異形の家

 1

 八尋(やひろ)は、小さい頃からよく異形のものを見る人間だった。
 昔は母親がそれに理解を示し、様々なことを教えてくれた。対策が尽きると叔父武広(たけひろ)のところへいき、多少なりとも修行はした。
 塩を使った除霊くらいは出来るようになり、異形のものを見ても動じなくなった。それでも変わった子供であったから、周りに友達はいない。
 その武広の息子に御嶽という一年年上の大学生がいた。
 武広は離婚をして、息子は名字を御嶽(みたけ)と変えて母親についていった。だが、大学生になろうかという時に母親が死んだ。そして武広は息子を引き取ったが、御嶽は名字を変えなかった。
 今更父親を頼るのは大学にいきたいからで、それ以外に御嶽が父親を頼ることはなかった。
 そんな御嶽が、父武広の側に従弟の八尋がいることを知ったのは、夏休みの間にある、武広の家での曽祖母の葬式の時だった。
 八尋は、そんな御嶽をお兄ちゃんと呼んだ。
 この年になって弟みたいな存在ができるとは思いもしなかった御嶽だが、女の子のように可愛く、いつも異形のものにおびえるその姿が可愛いと思えた。
 御嶽も少しだけ力があり、異形のものを見る。昔から父に言われてきたことを守っていたので、異形のものを払う力も強かった。
 八尋をかばって異形のものを少し払ってやると、八尋は目を輝かせて御嶽に懐いた。
 当時の八尋は、まだ高校生だったが、それでも十分可愛かった。
 その八尋が大学生を卒業するかしないかという時期に、武広が死んだ。払い物をしている時の心臓発作だ。長年、そうした生業をしていたから、異形のものから恨まれていたのだろうと噂された。
 実際に体は八十歳の老人といわれてもおかしくないほど弱っていたのだというから、案外嘘ではなさそうだった。
 葬式は盛大にやり、家には八尋だけが残された。
 東京で暮らしていた御嶽は八尋を呼んだのだが、東京の空気が合わないどことか、人の欲に溺れた異形の影に八尋は三日として暮らせる場所ではなかったという。
 逃げ帰るように田舎に戻り、武広の家で暮らしていた。大学を卒業すると、異形のものを題材にした小説を書き、それが売れて小説家になり、田舎暮らしなら余裕で暮らせる仕事を見つけた。
 この頃になると、御嶽も武広の家には戻ることがなくなった。
 そんな御嶽の会社が倒産したのは、それから五年ほど経ってからだ。
 行くところもない上に、アパートの契約が更新されずにアパートを追い出されることになった。虫が良いとは思うが、御嶽は八尋が住む父の家に暫く住まわせてもらうことになった。
 父武広の家は、一応御嶽の相続したものであるが、実質は八尋の家だ。家の固定資産税は八尋が振り込んでくれていたから、御嶽は権利だけ持っているようなものだった。
 そんな御嶽が来ることを八尋は喜んだ。
「暫くとはいわず、ずっといてくれてもいいんですよ。ここは御嶽さんの家なんですから」
 八尋はそう言った。
 実際にどう思っているのかは分からないが、八尋は御嶽を歓迎した。
 御嶽はしばらくの間、田舎暮らしを楽しんだ。昼間に野山を歩き回り、体を鍛えて、近所の人に挨拶をして暮らす。それを一ヶ月ほどすると、村の異常さかが分かってきた。 
 村のみんなは、御嶽には帰ってくればいいと言ってくれる。それは嬉しいことだったのだが、どうも事情が違った。にこやかに話を聞いていると、どうも八尋を追い出したがっているかのようなのだ。
「いいたか、ありませんけんど、あの子は武広さんとは違う」
 そう言うのだ。何が直接的に違うと明言できるわけではないようだが、子供達は八尋がいる屋敷には立ち寄らないし、場合によっては化け物屋敷とまで口にする子供がいるほどだ。
「夜になったら、あそこは地獄や。御嶽さんが帰ってきてマシにはなったから、あんたは武広さんと同じもんや。だからみんな歓迎してる」
 そう言うのである。
 武広は、陰陽師のような憑(つ)き物落としをする生業だ。
 実際、有名人だったらしく、葬式の時は残念がる同業者が多かった。というのも、自分たちで扱えないものは、武広の回してしまっていたからだ。便利だからではなく、それだけ武広が優秀だと皆認めていたからだったらしい。
「これからどうすりゃいいんだか……」
「武広さんほどの憑き物落としはそうそうおらんし」
 葬式の時はそういう嘆きが多かったように思う。
 だが、なぜ同じ血筋のはずの八尋がそこまで嫌われているのだろうか。
