R18novel短編

 高宮睦月(たかみや むつき)には分からなかった。
 気を失って目が覚めた時、高宮は自分の脳で処理できる許容範囲を超えたことをされていた。
 高宮は恩師である教師がいる地元の高校へ教育実習にやってきていた。見慣れた校内は一日で慣れてしまって、三日目には生徒に気を遣いながらも上手くやっていたと思う。
 高宮が受け持ったクラスは二年。幸い進学組ではなかったから気が楽だったし、クラス担任で数学の教師である加賀見も優しく丁寧に指導してくれ、高宮は上手くいっていると本当に思っていた。
 緊張していた最初の日以外は、高宮は学校へ通うことが楽しくて仕方なくなっていた。
 なのに。
「……う……加賀見先生、一体……」
 高宮は動かない腕や脚に不信感を抱いて、さっきまで一緒に居たはずの加賀見先生に問うていた。
 体がスースーするし、打ち付けた頭は痛かったし、何故腕や脚が動かないのかも訳が分からなかった。
 腕を引っ張ろうとしても後ろ手に縛られているようで引っ張っても手首が痛いだけで、脚を動かそうにもやはり何かで固定されているのか、動かすと痛かった。
 覚えていることは、さっき明後日の授業で使う教材を教官室の隣にある準備室の棚の上から取ろうとしてバランスを崩して倒れたところまでだった。
「ああ、起きたんですか、高宮くん」
 随分下の方から声がした。
 そしてあり得ないところが疼いた。
「あっ……な、なんですか、これ」
 高宮はやっと加賀見を見ることが出来た。けれど、その方向にはあり得ないモノが映っていた。
 高宮のそそり立ったペニス。それを加賀見が口に舌で舐めていた。高宮は仰向けにされて加賀見に押さえつけられていたのだ。
「何やって……」
 あまりな光景に高宮はやっと声を絞り出すようにして尋ねていた。だが加賀見は笑っていた。うっすらとした笑みを浮かべて、高宮の体をすっと撫でた。
「高宮くん、意識がなくても十分可愛かったけれど、やはり目を覚ましている方が声がもっと聞けて楽しそうだ」
 加賀見はそう呟いて、高宮の体を俯せにした。そして高宮の腰を高くさせ、お尻の孔の中に指を入れてた。そこは抵抗もなく指を受け入れてしまった。
「う……あぁあっ!」
 中を指で擦られた瞬間、高宮は体を震わせてしまった。気持ち悪かったのではなく、ぞくっとするほど気持ちよかったからだ。
 高宮は自分の口から出てくるのが喘ぎ声しか出ないことに驚いてしまった。自分はどうして抵抗が出来ないのか。それが分からなかった。
 体が動かないだけではない。この加賀見の手を拒否できない。
「高宮くん、ちょっとの間で君のここはとろけてしまったようだよ。私の指が気持ちいいんだろ。こうしてやると君は達してしまうくらいにね」
 加賀見がそう言って高宮の中を指で弄って、あるところを引っ掻いた。
「ひぁああ――――――!」
 体に電流でも走ったかのように高宮は全身でそれを感じて射精してしまっていた。
 パタパタと高宮の吐き出した精液が床を汚している。勢いよく吐き出した精液は高宮の腹にも付き、それが床に垂れている。したたり落ちる量はそれほどではなかったが、ずっとそうされていたのか、床には白いモノが沢山飛び散っていた。
「ほらね。君はこうされると達ける体になったんだよ。たった一時間くらいでね」
「あ……あ……あ……」
 加賀見が言ったように高宮は加賀見の手で簡単に達してしまった。それも加賀見が孔の中を弄っただけでだ。加賀見は性器には一切触れてなかった。それなのに高宮は達した。その事実が高宮に混乱を招いた。
「やめてくれ……うう……」
 高宮が抵抗しようとするも、逃げ出すことは出来ない。
 さっきまで本当に普通の教師と教育学生だったはずだ。話していたことだって明日の授業は何をするか、そんな些細なことだったと思う。それがどうしてこんなまったく想像すらしなかった事態に陥っているのかどうしたって高宮には理解できない。
