R18novel短編

上書き保存-1

 高藤は、スーパーの買い物中に、携帯にメッセージが入っているのに気付いた。赤のランプがいつの間にか光っていて、車を降りた時にはなかったはずだと訝しむ。
 人の来ないところまで移動をして、籠を下ろして携帯を操作する。
 メッセージを個人でやり取りするアプリが起動し、そこに見慣れた人からのメッセージが入っていることに気付く。
 名前は西方。大学時代の友人の一人。
「はあ……またか」
 西方が高藤に連絡してくる時は、大抵、女に振られた時くらいだ。普通に高藤と西方は、会話をすることがない。というよりは共通の話題がないのだ。だから、メールなどはしないし、メッセージだってこういう時にしかこない。
 友人一同と会う時は、お互いが別々の人に誘われて集まる。だが、会話はしない。仲が悪いわけではないが、話題が話題でそこまで話す間柄ではない。
 しかし、西方の女関係の話を皆が面白がって話題にはしても、西方が振られた時には皆音信不通になる。
 西方はとにかく、素行が悪かった。振られた後は飲んで騒いで潰れてと、一週間ほど繰り返す。これでも一応仕事にはでているから、凄いところだが、それに巻き込まれる周囲の人間は溜まったものではない。
 結婚や彼女ができたりいた人から疎遠になっていき、とうとう西方の相手ができるのが高藤しかいなくなったのだ。
 その高藤は、西方によく付き合っていた。
 一週間続く、西方の暴挙が高藤に任せると二日もかからず、西方がいつも通りになるのだ。
そのせいで西方は高藤を頼るようになり、周りも次第に高藤に西方を任せるようになる。
 しかし調子がいいときの西方は、決して高藤には近づかないという非道っぷりで、それに引いている女性はかなり多かった。
 大抵、西方を振った女性は、高藤に愚痴を言いにくるくらいに高藤の方が西方の彼女と仲良く友達をやっているほどだ。
「そろそろかと思ってたけど……あ」
 やはり西方を振った彼女から愚痴のメッセージが入ってきた。
【あの男、振ってやったわ。マジないわ。私の誕生日ブッチして、合コンに出てたとかあり得なくない? それ指摘したら、面倒臭い女になるなよとか! ないわマジない】
 かなりキレている様子だ。まあ、誕生日や記念日を大事にしている女の子は、ただでさえデリケートなのに、その日に合コンで別の女と寝ていたなんて聞いたら、普通にキレるし、振ってやるだろう。
 西方がモデルの用に格好良く、西方商事の御曹司で、将来安泰だと分かっていても、結婚しても地獄を見るのは明らかである。
 下手すれば隠し子が十人したとしても誰も驚きはしない。
 それくらいに西方の女好きは、酷いレベルだ。
【だから、西方はそういうヤツだって、散々言ったでしょ? でも沙那(さな)ちゃんのためには今ちゃんと別れて、沙那(さな)ちゃんを愛してくれる素敵な男を見つけて結婚を目指した方がいいんじゃない? 振られた女の子を慰める、優しい人、近くにいるでしょ?】
 特に西方のフォローはしない。酷いのは確かで擁護のしようもないからだ。だから女の子には毎回同じ台詞を送る羽目になるが、これが割と効果覿面である。
【……いないこともない。ずっと高藤くんみたいに相談していた人がいたんだけど、いい人だけど、何かちょっと抜けてて、頼りないなって思ってる人がいるけど……どうかな?】
 ほら、ちゃんとキープ君がいる。このまま押してやれば、沙那(さな)は西方のことは忘れてくれる。
【じゃあ、その人に相談して、愚痴を聞いてもらって、何度かデートみたいに食事して相手のこととかも聞き出して見れば、案外もっといい人になるかもしれないよ。それに頼りないところは、沙那(さな)ちゃんが補ってあげれば、上手くやれそうだし、沙那(さな)ちゃんのためなら、その人きっと凄く頑張ると思うよ】
 キープ君が沙那(さな)を狙っているのは分かっている。その人から、どういう経路か分からないが、沙那(さな)の動向に探りを入れてきていたので、そろそろ別れるだろうから、押し時だとそれとなく伝えていた。どうやら伝わっていたらしく、相談役からの恋人に昇格しそうである。
 実はこの手を使って、周囲の友人達も恋人を手に入れ結婚したりしている。西方は好きではないが、西方に文句があるもの同士で上手くいくという流れである。
【うん、これから付き合って貰えるって……飲んでくるから、成果はまたね。ありがとうね、吐き出したらすっきりしたよ。高藤くん、ほんといい人。ゲイじゃなかったら付き合ってたのに……なんちゃって〜じゃ、またね】
 それに頑張ってと返してメッセージを終える。
「あっぶな……」
 思わず声に出てしまう。
 高藤はいい人を演じすぎて、相談役から恋人への流れをいつも作られかけるのだが、女性に興味がないゲイであると最初に言ってあるので、最初から恋愛対象から外して貰える。しかし、中にはこうやって好意を伝えることで、自分の方を向いて貰いたいと主張する女の子もいる。それをゲイであるという理由で上手く避けて、何十人もスルーし続けてきた。
