R18novel短編

着信-1

 授業中、一番後ろの席に座っている安里(あさと)は、スマートフォンの着信に気付いた。
 その日は暖かな日で、教室は窓を全開にして風を入れている。その窓側の席は、四十五人いるクラスメイトの多さと広さで、授業中に何をやっていても見つかることはない。特に居眠りをしていないのなら、メールしていようが携帯ゲームをしていようが、お構いなしである。
 そんな安里のところにメールが届くと、当然その場で隠れて見てしまうわけだ。
 今日は少しだけ楽しみなことがある。だからそのメールだと思った。
 見つからないように机の下でスマートフォンの操作をする。だが画面を見て首を傾げた。知らないメールアドレスだ。
 とりあえず間違いメールか何かだと思いながらも開いてみると、書いてあるのは三行ほどだ。
 だがその内容が問題だった。
『知っているぞ』
『お前が放課後の図書室で』
『○○教師とキスをしていたこと』
 である。
 その書いてある内容に、安里は顔が真っ青になった。
 見られていた、そんな馬鹿な。という台詞が口から出そうになるのを押さえ、必死に耐える。
 それから顔を上げて教室内を見渡す。
 これを送ってきた人間がいるかもしれないと疑ったのだが、周りはお昼ご飯を食べた後の五時間目である。寝ている人や、肘を突いて授業をなんとか受けているもの。あくびをしてなんとか耐えているもの。真面目に授業を受けているもの。漫画を教科書に隠して読んでいるもの。とにかく後ろを振り返っているものはいなかった。
 同じクラスの人からのものではないようだと思い、もう一度内容を読む。
 この内容に覚えがあるだけに、この内容は見過ごせない。
 まして相手は教師だ。バレたら教師の首が飛ぶ。そして自分は停学の上、退学か。
 そんな考えが過ぎって暖かい程度の気温なのに、背中を汗がすーっと通っていく。
 マズイ。本当にマズイ。
 ただ、先生が好きだった。それで告白して、でもキスはしてもらった。それだけなのだ。本当にそれで終わったことで、たったそれだけだった。
 今日は、その教師が見てくれる図書委員会がある。だから少しだけ楽しみだった。失恋したとはいえ、キスをしてもらったということは、少しはその教師も自分に興味があるのだと思っていたからだ。
 だがこうなると話が違う。
 今自分が何処の誰とも分からない人から脅されているのだと、安里は気付いた。
 だが、そこでふと気付いた。
 キスをしていたところを見たことがあるというだけで、その証拠などがあるわけではなかった。もしそれを誰かが喋ったとしても、教師と安里がそんなことはないとはっきりと証言すれば、誰かの嫌がらせということに落ち着くかもしれない。
 問題は、脅し文句だけで相手が何をしたいのか分からないことだ。
 怯えているのを楽しんで見ている様子はない。この教室に犯人がいない気がするのだ。
 教壇では教師が黒板にひたすら文字を書いていて、こちらに気付いた様子はない。周りはいつも通りだ。
 いったい誰がこんなものを……。
 そう思うが思い当たることがない。そもそもアレを見られていたことですら、あり得ないと思うほどだ。
 だって、あれは放課後の門が閉まるか閉まらないかという時間ぎりぎりの時だ。部活動はとっくに終わっていて、生徒もほとんどいなかったのだ。
 もちろん図書室は鍵を閉めていたし、居残りの安里以外は誰もいなかった。司書も帰った後で、教師は鍵を閉めにやってきたから、そもそもあのこと自体が偶然の出来事だったのだ。
 その瞬間を見ていたとなると、図書室に隠れていた人間がいたことになる。
 まさか、そんなことが?
