Allegro vivace05

 阿古湊人(あこ みなと)は、その日上機嫌で過ごした。
 友人に自分がゲイであることをカミングアウトして、それを受け入れて貰えた。
 そして暫定の恋人ができた。
 怖いと思っていたセックスまでした。
 そこから生まれ変わったように、阿古は息ができるようになった。
「いい天気だね」
 今は午前中の講義が終わったばかりで、昼食を取りに大学の門通りまで出てきたところだ。五時限の講義がなく、六時限目があるので昼食を取ったら大学へ戻って講義を受けるのだが、それまで暇になるので、大学を出て昼食にしている。
 友人の今川と青柳も同じ講義を取っているので、行動が全く同じになる。
「今日は晴れで、明日も晴れ。天気予報はそう言っていたな」
「まあ、阿古は心も晴れているんだろうけどよ」
 今川がそう言う。それに青柳が頷く。
「だな」
「茶化すなってば」
「いいじゃん。春が来た人を祝っているわけですし?」
「それで、嗣永はここに来るのか?」
 そう言われた時にポンッと携帯のメッセージが届く。
「噂の嗣永だ。なになに、今通りに出たから店まで数分だってさ」
「ちょっと見るなよ……」
 青柳が覗き込んでそう言うと、阿古は携帯を隠した。しかし、その三つ前のメッセージも目に入っていたらしく、青柳がニヤニヤしながら言った。
「朝から嗣永も甘い口説きモード。阿古、好きだよだってよ~」
「もう……恥ずかしいからやめて」
 阿古が真っ赤な顔をしてそう言うと、今川が少し驚いた顔をした。
「あ……」
 何か今川が言おうとすると、阿古の隣に人が急に座った。
「え? あ、嗣永?」
 阿古の隣に座ったのは嗣永だ。
「悪い、遅れた」
 嗣永はそう言うと、阿古の頬にキスをした。
「い、ひ……っ! な、なにしてんのっ!」
 阿古はキスをされた頬を押さえて、更に真っ赤な顔をして嗣永に言った。
「いいじゃん、お試しとはいえ、恋人同士なんだし、好きなことを俺はやる」
 嗣永はそういいながら、阿古の頬を撫でてやっている。
 すぐに水を持った店員がやってくると、嗣永は阿古と同じモノを頼んだ。
 店員が下がっていくと、阿古は嗣永に聞く。
「同じのでよかったの?」
「阿古の好みのものを知っておきたいから、同じのを食べてみる」
「へ、へえ……」
 さすがの阿古も嗣永がそんな気で頼んだとは思わなかったので呆れている。
 しかし嗣永はそんな阿古にも動じた様子はなく、好きにやっている。
「で、こいつらが阿古の友達?」
 さっきまで無視していた二人をやっと認識したとばかりに嗣永が言うと、今川が更に呆れた顔になっていた。
「噂通り、性格に難ありっぽいな」
 そう今川が言うと、嗣永は気分を悪くした様子もなく答えた。
「性格が悪いのは自覚してる。でも阿古以外に優しくしても、意味ないからな」
「確かに、優しくされたって嬉しくないけどな。阿古にちゃんとしてるなら、俺らには問題ないからいいけど」
「そういうこと」
 嗣永と今川が火花を散らしながら、お互いを牽制している。
「お前が、高校時代からの友人の方か」
「そうだよ、昨日からのお試し恋人さん」
 相性が良くないのか、青柳すら引くほどの今川の圧が強く、それに対して嗣永も譲る気はないというような態度である。
「なんで?」
「まあ、こうなるわな」
 阿古はどうしようと思うのだが、青柳は納得する。
 今まで阿古の保護者のような立場で見守ってきた今川が、評判が悪い嗣永を簡単に容認できるはずもないのだ。
「お試しもあっという間で更新されるさ」
「さあ、どうかな。見物だな」
 売り言葉に買い言葉で火花が散っているが、嗣永の食事が運ばれてきて、嗣永が食事を始めるとピタリと止まる。
「もう、今川、小姑過ぎるぞ」
「仕方ないだろ。こいつの噂が悪すぎる。しかも実際に性格も悪い」
