R18novel短編

嵐が来る-1

「動いて……っ、あぁっ、もっと、動いてください……っ」
 囁くような声が聞こえた。
 高口は、トイレに篭もって三十分。下痢だった。
 今日は休日で、映画に行こうとしていた。電車に乗り、目的地まで移動する途中で、急に腹の具合が悪くなった。映画館まで我慢できず、結局目的地ではない駅で降り、トイレに駆け込んだ。
 そのトイレでやっと下ったお腹が治まり、ホッとして持っていた水を飲んだところだった。
 二、三度流しておいたトイレであるから、いざ流そうとした瞬間にそんな声が聞こえてきたのだ。
 トイレの隣に入ってきたのは、さっきである。人が全然来ないトイレでラッキーだったと思ったのだが、どうやら理由があったようである。
「どうやら隣はドアが閉まってるだけで、誰もいないようだな」
 男がホッとしたように言っている。
 高口は今更、入ってますとは言えず息を殺した。
(こんなところで……って、まさか)
 物音を立てないようにして座っていると、隣に入っている二人が何をしているのか分かってきた。
(セックスしてんじゃねーよ!)
「月本くん、中、とっろっとろ。跨がって自分で腰振ってるだけじゃ、物足りなくなったのかな?」
 男がゲスな声でそう言っている。
 それにしても相手の名前を言ってしまうのは、ちょっとうっかりではないだろうかと高口は思う。
 ふっと隣を見ると、隣の壁の中央に何か紙が貼ってある。なんだこれはと高口は座ったままそれを剥がした。
 すると、そこにはのぞき穴があるではないか。
(マジで? 男の個室にのぞき穴を作るんだ?) 
 女子トイレなら痴漢が開けた穴があると納得できるが、男の個室ではあまり意味がないと思えてならない。
(というか、今、月本くんって、くんって……男?)
 男同士が隣でセックスしてるのかと、高口は溜息が出そうだった。
 世の中、自分が知らないことが多いモノだが、男が男とやっているところをネットの動画以外で見たことも聞いたこともなかった。
 しかし隣のトイレの個室でそれが行われているというのである。
「もっと動いて、もっとおちんぽっでっ突いて……っ!掻きまわしてえぇ……!あぁっ、もっ、おかしくなるぅ……!」
 パンパンと腰を打ち付ける音が響いて、月本の嬌声が更に大きくなる。
 ここのトイレは入り組んでいて、見付けづらいところにある。正直、急いでないなら、駅の出口近くにあるトイレに行く方がいいとさえ言われていて、高口もいつもはそこを使っていた。
 今日は出口まで間に合いそうにないために、ここを使っているが、噂で使う必要がないならやめておけと言われた話を思い出した。
「きもちいいっ……あぁあっ……いい、おちんぽっいいっ……あはっきもちいいからぁ……!」
 どうやらトイレでセックスをしている人が多いので、ここのトイレを使うとそっちの趣味があると思われるのであろう。
 たまたま高口は誰もいない時間に入り込んだので、大丈夫だったが、もしかしたら誰かに勘違いされていたかもしれないかった。
(やべえ、早く出たいのに、出るに出られねぇ……)
 隣の個室がガタガタと音を立ててセックスを楽しんでいる。
(しかし……セックスしてる子、気持ちよさそうに喘ぐなぁ……可愛い声だし)
高口は声が好みである男同士のセックスで言うと、ネコの子のことが気になって仕方なくなってきた。
 まだ便器に座って、パンツを下ろしているので、その自分のペニスが若干、ネコの子である月本の声に反応しているのが悔しいかなというところだ。
(俺も節操ないなぁ……あ、でも月本くん、見てみたいな。もしかしたら、好みから外れてたら、これも一瞬で萎えるだろうし)
 高口は様々な言い訳を思いながら、のぞき穴を覗いていた。
 見えたのは、月本という男の顔と胸辺りまでであった。ちょっとだけ向を変えて覗き込むと月本の腰辺りが見えて、男が腰を打ち付けているのが見えた。
(うわー……好みだ。月本くん。アイドルみたいな顔して、売春かあ。でもエッチ好きそうでいいな。いろんな男に突っ込まれて、アンアン言ってるんだろうなあ)
 高口は淫乱な子が好きである。積極的に性に開放的な方が、エッチも重いモノにならないからだ。だからなのか女性とのセックスには消極的で、彼女もまだいない。
「はぁんっ! あんっあんっいいよぉ……おっぁあうっおちんぽっ凄……あーっあぁあーっ!」
 そう言って月本が舌なめずりをしている。
 ゆっくりと躰がドアに押しつけられ、男の腰が段々と打ち付ける速度を上げていく。
(すげっ、アナルにペニスが刺さってる……ああ、腰振っててエロいな月本くん)
 見ているだけで、既に高口のペニスは完全に勃起していて、擦る手も速くなっている。先走りが手に付いて、それが滑りを良くしてしまい、さらには突き上げられる月本に自分が挿入しているかのように錯覚を覚えて、高口はペニスを扱いた。
「お尻いい……っ、いいっ……あぁっ……おちんぽっ気持ちよすぎて、おちんぽでっ気持ちよすぎて、いっちゃううぅっ……!!」
 月本がそう叫んで絶頂をすると、男が呻いた。それに合わせたように高口も射精をしてしまい、ペニスから精液がドアまで飛んだ。
 そこで高口はのぞき穴から目を離した。
「よかったぜ、月本くん……」
「……そう、おじさんもよかったよ。じゃ、五万ね?」
「月本くん、高くない?」
「青姦とか、こういう公衆トイレとか、リスクが高いんだよね。文句あるなら、ホテル代だして、三万で俺を買ってね? まあこういうことしてくれる子が他にいるなら、他の子に三万でお願いしてみれば?」
月本はいきなり値切り始めたおじさんに、値切るというルール違反はそれなりにデメリットがあることを伝える。
「俺がおじさんにレイプされたって、ここからでていって騒いだら、おじさんの方の人生が終わるんだけど、人生が終わっても売春代をチャラにする? それとも五万払う?」
「……え……う」
「まあ、俺のことで不起訴になっても、この辺の情報網は凄いから、おじさんは二度とこの辺では売春の子、買えなくなるし、下手したらヤクザにも目を付けられて大変かもね」
 月本がそう言いだし、おじさんはお金を出したらしい。
「毎度あり〜。あとさ、おじさん、やった後に値切るのやめておいた方がいいよ。俺だからこうやって忠告してるけど、ヤクザが囲ってる子だったら、おじさん明日には東京湾に浮いているか、破産まで追い詰められるよ?」
「あ……ああ、そうだな……じゃ、じゃあ俺はこれで」
「さよなら、おじさん」
 隣のトイレのドアが開いて、おじさんがバタバタと出て行く音が暫く響いていた。
 すると、高口の入っているドアが外からノックされた。
「覗きのお兄さん、鍵開けて」
「……はい……」
(バレてたのか……くそう、ヤクザに殺されたくはないぞ……)
 高口はペニスを出したままで、ドアを開ける羽目になった。
 月本は、ズボンを片手に下半身は露出したままで、トイレに入ってきてドアを閉めた。
 月本はそんな高口を見て、ニヤリと微笑んだ。