R18novel短編

言霊-1

 部活終わりのことだった。
 その日、水泳部は三年の引退があった。大会は七月中に終わり、県大会敗退によって、三年たちは受験に向けて忙しくなるのと、新人戦の準備が始まるため主体を二年に引き継ぐ。そうした最後の部活の日。特別に三年生はすることもなく、二年生はこれからのために忙しく練習をしていた。そして三年生からの話があり、部活の部長も新しく決まった。
 室内プールを持つ私立の高校では、夜間の練習もたまにある。
 その中で新人戦に向けて練習に残る生徒ももちろんいた。
 二年たちは三年たちと送別会としてファーストフードで盛り上がろうと出かけるようだったが、一人、新人戦で個人種目である平泳ぎの選手に選ばれた柴倉(しばくら)が、居残り練習をすることになっている日だった。
 先輩たちがわざとこの日を選んだことは知っている。
 武居は、それを知って少し動揺した。
 柴倉が三年から嫌われていることは知っている。それがとてもくだらないことであることもだ。
 柴倉は、一年の時からのレギュラーで、平泳ぎは県内一と言っていい。そんな彼のことを応援するわけでなく、三年たちは自分たちのレギュラー枠を奪われたと言って、柴倉を迫害しようとした。
 幸い、それは武居が発見して、教師が知るところとなり、危うく県大会出場すらなくなるところだったのを柴倉が自分も出られなくなると言って、なんとかいじめを教育機関に報告したくない学校側と上手く話を合わせたという経緯がある。
 だから柴倉は悪くはない。ただの被害者だ。
 けれどそれから三年は、柴倉を無視し始めた。もちろん下級生にもそれが伝わり、今では部自体が、柴倉に構うことを辞めたのだ。
 そのせいで、柴倉は通常の部活時間に練習ができなくなった。
 さすがにそれも教師の知るところになりそうだったのを、OBであり水泳選手になっている武居の兄が仲裁に入り、柴倉の平泳ぎは部活レベルではないと言って、個人指導を受けるように掛け合った。
 そのお陰で柴倉は居残りの時間に練習ができるようになった。
 けれど、その柴倉だけを特別扱いすると思い込んでいる同級生や下級生たちのつまらない嫉妬は、亀裂が大きくなるばかりで、柴倉は水泳部に所属しながら、水泳部ではないというような扱いになっている。
 武居も三年の先輩からは、兄に口をきいたというのが理由で、参加しないで欲しいと言われたばかりだった。
「お前には悪いけど、俺ら、やっぱり柴倉を認めたくない」
 そんな理由で、武居も巻き添えを食らった。
 だがふと思うのだが武居はそんな先輩に同調している同級生も下級生も、結局部活という枠で粋がっているだけなのだと思えて、それが部活動という活動自体、ばかばかしくなってきていた。
 それにだ、納得がいかないことがある。
 柴倉ほどの力がある人間なら、こんな学校ではなく、水泳の強豪校に推薦でいけたのではないかということだ。柴倉には聞いたことはないが、推薦は無理だったのだろうか。
 まあ、様々な事情でいけないことはあるだろう。たとえば、親が水泳を認めてくれないなど、事情はあるかもしれない。
 そんなことを考えて武居は部室を出ようとしたところ、柴倉と遭遇した。ドアを開けたところに柴倉がいたのだ。
 柴倉は濡れた体にタオルを肩からかけ、今練習をしているところだという格好だ。忘れ物でもしたのか、部室に入ろうとしたところだったらしい。
「あ……武居?」
「ああ。お前は練習か?」
 武居はそう聞いたのだが、柴倉は首を振った。
「うん、一通りは泳いできた。でも今日は武居のお兄さん、大会の前だからっていないから、気合いが入らないから帰る」
「ああ、そっか。大学の大会あったっけ……それでか、最近、連絡取れなかったのは」
 柴倉の方が兄の予定を知っている始末で、武居は苦笑する。そう笑いかけると、柴倉は少し照れたように顔を赤らめた。
「……あ、武居って送別会にいかないの?」
 そういえば今日は送別会だったと思い出した柴倉がそう言うのだが、武居は笑って言った。
「兄貴のことで反感を買ってんだ、俺」
「……え?」
 さすがにそれが想像すらしてなかったというように柴倉が驚いたように目を見開いた。そして武居に縋り付くように駆け寄ってくると言った。
「どういうこと? なんで武居まで?」
 柴倉は想像だにしてなかったらしく、武居が自分と同じように排除されているのが信じられないという顔だ。
「仕方ないさ。実際、兄貴に相談はしたんだ。柴倉のこと。兄貴はそう言ってなかったかもしれないけど」