 確かに八尋は異形の物との相性がいいのか、よくあちら側に引きずられているようだった。そのたびに武広が払っていたらしいが、よく考えればおかしなはなしだ。
 御嶽も同じ異形を見るのに、なぜか異形は八尋を好むのだ。まるで仲間を呼んでいるみたいに、異形側へと引きずるように招いている。
 だが、八尋が住んでいる家に入っても、御嶽は何も感じなかった。父武広が残していった結界は、死期を悟った武広が強力な物に張り替えていったようだった。部屋の結界、屋敷の結界、屋敷の敷地すべての結界と、三段階というまるで何かを封じているかのように張り巡らされていた。
 だから屋敷の中は、平穏そのもので、そのせいか八尋も外へは出たがらない。村の人間があんなふうであるなら理由はよく分かる。村八分にされているのだから。
 御嶽がその家に住んで一ヶ月ほど経った時だった。


 夜中に違和感を覚えた。
 寝苦しく、酷く暑い感じがした。
「くそっ寝られねぇ」
 勢いよく起き上がり、御嶽は部屋の窓を開けた。
 田舎でよくある離れに住んでいるのだが、母屋の父親の部屋がそこから見えた。その部屋が青白く光っているのだ。
「……化けて出るほど心配なのか親父」
 御嶽は思わずそう言っていた。村の様子が分かってくると、武広が八尋を置いて死ぬことだけが心残りだっただろうと思えたからだ。
 だが、その考えはすぐに打ち消すことになった。
 その部屋に導かれるように八尋が入っていったのだ。
 そしてその時に見えたものは、幾重にも広がった触手を持つ異形のものだった。
 それは八尋を捕まえると、一気に中まで引きずり込んでいったのだ。
「八尋!」
 御嶽は走って庭を横断し、部屋の障子を開けた。
「!」
 そこで御嶽が見た物は、触手を体中に巻き付けられ、生け贄のようにつり上げられた八尋が、触手に陵辱をされているところだった。
「……! 御嶽さ……見ないで……っ!」
 服を破り取られ、ほぼ全裸になっている八尋に、触手が犯すように八尋の体を動き回っている。
「ん……あっ」
四肢に触手が絡まり、八尋の体を広げ、足を大きく広げられている。滑りのある液体が体中にかかると、八尋はそれに麻痺したように体の力を抜いた。
触手は八尋のペニスに絡みついた。
「ひぁあぁああっ」
 まるで媚薬でも飲まされてしまったかのような反応を八尋はした。まだ萎えたままのペニスに触手が縦横無尽に動き、それを無理矢理に勃起させている。勃起してしまうと、触手の先端が割れ、細い管のようなものが沢山出てきた。
 それが八尋の亀頭の先端の孔の中にニュルリと入っていく。
「はぁあっん……あうっあぁぁっ」
 尿道の中に入り込んだ管が、ゆっくりと規律を始め、八尋は腰を揺らしてその快楽にすぐ陥った。異形のものだと分かっていても拒否すらできないほど、八尋は闇に落ちていた。
 御嶽は気付いた。やっと。
 村の人間が言っているのは、このことだ。結界の中とはいえ、これほどの大きな異形が八尋の体を毎夜自由にしていることを、何となく察しているのだ。実際に見たわけでもないだろうが、この村には分かる人や勘がいい人が多いのだ。
 狭い尿道の中を管が暴れ回る。中に入り込みかき回し、一気に引き抜いてはまた入り込む。
「ひあぁっ……! んっ、あッひっそこぉっ…あっあっ」
 二チュ二チュと触手が出す液が滑りを増して、ペニスもはち切れんばかりに広げられている。
 その八尋のアナルには無数の細い管が入り込み、中で液体を触手が吐き出しているのか、それがボタボタと落ちて床を塗らしている。小さな管から大きな触手に変えて触手が八尋のアナルに入り込んだ。
「っあッんはぁっ……あぁああーっ…!」
 八尋の体は跳ね、ビクビクとする。すると尿道に入っていた管が一気に抜かれた。そしてそこからは透明な液体がジャーッと噴き出した。
「ひあ゛っアアッあんッあぁんっんっ、あ゛ぅっ」
ジャーッと漏れる。それは失禁だろう。暫く勢いよく出て床を塗らして止まる。すると、また尿道に管が張り込む。
「あぁッいいっいいっ…んっあ゛うっんッあッああーっ」
 良く滑る大きな触手が、ニュチャヌチャと八尋のアナルを犯している。卑猥な音が大きく響いて、八尋の腰も揺れている。
 八尋の口にその中の触手でも一番大きなものが張り込んだ。
「んんーっ…! んっ、ふぁっんんっ、んっ」
 涙目になりながら八尋はそれを受け入れ、口もアナルも尿道さえもすべて犯されながら、快楽に興じていた。
これはなんだと御嶽は思ったが、その行為に見入ってしまい、異形のものを払うことができない。いやそれどこか、これは結界の中にいるものだ。武広はこれを封じ損ねてしまったのではないかと、御嶽は思った。