 だが今朝、図書室に来た時、鍵のことで文句は言われなかった。だから誰かが残っていてこっそり出て行ったなんてことはあり得ないわけだ。そもそも鍵は教師が職員室に持って行ってしまったのだから、そこから学校が閉まってしまった後で盗みに行くなんてことは不可能に近い。
 もしかして誰かと間違っている可能性か、何か別のメモを取っていてメール送信してしまったか。その可能性もあると思い、安里はそれを無視することにした。
 気に病んでも仕方ないことであるし、向こうも脅しに使うということは、誰かにバラすつもりはないのかもしれない。
 とにかく今後そんなことはないのだから、無視すれば済むはずだ。
 二度と先生とキスなんてしないし、振られてしまったのだから。
 安里はそう思うと、スマートフォンを元に戻し、授業を受けた。気持ちを落ち着かせるために真面目に受けた授業だった。
 その後、メールは何の音沙汰もなく、やはりあれは誰かが別の誰かを脅していて、送信ミスをしたのだと思えてきた。
 そして放課後。いつものように図書室で委員の仕事をする。
 静かな図書室で、受付をしながら本を元に戻したり、新しく入荷した本にシールを張ったりした。
 なるべく教師と二人っきりにならないようにして、放課後を乗り切った。
 今日も最後まで受け付け返還の作業を終え、放課後の貸し出しなどが終わると、閉館直前に返ってきた本を戻していた。
「今日もお願いするね。鍵、ここに置いておくから戻しておいて」
 作業がまだ本十冊ほど残っているところで司書の人が時間で帰って行く。父子家庭でこれから帰って子供のための夕食を作るのだというから、残業をしてくれとは言えない。
「はい」
 返事をする前に司書は帰ってしまう。
 とりあえず安里は、図書室の入り口に鍵をかけた。
 今日は一人でいるのが怖かった。あの脅迫のことがある。誰もいないと思っていたところに誰かが来る可能性もある。
 鍵をかけてからふと思い出した。
 もしかして図書室の奥にある個室に誰かが潜んでいるのではないかと。
 この図書室には、家などの環境で勉強ができない生徒に個室を貸し出すことがある。もちろん、普段は鍵がかかっていて好き勝手に入ることはできないし、司書や教師の委任状まで必要なくらいに厳重に管理されている場所だ。
 だからテスト期間にならないと使う人はいなくて、その個室の扉がある廊下へ繋がる扉も鍵がかかったままだ。
 だが安里は気になってしまい、本をすべて元に戻してから鍵を持っていき、その個室を見回った。
 まず廊下への鍵を開けて中に入る。
 少しほこりっぽいのは、掃除をしてないからだ。普段から鍵がかかっていて、図書委員が月に一回くらい掃除をしている程度だ。
 さっと開いた時に細かな埃がふっと飛ぶほどだった。
 だが、そこに足跡が無数にあることに気付いた。
 ちょうど光が反射して入ってきたから、そこに影ができて見えたもので、普段だったら誰も気付かない変化だろう。
 明らかに誰かが入った痕跡があり、安里は考えた。
 この個室を安里が知っている限り、誰かが使ったのは、一ヶ月前だった。それも委員たちが掃除をするために入っただけである。
 知らない間に誰かが入っている。
 安里は廊下の電気を付けて、中を調べる。個室は全部で六つあり、各部屋には突き当たりに机と椅子だけがあり、横に小さな荷物が置けるくらいで、三畳もないくらいだ。
 一応は防音にされていて、外の音をシャットアウトしている。
 その部屋の向かいは、図書の蔵書などが保管されている。寄贈されて高価な本は、貸し出し禁止として、この部屋に保管されていることが多い。とはいえ、誰も読まない寄贈された本をとりあえず保管してあるだけの部屋で、普段、図書委員すら用事がないので入らない。
 だからこの空間も掃除をするだけの部屋だ。
 ただこっちは防音はしていないし廊下の方にも接しているため、誰かがいれば物音で廊下を通っている人に分かってしまうだろう。
 安里は、そこに入り一応の中を見回る。だが誰も入った様子がないようで、埃臭い匂いしかしなかった。
 今度は個室を調べる。五つまで調べて、誰も使っていないことに気付いたが、六つ目のドアを勢いよく開けたとたん、中から誰が飛び出してきた。
「うわっっ!」
 飛び出してきた人間が、いきなりぶつかってきて安里はその衝撃で飛ばされて壁に叩きつけられた。
「!」
 やっぱり人がいたんだと思った瞬間、体に電撃が走り、思考が一瞬で停止しかけた。
 ちくりとした感覚が腕にあり、腕が動かない。
 足までも痺れたらしく、安里はその場に倒れ込んだ。
 六つ目の個室にいた誰かが、安里の足に何かを突きつけ、もう一度電撃が体を走る。
 そこでやっと安里は、これはスタンガンなのだと気付いた。
 もちろん写真やドラマで見たことがある程度で、本物などはみたこともない。
 だから現物を見ても、それがスタンガンだとは気付かなかった。
「……くっ……」
 足は感覚がおかしくなっていて、まともに動かない。
 ふっと見上げると、安里と同じ制服を着た男が、安里に跨がるように近づいてきて、またスタンガンを使ってくる。
「ぐっっ! あ゛っ!」
 まるで動きを完全に止めるかのように、両手両足と腰、そして首筋と念入りにスタンガンを当ててくる。