「どうしてこんなこと……加賀見先生、やめてくださ……あぁっ!」
 高宮が大きな声を出そうとすると、加賀見が指を入れたままの状態で高宮の孔を舌で舐め始めたのだ。
「あぁ……うう……あ」
 ざらりとした感触があり得ないところを舐めている感覚と共に快楽を呼び込んでくる。信じられないことだが、高宮は孔の襞を広げられて舐められることに快感を覚えているのだ。
 あり得ないあり得ないと高宮は唇を噛みしめて耐えて見るも、そんな抵抗を加賀見は気に入らなかったらしい。
「さっきまで、高宮くん君はこんなものを咥えて腰を振っていたんだよ」
 ゴトンという音が目の前でして、高宮の意識をそこへ向けさせた。だが目の前に飛び込んできたモノを見て高宮は目を見開いた。
 それは10センチくらいの捻った形をした少し硬い棒のようなものだったが高宮には初めて見るものだった。エネマグラと呼ばれる器具など一般人はお目にかかったことがないのが普通だろう。
「なんですか……これ……」
 高宮がそう尋ねると、加賀見はクスリと笑った。
 知らないということは使われたこともなければ、見る機会さえない環境に高宮がいたことを意味する。
「知らないならいいんですよ。でも、これなら知っているでしょ」
 そう言って加賀見が次に高宮の前に置いたものは、高宮がいくら疎いとはいえ、知っているものだった。それは男のペニスの形をした物体。バイブだった。大きさは高宮のペニスよりも大きいサイズで、高宮が今まで見てきたモノよりも太かった。
「君はこれがお気に入りだったみたいで、30分もそれで遊んでいたよ」
 加賀見が信じられないことを言ってきたので、高宮は大声でそれを否定した。
「嘘だ! 嘘だ!嘘だ!」
 そんなものを入れられて30分も自分が気がつかないのはおかしい。いくら気を失っていたとしてもいくらなんでもあり得ないと思えたからだ。
 そのバイブの大きさは、かなり太い。あんなものを入れられて気がつかないなんてあり得ない。あんな大きさを受け入れられるような孔ではないし、第一に高宮はゲイではない。
 噂では知っているゲイのセックスのことは分かっているだけに、自分がされたことを信じろと言われても無理だった。
 強固に否定する高宮を眺めた加賀見は静かな声で言った。
「そう、ですか? でもここは嬉しがってましたよ」 加賀見は目の前のバイブを取り上げると手元で何かしてから高宮の孔の中に突っ込んだのだ。
「うあぁああ!」
 裂けると思って叫んだのだが、高宮の孔はそれをすんなりと受け入れてしまっていた。あの太いバイブを高宮の孔はしっかりと受け止め、くわえ込むようにしている。
「ほら、入ったでしょ」
「う、うそだ……う、あっあっ」
 目が覚めていれば、自分が普段感じたこともない場所に圧迫感を覚え、高見は焦った。そんなことなどあるわけがない。絶対に嘘だったはずなのに、高宮の孔は加賀見の言った通りになっている。
「やっぱりお気に入りじゃないですか」
 加賀見が笑いながらバイブに電源を入れた。ブブブっと音が内側から響いて、高宮の腸の中を動き回る。うねるバイブに合わせて自然と腰が動いてしまい、口からは喘ぎ声しか出てこなかった。
「ひっあっひぁあっあっんぁっ」
 バイブの動きに合わせて腰が動く。うねらせて自分で好いところに当るように腰を捻っていた。
「んふ……ふっうっ……あっ……んぁ」
 高宮の浅ましい行為に加賀見は満足したようにその姿を眺めている。高宮の開いた口から喘ぎ声と、溢れ出る涎が垂れる。さっきまで否定を口にしていたものが、加賀見の思い通りになっているからだ。
「ああ、可愛いね。こんなモノに翻弄されて、真面目で清潔そうな君が乱れる姿が見られるなんて」
 加賀見の声でハッとして高宮は我に返った。
 今自分は何をしていた?
