Eureka10

「伊計(いけい)……先生?」
「……真希か?」
 伊計も真希がそこに座っていることに驚いているようで、立ったままで二人は見つめ合ってしまった。
「あの、まずはお席の方へ……」
 ウェイターが慌てたように座るようにいい、伊計は慌てて席に座った。
 注文は既に頼んであったので、順番に食事が出てくる。
 それを食べながら、二人は再会の驚きを話し合った。
「信二さんに呼ばれたの?」
「……学園にきて、いきなり連れ出された。理事だから断るわけにもいかなかったのもあって、そのままタクシーできた。学園長も断るなって言うから……」
 伊計がそう言うと、真希もやっと信二の計画に気付いた。
「信二さん、最初からこのつもりだったんだ」
「だろうな、そうじゃなきゃ、俺もお前もきっと来てない」
「そうだね。多分来てない」
 伊計は、真希がいるから来いと命令されていたら、絶対に来ていないと答えた。
 真希もそう納得して答えた。
 二人は終わったことだと思っていた。あの事件の後、あの手紙を書いた時点で、真希の中ではけじめはついたことだった。
 それでも、伊計に会えたことで躰が震えるほど興奮しているのは確かだった。
 緊張してどうにかなりそうな心臓が収まりそうもなくて、なかなか伊計の顔を見られなかった。
「それでも会えて嬉しいと思っているのが正直な感想だ」
 伊計がそう言ってきて、真希はハッと顔を上げた。
 その時の伊計の顔は、あの時期の伊計の顔とは違っていた。かなりの苦労をしていたのか、少し痩せている。でも躰は鍛えているのかがっしりとしていて、見違えるような姿だった。
 伊計はあの時のままではなく、ちゃんと生きてきた証を見せてくれる。
「ぼ、僕も嬉しい……心臓が飛び出そうなほど……嬉しいと感じてる」
 真希がそう答えると、伊計もしっかりと真希を見た。
 少年だった真希も四年も経てば、青年の姿になっている。伸び悩んでいた身長は、五センチは伸びた。丸かった顔も少し顎が尖ったようになって、体つきもしっかりとして男性ぽくなったと思う。
 お互いに変わった。外見からも内面からも。あの時のままではない。
 それなのに、恋をした気持ちが全く変わらずに残っていることに、二人は戸惑っていた。
 懐かしさで恋を思い出しているのか、それとも今の相手に恋をしたままなのか。
「あれから、真希は何処へ行っていた?」
 伊計がそう言い、真希の歴史を辿り始める。
「海外の寄宿舎がある学園に行っていた。大学もそっちで出ました。飛び級が使えたから、早く大学を卒業して、信二さんの仕事を手伝うので秘書の資格とかも取って、今は信二さんのところで雇って貰ってます」
 真希がそう言うと、伊計は眩しそうな顔で真希を見た。
「日本を出たのはよかったな。あのままどこにいても噂でどうにかなっていたかもしれないから。誰も何も知らないところの方が絶対にいいと思っていた」
 伊計はそう言って、真希の選択は間違っていないとやはり言った。
「伊計……さんは、学園に残っていたんですね。よかった、あのまま音楽の方もやっているって濱田に一度だけ手紙で教えて貰いました」
「そうか。あのまま腐れてしまっても意味はないから、真希のように頑張ってみようと思って、いろいろやってるよ。真面目に教師をしてる」
 伊計がそう言うので、真希は本当に喜んだ。
 伊計が教師という目的を失っていたことは知っていたが、今はちゃんとした目的を持って行動をしてくれていた。だから真希の選んだことは間違っていなかった。
 二人はそのまま近況を語り合って、食事を進めた。
 雨はホテルの窓ガラスを叩きつけるように降っているが、防音の効いた部屋ではその騒音は聞こえない。二人は食事を楽しみながら、話を続け、最後にお酒が飲める年齢になっていることを知って、少しだけ笑った。
 あれから四年も経っているのだという事実と、真希がもう成人をしているという証拠だ。
 少しだけワインを飲んで、食事は終わった。
 レストランの会計は済んでいるので、二人は早々にレストランを出た。
「このまま帰るのか?」
「いえ、ホテルに部屋を取って貰っていて……」
