R18novel短編

狂気的な闇-1

 その日は、十一時回った辺りでやっと客が途切れた。
 普段ならもう少し客が残っていて、十一時半にオーダーストップ、十二時に閉店しても客が一時間粘ったりすることはよくある。その日は雨が降っており、客もまばら、駅から少し離れたところにある居酒屋では、雨宿りの客は見込めない。
 チェーン店ではあるが、おじさんたちがよく集まる居酒屋でもあるが、平日月曜日の深夜で、雨が降っていればこんなものである。
「もう閉めちゃっていいよ」
 店長がそう言って先にレジを締め、会計を済ませると店の鍵を二ノ宮預けて、先に深夜銀行の預け先に急いだ。
 この日は店長の結婚記念日らしく、夫婦でこの後旅行に行くのだという。明日明後日が店が休みで、二ノ宮も平日のバイトが休みになるので、楽しみにしていたゲームでもしようと思っていた。
 身長百七十はない身長に、ショートの髪が少し伸びてきたので、明日辺り散髪にいかなければならない。細身の体で、女の子よりも細いのだが、大学生になっても子供みたいな体つきだと言われる。それでも笑顔で接客するので、男性客からは息子みたいだと言われて割と評価されている。そのお陰で、たった一年でバイト長になり、店長からの信頼も厚かった。
 この日はバイト長である二ノ宮が最後まで残り、室内をバイトが片付けてしまうと、鍵を確認して、表から鍵をしようとしていた。
 雨が酷く降っていて、傘がないことが問題だなと考えていた。
 ざーっと音が鳴っていて、なんだと振り返った二ノ宮は、サラリーマンが立っていることに気付いてびくりと体を震わせた。
 サラリーマンは百九十はありそうなほどの身長で、体格もよく、大学自体はアメフトでもやってましたといわんばかりのゴツゴツとした体型だった。きっとスーツもオーダーメイドでなければ、体格に合うものがないのではないだろうか。
 そんな男が後ろにそっと立っていたら、びっくりしない人間はいない。
「……す、すみません……お店もう終わったんですけど」
 二ノ宮がそう言うと、サラリーマンの男は慌てたように言った。
「忘れ物をしちゃって、手帳なんですが、テーブルに置いたままでちゃって」
 暗闇で影しか分からないが、そう言われて二ノ宮は思い出した。
「ああ、手帳の忘れ物。あります。取ってきますね」
 今日の夕方の一番目に来た客だ。テーブルに置き忘れた手帳は、そのまま店長が忘れ物入れに入れていたのを思い出す。それを取りに鍵を開けて店に入り直した。
 スマートフォンの灯りを頼りに、事務所まで戻る。箱を探して手帳を取ると、店の中に戻る。すると、さっきの男が店の中にいた。
 ドアが閉まっている。
「あ、ありました……これですか?」
 そういいながら二ノ宮が手にした手帳を男に渡すと、それを受け取った男はそれを見て頷いた。それを受け取りポケットに仕舞っている。
「よかったですね、じゃ、店を閉めるので出て……うわっ!」
 男を外へ出そうとしてドアを開けようと、男の横を通ると、男が急に腕を伸ばしてきて、二ノ宮を捕まえたのだ。
「なに……してっ」
 急に男に抱きしめられ、その腕から抜け出せない。
 男の腕から抜け出そうとするのだが、がっしりとした鍛えた体をした男の力は本当に男の力という力強さだった。
 二ノ宮はバイト以外に何か運動をしているわけではないから、圧倒的な力の差で、逃げることが敵わない。
(強盗!?)