「これで、沙那(さな)ちゃんは、西方とよりを戻したりしないっと」
 女性は嫌な想い出を上書きして新しい恋をする。なので、新しい恋人候補の人とくっつけてしまえば、後戻りはしない。
 高藤はこうやって、西方を振ってもまだ未練がありそうな女の子達を次の恋に駆り立てて、結婚まで導いてきた。
 世間では、キューピット扱いをされているが、実際は違った。
 西方に近づく女を監視し、西方の行動を全て把握するためにやっていたことに過ぎない。
 今回は頼まれていたこともあり、沙那(さな)には更に都合のいい恋人候補も用意しておいた。これで頼まれた方は、文句はないだろう。
「で、振られた方はっと」
 後回しにした西方の方のメッセージを開くと、さっきから一分おきにメッセージが入っている。
【また振られた……ショック】
【合コンくらいでキレるか普通】
【別れるって言われたから連絡取ってんのに、スルーされる】
【あ、ブロックされた。電話も拒否ってる。ふざけんな。あーマジで振られたんか。俺?】
【おーい、高藤〜俺、振られた】
【高藤くーん。今夜そっち行く。てかもう向かってる】
【鍵開けて入ってる。飯、今日は何?】
【高藤、セックスしたい。コンドーム買ってくる】
【準備万端、家まできた】
 沙那(さな)とメッセージをやり取りしている間に、西方は高藤の自宅まで来ていた。案の定、セックスをしたくなり、準備までしている。
 毎回こうだ。
 ちょっとしたお預けにすると、西方は高藤の機嫌を取りたがるようになる。振られたことよりも高藤とセックスをすることが目的になり、女の子のことなど、どうでもよくなるのだ。
 西方は本当にどうしようもない男で、友人でもゲイで受けだと分かると、寝てみる男だ。挙げ句、アナルセックスに填まって、女の子のアナルまで開発してしまうほど、性に関しての執着は酷かった。
 高藤は買い物を済ませると、車に乗り込む。
 雨が降っていて、少し濡れたが、まだ小雨で助かった。
 その車の中で西方のメッセージを書く。
【何で鍵持ってんだよ。勝手に入るな】
 西方が合い鍵を持っていることは知っている。既に何度も勝手に入られているからなのだけど、取り上げてもスペアのスペアを持っている状態になり、鍵を取り返すより、取り替えた方がいい状態になっている。
【十分で帰るから、勝手に入ったらエッチさせない】
 そう返答して車を運転して帰る。
 十分で一軒家の自宅の駐車場に着き、玄関に回ると西方が玄関前で座り込んで、携帯ゲームをしている。
「おかえり」
 モデルにスカウトされるほどの美しい端正な顔立ちの男。ジムが趣味だと言うほどに躰を鍛え、百八十はある高身長で、スタイルが抜群とくれば、誰も女は放っておかない。そういうキラキラした男の西方を見るたびに、高藤は自分との違いを感じて呆れる。
 高藤は、地味な男である。女の子に毛嫌いされないだけの清潔さと純粋そうな目と、百七十はない身長に、運動は苦手で読書が趣味のような細い躰。
 西方と並べば、高藤が見劣りして、馬鹿にされることもある。更にそれに眼鏡とくれば、もうダサいと言われる人間になるのだが、高藤には妙な色気があった。
「今から飯するから、食べてからね」
 高藤がそう言いながら、玄関の鍵を開ける。
 この家は、両親が海外に移住する時に財産分与で貰ったものだ。本当は両親が住むつもりで建てたのだけれど、その建てた後になって父親の海外部署に転勤が決まった。 ハワイで暮らしているうちにあちらが気に入ってしまい、ハワイに移住して老後もそっちで暮らすことにしたので、高藤に家を財産分与として送った。
 ちょうど、都心近くの家が欲しかった高藤は、有り難く頂戴して一人で暮らしている。
 それに目を付けてやってくるのが西方である。
 勝手知ったる他人の家だから、西方は居間にさっさと入ってテレビを付けている。
 とたんに大きな雨の音がしている。
「うわ、間一髪」
 雷も鳴り出し、酷い雷雨になっている。天気予報で明日の朝まで続く雷雨で、大雨注意報が出ている。
 とりあえず買ってきた肉を炒めて、野菜も炒める。簡単な肉野菜炒めを作って、食卓に並べる。ご飯を入れてテーブルに並べると、西方がダイニングにやってくる。
「雨、朝まで続いて、明日午後から晴れるって」
「そうか、洗濯物は乾燥機かあ」
 せめて太陽光に当てて乾かしたかったが、そうもいかないようである。
 二人で食事をしながら、テレビのバラエティを見る。
 西方は食事には文句は言わず、たっぷりと食べ、さっさと片付けてしまう。高藤もゆっくりであったが食べ終わり、コーヒーを用意する。その間に西方が洗い物をしてしまい、食器を乾燥機に入れる。
 そのコーヒーを用意している途中で、西方が高藤に近づいてきて、後ろから高藤を抱きしめる形になる。