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switch外伝5 鬼柳恭一の休日-お帰りなさいのその後に

 榎木津透耶が深夜、風呂に入って寝る準備を整えたところだった。
 普段は開かないはずの寝室のドアが乱暴に開かれた。
「え?」
 透耶はびっくりしその方を見る。最初は執事の宝田かと思ったが、そこに居た人物は透耶の頬を緩めるには十分の人物だった。透耶の恋人である鬼柳恭一が仕事から帰ってきたところだったのだ。
「恭……」
 ほっとしたように名前を呼び、布団から出ようとする。
 だが、鬼柳は何も言わずに透耶の行動を制する。
「風呂入ったな?」
 ただいまよりも先に鬼柳はそう透耶に尋ねる。
「あ、うん入った」
 おかえりと言いそうだった口は質問に答えるだけになってしまう。
「どう、したの?」
 鬼柳は荷物をそこに置くとクローゼットの中に入ってすぐに出てくる。
「風呂入る。透耶起きて待っててくれ」
 鬼柳はそう言い残すとバスルームの方へ行ってしまった。呆然と布団の上にいる透耶。
「え、何? って今何時?」
 鬼柳の行動も分からないが、今何時だと時計を見ると、午前1時になっている。こんな時間に帰ってくるのは初めてのことであるし、鬼柳は飛行機から降りたらすぐに透耶の元へ戻ってくるから、どこかに寄って遅くなったという時間でもない。
 一体どうなってるんだ?
 透耶がそう思いながら鬼柳が風呂から出てくるのを素直に待つことになった。起きて待っているようにと念を押されたのもあるし、何か話があるのかもしれない。
 その関係で遅くなってという想像も出来る。
 そう思いながら透耶が待っていると鬼柳はシャワーだけ浴びたようでバスローブ姿でささっと出てきた。髪も乾かさなかったようで頭にタオルを置いた状態である。滴がポタポタと垂れている。
「もう、頭くらい拭かないの?」
 透耶は傍に立っている鬼柳を座らせると、引き寄せてタオルで頭を拭いてやる。
 鬼柳は疲れているのか知らないが、とにかく喋らないのだ。何も言わないのは変であるが、透耶はいつも通りににっこりと笑って頭を拭いてやった。
 こうやってやるのは二ヶ月ぶりのことだ。もしかしたら四ヶ月、いや半年なんて前かもしれない。
 鬼柳の仕事が三ヶ月単位で海外であるから、透耶も自然とそのリズムに慣れてきてはいた。そうしてもう四年は経っただろうか。短いようで長いような時間、離れていたと思う。
 それでも二人は常に一緒にいた。ちょっとの休暇しか取れない鬼柳は何とか忙しい中でも休暇を取ってきてくれる。かなり無理をしてでもそうしてくれるのは、透耶が寂しがっているのを知っているからだ。
 もちろん鬼柳だって透耶に会いたいだろうし、触りたい。なにより愛している存在である。でもそれでも優しい彼は、透耶が寂しがっていることを誰よりも理解してくれている。
 滴が落ちそうだった髪の毛の水はあらかたタオルで取ってしまうと、透耶はタオルを外して鬼柳の顔を覗き込んで言うのだ。言えなかった言葉を。
「おかえり、恭」
 そうしてゆっくりとキスをする。その儀式はいつものことで、最初はただの罰ゲームだったのだが、透耶も恥ずかしくなくなり、当然のことになってしまっている。
 チュッとした簡単なキスであるが、それでも鬼柳は喜んでくれる。
 疲れていたらしい鬼柳がほっと息を吐いて、にこりと透耶を眺めた。
「透耶、ただいま」
 やっとその言葉を口にする。どうやら帰ってきた時は何かテンパッテいたようで、その言葉を口にしてなかったことを思い出したらしい。散々自分が強請ったことだったのに忘れていたのだ。今日に限って。
「どうしたの? らしくなくてびっくりしちゃった」
 透耶はそう言うと鬼柳を引き寄せて抱きしめる。
 鬼柳はそのまま倒れるように透耶の身体をベッドに押し倒した。
「あーうん。ちょっと疲れてた……」
 押し倒された体勢になっても透耶は動じない。ただじっと鬼柳を見つめる。
