R18novel短編

人形-5

 五条に忠告されたことを僕は肝に銘じていた。

 恋愛なんてしない。出来るわけ無い。それが僕の今の考えだったから。

 そう思っている僕の感情とは違うところで、誰かの恋愛が進んでいた。

「志水」

 学校、それもお昼休みが終わろうとする時間に、僕は桧川に呼び止められた。

 止められない思いが溢れているのは、僕ではなく桧川の方だった。僕はそれに気がつかなかった。



 あの日の後、僕は桧川が起きるまで桧川の世話をする羽目になった。もちろん何かあったら困るので宮村が隣の部屋にいたけれど、基本彼は顔を合わせたくないとかで引きこもっていた。

 だから自然と僕が桧川の世話をする羽目になった。

 桧川は気を失ってからずっと眠っていたが起きてすぐに僕とセックスしたことが夢じゃなかったと気づいて謝ってきた。

「本当にごめん! うちの兄貴が、いや俺もだけど、こんなことになるなんて思わなくて!」

 あまりに必死に謝ってくるから僕はどうしてここに来たのかという理由を聞いていた。

 そもそも僕を張っていたとしても、スイートまでたどり着けるわけがない。僕は五条が用意した車でやってきたからだ。

「兄貴が、志水の写真を持ってて、それで志水と知り合いなのかと思って前に志水に聞いたら、知らないって言っていたから、兄貴が良からぬことしようとしてるんじゃ……って心配になって、兄貴の後をつけたんだ」

 そうしてホテルに辿り着いたのはいいが、僕がそこに現れるはずもなく、自分の兄が借りられるはずもないスイートの階で降りたのを見て、自分もその階に向かった。ところが、この日スイートは全フロアが五条の貸し切りだった為、エレベーターを降りたところで黒服の男に捕まったのだという。

 自分の兄が来ているはずだと言い張ると、責任者である五条が出てきて、桧川を椅子に縛り付けるように黒服の男たちに言い、そのままの状態で僕と桧川の兄がいる部屋に連れてこられたんだそうだ。

