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switch外伝2夏祭り

 夕方、雨が降るかと思ったが、天気予報の予想通りに雨は一滴も降らなかった。
 あの天気予報士の言う事もたまには当たるもんだなあと、榎木津透耶は二階のバルコニーから、空を見上げて思ったものだった。
 今日は、近くの神社でお祭りがあり、更に少し先で花火大会があるのだ。
 夏休みも終わりに近く、祭りとしては遅い方かもしれない。
 夏、八月は、京都へ出かけていた事もあって、東京にいる時間よりも京都でいる時間の方が長かった。
 先日帰ってきたばかりで、色々あった京都旅行も一段落したという所だろう。
 京都では、あらゆる事が起こって、透耶は少し混乱していた。
 それは、同居人で恋人の報道カメラマン、鬼柳恭一の今後の身の振り方である。
 様々な人からアドバイス、忠告などを受け、透耶の中でもなんとか方向が定まったという感じだろうか。
 とにかく、その事だけを考えている訳にはいかず、透耶はバルコニーから部屋に入った。
 二階に置き忘れていたメモ帳を持って一階へ下りた。
 ちょうど、6時を回ったところだった。
 書斎に入って、メモをいつもの場所へ置くと、ノックの音が聴こえた。
「はい」
 透耶がそう答えると、ゆっくりとドアが開いた。
 入ってきたのは、執事の宝田だった。
「透耶様、そろそろ時間が……」
 宝田は透耶が時間を忘れているのではないかと思っているようで、腕時計を指差した。
「あ、そっか」
 透耶は書斎に取り付けてある時計を見て、もうこんな時間かと驚いた。
 今日は約束があるのだ。
 宝田と部屋を出ると、居間に向かった。
 居間に入ると、ソファの上に透耶用の浴衣が置かれてあった。
 そう、今日は浴衣を着て、お祭りに行くのだ。
 最初にお祭りに誘ってきたのは、ヘンリー・ウィリアムズだった。情報通 な彼は、ここへ遊びに来た時に、近所のおばさん達から「今日、お祭りがある」という事を聞き出していたのだ。
 で、それに便乗したのが、透耶だった。
 お祭り自体は行った事はあるのだが、京都に居た時のお祭りといえば、大きな祭りばかりで、近所の縁日とかの祭りは初めてだったのだ。
 透耶が行きたいといい、それに鬼柳が仕方ないしという様に出かける事に同意した。
 鬼柳という男は、基本的に透耶が楽しそうにしていれば、何ごとも優先させてしまう甘さがある。
 そこで、鬼柳はちょうど東京に帰ってきている綾乃も誘ってみることにした。透耶はそれに大賛成だった。
 綾乃はすぐに捕まって、お祭りに同行する事になった。
 そこまでは普通だった。
 その話をどこで聞いたのか解らないが、(ヘンリー経由だと思うと鬼柳は言うが)エドワード・ランカスターの耳に入ってしまったのだ。
 当然とばかりに彼も「行く」と言い張っていたのだが、ちょうどなのか、神様が鬼柳に味方したのかは解らないが、エドワードは緊急に帰国しなければならなくなって、一昨日アメリカへと帰っていった。
 でも、ここまで計画していた訳で、当然とばかりに、透耶と鬼柳にあてて、浴衣を送りつけてきたのである。
 それが今、居間にある浴衣だ。
 透耶と鬼柳の浴衣は、色は青とシンプルだが、柄は少し違うという感じである。
 さてはて、鬼柳が似合うのかというと、案外似合うんじゃないかと思う透耶である。
 しかし、そこで問題が残った。
 この浴衣、誰が着付けるんだ? という事である。
 透耶は着付け方は知らないし、綾乃も着た事はなかった。何でも出来る鬼柳でも、さすがに浴衣の着付けは知らなかった。
 旅館にある浴衣ならまだ出来るのだが、こういう浴衣は結び目がよく解らなかった。特に綾乃の女物はそうである。
 どうしようと話し合った時。
「私、少し習った事がありまして、簡単なモノならば出来ますが……」
 と、言い出したのが、意外や意外、宝田だったのだった。
 取りあえず着付けの方も安堵出来たわけである。