 そう武居が言うと、柴倉は何か衝撃を受けたように体を震わせた。
「……じゃあ、あの武居さん……お兄さんが来るようになったのは、武居のせい?」
 柴倉はそう言った。
「……柴倉? もしかして、いやだったのか?」
 怒気が込められているような言い方と、武居のせいという言葉から、柴倉は武居の兄がくることを望んではいなかったと分かる。更に、今でも嫌で仕方ないという言い方だ。
 余計なことをしたのだろうか。だが、高校の一教師が柴倉の練習を見ていくのは難しいことだったのは事実だ。実際、柴倉は全国大会にはいけなかったが、県大会で二位の成績を持っている。実力が出たのは、武居の兄が指導を始めて出たのものはずだ。
「……確かに、俺が県大会でいい成績を取れたのは、武居の兄さんのお陰だけど……そのせいで俺がどんな目にあっているか、武居は知らないだろっ!」
 柴倉はそう叫んだ。
 あまりの真剣な柴倉の怒りに、武居はハッとして柴倉の腕を両手で掴んで言った。
「なんだ……? 柴倉、お前、兄貴に何されたんだ!?」
 必死にそれを聞き出そうとしたのだが、柴倉はフッと笑って言った。
「武居はお兄さんの何を知ってるっていうの?」
 そう言われて武居は眉を顰めた。
 兄の何を知っている? そんなこと口が裂けても言えなかった。
 兄が優秀な人間で、勉強の成績も運動の水泳も何もかもが親の期待に応えられる人間であるという事実。そして弟の武居にも時々、悩み相談がないかと聞いてくれ、親との間を取り持ってくれる優しい人だ。それが一般的な兄の評価だ。
 だけど、兄の本心が何処にあるのか。それは離れて暮らすようになってから分からなくなった。兄は時々、連絡が取れなくなることがある。本人は大学の友人と飲んだりしていうと言っていたが、明らかな嘘であることは親も知っている。だが兄が表面上は優秀な人間であることを崩そうとはしないため、誰もそれを指摘はしなかった。
 離れて暮らすようになってから、兄は着実に何かが壊れている気はしていた。
「あの人が……俺に何してるかなんて」
 柴倉はそう言うと、武居を壁に押しつけ、その場にいきなりしゃがみ込んだ。
 そして柴倉の手はいきなり武居のズボンのファスナーを開いて、武居のペニスをさっと出した。
「な、何してんだ! 柴倉!」
「お兄さんが、何してるのか、知りたいんだろ?」
 そう柴倉が言ってから、武居のペニスを扱き始める。
「やっ……めろっ柴倉っいてえっ!」
 必死に逃げようとするが、柴倉がペニスを握っているために、下手なことをすると握りつぶされる恐怖があった。だから強く抵抗ができない。そしてそれと同時に武居には、柴倉が兄にこういうことをされていたと知らしめるために、していることが理解できてしまったため、兄がこんなことを同級生にしているという事実で頭が混乱しているのもあった。
「ああ、ごめんね。こうすれば痛くないはず」
 柴倉はそう言うと、武居のペニスを口に含んでから口腔で扱き始めたのだ。
「うぁあっ! あっ!」
 武居はその感覚で腰が抜けそうなほどの快楽を得てしまった。
 武居はまだ誰とも付き合ったことがない。兄と比べられてきたせいで、女生徒たちは兄と比べては武居のことは見下していた。だから彼女はできたことはなかった。
 だからセックス経験もないし、フェラチオをされた経験もないわけだ。
 オナニーくらいしかしない武居だが、人の口というものの感覚は、想像を超えた快楽であることを始めて知ったわけだ。
 柴倉はしゃがみ込んだまま、武居のペニスを美味しそうに頬張っている。ペニスを扱きながら、亀頭だけを舐めたり、筋に沿って舐めあげたりと、明らかに柴倉が普段そうしていることが容易に分かってしまうほどだ。
 だがこれと兄が関係があると言われてやられているということは、柴倉が兄にこうされていたということなのだろうか。
 それが分からず、快楽でおかしくなりそうな感覚と戦いながらも武居は考えた。
 だがそれもたった三分ほどだ。
「やめっ……あっあっいくっ……いくっから……ああっぁ」
「出して、口の中に……武居の精液をちょうだい」
 柴倉はそう言うと、しっかりと口に含んで武居のペニスを扱きあげた。
「んあぁっ!」
「!」
 さすがに武居は耐えきれず、精液を柴倉の口の中に吐き出した。その吐き出た精液を柴倉は迷いもなく、飲んでしまった。
 喉がごくごくっと飲み干すように、それも武居に見えるように上を向いてから柴倉は飲み込んだ。
「……柴倉、お前……」
「……兄弟だと味も似てるんだな」
 柴倉を非難しようとしたのだが、それを遮るように柴倉が言う。