「そうか、良かった。この雨では帰るのは大変だからな。俺はその中を帰るんだけど、タクシーは予約しておいたから」
 そう言う伊計がエレベーターに乗っていく。その隣に真希も乗り、泊まる部屋の階数を押して貰う。二十階建てのホテルの十八階でそのエレベーターが止まり、真希はゆっくりと廊下へ出た。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
 真希がそう言って笑っている。
 伊計もその笑顔に釣られて笑い、礼を言った。
「俺も楽しかった。じゃあ、元気で」
「伊計さんも……お元気で」
 真希がそう言う。
 伊計がエレベーターのドアを閉めるを押すと、ドアが閉まり始める。
 その瞬間だった。
 真希がいきなりそのドアに手を突っ込み、ドアが閉まるのを阻止した。
「……真希……危ないだろ……何やって」
 伊計が驚いていると、真希はエレベーターに乗っている伊計の手を掴んで廊下に引っ張り出した。
 伊計は真希に引っ張り出されて、廊下に出てしまうが、真希の手を振りほどかなかった。熱い手が触れている。それだけで、伊計の躰があの時の熱を思い出してしまった。
 真希が強く伊計の手を握り、身を乗り出して言った。
「お願いです、いかないで……お願い」
 真希がそう言い、伊計の胸の中に飛び込んだ。伊計はそんな真希を抱きしめた。
 明らかに記憶と違う体つきの真希を抱きしめ、今が未来であることを知る。
 真希もあの時とは違う伊計の体つきに気付いて、今が自分が望んだ未来であることを知った。
「もう、我慢なんてしなくていい……僕は大人で、先生はもう先生じゃなくて……僕たちは、対等になれる……よ、よければ、僕の部屋に泊まってください」
 真希が緊張に震えながらそう言う。その意味を伊計は読み違えなかった。
「それは、俺が真希を抱くことになるけれど、それでいいってことだよな?」
 その伊計の言葉に真希は、泣き笑いで伊計に向かって言った。
「はい、伊計さん」
 必死な真希に釣られて、伊計は真希を抱きしめたが、ここがホテルの廊下であることに気付いて伊計は言った。
「部屋へいこう……真希」
 そう言われた真希はロビーで預かったカードキーを取り出して、二人はすぐに部屋に向かった。
 部屋に入ると、そこはスイートだった。
「これは……してやられた感じだな」
 伊計もそこで冷静になって状況を判断した。
 真希も熱くなりすぎていたことに気付いて恥ずかしくなった。
「そんなに、僕は伊計さんを求めてたってバレてたんですかね……」
 顔に出さなくても、真希の態度で伊計以外の誰かと真希が寝ることはあったとしても、きっと付き合いはしないのだろうと、叔父の信二には分かってしまったようだ。
 こうしてセッティングをして、部屋まで取って、二人の判断に任せたものの、二人が選ぶであろう結果を用意してくれた。
「真希、俺は嬉しいよ。側にいない間も、真希が思ってくれていたことが嬉しいよ」
 そう伊計が言うと、真希が少し拗ねたように文句を言う。
「僕だけなんですか? 伊計さんは?」
 真希がそう言うから、伊計も素直に答えた。
「思っていたに決まっている。真希の未来を潰さないことだけを考えて生きてきた」
 伊計がそう言い出して、真希は驚く。
「俺がいい加減に生きていたら、真希の汚点になる。こうならなくても、真希が俺のことを聞いた時に、頑張っているんだと分かって貰えるために、俺は生きることにしたんだ。俺といたら真希の人生を台無しにするかもしれない。だから、追いかけることはできないと思っていた」
 伊計の言葉に真希は頷いた。
「僕がいることで、伊計さんの未来が駄目になるのだけは怖かった。だから僕は離れないといけないって思ってた。もう会えないけど、それでも僕がいないことで伊計さんの未来が安泰ならそれでいいと思ってた」
 真希がそう言うので、伊計は分かっていると頷く。
「真希がそうしてくれているのが分かったから、俺は追ってはいけなかった。今の俺があるのは真希のお陰なんだ。でも、真希ともう一度別れるのはどうしても嫌なんだ」
 伊計がそう心を吐露する。