 感覚が鈍くなるほどスタンガンを当てられて、気絶しそうになりながらもなんとか安里は意識を保った。
「はは、来ると思ってた」
 男はぜーぜーっと息を吐きながらそう言った。
 ふと部屋の中を見ると、寝袋や何かを食べた後などがある。どうやらここに隠れ住んでいるらしいのだ。この男は。
 ということは、この男が制服を着ているが、ここの生徒だとは限らないわけだ。
 そこでまた思い出した。最近、玄関近くに飾られている学校の歴史というガラス棚から制服一式が盗まれていたことだ。教師たちは、貧困で制服がなくなった生徒が盗んだのかもしれないからと表沙汰にはしなかったが、司書と仲が良かった安里は偶然その話を聞いていた。
 制服を盗んだのはこの男で、それは昼間に学校内を歩いていても怪しまれないための変装目的だったのではないかと分かった。
 そして長くここに潜んでいたなら、当然、鍵の合い鍵は必要はない。図書室が開いている時間に部屋を出て食べ物を買いに行き、開いている間に戻って人が見ていないのを確認しながらこの個室に戻るだけでいい。
 夜遅くでも警備員の隙を見て、抜け出すことはできる。
 安里の個人情報も、この図書室にならある。司書の机にあるアドレスなどを探れば、図書委員の一覧はあるだろうし、安里の顔も名前もこの図書室にある毎年増えていく生徒図書という学校歴史のものに全部ある。一晩もあれば簡単に顔と名前は探し当てられる。
 ここで安里が教師とキスをしていたところを見ていたのなら、安里の名前は聞き取れたかもしれない。そうすれば、メールを送るだけのことはできただろう。
 道理で、犯人らしき人間がまったく見つからないはずだ。
 こんなところに隠れ住んでいるようなのがいるなら、見つかるわけがない。
「絶対に来るように仕向けたんだけどな」
 男がそう言って、部屋の中に安里を引きずっていく。
 そうはさせないと安里が暴れようとするのだが、スタンガンで痺れた手足は動いてはくれない。
 引きずられるまま部屋に入れられ、ドアを閉められた。
 狭い部屋の中で、男は安里のブレザーの制服を脱がし始める。
「な……にやって……」
「待ってたんだよ……ずっとここから見てた」
 男はそう言う。その方向を見ると、部屋のモニターに図書室の内部が映っている。
 それは図書室で使用している簡易の監視カメラだ。問題がある生徒が、図書室内でセックス行為に及んでしまい、した跡が残っていたことから司書が学校側に願い出て、簡易のものを付けたのだ。もちろん、それから怪しい生徒が角などにとどまっているのを見つけると、注意にしに司書が行っていた。だが最近は問題あるような行動をする人間がいなくなり、今では怪しい人を見つけた時だけ司書のさじ加減で作動させたりしていた程度。
 男はその回線を見つけ、自分のノートパソコンにその映像を送るように設置し直したらしい。
 ここに出入りする人間に見つからないために、わざわざ一番奥の部屋を使っているのも、手前から順番に個人室が使われることを知っているからだ。あいにく、この個室全部が埋まることはない。
 いつからこの男が隠れ住んでいるのか知らないが、この男は図書室の図書委員の動きも生徒の動きも、ましてや警備員の動きも熟知しているようだった。
「この時間は誰もここには来ない。警備はもちろん生徒も教師もだ。こんな特別棟の三階に用がある人間はいないからな」
 図書室は、一階には校長室など客室、保健室があり、二階に職員室。三階には生徒会室などの部活の部屋が沢山あり、四階が視聴覚室と図書室がある。教室は渡り廊下を通って反対側に同じ教室棟が建っていて、中庭が広い作りだ。
 だから教室棟から図書室に入る人間を見ることができるのは四階にある一年生の教室からだけだ。
 だが普段そんなところに出入りしている人間を眺めている人間はいないし、教室は早めに戸締まりがされる。普段戸締まりがされている特別棟は、最後になるのだ。
 部活がやっと終わり、生徒が帰り始める時間、警備は警備室から出ることはなく、戸締まりが開始されるのはあと一時間は後のことだった。
 時間にして七時を回っている。
 教師もほぼ帰っていて、残っているのは部活を担当している教師だけで、その教師も部活動の場に出ていて職員室にもいない。
 まさに今時間が校内に人がいない時間なのだ。
「やめっ!」
 安里はわずかに動く手を使って逃げようとしているのだが、少し進んでは引き戻される。
 服は上半身は前を開けた形にされ、ズボンはベルトを引き抜かれ、下着まで一緒に引きはがされていく。
 安里が俯せになっていると、男が何かを安里の尻に向かって塗りつけていく。男の手が尻の割れ目に沿って入り込み、指の一本がアナルを撫でるようにしている。
「やめろっ! いやだっ!」
 さすがにここまでされて何をされるのか理解できないとは言わない。男同士がどうセックスするのか知っている。つまらない知識だが、高校生にでもなれば、そんな下ネタで盛り上がったりするので、知っている。だが実際に自分がされようとしている事実については理解できなかった。
 何故自分なのか、何故? それが安里の頭を巡る。
 男の指が一本、アナルの中に入り込んできた。