 普通、強固な結界内で浄霊されたものは、そのまま道が標(しる)されて成仏する。もし成仏しない除霊程度のものなら、この屋敷内の結界に阻まれて屋敷の外へと逃げ出してしまう。
 この異形のものは、結界内に閉じ込められる形で残ってしまった、武広が最後に除霊をしていた異形だろう。そして、それはどうにもできずに八尋から養分をもらう形で生きている。
 さすがに八尋に取り憑くほどの威力はないのだろうが、八尋の異形を引きつける力で、その場にいることに何の疑問も感じないようなものになってしまったのだ。そして、これをこの屋敷から開放するということは、村が危ない。武広なら村外に出してしまうのだろうが、今の御嶽ではせいぜい屋敷からしか放り出せない。
 それでも八尋を助けたくて、印を結ぼうとした瞬間だった。
「だめっ!」
 八尋が必死な顔をして言った。 2

「叔父さんの……武広さんの魂が、半分入っているのっ!」
 八尋が衝撃的なことを言った。
「何言ってんだ……八尋」
「武広さんが……半分乗っ取られたところで、死んだの……魂が半分になったの……」
 だがそれでもこんなものを屋敷に置いておくわけにはいかない。
「だめぇ……僕は……これでいいのっ! やっと武広さんが触ってくれるのに!」
 そう八尋が叫ぶと、その武広の顔が触手の先から現れた。体がなく首だけの姿であるが、確かに武広だった。
「……愛してるよ、八尋……愛してるよ」
 まんまの武広の声でそう言うのだ。
「ああっ武広さんっ!」
 八尋はその武広の首を抱き寄せて、愛おしそうに撫でた。だがその首は舌を出し、八尋の乳首を舐め始めたのだ。
「あっあんっ乳首っ……あんっ、舐めて……、ぁっあっきもちっいいっ」
 八尋はその首に乳首をすりつけるようにして抱いている。その武広に似た首は、口が裂けて人間の舌ようなものが、何本も出てきて、それが八尋の左右の乳首を舐めて転がして押しつぶす。小さな管まで出てきて、それが乳首を摘まむように巻き付き引っ張り上げる。
「あっんっ、きもちいっ……乳首されるのいぃ、あっひあっん……んっ……」
 御嶽(みたけ)の前で武広に似た首を抱えて快楽に身を落とす八尋は、おぞましく見えたが、それでも目が離せないほど妖艶だった。
「乳首舐められながら、触手入れられていってしまえ」
 父武広の声で、そんな卑猥なことを言う。
 御嶽には聞いてられないし、信じられない。こんなものに父親の魂が半分入っているなんて言われても、信じることはできない。いや信じたくないのだ。
 確かに武広は八尋を可愛がっていた。御嶽が父の元を去った後に預けられた年も変わらない子供。更に異形を見、そしてそれに引きずられ、助けを必死に求めてきたなら、武広が必死になって守っただろう。十年以上だ、自分で育てたと言っても過言でない相手を愛していると言うのは普通だ。
 だが決してこんなことを望んでいたわけではないはずだ。
「コリコリしてきた。乳首気持ちいい?」
淡々とした言い方であるが、父の声でそう言われて八尋はドライオーガズム に達する。ガクガクと体が震えたが、反り返った体や顔が笑顔になっていてとても喜んでいるのが分かる。
「あぁんっ…ちくびっ…あッあッあひっ……乳首でいっ……た……」
「アナルをペニスで犯されて、射精すればいい」
 そう言った武広の首は乳首から離れ、八尋のペニスを口ですっぽりと覆った。中は幾つもある人間の舌に似たものが巻き付いているのだろう。触手のそれだけとは違った反応で、八尋は悲鳴を上げた。
「あぁあんっ! あッああっ……あっいいっあぁんっ」
 そしてまた触手が形を変える。人間のペニスの形になったのだが、太く黒くそしてボコボコした瘤がついている。人間でもそうした突起物を手術で入れる人がいるらしいが、そういうボコボコしたのではなく、もっと人工的なバイブについてあるようなものだ。
 その先から液体がビュビュッと出て自分で触手を濡らしている。
「あんっあンッ、あああぁーーっ!」
ペニスを武広の首にしごかれ舐められた八尋は簡単に達して精を吐き出した。それを武広の首が美味しそうに飲み込んでいる。
 黒光りしたペニスの形をした触手が、八尋のアナルの中へと飲み込まれていく。
「あっあ゛っああああんっ…」
 入るのは無理だろうと思っていた触手のペニスは、ズルズルと八尋のアナルに消えていく。長い触手は何処までも入り、まるで直腸をすべて犯すかのような感じだった。