「引き留めてくれて、本当に嬉しかった。真希の心は分からないから、俺からはどうしても手を取れない」
 大人である伊計は、あれから三十台になった。
 二十一歳の青年に付き合ってくれと今更言えるほど、若くもなかった。
 大人として、青年になった真希を見られただけで満足するべきだと思っていたが、真希が手を伸ばしてくれた。
「僕は、もう嫌だった。僕から別れるのは、もう嫌だった。今手を離したらきっと、もう一生伊計さんに会えない。それが怖かった」
「真希がいいなら、俺はこの手を離さない」
「うん、離さないで。僕はもう何処にもいかないから。大人になった僕を、抱いてください」
 真希がそう申し出ると、伊計は真希に噛みつくような激しいキスをした。
「……んふっ……んっん」
 激しいキスを真希は受け入れ、伊計の服を脱がせていく。伊計はキスに夢中で、真希の顔中にキスをした。
「すっかり大人だな。真希」
 輪郭さえも少し少年を超えて青年になった真希の顔を眺め、伊計がそう言う。それは嬉しい成長で、待ちに待ったものだった。
 ずっと少年にしか興味がないのかと伊計は思っていたが、成長した真希の姿を見ても、性欲は収まるどころか、酷く強くなっていくばかりだ。
 こうなるのは真希といるからだとはっきりと分かる。
「真希、真希……」
「あっ……んっはあっ」
 伊計の服を脱がそうとしていた真希は、そのままベッドの方へと押しやられる。
「あ……っん」
 ベッドに押し倒されて真希はベッドの中央に移動すると、伊計が少しだけ笑う。
「用意周到だとは思ってたが、ここまでか」
 そう伊計が言うので伊計が見ている先を真希も見ると、ベッドサイドのテーブルに籠があり、そこにローションやコンドームがお土産のように綺麗に並べてられている。
「……もう……恥ずかしいなぁ……」
 真希はそこまで叔父である信二に見抜かれているとは思わず、顔を赤くする。
 そんな真希を見て伊計は笑いながら、真希のスーツを脱がせた。真希も脱ぐのを手伝って、二人で服を脱いだ。
 真希はそんな伊計の躰を見て、首筋にキスをして言った。
「心臓が飛び出そう……」
「……本当だ、鼓動が凄い」
 伊計が真希の胸に手を当てると、心臓の鼓動が速く強く鳴っている。
 それを確認してから、伊計はローションを取り出した。手に塗って、真希の後ろの孔に指を当てて解すように指を動かし始めた。
「ゆっくりしたいけど……早く、中に入りたい」
 伊計が興奮しきってそう言うと、真希は真っ赤な顔のまま言った。
「そこは、今も解してるから……その割と大丈夫……かな」
 真希は準備をしているわけではないが、誰と寝ているわけでもないけれど、そこを使ってオナニーもしている。
「……ここは誰か使った?」
 伊計がそう言いながら、真希の中に指を忍ばせた。
「……あっ……んっ……誰もあっ……んっああっ……誰ともしてない……っ」
 真希の中で蠢く指に翻弄されながら、真希はそう言っていた。
「誰とも?」
「してな……ああっん……あっゆびっあっああっ……だって……したくなかったから……誰とも……できないっああっ」
 指が増えて中を掻き回してくるが、それがまた伊計の指だということが真希には嬉しいことだった。
 真希の言葉に興奮した伊計は、素早く中を掻き回してから、真希の中に伊計自身を挿入させた。
「あ……ああっはいって……くる……ああっせんせ……ああっんっああ」
 伊計と寝てから、伊計以外を受け入れたことがない内壁が、その形をちゃんと覚えていた。押し入ってくる圧迫感が、更に真希の躰を翻弄する。
「……真希……中が凄い……」
「ああ……ああんっ……すごいっ……ああっあっ」
 伊計は早急に真希を求めて、挿入を繰り返し、真希はその激しさに翻弄された。伊計が真希を求めるのが激しいのは、昔から変わっていない。いつでも激しく、熱く、真希の中を掻き回すように情熱的に求めてくる。
 それが泣きそうなほど嬉しくて、真希はその激しさに溺れた。
「あっ……ああっ! もっときてっあんあっ! はああっんっあっ……ああっ!」
「真希……真希……」
