃除が終わったので、郵便を取りにいき、それを仕分けします。
 恭一様宛と透耶様宛に分け、それを居間のテーブルに置いておくのです。それでお二人は解りますので。
 そして庭の手入れに参ります。
 とはいえ、簡単なものです。透耶様がお買い求められた花や送られた花の水やりです。
 透耶様はとても大切になさっているので、私も丹精込めてお手伝いをさせて貰っています。
 庭から戻ってからは自分の部屋の掃除をします。
 掃除が終わると、ダイニングテーブルをお借りして、家計簿など日々の出費など、他にも自分の仕事をします。
 恭一様は天気がいい日は庭に洗濯物を干してらっしゃいますので、私は仕事をしながら透耶様が起きてらっしゃるのを待っているのでございます。

「あ、おはようございます」
 おや透耶様が起きだしていらっしゃいました。
 私は素早く立ち上がって。
「おはようございます、透耶様。お食事なさいますか?」
 と質問をします。
 透耶様はまだ起きたばかりなのか、ぼーっとなさっています。
「うん……食べるけど……」
 透耶様はそう答えてますが、あまり食べたくないらしいです。元々小食なので、私どもは透耶様の体調に気を付けなければならないのです。
「恭一様を呼んできますね」
 私は止める透耶様を振り切って、恭一様を呼びに地下へ参ります。
 洗濯物が干し終わった恭一様は、自室で仕事をなさっています。ノックをして透耶様が起きてきた事を伝えると、恭一様は仕事を中断して上にあがってきます。
「あ、恭、おはよう」
 恭一様の姿を見ると、透耶様はホッとなされた顔をなさいました。そしてにっこりと挨拶をなさいます。
 恭一様は透耶様を愛おしそうに抱き締めて、朝のキスをなさいます。
 それは直視してはならないので、私は顔を背けます。
「透耶良く眠れたか?」
 恭一様は透耶様の頭をくしゃくしゃと撫でながら問います。
「うん、眠れたよ」
 透耶様はくすぐったそうに顔を歪め、恭一様の手を追い払います。
 いつもの光景です。

 恭一様は透耶様の体調に関しては敏感で、その体調に応じて食事の内容を変えます。
 今日はあまり食べたそうではないので、フルーツの盛り合わせやヨーグルトを出してきます。
 透耶様が食事をしている側で私はいつもの自分の仕事をします。
 一緒のテーブルなのは、はっきりいってマナー違反なのですが、透耶様が一人で食事をするのはつまらないと申されるので、私はそのまま仕事をしながら、透耶様の食欲を確かめるのでございます。
 食事は完食。体調はよろしいようです。

 食事をすました透耶様はすぐに仕事に入ってしまいます。
 それを見計らって、私は透耶様の仕事部屋の最終の掃除をします。机の上です。
 透耶様は、簡単にモノを寄せて、机を開けてくださるので、私はさっさと掃除を済ませます。長引いては透耶様に申し訳ないですからね。
 掃除が終わると、透耶様はすぐに椅子に座って仕事モードに突入です。
 こうなると、私が声をかけてもなかなか気付いて貰えなくなります。
 こういう時は恭一様のお声がないと駄目なのです。
 私は静かに書斎を出ます。


 お昼を回ると、恭一様が食事を用意してくださいます。
 私はそれを食べてから、またダイニングルームで仕事を続けます。
 執事とは、様々な仕事があるのですが、私はかなり楽をしている方かもしれません。
 滅多に恭一様や透耶様に呼ばれる事もないからです。
 普通の家では何かもの一つ動かすにも呼ばれる事があるのですが、お二人はそんな事で私を呼ぶことはないのですよ。
 本当に私は楽をさせて貰っています。
 パソコンに向かってやっている事は、恭一様の株の動きだけです。
 おっと、今日は綾乃様がいらっしゃる日でございました。

 お昼を過ぎ、二時近くになると、綾乃様がいらっしゃいます。
 私は門まで綾乃様を出迎えます。
「こんにちは、宝田さん!」
 真貴司綾乃様はとても利発なお嬢様です。
 お二人とは沖縄で知り合ったらしく、仲も大変宜しいのです。中でも透耶様とは親友という関係になっています。
「こんにちは、綾乃様、ようこそいらっさいませ」
 私がお辞儀をすると、綾乃様もぺこりと頭を下げられます。
 とても可愛らしい方です。
「先生は元気ですか?」
 先生とは、透耶様のことでございます。
 綾乃様がこちらにいらっしゃる時は、ピアノの練習の為でございます。透耶様は大変高価なピアノをお持ちです。それはある方の贈り物らしいのですが、音は最高なのです。
 そして、その方の申し出で、綾乃様も同じピアノを使って練習してはどうかという話に透耶様が乗ったという所です。
「元気でらっしゃいますよ」
「そうですか、よかった」
 今週は電話も出来なかったと綾乃様は気になさっているようでございます。
 まず綾乃様を居間に通します。
 綾乃様は心得たもので、すぐにピアノの準備をなさいます。
 本当は私の仕事なのですが、これもまた綾乃様に譲ってもらえませんでした。
 私は透耶様を呼びに書斎に向かいます。
「透耶様、綾乃様がいらっしゃいましたが」
 私がそう声をかけたのですが、透耶様は仕事に没頭なさっていて顔すらお上げになりません。
 困ったものです。