 青柳にたしなめられる今川であるが、それでも仕方ないと青柳は思っている。
 阿古は困ったようにしていたが、それでも今川が間違ったことを阿古に吹き込んだことはないので、嗣永の噂が本当に悪いモノばかりだったのだろうと予想できた。
「阿古を困らせたいわけじゃないけど、周りの評判が悪いのはちょっと問題なんだ。そのことで嗣永が恨みを買っていて、知らず知らずにそれが阿古に向けられることだってあるんだぞ。俺はそっちの方を心配しているんだ」
 今川がそう言うと、嗣永の食べている手が一瞬止まる。
 その可能性を考えていなかったのだ。
 恨みを買ったことはあるだろう。付き合いもせずに振った相手だっている。泣いて縋る相手も振ったことがある。それで刃物を持ち出す騒ぎになったことだってあった。
 全部が全部、嗣永が悪かったわけではないのだが、それでも知らずに恨みを募らせている相手だっているはずだ。
「これから少しは良くなるにしても、お試し期間中にそれを払拭できるようなことでもない限り、阿古は一人にならない方がいいと思う」
「それは賛成だ」
 嗣永が今川の言葉に賛同した。
 その可能性が一切ないとは言えない立場である。阿古に何かあっては困る。
 その恨みが嗣永一人に向かっているなら、受けて立つ気はあるが、関係がない阿古に向かうのだけは避けたい。
 その辺りは嗣永と今川の思いは同じだ。
「で、嗣永、最近揉めた相手はいるか?」
「いや、この間まで試験だっただろ? 今回は落とす単位取りもあったから、真面目に勉強をしたから、一ヶ月以内は誰とも寝てないし、誰とも付き合ってない。飲み会も断ったしな」
 どうやら試験中は誰とも何もなかったらしい。
「その前は?」
「振ったのが二人。一人は他校の女。暫く付きまとってきたが、ある日を境にぱったり。多分行動がおかしいから家族が引き取ったんだろうな」
「もう一人は?」
「男。大学は同じ、学年は下。夜はホストのバイトしてるやつで、金だけは持ってたな。それで俺を釣ろうとしてきたけど、ホストバイトをする気は一切ないって断ったけど、暫く付きまとわれたな。俺の顔ならホストの世界でナンバーワンとか訳分からない妄想が酷かったからな」
「なんで、そいつがナンバーワンを目指さないでお前に?」
「そのホストクラブのオーナーの息子で、ホストは気軽なバイト。お小遣いをもらうよりも女が貢いでくれるから楽なんだろうな。その親に俺をスカウトしてこいって頼まれたらしいけど、そいつもスカウトした俺がナンバーワンになれば、跡継ぎにしてもらえるらしくて張り切ってたという事情があるヤツだ」
「ややこしいな」
「大学を辞めてまでホストをする気なんてないし、俺の兄貴が芸能をやってるから、俺がホストやって兄の評判を落とすのはしたくない」
 嗣永がそう言うと阿古もああっと頷く。
「だって嗣永の顔がお兄さんに似ているから、ホストの仕事を宛がおうとしてるわけだよね? 嗣永じゃなくて、お兄さんに似ている顔を看板にして客寄せしたいってことでしょ。それ、お兄さんにも失礼だけど、嗣永にも凄く失礼だよね」
 阿古が口をへの字にして怒っている。
 それに嗣永が少し微笑んだ。
「あ、嗣永の兄貴って、嗣永裕策だろ? 最近、大作映画とかにどんどん抜擢されてるモデル上がりの」
 青柳が思い出したとばかりに言った。
「そう」
「俺、この間見た、「地上の青の世界」って映画のお兄さんの役がよかったなあって思ったんだよな。で、結構有名な作品の端役をやってるのにも気付いて、やっと大きな役も貰えるようになってきて良かったなあって思ってた」
 そう青柳が言うと、嗣永はにこりと微笑んだ。
「兄に言っておく。ありがとう」
 そう素直に言われて、青柳はびっくりしてしまう。
「お、おう、よろしく……」