「ん、そうなの?」
「んで、ちょっと、ヤバイというか、透耶、今夜は朝までコースかも」
 いきなりの鬼柳の言葉に透耶は目を大きく見開く。真剣なことを言うのかと思ったら、セックスしたくてたまらないのを我慢しているのだというのだから脱力してしまうだろう。
「……朝までコースですか」
「うん、明日大丈夫か?」
 透耶が呆然としたままでそう呟くと、鬼柳は真剣に明日の予定を聞いてくる。
 透耶の予定は把握はしているだろうが、今日のいきなりのことではさすがに透耶の体調までは分からない。風邪は引いてないだろうとは分かっても、ダルイなどということもあるだろう。こういう行為は透耶の方に負担がかかる。しかも鬼柳は朝までコースをご所望である。
 透耶としては一回二回程度までなら耐えられただろうが、まさか久々で朝までコースとは思いもしなかったようである。
 どうやら、鬼柳がこんな時間になったのは、空港トラブルらしく出る時にトラブルになり数時間飛行機が飛ばず、さらに日本に戻ったと思ったら今度は日本の空港トラブルで上空を1時間飛び、午前ぎりぎりで飛行機が到着したという、むちゃくちゃスケジュールだったようだ。ようだというのは後で聞いたからのこと。
 この時はとにかくセックスしたい男が一人、恋人に懇願しているところなのだ。
 やり始めたらとにかく止まらないだろうし、もし透耶が駄目ならそれなりに我慢している状態で夜を過ごそうと考えていたらしく、今も精一杯我慢しているのだそうだ。
「あのですね、や、優しくでお願いします……」
 透耶は鬼柳の真剣な顔を眺め、やっとのことでその言葉を言うのだが、最後がほとんど聞こえないうらいに小さくなってしまう。
 いくら行為に慣れているとはいえ、言葉にするのは恥ずかしい。
 それを聞いた鬼柳はほっとしたような顔を見せて、透耶の頬にキスをする。
「ごめんね、自制出来ない」
 鬼柳はそう呟くと、透耶の唇を奪って、口内をなめ回し舌を絡めて激しくキスをする。どうして足りなかったものを補充するようなそんなキスだ。
 透耶は最初から飛ばしていく鬼柳になんとかついて行こうとするも、キスが終わる頃にはただ振り回されるだけになってしまった。
 たまに鬼柳のタガが外れることがあるが、今日はどうやらそれのようだ。
 それでも直前まで自制していたのだから偉い方だろう。

「……はぁ……好きって言って欲しい……」
 透耶が息をはあっと吐き出した後でそう呟く。鬼柳は先へ進めようとして急いでいた頭がまた少し止まったようで、透耶の顔を眺めると笑って言う。
「そんな透耶が好きだ。どうしようもないくらい好きだ」
 鬼柳は唇や頬に優しいキスをすると、そのキスが首筋をたどって下へ降りていく。着ていたパジャマはどうやったのか手品のようにすぐに脱がされてしまって、透耶は何もまとっていない生まれたままの姿になってしまっていた。こういうところはほんとに鬼柳は手が早い。
 しかしキスで煽られてしまっていた透耶自身はすでに立ち上がってしまっていて、それを鬼柳は握ってやわやわと揉む。透耶が自慰をすることは滅多にないから、相当溜まっているだろうと鬼柳が予想していると、やはり刺激されるとだんだんと溢れてくる。
 そこに口づけして鬼柳は透耶自身を吸い上げた。
「あああ……やっだめ……あぁぁぁ!!」
 透耶は自分でも興奮していることは分かっている。鬼柳に触られるだけでいつでも自分は淫乱になれる身体にされてしまっているのだから。でも久しぶりすぎてやはり恥ずかしい。
 そういう透耶の初々しいところは今でも鬼柳は大好きだ。
 自身を舐めあげられて透耶はぞくぞくとするものが背中を駆け上がるのを感じ、さらに天辺まで突き抜けていくのを感じた。体温があがって全身から火照ってくる。
「あ……だめ……ぇ……離して……」
 そう訴えたところで透耶の願いが叶えられることはない。鬼柳は全てを舐め取ってしまうからだ。
「ひゃ……あ……ん」