 そこで私は恭一様を仕事部屋から呼んできて、透耶様の没頭を止めてもらう事にしました。
 恭一様の仕事部屋にいくと、恭一様はすぐに顔を上げられました。
「綾乃が来たのか」
 透耶様のスケジュールは全て把握している恭一様がそう呟きました。
「相変わらずの没頭ぶりか?」
「はい。そうでございます」
 みなまで言わなくても解る事でございます。
 透耶様のあの集中力は物凄いものを感じます。
 結局、恭一様のお声でなければならないのは不思議ですが。
 書斎に入った恭一様が透耶様を呼びました。

「透耶、綾乃が来たぞ」
 恭一様がそうお呼びになると、透耶様はふっとお顔をお上げになりました。
 本当に恭一様の声しか聴こえていない状態なのです。
「え? もう時間?」
 透耶様は驚いた顔をして、時計に目を移しました。
「うわ、本当だ。ごめん、すぐ行く」
 透耶様は急いで準備をして書斎から出てきました。
 そしてそのまま居間に直行です。
「お待たせ」
 透耶様がそうおっしゃいますと、綾乃様が振り返って笑みを浮かべます。
「また没頭してたんだぁ」
 綾乃様がからかわれると、透耶様は苦笑していました。

 私はダイニングテーブルに戻って仕事に戻ります。
 ここからは透耶様達の様子が良く見えます。
 綾乃様のピアノレッスンを透耶様が静かに聞いているという感じでレッスンを行うのです。
 透耶様は楽譜を貰って、綾乃様は暗記でピアノを弾くわけです。
 透耶様のピアノの腕前は、クラシックをかじっている私には信じられない奇跡のようなものです。でも透耶様は仕事が忙しい時はあまり弾かれません。
 綾乃様の弾かれる音は、透耶様に近い音がします。
 それでも真似ているわけではなく、自然にそういう音が出せるようになったのです。

 ここに来てからずっと綾乃様の成長を透耶様と一緒に見つめてきたので、それは確かです。
 透耶様は綾乃様の音に関しては最初ほど口出しはしなくなりました。それは綾乃様が成長なさっている証拠だと思います。
 その練習は、およそ4時間ほど続きます。
 本当にピアノを弾くには体力がいるのです。

 綾乃様は何度も透耶様に注文が付けられなくなるまで引き続けます。
 それが終わったのは、午後6時頃でした。
「綾乃、飯食ってくか?」
 恭一様が居間に入ってきてそう問うと、綾乃様は嬉しそうに微笑んでました。
「食べるー!」
 ここへ来るのはレッスン目的ではあるのですが、恭一様のとても美味しい料理が目当てでもあるようです。
 そうですよね。恭一様の料理はとても美味しいですから、それを目的としても良いと思います。

 恭一様が食事の用意をすると、綾乃様は嬉しそうにダイニングにやってきました。
 私は仕事を終わらせて、テーブルを綺麗にします。そこへ恭一様の料理が運ばれてきます。
「わあ、美味しそう」
 綾乃様が椅子に座って嬉しそうにしています。
「ほんとだね」
 透耶様も椅子に座って、全ての準備が整うのを見ています。
 そうして食事が始まります。
 私は給仕に回ってお世話をさせて貰えます。
「お腹ぺこぺこだったの」
 と綾乃様。
「俺も〜」
 透耶様も綾乃様も二人は食欲旺盛のようで、次々に食べていました。恭一様はそんな二人を見つめて優しい顔です。
 食事が済むと、綾乃様は学校の寮に戻られます。
 私は恭一様に命じられてタクシーを捕まえます。綾乃様は遠慮してタクシーを断るのですが、帰りに何かあっては大変です。それこそ透耶様が悲しむような事件が起こったりしては恐ろしい事です。
 そう伝えると、綾乃様は頷いてタクシーに乗って帰られました。
 綾乃様を見送った後、私は一人で食事を取ります。

 透耶様は仕事部屋で、恭一様は居間でバラエティーを見てました。
 何故バラエティーなのか、しかも録画しながらです。録画は透耶様が後で見る為に撮っているのですが、恭一様がTVに釘付けなのには何やら可笑しい気がします。
 もともとTVを見る方ではないですので、これは透耶様との会話の知識にする為なのでしょう。きっとそうです。
 それが終わると、恭一様は透耶様の仕事部屋に入って、二人で何かを話してらっしゃいましたが、すぐに出て来られました。

 しっかり透耶様を抱いています。
 今日も愛されるのでしょうか?ちょっと不安です。
 透耶様はけらけらと笑ってらっしゃって、恭一様に何か言われているようでした。

 そうして二人が寝室に篭ると、私の仕事は家中の電気を落として回る事になります。
 階段の電気はつけっぱなしにしておきます。それは夜中に起きだしたりした時危険だからです。
 居間の電気を消し、私は自室に戻ります。
 それから今日の出来事を日記にまとめ、就寝します。
 ええっと、もしもの為に内線を気にしながら寝る事になります。
 でも私が12時に就寝してから呼び出された事は今まで一度もありませんが。
 こうして私の1日が終わります。