 いきなりのことに二ノ宮はまず強盗の線を考えた。売上金を狙ったのだろうが、あいにくそれはもう店にはない。だからまずはそれを伝えた。
「う、売上金は持ってないって!」
 そう叫ぶと、大きな手で口と鼻を塞がれた。
「うう゛っっ!」
 暴れても、周りの机や椅子をなぎ倒すだけで、どうにもならない。
 こんな駅外れの深夜に誰かが来ることはなかなかない。誰かに助けを求めるにしても、隣近所はすでに店は閉店していて、開いている店は十軒ほど離れた居酒屋だけだ。
 雨の足が強まったせいで、物音はすべてかき消されているかもしれない。
 居酒屋の建物を叩きつける雨は、雷を伴って吹き荒れる。まるで台風でも来たかのような荒れっぷりで、そういえば天気予報で豪雨になるかもしれないと言っていたなと思い出す。
 だが二ノ宮は、ほぼ足が浮いた状態で、入り口から奥の座敷まで引きずられていく。
 だんだんと目が暗闇になれてくるが、男の顔が分からない。バイトに来た時に帰るところだった男だったから、顔を見ても常連じゃなければ気付かない。
 冗談じゃないと暴れていると、急にお腹に痛みが走った。
「……ぐほっ」
 殴られたのだと分かったのは、その痛みのせいだ。胃の中がひっくりかえりそうなほどの痛みに襲われて、二ノ宮の体の力が抜けてしまう。
 重くなった二ノ宮を、男が軽々と抱え、座敷まで連れて行く。置かれているテーブルを隣のスペースまで、男が体で押し寄せてどかせ、空いたスペースに二ノ宮を寝かせて、二ノ宮の両手を取った。
 カチャリと音がして、腕に何かを巻き付けられ両手を縛られた。それを中央の仕切りの柱に縛り付けられてしまう。
「動かないでね、刺さっちゃうよ」
 男がそう言って、二ノ宮は痛みに耐えながらも動くことはできなかった。痛いのもあるが、刺さるという言葉が、相手がナイフか何かを持っていることだと分かったからだ。
 ビーッと布を切り裂く音がして、二ノ宮の服が切り裂かれた。中に着ていた下着も一緒に切り裂かれ、胸が開けるように服を広げられる。
 そこで始めて二ノ宮は、自分が何のために襲われているのかを理解した。
「やめろっ……!」
 ズボンのベルトを緩められ、一気に引きはがすように下着まで?ぎ取られた。
「いやだっ! やめろ!」
 必死に暴れると男は一回離れていった。誰かが来て逃げたのかと思ったが、男はすぐ側でごそごそと何かをしている。それが暗闇で見えないので、何をしているのか分からないが、右左とうろうろして、最後に布の擦れる音が聞こえた。
「誰か、助けてっ!」
 必死に叫んだが、それは豪雨の音で掻き消される。ニュースでは十二時半から豪雨が始まり、朝の八時まで続くという。つまり叫んでも商業街の外れの居酒屋での叫び声なんて、豪雨と雷で掻き消され、さらにはこんな日に外を歩く人間は早々いないという事態だ。
 もちろん、居酒屋は閉店していて誰も訪ねてこない。
「いやだっ! 誰かっ助けてっ!」
 レイプされるか、殺されるか。
 訳が分からずとにかく助けを求めた。
 だが男は二ノ宮に馬乗りになると、顔を一回叩いた。
 それが脳しんとうを起こしそうなほどの強さで、二ノ宮は一瞬放心してしまう。
 男はその間に、二ノ宮の口に何かを押し込んで、素早く何かを取り付けた。
「うっー……うーっ」
 ボールギャグというものだということは理解しなかったが、よくエロ漫画にでてくるやつだと気付いたのは、口は開いているのに息ができることと舌が触れ、形が分かったからだ。
「大丈夫だよ、痛くはないからね」
 男はそう言うと、二ノ宮の足を片方抱えて折り曲げ、そこに何かを通して膝を折り曲げたまま伸ばせないようにされた。それを両方の足にされ、M字開脚をしているかのような格好にされる。
「う゛ーっうう゛ー!」
 二ノ宮は叫びながら腕を引っ張ってみた。しかし完全に固定されていたし、足は更に動かない。左右に振ることだけはできたが、それも男が足の間に張り込むまでだった。
 ふーふーっと興奮したような息遣いが聞こえる。男が興奮して息を乱しているのが聞こえて、二ノ宮の体は鳥肌が出た。怖いのだがそれ以上に気持ちが悪い。
「ずっと、ずっと見ていたよ二ノ宮くん」
 男がそう言った。
 見ていたということは、この居酒屋の常連だ。だが、さっき見た時、外見から男がどの常連なのか分からなかった。覚えてすらいない常連、それが酷く怖かった。自分が接客する常連ではなく、バイトが担当した常連だったのか。それとも――――――。
 ふと嫌なことが過ぎって寒気がした。
 外は豪雨で風も酷く、窓ガラスが雨に打たれて轟音がしている。車が走る音や酔っ払いの叫び声などは聞こえてこない。すべて天候が消してしまう。