 意外に素直な嗣永に阿古も青柳も驚く。家族のことを褒められると素直に嬉しさを隠しもしないような性格だとは思えなかったからだが、何か吹っ切れたような印象もあった。
「嗣永はそういうのには興味ないの?」
「俺は兄貴ほどの興味はないな。それどころじゃなかったっていうのもあったけど、何かと兄貴と比べられるのが耐えられなかったから、やってたとしても続かなかったと思う」
「ふーん、そうなんだ、良かった」
 阿古はそう言って微笑んだ。
「良かったって?」
 安堵する阿古の様子に嗣永が尋ね返した。
「え、だって、急に芸能人になるからって別れることになったら、多分寂しいからかな……なんて」
 阿古は何を言ってるんだ俺と思いながらもそう思ったことを素直に口にした。
 すると嗣永は真剣に言った。
「大丈夫、絶対に阿古を置いていくようなことはないから……信じて」
 嗣永の真剣さに阿古も驚きながらも頷く。
「う、うん、分かった。信じるよ」
 よほど後ろめたいこともあるのだろう。今は改心したとはいえ、それまでの行いを人は忘れてはくれない。それでもここ最近の嗣永は勉学の方へ集中していて一年の時に荒れていた部分は大分減っていたといえる。
 今川が知っている噂も一年前のモノが多く、最近は大人しいという印象を人が持っていることも知っていた。
「阿古に迷惑がかからない程度に、後始末もしておくんだな」
 今川がそう言うと、嗣永は今川を睨み付けて言った。
「後始末するような付き合いはしてないんでね。ほぼ逆恨みだから不可抗力だ」
 嗣永がそう言う。確かに最近の注意人物に関しては、嗣永の責任ではないようだ。それは阿古が指摘しなくても今川も分かっているだろう。しかし、それでも何かが起これば嗣永は自分のせいだと傷つくだろう。
「まあ、阿古は俺らとほぼ一緒の講義しか取ってないし、これからも同じ講義になるだろうから、一人になるのは行き帰りくらいのものだ。暫くは気をつけていこう」
 今川はそう言って睨み合いを終了させた。
 どうやら話したかったのは、こういうことで嗣永の人となりについてを詳しく知りたかったわけでもなかったらしい。
 阿古はホッとして、注文したコーヒーを飲み干し、お替わりをした。
「いきなり火花が散るからびっくりした……」
 そう阿古が言ったら、嗣永が笑う。
「本気で喧嘩なんかしないよ。ただ言いたいことがあることくらい、仕方ない。俺の素行が悪いのは俺のせいで、その噂を聞いたら不安にもなるだろ」
「俺、嗣永の噂を聞いたことないけど……」
「知ったとしても、過去のことで、俺はそれを覆せないと思う。けれど、これからの俺を信用してくれたら嬉しい」
 嗣永は過去の出来事には後悔をしているし、荒れていた事実は認めた、大体の噂の根源は変わらないし、大げさにされているかもしれないが基本的には同じことだったりする。
 だから、これから阿古が過去の嗣永の噂を耳に入れられるかもしれないが、嗣永はそれを後悔して恥ずかしいと思っている。その事実を阿古は知った。
「大丈夫、嗣永は少し問題があったけど、今は心を入れ替えてる。だって最初の意地悪な目、しなくなってるもん」
 阿古がそう言うと、嗣永は最初の好奇心で阿古を引きつけようとした事実に苦笑する。阿古に手を出したくなったのは、一目惚れして抱きたくなったからだ。その理由も今考えれば卑怯だが、それでも阿古を抱けた。また阿古を抱けるのなら同じことをするだろうと嗣永は思った。
 どうして世界が阿古中心に回っているのか分からない。
 けれど、一晩寝てみて更に手放したくないと確信した。
「阿古……やっぱり好きだ」
「だから、一々確認するみたいに言わなくていいってば……」
 阿古の顔が真っ赤になる。告白なんてされたことはなかったし、告白をしたこともなかった。
 それなのに昨日からずっと阿古は嗣永に口説かれている。