 頭で考えようにも理解しがたい出来事が自分の体に起こっているのは確かだ。しかし冷静に対処しようとしても、この快楽に完全なる否定は出てこなかった。
「はぁ……ん……もう、やめてくれ……」
 高宮が抵抗するように腰を動かすもそれは加賀見にとっては目の保養にしかなっていなかった。
「まあ、おもちゃばかりだったらさすがに飽きますかね。いいですよ、これはやめてあげます」
 加賀見は一通りやってしまうと高宮の孔からバイブを一気に引き抜いたのだ。
「ひぁあああぁぁ――――――!!」
 一気に引き抜かれた時の感覚は、それまで味わったものとは快楽度が違った。元々排泄する場所であるところからモノが出て行く感覚はちょっとした快感がある。しかも加賀見が言った通りに慣らされたそこは、バイブについていたイボと勢いで体が震えるほど感じた。その証拠に一度も触られていない高宮自身から精液が迸っていた。
 ガクリと床に倒れると床に散った精液が体にベタリとついた。その量はさっき吐き出した分では足りないほどの量になっていて、高宮は自分の精液の海に溺れているような形になっていた。
「また達してしまったんですね。本当に快楽に弱い体をしてますね、高宮くんは」
 加賀見は疲れて倒れている高宮を引き寄せて体についた精液を塗れたタオルで拭いて綺麗にした。
「……なんで、こんなこと……」
 高宮は加賀見にそう尋ねていた。
 あんなに優しかった加賀見が自分にこんなことをしてくる理由が思い浮かばない。だが、もしかしたら加賀見は自分を最初から嫌っていてこんなことをして嫌がらせをしているのかもしれないと思えてきた。そうでなければこんな浅ましい姿を見たいと誰が思うだろうかと高宮は考えたのだ。
「そんなに俺のこと嫌いだったんですか……?」
 高宮は聞いていた。
「そんなに嫌いだから、こんなことをするんですよね……」
 高宮は涙を浮かべて加賀見に言っていた。
 こんな酷い屈辱を受ければ、男だろうがなんだろうが徹底的に打ちのめされるだろう。あり得ないと思っていた場所が感じるようになり、自分はそれを一部で否定しながらも一部では喜んで受けて入れていた。
「そう思ってるんですか……まったく」
 高宮が加賀見が自分を嫌いでこんなことをしてもう実習に出ないようにしているのだと思えていたからそう言ったのだが、加賀見はそれに苦笑した。
 加賀見は高宮を机の上に俯せにし、腰を掴む。
「嫌いだったらこんなこと出来ませんよ」
 十分に解した高宮の孔の中にそそり立った己を突き入れた。
「あぁぁぁぁっ!」
 さっきのバイブとは明らかに違う、暖かさと滑りと圧迫感。その感触の違いははっきりと分かった。一気に突き入れられた加賀見は奥まで入り込んでじっとしている。
「ふ……ん……あ……」
 収縮するたびにダイレクトに感じる加賀見のペニス。腸がそれを包み込んで奥へ奥へと誘いながらも、従来の吐き出そうする運動を繰り返すので、高宮は中に何かあるだけで自然と腰が揺らいだ。
 今までに加賀見にされたことは体が全て覚えていて、意識がない間のことも高宮が知らないことも体はどうすればいいのかを知っていた。
「高宮くん、もういっそ――――――墜ちるところまで墜ちてみないか?」
 加賀見の突然の言葉に高宮は呆然とした。
 墜ちるところまで墜ちる、それはもうすでにそうなっているのではないだろうか。一体加賀見は何を言っているのか分からない。
「……加賀見、先生……?」
 高宮が加賀見を見ようと振り返ると、加賀見はその高宮の顔を覗き込むようにして見つめ返してきていた。その視線は真剣で、普段の優しい加賀見とも違った見たこともない男の顔をしていた。
 瞳はここではない何処かを見つめているようでありながらも高宮の姿は捉えている。この目を高宮はどこかで見たことがあるような気がしたが思い出すことは出来なかった。
 加賀見は怯えた高宮をしっかりと見つめると、ぐっと腰を動かして高宮を攻めた。
「あっ……あぁっ!!」
 見つめ合っていた間の雰囲気を打ち消すように攻めてくる加賀見に高宮はただただ翻弄された。
 バイブを入れられた時とは比べものにならない圧迫感だったが、すでに解された孔はしっかりと咥えこんでいて、太いものが出たり入ったりと挿入を繰り返しているのに、ただただ甘痒く、何度も擦られているうちに感じてしまうようになってしまった。