「先生ー、早くしないと」
 そう言ったのは、既に宝田に着付けて貰った綾乃だった。
 彼女は、5時頃にやってきて、一番最初に着付けてもらっていた。
 透耶はまだ仕事が一段落しないと言って、最後に回して貰ったのだ。
「あ、うん。綾乃ちゃん似合うねえ、オレンジって結構派手だと思ったけど」
 綾乃を見た透耶がそんな感想をもらした。
「ありがと。じゃ、あたし、あっちに行ってるね」
 綾乃は透耶に気を使って、ダイニングルームへと引っ込んだ。そっちには、鬼柳がいるのだ。
 透耶が着付けて貰う間、鬼柳はキッチンで携帯電話をしていた。彼も着付けは終わっている。
「……そろそろ透耶の着付けも終わる。もう5分ってとこか」
 そんな事を言っているので、これはヘンリーからの電話である事が綾乃にも解る。
 鬼柳は綾乃を見つけると、ニッと笑って言った。
「なかなかいいじゃないか」
 綾乃の浴衣もエドワードから送られたモノだった。
 まあ、エドワードが自分で選んだという訳ではないから、彼に付き合った目利きが余程いい人間である事が解る。
 いいじゃないか、と言われた綾乃は、くるっと一回りしてニコニコと笑っていた。
「ヘンリーさん、渋滞にでも捕まってるの?」
 綾乃がそう聞くと、鬼柳が頷いた。
「あ? ああ、綾乃だ、綾乃。そりゃ、透耶だったら、今すぐ脱がしたいって所だろうな」
 ニヤリとして言うその言葉に、綾乃は眉を顰めた。
 この、エロ魔人め……というところか。


 ちょっと、帰ってきた時の透耶の心配をしてしまう、綾乃とヘンリーである。
「終わったよー」
 着付けをしてもらった透耶が、ダイニングルームに現れた。
 青の浴衣は透耶に似合っていた。
「先生、似合うー」
「なんか、いつもと違うとワクワクするね」
 透耶はニコニコしていた。
 あまりイベントみたいな事に興味がない透耶でも、こうも準備が整うと、いつもと違う感じで心が踊るようである。
「ヘンリーさん、まだなの?」
 透耶がそう聞くと。
「もうそこまで来てる。祭り関係でいつもの道が封鎖されてるから少し遠回りしたらしい。で、道がちょっと解らなかったんだってよ」
 携帯で道を聞きながら来ていたらしい。
 でも鬼柳が電話を終えて、携帯をしまうのを見たところ、すぐそこまで来ているらしい。
 それを見ていた透耶は、鬼柳を見つめたまま、少し惚けていた。
 何か珍しいモノがあるような、そんな目である。
 それに気が付いた鬼柳が透耶に近寄って来た。
「どうした? 惚れ直したか?」
 そんな事を言いながら、鬼柳は透耶の顎に手を当てて、透耶の視線を自分の顔に向けた。
「うん……そうかも」
 普段の透耶から出てこないような言葉が飛び出して、鬼柳は驚いた顔をした。
 そして、ぎゅっと透耶を抱き締めたのである。
「ちくしょー、可愛い事いいやがって……」
 更に透耶の顔中にキスを降らせた。
「ちょ、ちょっと、恭!」
 やっと我に返った透耶は、これはまずい事を言ったかと思った。
 案の定。
「今すぐ、これ脱がせて押し倒してぇ。で、アンアン喘がせてやりてぇ」
 でたー!
 エロ気分、全開!!
「阿呆かーー!」
 殴ったのは、綾乃だった。
 不意をつかれたので、簡単に殴られてしまった鬼柳。でも綾乃が殴るのに使ったのが、浴衣用ポーチで、しかもその中には携帯電話やら化粧品が入っていた。
 がつーんっと凄い音がして、鬼柳の動きが止まった。
「……あ、い、今のは痛かったかも……よ」
 目の前で頭を抱えてしゃがんでしまった鬼柳を見て、それから綾乃を見つめて透耶が言った。
 綾乃もそんなつもりじゃなかったので、さっきの音にはびっくりしていた。
「あ、ご、ごめんなさい……やばいかな……?」
 痛みを堪えている鬼柳を見て、綾乃も反省をしていた。
「ってー、絶対、コブ出来たっ!」
 そんな事を言っている鬼柳の頭を同じようにしゃがんだ透耶が覗き込むようにして見てみた。
 その時である。
 浴衣がはだけた脚に鬼柳の手が忍び込んで来たのだ。
 !!!!!!!!!