 前を舐めながら後ろの穴もをいじる。いつの間に持ってきたのか、ローションまで出てきてそれが透耶の穴を解していく。普段は何もしてないから簡単にはほぐれてくれないが、鬼柳はそういうところはちゃんと時間はかけてくれた。
 穴の中に指がはい回ってきた時に、透耶自身が達きそうになる。
「だめ……ああ……ぁ……だめえ……はなしっ」
 前が達してしまいそうだったから鬼柳を離そうとするもそれは叶わないことだ。
「あああぁぁぁぁぁ――――――!」
 透耶の身体が弓反りになってその身体がゆっくりとベッドに沈むと鬼柳は透耶自身から口を離して、出されたものを飲み込んだ。
 弛緩した身体が油断しているうちに、鬼柳は透耶の解した穴に己をゆっくりと挿入していく。
 先が入ったところで透耶の意識がこっちに戻ってくる。
「あ……んん……は……ん」
 一瞬固くなった身体だが、鬼柳の入ってくる速度に合わせて中を緩めてくれる。透耶にもまだ余裕はあるからそれくらいは出来た。そうしてぐっと最後まで押し込むと、鬼柳はほっと息を吐いた。
 この中がとても気持ちいいのだ。昨日までの忙しさなどすっかり忘れて、透耶の身体だけに溺れることが出来る。それが嬉しい。
「大丈夫か?」
 そう鬼柳が問い返すと、透耶はほっと息を吐いてにこりと笑う。
「うん、大丈夫だよ。いいよ、恭の好きにしても……」
 透耶が上目遣いでそう見上げてくると、鬼柳はそれだけでノックアウトだ。

「煽るな、知らないぞ」
 鬼柳はそういうと透耶の腰を掴んで挿入を繰り返した。
「ああぁぁ……んんん……あぁ……ん、やん……っ」
 急に始まったことに透耶は抗議しようとするも失敗する。そんな煽るだなんてこと考えてなかったからだ。
 目の前がチカチカして、内蔵を押し上げるような圧迫感に上手く息が出来ない。鬼柳はそんな透耶を気遣う余裕がないのか激しく腰を使ってきた。
「あ……んぁ……ぁあっ」
 揺さぶられる身体からは苦しさは消えてしまい、荒っぽい旋律が生み出すのは快感だけになっていった。透耶はその懐かしい快楽に身をゆだねた。相手は鬼柳である。乱れたところなど彼には幾度となくみせてきたからだ。
 けれども今日の急ぎすぎるような流れに透耶は少し待って欲しかった。
「ちょ……ま、待って、ゆ、くっりして……」
 透耶が整わない呼吸をはき出しながら訴えても鬼柳は止まることはなかった。
「ごめん、無理」
 こういう時の鬼柳は本当なのだろう。激しく突き上げてくる速度は速くなる一方だし、打ち付けるような挿入すらどうしようもないほど急いでいる。
 まるで本能のままの行動と言えよう。その証拠に本人はちゃんとそうなるかもしれないと断っている。
「気持ちいい、透耶の中」
 鬼柳がホッとしたようにそう呟く。温かく自分を包んでくれる感覚がどうしようもなく気持ちいいのだ。これを知っているからこそ、透耶をずっと求めているのもある。
「あ……っ……あっ……あっ……」
 穿たれるたびにうずくような痺れが駆け抜ける。激しく粘膜を擦る刺激は透耶の身体を内側から溶かしてしまっていた。
 だが限界もはやかった。こんな風に急にされてしまえば双方とも限界は早い。
「ん……ん……んん……だめぇ……も……だめ……」
「ん……っ」
 透耶が大きな声を上げたと同時に中を締め付けると鬼柳もそれにつられたように中へと射精していたのだった。
「あ……あああああ――――――!!」
 中に熱いものが注ぎ込まれると、頭の芯が痺れるようになって快感が巡り声も出なくなってしまった。
 だが絶頂の余韻に浸る間もなく、繋がりはまだ解かれずに鬼柳が復活してしまっていた。
 当然朝までコースだからこのまま終わるわけがないのだ。
「ん……ゆっくり……」
 透耶は鬼柳に手を差し出すと、鬼柳もやっと余裕が出てきたのであろう、透耶の手を取り首に回してくれた。
「今度はゆっくりな……」
 鬼柳はそういって透耶に口づけをする。
 もちろん、朝までそれは終わることはなかったのだった。