 馴染むように突き入れてきていた加賀見は、すっかり馴染んだそれを感じたのか、急に突く場所を変えて突いてきた。
「ひ、あぁぁぁぁ――――――!!」
 攻められていなかった前立腺辺りを加賀見は先端を擦りつけるように挿入を繰り返していた。
「あっあっあっんぁああぁっ!」
 酷く悶える体を押さえつけて加賀見は腰を打ち付けていた。その衝動が伝わってきて高宮を激しく揺り動かすのだが、片足を固定されたままなのと、両手を後ろ手で縛られたままではどうにもふんばりようがない。ただ加賀見に揺すられるまま振られ、腰はしっかりと加賀見に掴まれていて、高宮はどこにも逃げることは出来なかった。
「ほら、また達った」
「あぁっ……あぁ」
 加賀見が中に熱い性を吐き出して注ぎ込むのを直に感じると高宮は体を奮わせた。温かいものは何度も吐き出されては掻き出されと繰り返し、気の遠くなるほど達していた高宮には、終わりが何処にあるのか分からない行為だった。
 ほとんど拷問と言っていいほどの時間が経過している。学校内はすでに暗くなっていて、電気を付けてもいないこの部屋は外から照らされる月光で、辛うじて中の様子が分かるようになっている。
「も……たす、けて……」
 絶頂を何回も迎えて、高宮はすでに泣き出していた。そう助けを求める声も掠れてしまい、やっと絞り出した声だったが、やっと加賀見には通じた。
 これまでずっと拒否する言葉は無視されていたし、助けを求めることも拒否されていたが、泣きながらの懇願には耳を傾けてくれるようだ。
「さすがに三時間連続は堪えますか。でも気絶しなかったことだけは合格点です」
 ぐったりとした高宮の中からやっと加賀見が離れた。縛られていた腕はとっくに解かれてはいたが抵抗するような気概すら残っていなかった。唯一逃げ出さないようにと拘束されていた脚は、折り曲げた状態で固定する拘束具のようなもので固定されていたので、完全に感覚は麻痺してしまっていた。
 外して貰っても感覚はまったく戻ってこない。
 とにかく逆らうのが怖くて耐えている高宮の体を加賀見は綺麗にしていく。
 何処に容易していたのか、下着やワイシャツまで取り出して高宮に着せ、あらかじめ遠くに置いておかれていたスーツは綺麗なまま戻ってきた。
 準備室のテーブルの周りは、高宮と加賀見が吐き出した精液が飛び散って溜まっている。まだテーブルにある精液が粘り気のない水のような液体となって垂れていた。
 そのテーブルの周りには加賀見が用意したというアダルトグッズが沢山散らばっていて、異様な光景だった。
 それを見るだけで高宮には自分の身に起こったことが信じられない。
 思わず立ち上がって逃げようとして、高宮は椅子から転げ落ちた。脚の感覚がまだ戻ってきていない状態でいきなり立ち上がるのはやはり無理だったようだ。
 加賀見は黙って高宮に近づいてきて高宮を椅子に座らせた。
「まだ脚の感覚がないんでしょう? 大人しく座っていて下さい」
 加賀見は特に怒った様子はなく、淡々とそう言って後片付けをしている。
 テーブルは綺麗に拭いてしまい、汚れた床には飛び散っても大丈夫ないように、薄いビニールを張っていたらしく、それを準備室の端から剥がし、綺麗にゴミ袋に入れて捨てている。おもちゃもビニール袋に入れて箱に入れてしまった。
 片付けにかかった時間は10分程度で教室を元のように戻し、換気扇を回してしまうと嫌な匂いも吐き出されていく。
 そこには何もなかったように、埃だけがない準備室に戻ってしまった。加賀見は隣の教官室でがたがたと何かやっていたようだが、暫くしてドアが開く音がし、加賀見が出て行く音が聞こえた。
 その間にやっと高宮の脚の感覚が戻ってきて、高宮はゆっくりと立ち上がってまだ感覚が微妙な脚を引き摺って隣の教官室に戻った。
 加賀見は出たゴミを運んで一旦外に出たらしく、教官室に戻ってきたところで会った。
 逃げようとしたのがバレたと瞬時に高宮は恐怖に顔を歪ませたのだが、加賀見は高宮の近くまで寄ってくると、側にあった高宮の荷物を取ってそれを高宮の前に差し出した。
「はい、荷物忘れてますよ」