「あ゛っあっあぁっあぁあんっ!」
 その長い触手のペニスが一気に引き抜かれてまた入っていく。動作が人間のそれとは全く違う動きになっていて、八尋の顔が狂ったようになっている。完全に意識がおかしくなっているのか、目は上の方を向いたままで、口はだらしなく開き、そこから涎がどんどんあふれている。
「あぁあぁ……い゛ぐっいっちゃうっあっあんっああぁっ!」
 体がビクビクと震え、八尋のペニスから潮が吹き出す。シャーッと音がして出てしまっても、突くたびに潮が出てしまうようになっていた。
「いくっ出るっあッあッあッあッああぁんっ!」
 その行為は、およそ三時間続いた。触手のペニスが液を大量に吐き出して、それが八尋のアナルから大量に漏れて出てくるのだが、それが終わったとたん、触手は一気に枯れ、ざっと粉すら残らないように散って消えたのだ。
 残ったのは裸の八尋だけだ。
「お前……浄霊をしてるのか……」
 やっと御嶽が八尋がしていることに気付いた。
 八尋は、触手の化け物を浄霊して、その中に含まれる武広の魂も浄霊しようとしているのだ。
「……僕にはこれしかできないから……」
 御嶽は浄霊の仕方は知らない。だからやれることは除霊だけだ。
「それじゃ駄目なんだ。あれは人の腹にも宿る」
 八尋がそう言う。つまり、村の人間が襲われて、そこから無限にあの化け物が生まれるのだという。
「僕には武広さんみたいに強い力はないけど、こうやってあいつがでてくるたびにこの方法で浄霊してやるしかないんだ。まだ半分にもなってないけど」
 そう言って八尋は笑う。
 八尋の腹には宿らないのかと思っていると。
「僕は異形の方に近いからかな。あれは人にしか寄生できないんだ。武広さんは寄生されるまえに心臓発作を起こしたから、体は大丈夫だったんだ」
 けれど、異形はこの結界から出ることさえできないのだという。
「この結界、武広さんが僕のために結界を強固にした。その結果、あの異形はここから出られなくなった。その腹いせに武広さんの魂を食った。だからあいつはこの結界の中なら多少は動けるようになった。これでも前は部屋まで来ていたんだけど、最近やっとこの部屋だけで収まるようになってきたんだ」
 八尋はそう言う。
「だから離れにいるくらいなら、きっと大丈夫だと思ったんだけど……見られちゃったね。ごめんね、気持ち悪かったでしょ?」
 そう言う八尋は涙を流していた。
 それを御嶽はゆっくりと抱きしめて頭を撫でてやった。
「俺が……浄霊を覚える。だから八尋はもうこんなことをやめてくれ」
 御嶽がそう言った。
 元々都会のサラリーマン生活は合わなかった。
 だからアパートを追い出される時に田舎を選んだ。無理にアパートを探して住むこともできたのにしなかった。
 それはこういうふうに、戻ってくるようになっていたのだ。
 武広も確かこういうふうに、仕事が上手くいかずに実家に戻り、憑き物落としをやり始めたのだ。この家の誰かがそうならないといけないのだ。
 村中も待っていた。新しい当主が憑き物落としとしてやってくることを。
「御嶽さん、もう出ていかない?」
「ああ、もう何処にもいかない、だから」
「……良かった……分かった、もうやめる」
 八尋はそう言ってわんわんと大きな声で泣いた。ずっと一人で張り詰めていたものが弾けてしまったのだろう。
 でもすぐにそのまま疲れとともに寝てしまった。御嶽はそんな八尋の体を洗ってから服を着せてから寝かせた。
 自室に戻った御嶽は、さっきのことを思い出した。
「……本当はやめたくないんだろうな……」
 そう呟いた。
 武広が八尋とセックスをしたいと思っているわけではないことは説明してもらったが、八尋がその方法をわざわざ選んだのは、本当に武広とああいう関係になりたかったからだ。
 だからあんな卑猥な言葉を口にし、平然と触手を迎えた。武広の魂の半分でもいいから寝たかったのだ。
 それを嫉妬から御嶽は止めた。
 武広の魂にくれてやるくらいなら、俺が手に入れてやると。その前に武広の残りの魂をさっさと追い払ってしまわなければならない。そう考えたのだ。
「早く俺のを挿れたい……ん」
 御嶽はさっきまでの八尋の痴態を思い出しながらオナニーをして夜を過ごした。
 それらは、あの異形の妖気に当てられたものであったが、御嶽はそれに気付かないまま、八尋をその手に抱くまでを想像して果てた。

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