「この手はなんだ……」
 脚に忍び込んで来た手をガシリと掴んで引き離す。
「いや、色っぽいなと思って、つい手が……」
 こんのぉおおおおお。
「……一回、死んでこい!!」
 透耶の拳骨が鬼柳の頭に炸裂した。
 ちょうど殴った所は、さっき綾乃に殴られた所だったので、鬼柳は声を出さずにまた頭を抱える事になった。
 今度は誰も同情はしなかった。
「もういい、置いて行こう」
 低い声で言った透耶は、さっさとダイニングルームを出て行った。
「……う、うん」
 唖然としながらも、綾乃も後に続いた。
 一部始終を目撃してしまった、執事の宝田は。
 嘆かわしや、恭一様……。
 と、心の中で思ったのだった。



 ちょうど玄関を出た所で、透耶はヘンリーが車で入ってくる所に遭遇した。
 時間ぴったりである。
 ヘンリーは、車をガレージの前に止めると、透耶達と同じように浴衣姿で現れた。
「ヘンリーさん」
「おお、透耶、時間良かったかな?」
「はい、もう出ようかと思ってたんですよ」
 透耶がそう言うと、後ろから鬼柳が頭を摩りながら現れた。
 透耶が鬼柳を振り返りもしなかったので。
「なんかあった?」
 と、ヘンリーは綾乃にこっそり聞いた。
「ええ、まあ。いつもの事で……」
「いつものね……」
「そう、いつもの」
 言わなくても、鬼柳が透耶に何をやったのかは予想どころか想像まで出来てしまうのだった。
 しかも怒っている透耶を鬼柳が言葉巧みに宥めている。こんな事も日常茶飯事なのであった。





 お祭りは、近所の集まりで行われるもので、出店も出ているが地元の住民の3分の1も出店をしていた。簡単なフリーマーケットみたいなのと、簡単なたこ焼きや焼そばなど。
 ゲームのようなモノは、ちゃんとした専門業者が出店として出しているらしかった。
「結構、規模は大きい方だね」
 ヘンリーが感心したように言った。
「この辺りでは結構本格的らしいですよ」
 透耶は受け売りだが、近所の人に聞いた情報を提供した。
「道も封鎖して、出店出してるし。あ、提灯とかも並んでる」
 綾乃も驚いたようで、あっちを見こっちを見している。
「純日本的な祭り風景?」
 鬼柳は祭りと言えば、地方の大きな祭りしか知らないので、こういうのは珍しいと思っていたらしい。
 実は……いつもの様にカメラを持っていたりする鬼柳。
 透耶を撮りながら、周りも撮っている。
「うーん、そんな感じかな?」
 透耶はそう答えて、綾乃と二人、出店を覗いたりしている。周りは近所の人やら、ちょっと離れた場所に住んでいる人などが聞き付けて集まった感じで、人出も結構なものだ。
「金魚すいくやる?」
「やる、やる!」
 透耶が興味を示せば、綾乃も同じ様に興味を示した。
 鬼柳もヘンリーも並んで、一緒に金魚すくいをやる事になった。
「こんな紙でほんと、取れるのか?」
 鬼柳が不満そうに言った。
 すると店屋のおじさんが笑って答えた。
「達人なら、破らずに20〜30匹くらい簡単に取るよ」
 へえーっとそこにいた4人が声を揃えて言った。
 そして、透耶が呟いた。
「そんなに取ったら、家で飼えないよね……」
 そんな言葉に綾乃も想像したのだろう、頷いて言った。
「そんな大きな水槽ないし……どうするんだろう?」
 鬼柳も頷いて。
「大体、どうやって持って帰るんだ?」
 するとヘンリーも。
「ほんと、どうやって持って帰るんだろう? 一匹二匹じゃない訳だし……」
 金魚すくいどころか、どうやってどうしたら、という、取った後の事で頭を悩ませる4人。
 店屋のおじさんは、「変な4人組が来たもんだ……」とそっと溜息を吐いたのだった。
 とりあえず、金魚すくいはやった。全然、取れなかったけど、やるという事だけに意義を感じていたので、透耶も綾乃も「難しいねえ」と感想をもらしただけだった。
 後はお祭りのマニュアルのような事をやった。
 水風船を買ってヨーヨーしたり、綿飴も、りんご飴も、たこ焼きも焼そばも買ってみた。
 境内の座れる場所を鬼柳が確保して、そこに4人座ってたこ焼きや焼そばを食べた。