 柔らかな言い方で、加賀見が荷物を渡してくれた。高宮は訳が分からずに荷物を受け取って、その隣と通り抜けて行った加賀見を警戒しながらも早くここから逃げようとして急いでドアに向かった。
 さっき加賀見はドアに鍵などかけていなかったから部屋を出てしまえば逃げられる。
 後のことはどうするかは帰ってから考えることにして逃げるように脚を進ませていた。
「明日はお休みしていいですけど、明後日は絶対に来て下さいね、高宮くん」
 部屋のドアを開けて廊下へ出ようとした瞬間に加賀見がそう言った。高宮は信じられないものを見るように振り返って加賀見の方を向いた。
 加賀見は教官用の椅子に座っていた。けれど、外からの月の光は加賀見の姿を後ろから照らしているだけでこっちを向いている状態では逆光になるから表情は一切見えなかった。
「まさか、このまま君が逃げ切れて終わるなんて思ってるわけじゃないですよね?」
 加賀見がそう言ってくるので高宮はぐっと拳を握りしめて抵抗した。
「俺が、このまま黙っているとでも思っているんですか?」
「思わないから言っているですよ」
 加賀見が意味が分からないことを言ってきた。
 高宮が喋ってしまう可能性があるからこそ脅しているのだと言っているのだが、このまま逃がしてしまったら高宮はいつでも誰かに喋られる状態だ。
 なのに加賀見はそれは構わないとばかりに堂々としている。
「なに、言って……」
「君が私に何かされたと言って私が解雇されたり、君が何処か別の場所へ移動になったりしたとして、それで高宮くんは全てが終わると思って居るんですか?と聞いているんですよ」
 加賀見はとんでもないことを言い放った。
 高宮は一瞬ではそれを理解出来ず、加賀見を睨み付けたままであったが、じわじわと加賀見が言ったことが理解できてきた。
 加賀見はこの後高宮が性的な行為を拘束されて強要されたことをこの学校の校長に言ったところで、加賀見が解雇されるか、高宮が別の学校へ移動させられるかのどちらかになるだろうことは分かっていたことだ。
 しかし、加賀見はそこまで高宮がやったとしても、加賀見は高宮を諦めないと言っているのだ。
 高宮が何処へ行こうが、加賀見をどう訴えようが、加賀見は高宮のところにどこからでも現れると言っている。
 つまり、終わらないということなのだ。
 徹底的に高宮が加賀見を警戒しても、男に強姦という刑はそれほど重要とはされない。すぐに加賀見は高宮の前に現れるだろう。
 それより加賀見は高宮が訴えたとしても、それをもみ消せるような権力でも持っているのだろうか。
「お、俺の父親は、教育委員会でも顔が利くんだ……」
「知ってるよ。よーく知ってる」
 加賀見は声は余裕があった。
 教育の場において、高宮の父親はかなり名の知られる重鎮である。だからこそ、高宮が何か一言言えば加賀見は教育の場からは追い出すことは出来る。
 だが、加賀見はそれが分かったとしてもまったく構わないとさえ思っているようだった。
「でも、お父様に泣きついても無駄だと思うよ。試してみるといいんじゃないかな。まあ、高宮くんのお父さんはきっと何もしないと思うけどね」
 勝ち誇ったような言葉に高宮はそこまで言い切れるなら何かあるのではないかと思えてきた。
 だから余計に高宮は恐ろしくなって、加賀見の前から逃げだそうとしたが、踏みとどまる。
 父親に言ったところで無駄という意味は、そんな話を信じないからなのか、それとも他に意味があることなのかを確かめたかった。
「何故父に言っても無駄だと思うんですか? 何故……」
 そう高宮が尋ねると、加賀見は意外にあっさりと答えてくれた。
「そういう約束になっているから」
「……え?」
「君の父親がしてきたことを問わないという約束が私と君の父親の間でされているから」
 加賀見が言った言葉が耳に入ったはずなのに頭では理解出来なかった。彼は一体何を言っているのだ? 父と話がついている? 一体何を言っている。
「君も知っているはずだよ。見たじゃないか。あの時、あの書斎で私が君の父親に何をされていたのか全部見ていたじゃないか。15年も経つと忘れてしまうものなのかな」
 15年前。高宮が七歳くらいの時だ。小学校へ入って暫くのはず。高宮は15年前に見たとされる記憶を突如思い出した。


 あれは暑い日だった。
「外で遊んでおいで」