 目の前で繰り広げられている光景に呆然としている間に、桧川は腕に何か注射をされたそうだ。

 そこからの記憶はちゃんとあるが、自分でも認めたくないくらいに凶暴で、性欲に塗れた妄想しか浮かばなかったらしい。

「いくら、薬打たれたからって……あんなことするつもりは」

「別に気にしてないからいい」

 僕はそう言っていた。

「薬打たれたなら、そうなっても仕方ないよ」

 僕の言葉に一瞬だけホッとしたらしい桧川だが、すぐに薬を使った相手とセックスをしたことがある僕を気遣った。

「……志水は、その、買春してるのか?」

「してないよ。お金はもらってない」

「じゃあ何でこんなことしてるんだよ」

 桧川には納得が出来ないようだ。

 僕だってどうしてこんなことをしているのか分かってない。異常で頭がオカシイ行為だって分かってる。

 ただ五条に逆らえないのだ。

 そのことを説明するのは難しかった。

「桧川には関係ない」

 僕はそう言って桧川の着替えの服をベッドに投げた。

「着替えたら帰っていいって」

 僕は桧川を見ないでそのまま部屋を出た。

 桧川が起きたなら僕には用はない。だから逃げるようにホテルを後にした。

 休みが明けて学校へ行く。桧川には会わなかったし、見かけもしなかった。桐原は学校を休んでいた。 だけど、お昼休みに桧川が僕を訪ねてきた。

「ちょっと話があるんだけど……ここじゃ言えないから」

 桧川のせっぱ詰まった顔に僕は何かあったのだろうかと首を傾げた。そのまま桧川に連れられて、使っていない物置の部屋に入った。

 何もないはずの物置は、綺麗に片付けられていて、不自然にベッドがあった。どうやら誰かが仮眠室に使っているらしい。

「……桧川、なんの話?」

 僕が桧川の方を振り返ろうとすると、桧川が僕の腕を取って後ろ手に縛りつけると僕のベッドに押しつけた。

「ひ、ひかわっ! なにしてんだっ!」

 僕が暴れようとすると僕の腰に桧川が乗り、僕が逃げ出せないようにすると、何かを取り出し、僕の腕を後ろ手にして拘束した。

「なんなのっ! 桧川!」

 僕が抵抗して逃げようとするも後ろ手に拘束されたままでは起き上がれない。それを見越していたのか桧川は僕のズボンのベルトを外し、一気に下着まで服を脱がしてきた。

「ひっ!」

 下半身だけ裸にされた僕は、桧川に腰を高く持ち上げられてお尻だけを桧川の目の前に晒している状態になった。

 桧川は僕をお尻に頬を擦り寄せて手でお尻を撫でてくる。もちろん僕の孔にはストッパーが入った状態だ。桧川はそれを見ても驚きもしなかった。

「ここはさ。五条とかいうヤツが用意したんだ。どんな手を使ったのか知らないけれど」

 桧川が急に五条の名を上げたので僕はびっくりして息が止まりそうだった。

「志水はこうやっていつでも準備出来てるから、いつでもやれるって……本当にそうなんだ」

 桧川は言いながら僕の孔からストッパーを抜いた。

「んぁああ」

「孔も綺麗だな、使い込んでるはずなのに……」

 桧川は僕のお尻を左右に広げて孔がよく見えるようにし、そこに口をつけた。

「い、いやっ! 桧川っやめろっ! ひぁああ」

 孔の襞にそって桧川が舌で僕の孔を舐めてくる。緩まっている孔にすぐに桧川の舌も入り込んできた。

「ひっあっんぁあっ……やめて……いやぁあ」

 舌で舐められるのは慣れていない。五条はしないし、他の人も指は入れるけど、舌で舐めるようなことはしなかった。だから舌のざらついた感覚がいつもと違っていて僕は桧川の舌に翻弄された。

 孔をずっと舐められているうちに僕は段々ここがどこで誰が僕を抱いているのか、そんなことをすら気にならなくなった。

 桧川はべったりと涎が溢れてシーツに落ちるほど僕の孔を舐め続け、僕が抵抗しなくなると先の尖ったボトルに入ったローションを孔の中にたっぷりと入れてきた。

「んぁああっ……んん」

 中に入ったローションが逆流して孔からしたたり落ちる。それを見ながら桧川は僕のお尻を舐め続けた。

「俺、いろいろ考えたんだけど……この間謝ったけど、あれ取り消す。俺、志水のこと好きだ。いやらしくて、でも綺麗で淫乱で……俺は……志水の体の虜になったんだ……あれからずっと志水としたことばかり考えてオナニーしてるよ」

 桧川はそう告白しながら、大きくなった自分の性器を何度も扱いていた。

「この小さな孔にちん○を入れて、志水に締め付けられて、達くのが気持ちいいって気づいたんだ。俺なら志水を大事にするよ……あんな男よりももっと大事にするよ」

 一体何がどうしてこうなったのか僕には訳が分からない。桧川が僕を好き? あんな男って五条のこと? なのに五条と桧川は繋がってる?

 だけどその先を考えることは出来なかった。

 桧川が僕の中に性器を一気に入れてきたから。

「あぁぁああっ――――――」

「ああ、志水の中気持ちいい……これだよ……志水」 奥まで突き入れられた性器が一気に引き抜かれ、そしてまた奥まで突き入れられる。薬を使われていた時の桧川と変わらない腰使いに僕はただただ翻弄されるだけだった。