 外でこういう屋台モノを食べると美味しいと言うが、ホントにそうだなあと、透耶は感じていた。
 鬼柳は写真を撮るのに必死だ。
「被写体慣れた?」
 ヘンリーがニッコリして透耶と綾乃に聞いた。
「慣れというか、もう気にならないって感じですね」
 透耶はそう答えた。綾乃も頷いて答えた。
「まあ、こうもあからさまだと気にしない方がいいという訳かあ。なるほどね」
 ヘンリーは可笑しそうに笑った。
「そろそろ花火かな?」
 時計を見たヘンリーがそう言った。
「どっから見えるのかなあ? 道に出た方がいいかも」
 そう言って、座っていた場所から移動した。
 花火を見たい人達が一斉に移動を開始していた。家に帰る道の途中の少し丘みたいになった場所が、一番見やすいと近所のおばさん達に呼び止められた。
「透耶君、鬼柳さん、ここから良く見えるわよ〜」
「あ、坂本さん。ここですか?」
「そうそう、ここは結構盲点なのよ。知ってる人は集まってくるけどね」
 そう言っていると、花火を見る為に出て来た近所の人達に囲まれてしまった。
「どっか出かけてたって聞いたけど?」
 他のおばさんがそう言った。どうやら、最近鬼柳がゴミ出しやら回覧板を回して来なかったので、居なかった事はばれていたらしい。
「うちの実家に」
「あら、透耶君って出身何処?」
「京都なんですよ」
 透耶がそう答えると、周りから「へえー」「訛りないねえ」とか声が飛んで来た。
 そして、綾乃やヘンリーに興味が移っていった。出入りしている所は見かけるが、顔をはっきりと見たり、誰なのかという事は結構近所では噂の種になっていたらしい。
 結構、気さくなおばさま達なので、綾乃もヘンリーも笑って答えていた。
 暫くして、ドーンという音が鳴った。
「あ、上がった」
 花火が始まったのだ。
 思ったよりも花火は近くで上がっているらしかった。大きな花火がちょうど良い高さに上がって、この場所は絶好の場所であるのには間違いなかった。
「綺麗だね」
 透耶がそう言って、鬼柳の方を向いた。鬼柳は目を細めて笑って、透耶の手を握ってきた。
 透耶も握り返していた。
「綺麗だな。今年は透耶が一緒だから、余計に綺麗だと思う」
 鬼柳は素直な感想を洩らしていた。透耶は少し驚いた顔をしたが、すぐに花火に目を移して、こっそりと呟いた。
「俺もそう思う」
 その言葉は大きな花火の音に消されて、鬼柳に聴こえたかは解らなかった。
 花火は40分上がり続け、最後にこれでもか!という位の量の花火が一斉に上がって終わりを告げた。


「ああー、綺麗だった。来年も一緒に見られるといいね」
 綾乃が何気なげなしにそう言うと、一瞬透耶が息を呑んだ。でもすぐに笑顔になって。
「うん、そうだね。また皆で見ようよ」
 その言葉に綾乃は頷いたが、事情を知っているヘンリーと鬼柳は少しだけ寂しそうな顔をした。
 何処かで一緒に花火を見る事はあるだろう。けれど、ここで4人揃って見る花火は、もしかしたら最後かもしれない。
 そんな些細な日常がなくなってしまう事に綾乃が気が付くのは、もう少し先の事だった。



 家に帰って、綾乃は浴衣から洋服に着替え、ヘンリーはそれを待って綾乃を送って帰って行った。
 透耶は二階に上がって、浴衣を着替えようとしていたら、鬼柳が入ってきた。
 すっと近付いて来た鬼柳に、透耶はふっと顔を上げた。
「どうしたの?」
 そんな言葉が出てしまった。鬼柳はまだ着替えてもいなくて、着替えようとする透耶の手を止めた。
「ん?」
 なんだろうと透耶が鬼柳を見上げると、顔が近付いてきた。
 いつも通り、ゆっくりと目を瞑ると、やっぱりキスがやってきた。
 啄むようにして、そして段々と深くなってくる。透耶はそれに答えて、鬼柳の侵入してきた舌に自分の舌を絡ませた。
「ん……」
 甘い息が鼻からもれる。
 段々と思考回路がおかしくなってくる。煽るように鬼柳はキスを続けた。透耶の身体から力が抜けると、やっとキスを止めた。
「あ……ん……」