 頭の中が真っ白になるほどの絶頂に導かれて、真希は伊計の躰を抱きしめた。
「いくっいくっひあぁ――――――っ!」
「……くっ!」
 伊計が中で達したのと同時に真希も絶頂を迎える。
 すぐに伊計のモノが出ていくのだが、真希が痙攣をしていると、伊計はコンドームを付け替えて真希の中に戻ってきた。
「あ……ああっ……まだ……ああっ!」
「もっと、もっとだ真希」
「ああっ……いいっせんせい……きて……ああっんっ!」
 真希は呼び方が昔に戻っているのにも気付かずに伊計を先生と呼び、甘えるように抱きついた。
 ずっと渇いていた心の中が満たされていくのが真希には分かった。
 伊計でなければならないのは、ずっと分かっていたことだった。
 他の誰かで満たされるほど、簡単な恋ではなかったから、他の誰かで代わりが務まるはずはなかったのだ。だから真希は恋人を作らなかったし、誰とも寝なかった。
 それが正解だったのだと、真希は思った。
 伊計もまた、誰かを求めて抱いたことはなかった。真希は聞かなかったが、伊計は真希と別れてから、真希と同じように恋人を作らずに、また寝る相手も求めなかった。
 それは真希以外を抱いても、きっと真希が恋しくなるのが分かっていたからだ。
「真希……愛してる……」
 その言葉が、恋を愛に変える。
 しっくりとくる言葉に、真希は涙を流して答えた。
「僕も、愛してる……愛してる、先生」
 その言葉を確認した伊計は、真希を何度も求めた。
 伊計が絶倫で、何度も真希を抱くことは、分かっていたことではあるが、真希はそれに付き合った。体力も上がっている今なら、伊計にも付き合えるのだが、さすがに朝までコースだと、体力よりも眠気が襲ってくる。
「も……寝たい……よ……あっん」
「寝てていいよ。好きにいじってるから」
 そう言って伊計がいじっているのは真希の乳首だ。相変わらずそれを吸うのが好きなようで、真希は眠気に襲われているのに、乳首で感じてしまうのでなかなか眠ることができないでいる。
 しかし、強烈な疲れと緊張が重なった今は、とうとう眠気の方が勝ってしまった。
 すうっと眠ってしまう真希を、伊計はやっと解放してやった。
 ホテルの窓からは薄らとした光が見えている。夜明けが近いのだろう。大雨だった外はすっかり雨雲も去っているようだった。
 伊計は真希を寝かせたままで、躰を拭いた。
 一回は風呂に入ったのだが、その後も結局していたので体中が汗まみれだ。
 無茶苦茶をしてしまったのだが、真希の体力も上がっているのか、伊計に最後まで付き合ってくれた。
「お前、強かったけど、もっと強くなったんだな」
 真希にバスローブを着せて寝かせてしまうと、伊計も躰を洗ってから隣に潜り込んだ。
 その振動で真希が少しだけ目を覚ましたのだが、隣にいる伊計を見るとニコリと微笑む。
「……大好きです……せんせ」
 真希はそう言ってからすっと寝てしまうのだが、どうやら夢を見ているようだった。
 伊計はそれを聞いて少しだけ涙を流した。
 真希がずっと思ってくれているように、しっかりとした自分でいようと思ったことは正解だった。真希にとって恥ずかしくない人になろうと心に誓ってから、ずっとがむしゃらにやってきた。
 それが認められたからこそ、こうして真希に合わせて貰えた。
 真希も同じように頑張ってくれていて、こうして会えた。
「こんな奇跡が起こるなんて、本当にありがたい。真希、愛しているよ」
 伊計はそう言って真希を抱きしめて眠った。



 その再会から一ヶ月後。
 二人はそれぞれの仕事を充実させながら、生活を安定させた。
 そして一緒に暮らすマンションから出勤していく。
「いってきます。真希」
「いってきます。久嗣さん」
 そう言ってキスをする。それが日課になった。
 もう二人を遮るものはない。
 今度は手に手を取って、未来に進んでいくことができる。
 そうして二人は玄関から誰もいない部屋に向かって言うのだ。
「いってきます!」
 ドアが閉まり、新しい日々が始まる。

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