「ああ……ぁあっあっあっあっあっ」

「志水……いいよ……志水、お尻で感じるんだよな」

「あっあっあっ! いいっ深いっいいよっんぁあ」

「達って達って志水」

「あっあっあっあっいくっいくぅう――――――!!」

 僕が達くと僕の性器から精液がドプリと吐き出された。けれど桧川は達かなかった。僕が達く衝撃に耐え、弛緩した体の向きをかえて桧川はさらに僕を突いてきた。

「ひぁあああぁっ」

「志水……ああいい……志水……」

 腰を動かしながら桧川は僕の上着を脱がした。拘束されているから前をはだけさせただけだが、桧川は覚えていたのだろう。僕の乳首を指で捏ね回し、指で摘んで引っ張った。

「だめぇえっ同時はだめっあっああぁあっ」

「志水は乳首弄られるの好きだよな……」

「んぁああぁっあっああっあっ」

 僕が乳首に弱いことはしっかりと覚えていた桧川は執拗に乳首を弄って引っ張る。

「いっちゃうっ……いっちゃうっんぁああぁっ――――――!!」

 僕が達すると今度は桧川も達した。

 中にドクドクと精液が溢れてその感覚に僕が達ったまま、桧川の性器をぎゅっと締め付けたままになってしまった。

「んはぁ……はぁはぁ……んはぁ、あっいやっう―――んっ」

 僕の体を桧川が抱き上げて桧川の膝に乗る形にされて、さらに奥まで桧川の性器が入り込んできた。

 桧川は僕の乳首に唇を寄せて吸い付いた。片方は指で捏ね回しながら、片方は口で吸ったり舌で舐めたり。自然と僕の腰が動いてしまう。

「んぁああっあっあっ……あぁあっんふっ乳首っいいっ噛んでっ舐めてっ噛んでっあぁあっ」

「志水……凄い腰使い……でも……こっちの方が好きだろう?」

 桧川は僕の腰を掴むと上下に激しく動かし出した。僕は悲鳴を上げながらも快感でおかしくなっていたのだろう。もっと強くとか、もっと深くとかいろいろ言ったと思う。

「志水の……奥の奥に、俺の精液をくれてやるっ」

「ひぁぁああっあっあぁっあぁっんぁあんあっあぁああ――――――!!」

 深々と突き刺さった桧川の性器からまた大量の精液が吐き出された。僕の奥にしっかりと届いて、僕はそれを感じながら一瞬気が遠くなった。

 僕の意識が戻ってくると同時に、桧川は僕の拘束を解いて、僕を抱きしめながら言っていた。

「志水、好きなんだ……志水がこういうの好きだっていうなら何でもする。だから五条とかいうやつの言うことを聞くな。あんなやつ志水を不幸にするだけで愛してなんかくれない」

 桧川はどうやら僕が五条のことが好きで言うことを聞いているのだと思っているらしい。桧川が僕のことを好きだから、僕も五条のことを好きだと思うのだろう。なんて単純な考えだろう。

 僕は五条は好きではない。ただあの人とのセックスは好きだった。だって一番上手いから。

 桧川だってそれなりに上手いけれど、五条と比べたらまだまだ未熟な方だ。

「志水、あいつは五条は昔人を一人廃人にしてるって話だ。あいつと付き合っていたらお前おかしくなる。そんなの駄目だ」

 桧川がそんなことを言い出して僕は我に返った。

「……一体、どこでそんな話を?」

 僕は驚いて桧川に聞き返した。

「俺の兄貴が知ってた。兄貴は志水がその子と同じになるかもしれないから助けなきゃって言ってた。その子、確か名前は宮村和志」

 僕はその名前を知って驚愕した。

 宮村? 宮村って……あの宮村?

 まさか、宮村の兄弟か何かなのか?

 いやでもそうだとして、何故宮村は五条の言うことを聞いているんだ?

 僕はいろんなことが分かってきて混乱した。

 桧川が一生懸命僕に好きだとか言っていたけど、僕はその告白をほとんど聞いてなかった。

 だって、桧川がしていることは、桧川が批難している五条と同じだからだ。五条は僕を服従させているだけ、桧川は愛してるだの好きだの助けたいだの言っているだけ。やってることは同じだ。

 そこには僕の意志なんて関係ないのだ。

 みんな自分勝手で、僕を好きにするだけ。

 僕の言葉なんて聞いちゃいないんだ。

 唇にキスをしようとした桧川に、僕はそれこそ抵抗して嫌がった。桧川は驚いていたけど、僕はキスだけは嫌だったのだ。まるで恋人同士のように思えてならないから。

 僕はベッドから起き上がると、不機嫌な顔をして桧川に言っていた。

「で、僕の着替えは何処にあるわけ? まさか用意してないとか言わないよね?」

 僕がそう聞くと、桧川はしまったという顔をしていた。

「たくっ……」

 僕は桧川が預かったらしいバッグを見つけて中を漁った。案の定、僕の制服一式が入っていた。

 制服が入っていた不透明のビニールに汚れた制服を入れて片付け、孔の中に溜まっていた桧川の精液を自分で何とか出して、濡れたタオルを取り出して体中を拭いてから僕は着替えた。