 息苦しくてやっと呼吸をマトモにさせてもらった透耶の口から甘い息が吐き出された。
「どうしたの……?」
 透耶は再度問うていた。何がという感覚ではなく、漠然として鬼柳から何か不安が伝わってきたのだ。
「ん? 何でもないよ。透耶が綺麗だなと思って」
「変なの」
「そう、変なんだ。透耶、色っぽいし、可愛いし、綺麗だし、もうどうしようかって感じ」
「あはははは」
 鬼柳のこれでもかという言葉に、透耶は思わず笑ってしまった。確かに自分を見て、そんな言葉を惜し気もなく注ぐ鬼柳はなんか面 白いと思ったのだ。
「笑うなよ。今から襲うのに」
「へ?」
 笑って逃れようとしていた透耶は、しっかりと鬼柳に押し倒されてしまった。こうなれば、鬼柳の独壇場である。
 股に割って入った手が、透耶の脚をスルリと撫でていく。
「あ……っ」
 思わず仰け反った首筋に鬼柳が唇を寄せてきた。噛み付くようなキスをして、そして音をたてて肌を吸う。それだけで、透耶の首筋にはくっきりとしたキスマークが出来てしまう。
 そんな攻撃をしながらも、透耶の下半身を弄っていた手は、下着を器用に脱がしていた。
 まだ浴衣を着たままだというのに、鬼柳は透耶の股を割って、脚を立たせるとその中に潜り込んだ。
 湿った熱い舌が透耶自身にねっとりと絡みついてきた。
「あっ! んっ!」
 舌がゆっくりと透耶自身を舐め上げる。
「はっ……あ、あぁ」
 鬼柳は透耶自身を口に含んで、ゆっくりと扱き始めた。途中で止めては甘噛みをして、流れ出る汁を吸って、そして指でも上下に扱き続ける。
「やっ……あん……」
 透耶が達きそうになると刺激を緩め、そしてまた激しく扱く。透耶を散々焦らしているようだった。
 そして、もう片方の手が孔の入り口を何度も撫でていく。指はなかなか中に入らない。
「い……じわ……る」
「ん?」
「いじわる……」
 鬼柳が顔を上げて透耶を見ると、透耶は上気させた顔を見せていた。
「これが?」
 指はまた孔の入り口をくりくりと撫でる。
「ん……」
 まだ入ってくる様子はない。
「どうして欲しい?」
 鬼柳はそう言いながら、指で入り口を撫で続ける。
「い……入れて……」
 恥ずかしそうな透耶の声が聴こえた。どうやら、もう我慢は出来ないらしい。普段なら恥ずかしくて言えない台詞だ。高まった身体は鬼柳を求めている。
 鬼柳は、それを聞いて、指をゆっくりと中へ入れた。中は暖かくて、それでいて締め付けてくる。入れたままで指を回転させ根元まで押し込んだ。
「あ……あぁ……ん……あっ」
 ゆっくりと指を出し入れし始めると、透耶の喘ぎも大きくなってくる。
 指を中で押し曲げて、透耶が快感を得られる場所を撫で続ける。するとねっとりとしたモノが孔に流れ込んでくる。透耶の先走りが孔に到達したのだ。
 それによって滑りがよくなり、鬼柳は指を2本にして更に透耶を追い詰めた。
 ぐしゅぐしゅと卑猥な音がする。
「あっ は……ん……あぁ……ん」
 透耶の腰が揺れはじめる。鬼柳の指の動きに合わせて、自ら気持ちがいい場所へと押し当てているのだ。
 指を動かしながら、鬼柳は再度透耶自身を口に含んだ。出てくる汁を舐めながら血管にそって舐め上げる。ぎゅっと根元を掴んで指で先端をいじり、舌で側面 を舐め上げるのだ。
「や……あぁ……ん……も……っと」
 なかなか達かせて貰えないので、透耶は鬼柳を求めた。それを確認してから鬼柳はゆっくりと身体を起こした。
 指を抜いて、それから自分自身を少し扱いて、開いたままになっている透耶の脚の中に身体を滑り込ませた。
 透耶の浴衣の下は、完全にはだけているが、上はそのままだった。どうやら鬼柳はそのシチュエーションが気に入ったようだ。
 そのまま、透耶の中へと自身を侵入させた。
「あっ……は……あぁ……ん……」
 最初はやはりきつい。いつでもそうだ。透耶はなかなか鬼柳の大きさには慣れなかった。でもそれは先が少し入ってしまえば、後はゆっくり侵入していく事が出来る。
 それは透耶も解っている事で、なんとか快楽を得ようと鬼柳の動きに合わせて息を吐いている。