 それが人生で初めてのことで、阿古は耐性がなかった。
 真っ赤になる阿古を嗣永が抱きしめて、更に阿古の顔を赤くさせる。
 阿古はそんなふうに言ってくる嗣永を信じていた。


 だから、その日のうちに阿古が嗣永と付き合っているという噂が広まって、嗣永に恨みを持つものが阿古の前に現れた時も、早いなという感想以外はなかった。
「あいつは俺のだぞ、誰の許しを得て勝手に付き合ってる!」
 そう言うのは、別の学部の学生だ。もちろん付き合っているなんて事実はなく、勝手にそう思っているだけのようだ。
 というのも、嗣永はこの人間を知らないと言ったのだ。
 メッセージで名乗った男の名前を送信したら、覚えが一切ないというのだ。
 だから、これはストーカーの部類の妄想野郎なわけだ。
「誰の許しって、嗣永本人だけど?」
 阿古は素直にそう返した。
「それはあり得ない! 俺が付き合っているんだから!」
「それこそない。昨日から俺が付き合ってるから。じゃ」
 阿古はそうはっきりと言い切ると、今川達と講義室に入っていく。しかしストーカーも引き下がらない。
「俺がっ、嗣永と付き合っているんだから!」
「じゃあ、嗣永に文句を言ってくればいいじゃん、俺に言わないでさ。できないとは言わせないよ。まさか嗣永の前に出て行くこともできないなんてことないよね?」
 嗣永が一切覚えがないなら、このストーカーは弱い相手にしか向かっていかない卑怯者だ。それが阿古を苛立たせた。
 嗣永とまだ付き合って二日目であるが、こんなストーカーのせいで嗣永の印象が最悪に落ちていることだけは容易に想像ができたからだ。
 阿古の言葉にストーカーは一瞬で言葉を失う。
 弱そうな阿古からこうした強気の言葉が出てくるとは思ってなかったような反応だ。それもそのはずで、身長も十センチは違う男から頭ごなしに怒鳴られれば大抵の人は怖くて震えて何も言えなくなる。
 しかし、阿古はアメフト部の学生とも普通に話すことがあるので、こうした見下ろされることには慣れていた。
 怒鳴られるのは怖いけれど、今は怖さを感じる前に苛立ちの方が勝っていた。だから怖くなかった。
「なんだよ、阿古、お前、嗣永と付き合ってるのかよっ」
 事態を面白がった学生達が笑いながら、阿古に突っ込んできた。
 普段からふざけているばかりの学生達で阿古がゲイだったのが面白かったのだろう。
「そうだよ。だから何? あなたにも許可を取らないといけないの?」
 阿古がそう学生を睨み付けるようにして言うと、さすがに笑っていた学生を周りの学生が窘めるように見つめてくる。からかっている場合ではなく、阿古は完全に知らない乱暴社に絡まれている被害者だ。その被害者を性差別していたぶるのに参加するのは、いい顔をしない学生が多かったらしい。
「教授と警備を呼んできたぞ」
 他の学生が事態を重く見て、教授達を呼んできて、事態が一変する。
「また君か、こっちに来なさい。今度ばかりは退学だぞ」
 どうやら、こういうことを繰り返している常習犯で、現在は嗣永が被害者だったらしい。 
 そのままでは授業にならないと言われて、阿古は教授室に呼ばれ事情を説明した。
 ただ単に絡まれた阿古の元に、嗣永がやってくる。
「阿古、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
 阿古を真っ先に心配する嗣永の様子に教授は微笑ましいというように笑みを浮かべてから、嗣永に加害者を見てもらうことになったのだが、写真を見た嗣永本人は。
「本当に知らない人ですね……そもそも学部が違うし、接点があり得ないです」
 そう言ったのは当然で、文学部と経済学部が正反対の位置、時計にすると三時と九時にあるとすると、そのストーカーの学部は十二時の位置にある研究室がある一帯の理系であった。