 だが側にいる男の息遣いはしっかりと聞こえ、その男が二ノ宮を触る手が腰から腹を撫でながら這い上がり、胸を揉むようにいやらしく動いていく。
 その手がじんわりと汗ばんでいて、乾いた肌に吸い付くように張り付く。
「ずっと見ていた。大学に行く電車も同じにしたし、バイト帰りもずっと見守っていたよ……バイト中も元気ではきはきしてて、かわいかったけど、やっぱり触りたいんだよね」 男はそう言う。
 二ノ宮はやっとどの常連か思い当たった。バイト中も見られていたとなれば、複数人ではない。複数人で店員を眺めていたら、誰かが気がついて茶化すだろう。だから一人客でカウンターの隅っこにいた常連のことが思い浮かんだ。
 いつもバイトに来た時はいないが、裏で準備をしてから出てくると必ず隅っこの席にいた常連。話したことはない。だってカウンターには店長がいて、店長がすべて裁いてしまうから、フロアに出ている二ノ宮が関わることが少ないのだ。
 お会計も店長がやっている店のため、直接会話をしていない、接客もしないままの常連はさすがに覚えていることはなかった。ただ変わった人だなというので覚えていた程度だ。 そんな人にストーカーをされていたなんて思いもしなかったことだ。
 挙げ句、店長がいつも店を閉めているのに、今日、本当に久々に変わってやっている二ノ宮の時を狙ってきたということは、店長が旅行でいないこと、明日明後日、店が休みなのお知っているということだ。
 男は二ノ宮の首筋に唇を寄せて、首筋を舌で舐めた。ペチャペチャと二ノ宮の肌を舐め取り、キスマークを残すようにキツク吸い付く。
「う゛う゛っ」
 男の嫌な臭いがした。香水なのだろうが、とにかくそれが鼻を突く。普段ならいい香りだと認識するだろうが、今回は嫌な臭いとして記憶された。それが甘ったるく、臭いと感じるのは、相手に好意を持っていないからなのだろう。
 二ノ宮の不快な態度は相手の男には伝わってない。
 ピシャリピシャリと耳元で音が鳴り響いて、その音にぞわりとした感覚しか生まれない。鳥肌はとっくに出ていて、撫でられても吐き気しかしない。
「う゛う゛う゛う゛っ」
 首を振ると、飲み込めない涎が横から溢れて垂れる。男はだんだんと首筋から下がっていき、乳首に達する。
 男は二ノ宮の乳首をベロリと舐めてから口に含み、チューチューッと音を立てて吸い上げる。
「う゛う゛っ」
 最初は舐められているうちは何も感じはしなかった。だが、噛んだり引っ張ったりしているうちに、だんだんと妙な感覚が腰に抜ける。鈍痛のようなものだったが、それが快感であることに気付くことはなかなかできなかった。
 その時、二ノ宮のペニスが半起ちになり、先から先走りを出していた。男はそれを言わずに乳首を責め続ける。
 チュチュッと音を立てて吸いながら、もう片方を指で捏ね回し、プクリと立ち上がった乳首を指で押したり、引っ張ったりする。指で引っ張りながら、舐めている方を吸ったり、歯で引っ張っている時は、乳首を指で弾くようにするのだ。
 それが腰に抜け、ペニスがすっかり起ち上がってしまう。それが男の腹に当たり、男がわざと体を揺らしてペニスを擦るようにするのだ。
 暫くするとニチュニチュと滑った音がなるようになり、それが二ノ宮の耳にも届くようになる。
 ペニスが勃起していることくらい、もう二ノ宮も分かっている。そして男がわざと腹で擦りあげていることも分かる。だが、指摘はできないし、逃げることも敵わない。
「うううっう゛う゛っんんう゛っふっふっふっふっおっおっおっ」
 だんだんと抵抗する声から、喘いでいる声になってきていた。ボールギャグが邪魔で声が上手く出ないが、それでも口の端から零れまくる涎(よだれ)は、涙が流れているようにボタボタと畳を汚している。
 外は雨がまだまだ降り続け、風も伴ってゴウゴウと鳴っている。時々、店の窓をダンダンと慣らしているが、人が来るわけもない。
 男が乳首に到達してから、もうすでに十分は経っていた。男はなかなか乳首から離れることなく、二ノ宮は乳首がだんだんと気持ちよくなってきていることに気付いて恐怖した。
 さっきまで胸のただの飾りであったものが、たった十分弄られただけで、性感帯に変化するなんて、ほんの二十分前までは思いもしなかったことだ。
 まるで乳首をフェラするかのように追い立て、男は執拗に乳首を責めてきた。二ノ宮も十五分を過ぎた当たりから、何も考えられなくなり、集中する快楽の象徴になっているペニスを、男の腹に自らこすりつけるようにして、扱いてしまっていた。
 男はそれも何も言わずに、二ノ宮の好きにさせてやっている。
 だから、傍目から見るともうすでに何かのプレイ中のカップルに見えるくらいに、自然に行為に及んでいるような形になっていた。