 苦しいのは受け入れる側。鬼柳も解っているから、いつでも慎重になる。そういう些細な優しさ、それが透耶が好きな所でもある。
 中へ完全に入ってしまうと、鬼柳もはあっと息を吐いた。透耶はぎゅっと鬼柳を締め付けてくる。それがちょうどいい。
 だからこの身体に飽きないのだと思う。いつでも処女みたいな感じがするのだ。だから大事に優しくしたくなる。それと同時に激しくして、この身体が自分だけを求めてくれるのを望んでしまう。
 そんな葛藤を続けて、鬼柳は透耶を抱き締めた。
「大丈夫……だよ」
 透耶はそう言って鬼柳を抱き締めた。
 いつでも透耶が壊れてしまうのではないか、と思ってしまう鬼柳を透耶はいつでも大丈夫だと言ってくれる。
「ありがとう。……ちょっと、余裕ない。ごめん」
 鬼柳は言って、透耶の脚をもっと開かせた。そして余裕がないと言った通 りに、急激に動き始めたのだ。
「ああ! あっ! あっ!」
 急に突き上げられて、透耶の口からは喘ぎ声しか出なくなった。押しては引いての行為が激しくなると、深い奥で鬼柳を感じる事が出来る。その快楽だけを追っていけばいい。
 滑らかになった内部は、出ては入る鬼柳を逃さぬように締め付けてくる。その感触が鬼柳には堪らない。何度も突き上げて、揺らし、時々止めては向きを変えて、透耶が感じる場所に押し当てる。いい所に当たる度に透耶は泣き声のような声を上げて身体を反らしている。
 この身体は自分の為にあるんだと思わせるような感覚が堪らなくいい。
「あん……あっ! はっ……んん!」
 透耶自身を指に絡め、終わりが近い事を解らせる為に激しく扱いた。
「もっ……もう……あ、ああああっー!」
 頭の中が真っ白になる。
 どくんっと身体が跳ね上がった。
「んっ」
 鬼柳は達した透耶に締め付けられて、透耶をぎゅっと抱き締め、透耶の中深くに己の欲望を吐き出した。
「はぁはぁはぁ……」
 弛緩した透耶の身体が、ベッドに沈み込む。鬼柳を抱き締めていた腕は力を失って、シーツの上に落ちた。
 鬼柳は透耶の中から自分を抜いて、透耶の上に倒れ込んだ。
「透耶……さいこうー」
 鬼柳の息も上がっている。肩で息をするようにしていた。
「も……汚れた……」
 溜息と共に、透耶の口からもれた言葉に鬼柳は顔を上げた。
「何が?」
 透耶の顔中にキスを降らす男を透耶は睨み付けて続けて言った。
「浴衣……」
 そう言うと鬼柳はああっと言う顔をした。
「まあ、クリーニングすりゃいいだろう」
「そういう問題じゃないんだけど……」
 透耶はどう怒っていいのか解らなくなった。
 確かに浴衣を汚した事を怒っているんだけど、クリーニングすれば元通りというのもなんか納得出来ない感じなのだ。
 だが、日本語を深く考えないこの男に、ニュアンスすら伝わらないだろうと諦めた。
「まあ……綾乃も暫くすれば解るだろう……」
 鬼柳のいきなりの言葉に透耶は少し驚いた。
 でも言っている事は繋がっていた。
 今日の花火の後、綾乃が言った言葉に対してだった。いつか、いや近い内に綾乃は鬼柳がここから仕事へいってしまって、なかなか帰れなくなる事を知るだろう。
 難しく考える事でもないし、あの時は、せっかく楽しそうにしていた雰囲気を壊したくなかった透耶の気持ちも、鬼柳には解っているのだ。
「うん……そうだね」
 透耶はそう答えた。これが一番合っている答えだから。
「んでさ」
「何?」
「まだ、やりたいんだけど」
「はあ?」
 鬼柳が起き上がって、透耶の脚に手を掛けた瞬間、なんの事を言っているのか透耶は察知した。
「ちょ、ちょっと待って!」
「まてなーい」
 上機嫌な鬼柳は透耶の脚を掴んで、大きく開かせてしまう。
「もーっ、このエロ魔人!!」       
 透耶がそう叫んだのだが、鬼柳は「Yes」と答えて、第二ラウンドに入る準備をした。
 こうなるともう鬼柳の独壇場なので、透耶が、変態、色魔、エロ魔人、などと罵詈雑言吐いても中断にはならなかったのであった。
 もちろん、翌日、透耶がベッドから起きあがれなかったのは、言うまでもないと思う。