「とりあえず、彼はもう数度、ストーカー行為を働いていて、その都度、注意をしては収まってまた違う人間をストーカーしてと繰り返していたんだ。本人と接点がないから、原因も不明でね。学長の知人のお子さんらしくて、退学だけはと言われていたんだが、さすがにこの騒ぎで噂が広まってしまったから、退学だろうし。退学しなくても多分次の標的は君じゃないと思う」
 教授も雇われの身であるから、強く退学とは言えないが、噂が広まれば大学の評価も下がることを注進すれば、あのストーカーも大学を移っていくだろうと言われた。
 教授の部屋から出てくると、今川と青柳が待っていて、ホッとしたように胸を撫で下ろしていた。
「いやもう、行った先からの上に、阿古ってば煽るみたいに言うからさ」
 青柳がそう言い、焦ったと言うが、今川が青柳に言った。
「いや、問題が大きいほどいい。阿古が嗣永のことでもめ事に巻き込まれたという事実が広まれば、誰も阿古に何かを言うことができなくなる。もう阿古が嗣永と付き合っているなんてことは些細なことだと思ってる。それよりも嗣永に狂ったストーカーがいて恋人の阿古に絡んで、撃退されたという事実あるだけで、阿古が弱いわけじゃないと思い直した人間だって多かったはずだ」
 今川の言葉に阿古はそういうものかという顔をしている。
 ただ自分は腹が立って言い返しただけだ。
「いや、煽るように言うのはよくない。人が多くても相手が凶器を持っている場合だってあるんだ。だから阿古」
 嗣永がそう言うのだが、阿古は言った。
「俺は腹が立っただけ。嗣永の何も知らないのは同じだけど、嗣永を知ろうともしない人が、嗣永を貶めているのが許せなかったんだ」
 阿古がそう言うと、嗣永は困ったように笑った。喜んでいいのか、駄目だと言い聞かせた方がいいのか。微妙なラインだ。
「文学部にはこの噂は広まった。これからはちょっとした騒ぎや噂になるけど、俺たちはしっかりと対応していこう」
 そう今川が言った。
 ゆるりとしれる話題よりも俊足で駆け抜ける噂の方が消えるのも早い。そして阿古と嗣永が付き合っているという噂も広まる。これで二人が公認になり、嗣永に恨みを持つものたちも迂闊に手を出せないだろう。
 何せ手を出した人間が退学寸前のことになっているからだ。
 大学ももうすぐ三年になる時期に、退学してまで阿古達に構いたがる人間は既にいないだろう。そういう人間は一年の段階で間引きされているからだ。
「思わぬ形で大学中にカミングアウトした形だけど、阿古、大丈夫か?」
 嗣永が心配して言うと、阿古は笑って言った。
「ん、大丈夫。というか、一斉に知られたと分かったら何か、すっきりした。もう悩まなくても、話しかけてくる人は俺のこと知ってるんだって分かるから」

 狙ったわけでもなく、大学中の噂に阿古と嗣永のことが上がったのだが、それもあっという間に廃れた。
 というのも、二月から大学の試験が始まり、それが終わると補習が始まると同時に卒業式。そしてすぐに春休みに突入し、大学は受験真っ盛りの時期になった。
 一週間以上も噂として話題には上ったが、意外に阿古が強気に出た態度が、今まで阿古を大人しく弱いと思っていた人の認識を変えたらしい。
 今まで話しかけてこなかった人は、阿古と話してみて意外に話が合う人もいたし、阿古を大人しいと馬鹿にしていた人は、阿古を避けるようにもなった。
 嗣永も阿古を心配して文学部に出入りするようになって、阿古を好きな様子が伝わったのか、微笑ましいというように女性からの支援が強くあり、阿古達に変な辛みをする人間は瞬く間に変な噂で逆に悩まされる羽目になっていた。
 もちろんそんなことは阿古達は気付く間もなく、春休みを謳歌することになる。

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