 桧川は僕の豹変というか、変わりように驚いていたようで僕が部屋を出て行く時も何も言わなかった。 桧川は勘違いしている。僕は気持ちよければよがるし、達く。だけど愛しているとか好きだとかそんな言葉は浮かびもしない。

 僕に分かるのは執着というモノだけだ。僕にはないけど、五条にはあるからだ。

 僕が廊下を歩いて教室に向かっていると、向こう側から宮村が手を振りながらやってきた。

「……なんで?」

 どうして学校に宮村がいるんだ? と僕が呆然としていると、宮村が近づいてきて言った。

「俺、ここの卒業生なんだよ。恩師に挨拶に来た帰りに懐かしい校内を見回る俺って設定」

 宮村は簡単に説明した。

 そうなのか……と僕が呆れていると、宮村はあれ?という顔をして僕の首筋辺りを匂った。

「なんだ、もう終わったのか」

「どういうことなんですか? 五条のこれが仕業って」

 宮村が意味もなくここに来るわけがないから、僕はすぐに桧川の話を思い出して問い返した。

 学校にやる場所を準備するなんて、バレても構わないのかと言いたかったのだ。

「いやね、桧川の弟に何処まで理性あるのか試せっていうのが命令でね」

 宮村の暢気な言葉に僕は心底あきれ果てた。

「まあまあ、零くんに迷惑かかるって分かってたんだけどさ。で、いつからやってたわけ?」

「……昼休み終わってからずっと……」

 宮村がいつからと問うので僕は正直に答えた。これは五条が知りたがっていることだから嘘はつけない。

「ふーん、三時間かあ。うーん、やっぱ学校は駄目だな」

「その前にあいつ際限ないから困る」

 僕は学校云々も問題が、桧川自身も問題だと言った。

「零くん、あの弟くんに惚れたりなんかした?」

 宮村がそう聞いてくるが僕は首を横に振った。

「そっか、零くんは流されないんだな」 

「宮村さんの兄弟は流されたんですか?」

 僕はさっき知ったことを口にしていた。

 宮村はさほど驚いた様子はなく、バレたかという風に笑っていた。別に隠していたわけでもないらしい。

「なんでですか? なんで自分の兄弟を壊した人の言うことを聞いているんですか?」

 僕がそう尋ねると、宮村は親指と人差し指で○を作ってから言った。

「お金。世の中回るのはお金なんだよ。何、零くんうちの弟の話聞きたい?」

 宮村はそのことを隠そうとはしなかった。僕がうんと頷くと、宮村はとりあえず僕の家のある方の駅で会おうと言って先に行っているようにと言った。

 桧川に与えられた場所を片付けに行くのだろう。僕は言われた通りに教室に戻って鞄を持つと駅に向かった。

 教室には誰もいなかったし、途中で誰とも会わなかった。僕は重い体を引き摺りながら、待ち合わせの駅内にあるハンバーガーショップに入った。

 30分ほど待っていると、宮村がやってきた。

「悪い、遅くなった。じゃちょっと歩こうか」

 宮村はきわめて明るく僕に言ってきた。

 僕は言われた通りに宮本について歩いた。

「まあ、うちの弟が五条さんの餌食になったのは、零くんと同じ年くらいだ。電車で痴漢されて、その後連れ込まれたのは零くんと一緒。その時のことで脅されて五条さんの言うことを聞かされていたのも同じ。だけど弟の和志はそこから壊れた」

 宮村の弟の和志は、僕と同じ目に遭って、同じようなことを五条にさせられていた。

 五条が言ってくる客と寝て、五条の相手もして、そこまでは僕と同じだった。