 そう言ったのは父だった。珍しく家にいるんだなと思っていたら、遊んではくれず家から高宮を追い出した。だが外はあまりに暑くて高宮は途中で家に引き返してしまった。
 だって家の方が涼しい。エアコンの部屋で勉強している方がよほど有効な時間が過ごせると判断したからだ。
 高宮の家は少し大きな屋敷と言っていいくらいの大きさの家で、父親の書斎や父親だけ部屋、母親だけの部屋など、普通の家にはない部屋があるような屋敷だった。
 当然高宮の部屋もあり、父親に見つからない自信があったから高宮は部屋に引きこもってしまおうと玄関を開けた。
 その玄関に靴があった。革靴、だが父親が履くようなデザインではなかった。若い人が履くようなデザインだったと思う。そんな靴がぽつんと玄関にある。
 少しだけ興味を惹かれた。
 この家に来る人間は大抵大勢でやってくる。しかも夜中だったりするから、昼間に一人だけでやってくるような客は珍しかったからだ。
 リビングには期待した客はいなかった。
 父親の部屋に行ったのだろうか。珍しい。あの部屋にはほとんど、母親や高宮でさえ入ったことはないというのに、ぽんときた客は入れてもらえるのかと高宮は客を恨んだ。
 なんとかして客を見てやろうと庭に回って木に登った。あまりに部屋に入れてくれない父親が部屋で普段何をしているのか気になって庭を探索している時、木に登ったら部屋の中が少しだけ見えるところがあるのを知った。
 ちょうど窓近くにあるどっしりとした机の上が綺麗に見えるような場所だ。だから父親が普段部屋に籠もってやっていることはここにくれば見られた。
 
「先生……あ……だめです、窓が……」
 木に登り切って下を眺めた時、机の上には父親がいつも置いてある本などではなく、人間が横たわっていた。
 さっきまで静かだったからまさかそんなところに人がいるなんて思わなかった。だから焦って木を大きく揺らしてしまった。
 その揺れと同時に聞こえた声が、艶めかしい声だったのも高宮の幼心を動揺させた。
 だが、それ以上に高宮を驚かせたのは、テーブルに寝転がっている人間と目が合ってしまったことだった。
 相手もかなり驚いているようだった。
 見つかったことに焦っていた高宮だったが、相手はふっと指を口に当ててしーっと静かにしているようにと高宮に指示をしてきた。
 とにかく高宮がここにいて部屋の中を見ていることを黙っていてくれるのだと高宮はホッとしたのだが、そこからの記憶は子供の高宮には理解し難いことだった故、記憶から綺麗に消されてしまっていた。
 
 あの時、父親は若い大学生くらい青年を犯していた。夢中になり体にしゃぶりつき、青年の性器を口に含んで、尻の孔を舐めて興奮しきってきた。
 当然追い出したはずの高宮が見ているなんて知らないから、父親は青年にどんどん酷いことをしていた。
 青年は口では沢山、お願いします、もっとしてくださいと言ってはいたが、どこか冷めた目をしていた。しかし高宮と視線を合わせると柔らかく笑って言うのだ。
「もっと見て、いやらしいところもっと見て」
 そう繰り返す。何度も何度も繰り返し、高い声を上げて気持ちよさそうにしていた。
 何が起こっているのか理解出来てない高宮だったが、青年の色っぽさや艶っぽさ、そして真っ直ぐな視線から目を反らすことは出来なかった。
 まさに今日、今さっき高宮が加賀見にされていたようなことを青年はされていた。
 青年は何度も達していたし、父親は普段の静かな姿とはかけ離れた恐ろしい妖怪のように青年を侵し続けていた。
 そんな時間。高宮の中では長く丸一日はかかっていただろう時間は現実では2時間もなかっただろう。ふと高宮が気がついた時は青年はもう机にはいなかったし、書斎の窓はしまっていてカーテンがかかっていた。木から下りて庭に佇んでしまった。
 
 そこから高宮の中の記憶は、都合の悪いところだけ消されていた。
 気がついた時は夕方になっていて、慌てて家に戻ると母親が家にいた。
 遅かったわねと言われて時計を見ると、6時を回っていた。
 庭の木で遊んだ記憶はあるが、何をして遊んだのかは覚えてない。  
「あ……あれが……貴方だった?」
 高宮は信じられない記憶が自分の中にあることに気付いて呆然と言っていたが、加賀見はクスリと笑っていた。
