R18novel短編

destiality-2

 明け方近くになると、男たちが順番に寝始め、やっと葉室が解放された。
 だがそれで終わりではなかった。
 吉成がなんとか逃げ出せないかと考えていると、無数に並んでいるテントの一つから、真っ黒なフードを被った一人の男が出てきた。
 その男は、絨毯に放置されている葉室を抱き起こすと、すぐ近くにあるオアシスの水場に連れて行き、体を洗ってやっていた。
 葉室は放心状態でそれを受けていたのだが、やがて思い出したかのように抵抗を始めた。
「やめっ! いやだっ!」
「……また駱駝と交わりたいのか?」
 抵抗する葉室に男がそう日本語で話しかけた。
「あと、大声を出すな。やっと周りが納得して寝てるんだ」
「……うるさい、お前が仕組んだくせにっ」
 葉室が男を睨んでそう言っている。
 どうやらこの強盗団と葉室の面識があるようだった。それもボスらしい男とは意思疎通もできる。葉室の言葉から、何か事情があるようだった。
「逃げ帰ったお前を歓迎してやったんだ。これでも甘いと思え。普通なら死んでるところだ」
 男の言葉に葉室はぐっと息を飲む。
「お前が騙して作らせた石油工場の代償としては、甘いだろう」
 その言葉に吉成は思い出す。葉室は仕事の営業マンで、この地域の石油工場建設を国に持ちかけたのだ。その結果、他の国を押さえて日本の会社、つまり葉室たちが工事を受注し、無事完成させた。
 こんな大きな仕事を持ってきたのが、葉室だった。だが葉室はどこでこんな国のこと、日本ではほぼ名も知られていない国の王族と知り合えたのか、という疑問が残っていた。
 本人は留学時代の友人だったからと言っていたらしいが、それにしては熱心だった葉室が急に課長に全指揮を譲って日本に戻ってきたことは何か手違いがあったのだろうかと吉成は思っていた。
 その手違いが、きっとこの男なのだ。
「……王子……どうして私を諦めてくれないのですか……」
 そう葉室が言った。
 どうやらこの盗賊団の首領はこの国の王子らしい。
 吉成はどうして自分が連れ出され、殺されないどころか関心さえ向けられないのか理解した。普通にテロならば、もう自分は死んでなければならない。
 もしくは人質として、日本に金銭要求をされるところである。
 だがその場合、何も吉成だけ誘拐する理由はない。課長や他の日本人も一緒に誘拐した方が金額も跳ね上がって、日本政府も人質優先で身代金を払うかもしれない確率があがるからだ。
 こうして吉成だけが人質として捕らえられているということは、葉室の後輩が吉成だからだ。
 葉室はその後輩の吉成を見捨てて逃げないことを王子は知っていたからだろう。
 この国に再度入国した時点で、葉室の運命は決まっていたのだ。
「お前を諦めるなど、どうしてできよう?」
 王子はそう言った。
 どういう理由があるにせよ、二人は恋仲か一方的でも想いがある関係だったらしい。
「……私を……殺してください」
 葉室は王子に懇願している。だが王子は動じた様子はなかった。
「ならば、体だけ残して心だけ死んでくれ。お前の心が変わらないことなど知っている。だが私はお前を諦めはしない。心など望まない、その体だけ私にくれ」
「それがいったい何になるんですっ!」
 葉室が苦しそうにそう王子を睨み付けて叫んだ。
 王子は葉室と駱駝を交わらせてまでして、葉室の心を殺そうとしている。降参しない葉室を無数の男に陵辱させてまでもした。
 それでも葉室の心は壊れなかった。
「そこにいる後輩の男を日本に帰してやる。だからお前をくれ。拒めば後輩の遺体すら日本に帰ることは二度とない。この砂漠で殺してくれる」
 そう王子は言った。
 いきなりのことに吉成はドキリとしたが、葉室は迷う素振りは見せなかった。王子を睨み付けた顔のままで言った。
「……そうなるように仕組んでおいて……分かりました……お願いです、吉成を日本に帰してやってください……お願いします……あっ!」
 最後まで言い終わらないうちに、王子が葉室の体を抱き上げ、そのままさっきまで王子がいた大きなテントに入っていく。その瞬間から、葉室の甘い声がそこら中に響き渡って、周りの男たちが起きだしてくる。
「突かないで……だめっあっあっ!」
 甘くかすれた声が響き、吉成はドキリとする。さっきまでの嬌声とは違った甘やかなそれは、確実に葉室が王子に対して心があることが分かってしまった。
 そしてその葉室の葛藤も理解できた。
 その王子は、この国の王になる。だから葉室以外も抱いて、子供も残す。それが彼の使命であり役割だ。葉室はそれが分かっていて別れたのだ。とても耐えることができなかったから。
 だが王子は心をくれなくても、壊しててでも葉室を望んだ。
 王子には葉室の心など最初から眼中にないのだ。それが葉室にはショックだったのだろう。
 王子と葉室のセックスが始まってすぐに、それを聞いて起き出しあくびをした男が一人、吉成のところにやってきて、体を拘束していた罠を解いてくれた。まだ腕自体は繋がったままであったが、やってきた車に乗せられた。どうやら、この辺りの砂漠はジープで移動ができる範囲らしい。
 さっきの葉室の言葉が、吉成を無事に日本に帰すための約束だったようだ。吉成はそのまま車に乗せられ、ついたところが空港だった。
 車の中でロープを解かれ、案内されて空港に入ると、課長や他の社員たちが吉成を見つけて駆け寄ってきた。
「大丈夫だったか! 吉成くん」
「よかった解放されて!」
 わっと囲まれて口々に無事を喜んでもらったが、課長が呟いた。
「……葉室君は……残念だったらしいね……」
 課長がそう言うので、驚いた吉成だったが、どうやらさっき吉成を連れてきた人間が、この国の外交官で、葉室の死亡と遺体の回収ができないことを告げたらしい。
 吉成は葉室が死んでないことを知っているのだが、あの状況で葉室が生きて帰ることはできないだろうと思った。ここで騒いでしまうと、せっかく葉室が吉成を逃がしてくれたのに、その努力が無駄になる。
 そして吉成がこの国にいる限り、葉室は死ねない。
 無事にこの国から出ること、それが吉成できる葉室への精一杯の恩返しになる。
 そしてこの国とは、完成した石油工場の整備などで会社も関わってくる。課長や他の社員の命も葉室の行動一つにかかっているのだと思うと、あの王子が言っていたように、葉室の心が残らない方がいいのではないかと思えてきた。
 逃げたというだけの理由で、あんな辱めを受け、これからもそれが続くとなると、葉室の心が残っている方がきっと地獄だ。
 その一時間後には飛行機がその国を離れ、日本に向かった。
 その後、葉室については遺体のない葬式がされ、葉室は存在自体をこの世から消された。当然、その後の葉室がどうなったのか誰にも分からない。
 吉成はその後会社を辞め、二度とあの国に出入りすることのない家業を継いだ。あの会社にいれば嫌でも葉室を思い出して、事実を告げられない辛さで生きていけないと思ったからだ。