「そう。君は2時間たっぷり私が高宮先生に犯されているところを見ていた。一時も目を反らさず」
「……でも……」
 そんなことあるだろうか。あの父親が?何故?色んな考えが頭の中を巡る。
「教師になろうとしていた私に高宮先生は近づいてきて、教師になりたかったらと私を欲した。君の家には一年通ったよ。君以外誰とも出会わなかったけれどね」
「そんな莫迦な……」
 そんな条件を付けて父親は加賀見を誘ったというのか。何故そんなことを。
「高宮先生は若い男が好きらしくてね。毎年誰かを見繕ってもらっていたらしい。あの時はたまたま私だったということだよ」
 たまたま狙われてあんな目にあったのだと加賀見は言っている。脅され逃げ道を無くされ、結果応じるしかなかったからああなったのだと。
「だったら、だったらなんで貴方までこんな真似をしてるんですか!」
 どうしても理解出来ず、高宮は叫んでいた。
 加賀見が父親にされたことを高宮は加賀見にされた。あんな行為嫌で仕方ないのに、何故同じことをしようなんて加賀見は思ったのだろうか。
 憎しみからなら、高宮の父親に向けるなら分かるが、加賀見はその父親と結託しているという。
 何がしたいのか分からない。
「私は久々に会った高宮先生に一言言っただけだよ。あの時の一年間、私が黙って泣いていただけで居たとでも?と。高宮先生、焦って何が欲しい、金かと勝手に話を進めて、最後にこう言ったんだ」
 加賀見がどんな顔をしてその台詞を言ったのか、高宮はずっと知らない。月光は後ろから照らしているだけで加賀見はずっとシルエットだった。
 それに高宮は興奮していて、とても現状を把握出来るような状態でもなかった。
 だから加賀見の抑揚のない声だけが、嫌悪という気配を放っていたことしか分からない。
「なんなら、息子を君の好きにしていいってね。保身の為には息子さえ差し出すんだから、相変わらずの狸だね」
 加賀見は淡々とそう言った。
 父親は自分がしてきたことを知られるのが怖い、そして揉み消すことが出来ないと分かったとたん、自分で謝罪するのではなく、息子である高宮を差し出して逃げに出たのだ。
 自分の父親がしたことにただでさえ驚愕しているのに、その父親が加賀見に自分を譲り渡す約束をしてしまっていた経緯に、高宮はただただ呆然とした。
 全てが自分の父親から始まっている。だから父親に助けを求めても無駄だということなのだ。父親はただ加賀見の言う通りにしてくれと高宮に頼むしかない存在だ。
「それにね。高宮先生が困るのは自分の息子が自分の父親が犯した教師に犯されましたって言いふらされることなんだ。君の家、今大変だよね」
 加賀見はずっとこの時を待っていたのだろう。
 高宮の父親の権力が弱り、父親に弱点が増え、加賀見が力を付け、そして獲物が飛び込んでくる機会をずっとずっと待っていたのだろう。
 高宮の家は今、母親が心臓発作で倒れたばかりで大変だった。母親にはどんな衝撃も与えてはならないと言われている。加賀見が父親の秘密を暴露すれば母親はショックで死ぬだろう。
 母親の実家は父親の今の地位を築くのに金や権力をもたらした。加賀見に昔のことを暴露されると、母親は死ぬし、その実家からの援助も得られなくなるだろう。そんな結果を父親が望んでいるわけがない。
 そして高宮も母親を心臓発作で殺すような結果は望んでいない。
 高宮には父親が間違いを犯した時から、ずっと逃げ道がなかったのだ。加賀見とあの時視線が合ってからずっと高宮の父親に反撃する機会を加賀見はずっと待っていたのだ。

「ずっと待っていたよ。この時を」

 ――――――俺には逃げ道がない。
 15年も前から復讐する為に準備をしてきた男に適うわけない。どんな逃げ道も加賀見は逃げられないように準備しているだろう。
 本当に高宮が声を上げて加賀見を訴えたとして、加賀見はその訴えを覆す何かを用意しているだろう。 どうしたって逃げられない。

 ――――――もういっそ――――――墜ちるところまで墜ちてみないか?  あの夏の日。
 あの場所で目が合った瞬間から、墜ちるところまで墜ちていた。
 そんなことを高宮は今日思い出した。
 高宮はそれ以上反論も出来ず、教員室から逃げ出していた。

 最悪な一日。
 最悪な、生け贄として差し出された。